中編-1
『おーい、蘭花ー』
噂をすれば。玖子と千夢の声がハモって聞こえた。私がそっちを振り向くと、なんと、玖子ちゃんはコートの中に、ピンクでフリルのシャツを着ていたの!
「玖子、その服どうしたの?」
「あー……やっぱり私には似合わないよね」
玖子はばつが悪そうに頬をポリポリと掻いた。それに続いて、千夢が説明する。
「集合時間が遅かったから、ここに来る前に一回私の家で集まったんだけど、その時にママがコーヒー零しちゃってさ」
「そうそう、それで千夢の服を貸してもらったんだよね」
「私の服で玖子が着れそうなのそれしかなかったけど、玖子が着るとチュニックじゃなくて普通のシャツになっちゃうね」
千夢が玖子の服を覗き込んだ。
「えっ、じゃあその服って、シャツじゃなくてチュニック?」
「そうよ。悪かったわね、どうせ私は背が低いですよーだ」
私の確認に千夢がむくれた。千夢は背が低いのを気にしてるからね……。
「まあまあ、千夢ちゃん、落ち着いて」
見かねたお兄ちゃんが割って入った。
「葉お兄さんが言うなら……」
千夢はすごすごと引き下がる。臨海学校の時にこっそりと教えてもらったんだけど、千夢ってお兄ちゃんのことが好きなんだって。
私は妹で距離が近すぎるから、お兄ちゃんが好きって言われても『どこが?』って感じなんだけど……。
「蘭花もそういうつもりで言ったんじゃなくてさ。ほら、蘭花。さっきのアプリ」
「うん」
お兄ちゃんに促されて、私は二人にスマホの画面を見せた。
『未来予知アプリ』、なんだか本物っぽいとなったら、秘密にしておきたい気持ちもちょっとはあったけど……二人は親友だからいいか。
「なにそれ?」
「なんか、よく当たる占いアプリみたいな感じ。玖子の服もこのアプリが当てたんだよ」
「本当だ。『ピンクでフリルのチュニック』って書いてある」
「蘭花があとから書いたんじゃないの?」
「私たちが合流してから、こんなの書いてる時間なんてなかったじゃない」
玖子はともかく千夢はいまいち信じてないみたい。
「じゃあもう一回試してみよっか」
なんとなく疑われているのにむっとして、私は提案した。
「そうね、それがいいわ!」
「とりあえず質問は『次にすれ違う車の色は何色ですか?』とかがいいんじゃないかな。すぐに結果がわかりそうだし、細工もできないでしょ」
玖子が提案した質問内容を、千夢が勝手に私のスマホに入力していく。ちょっとだけ間をおいて、来た返事の内容は。
『白と黒』
正解なのはすぐにわかった。遠くからサイレンが聞こえてきたから。
「すごいすごい! パトカーだなんてどうしてわかったのかな?」
くるっと手のひらを返して、千夢が飛びあがって喜んだ。
「ねえねえ、私の将来の旦那さんとかわからない?」
なんて、ちらちらとお兄ちゃんのほうを気にしてる。
「わかるかもしれないけど――ほら、ここ。『二十四倍の速さ』って書いてある。つまり、明日のことが知りたかったら一時間待たないといけないってことじゃないかな」
玖子が短い説明書きのところを指さした。
「えーと、私たちは十一歳だから、一番早くて十六歳で結婚できるとして」
私は頭の中で計算する。
「結果が出るまで二ヶ月半もかかるの!? 流石にそんなに待てない!」
一足先に計算をおえた千夢が音を上げる。確かに二ヶ月半もかかったら、質問したこと自体忘れちゃいそう。
「ねえねえ、その代わり今日の夕飯のメニューとか訊いてみてもいい?」
「私は来週発売のCDが学校終わってから買いに行っても売り切れてないかとか知りたいかな」
千夢と玖子が目を輝かせながら身を乗り出す。
「いいよ。私もいろいろ試してみたかったから」
「それじゃ、僕は先に帰るよ」
「うん、またあとでー」
神社を後にするお兄ちゃんに手を振ると、私はわくわくしながら画面に次々と質問を打ち込んだ。




