後編
それからしばらく。アプリをアンインストールしちゃったことを、玖子と千夢にはなんとかごまかしつつ、三月一日。お兄ちゃんの合格発表日で、私の公募結果が出る日。
『受かった!』
なんてメッセージが、お兄ちゃんから送られてきたから、私まで飛び上がって喜んじゃった。
『やったー! おめでとー!』
『蘭花はどうだった?』
言われて私は、まだ雑誌を開いてもいないことに気がついた。盗作疑惑を持たれてるかもしれないことが頭に浮かんで、心臓がズキリと痛む。
でも、このまま答えないのもおかしいし……せっかく合格したお兄ちゃんに、要らない心配かけちゃダメだよね。
私は意を決して雑誌を開くと、自分の名前を探した。しばらくページを眺めて、自分の名前をAクラス見つけた。
「Aクラス……」
全然大した成績じゃないんだけど、盗作だと思われたなら最下位のCクラスのはずだ。
「はぁぁー」
一気に気が抜けて、私は盛大に溜息をついた。
『Aクラスだったよ』
『そうか、おめで』
「……?」
不自然にとぎれた文面に、私は首を傾げた。間違えて途中送信しちゃったのかな。お兄ちゃんってそそっかしいタイプじゃないから珍しい。
ちょっと待ってみても、訂正のメッセージが来ない。
なんとなく胸がぞわぞわしたところで、下の階で家電が鳴った。お母さんがのんびりした調子で電話に出ていたけど、だんだん口調が不穏なものに変わっていく。
「はい。葉はうちの息子ですが。ええっ!? 本当に――。はい。はい」
私は話がわからずに、ただ嫌な予感だけはどんどんとたまって、お母さんが電話を終えるのを待っていた。
しばらくしてお母さんが電話を切って、階段を上ってきた。足音が大きくて、焦っているのがわかった。
「蘭花。よく聞いて。お兄ちゃんが帰り道でトラックにはねられて、意識不明で病院に運ばれたの。お母さんはすぐに病院に行かないといけない。しばらく家をあけることになると思うから、蘭花はガス栓と戸締まりを確認してから来てちょうだい」
「えっ――!?」
お兄ちゃんが――!? 嘘でしょ!?
「じゃあ、お母さんもう出るから」
階段を下りていくお母さんの背中を、私は呆然と見送った。
どうしよう。お兄ちゃんが。どうしよう。
――そうだ、未来予知アプリを授けてくれたあの神社なら。あの神社ならなんとかしてくれるんじゃないか。
そんな考えが頭に浮かんで、私は藁にもすがる思いで神社に向かった。
神社の階段を一気に駆け上がると、神社の前に小柄な人影が見えた。
「――千夢?」
後ろ姿に心当たりがあって、私は声をかける。
「ああ、蘭花も来てたんだ!」
千夢はぱっと花が咲くような笑顔で振り返る。
「どうしたの? 千夢が神社なんて珍しい」
「さっき葉お兄さんのお友達から、葉お兄さんが交通事故って聞いて……それで、お礼を言いに来たの」
「お礼?」
なんでお兄ちゃんが交通事故でお礼なんだろう。
「だって、ホワイトデーにお返しがもらえるの、もうわかってるんだもの。二週間以内に意識が戻るってことよね。今は意識不明みたいだけど、安心して待ってられるわ」
そう笑いかけられて、私はどう答えていいかわからなくなる。でも、ここで黙ってちゃダメだよね。
「千夢。そのことなんだけどね。未来予知アプリでホワイトデーのお返しがもらえるって話、嘘だったんだ……」
「え――それってどういうこと?」
千夢の顔から表情が消える。しばらくの沈黙のあと、千夢はいきなり私につかみかかってきた。
「蘭花……あなた、葉お兄さんのこと、アプリで知ってて見殺しにしたのね!」
「えっ!? 違っ――」
理由を話そうとしたけど、服の襟元を掴まれて声が出ない。
「信じられない。見損なったわ!」
千夢がどん、と、私を突き飛ばした。私は後ろに足をつこうとして――石段を踏み外す。
何かに気付いた千夢の顔が真っ青になって――。
私は、あの日、ぼろぼろになったウサミーちゃんのスマホカバーを思い出していた。




