「あの日助けていただいたタワシです」【コメディー】
【あらすじ】
回る円盤、投げ矢を持つ人間。
『わたし』の運命は、そのとき決まった。
【タグ】タワシ、タイトル落ち
「××××! ××××!」
声を合わせて、人々の熱狂が渦巻く。
半円形のステージ上で、文字が書かれた円盤と、投げ矢を持った人間が衆目を集めていた。
「××××! ××××!」
観客がそろって唱和するのは、庶民ではなかなか手が届かないという鉄の名馬。
円盤には他にもさまざまな賞品の名前が書かれていて、鉄馬は一番の目玉だ。ゆえに的に占める面積はごく小さい。
そして、『わたしたち』種族名がそれ以外の大半の面積を占めていた。
「××××! ××××!」
鉄馬の名前が連呼される。
ひと山いくらで取引される『わたしたち』は、添え物どころか熱狂を演出するためだけの障害物でしかない。
今までもそうやって、「ハズレ」である『わたしたち』の仲間は、観衆のため息をくぐって連れて行かれた。
その後の行方はようとして知れず、生まれ持った使命も果たせるかどうかわからない。
それが、この場における『わたしたち』という存在だった。
司会と思しき人間の合図で、円盤が回される。
回る的に対峙する人間は緊張した面持ちをして、しかし何かを振り切るように腕を引き、勢いをつけて矢を投げ放つ。
トン! と軽い音がした。
「××××! ××××! ……ああー」
円盤の回転が止まり、突き立った矢が示す物品名を見て、人々から落胆の声が上がる。
矢を投げた人間に与えられることになったのは、鉄の名馬などでなく。『わたし』だった。
慣例通りならば丸のまま引き渡されるはずの『わたし』は、別室に連れて行かれてさまざまなものを巻かれていた。なんでも、今日の挑戦者は持ち物が多かったからだという。
簡素とも豪華ともいえない「梱包」がなされた『わたし』は、輸送用の「箱」に詰められ、短い旅をした。
今まで見送ってきた仲間たちがどうなったかは知らない。
せめて、生まれ持った使命や特性を生かせていればいいのだけれど。
そこまで考えて、『わたし』はあることを思い出した。
――いやあ、いただいた以上、しっかり使わせてもらいます!
挑戦者であるあの人間は、直後そう言っていたのだ。
なら『わたし』は、言い換えれば助け出されたことにならないか?
身の振り方は決まってしまった。種族の特性上、自身で境遇を選べないのだ。せめて前向きに考えようじゃないか。
だったら、初めに言うことはあれしかない。
不意に湧き上がった期待に胸を躍らせ、『わたし』はその時を待った。
暗い「箱」が開けられ、中に光が差す。
取り出された『わたし』は思い切り息を吸い、
「初めましてご主人様! あの日助けていただいたタ・ワーシです!」
使命を帯びし『わたしたち』が種族名、「タ・ワーシ」。個別名など必要ない。
誇りを持って名乗るだけだ。
◇ ◆ ◇
先日、企画で挑戦した『廻る運命☆ ダーツチャレンジ!』。
みんなの(ある意味)期待通りにタワシを獲得した僕なのだが。
箱に収められたタワシを見て、なぜか「亀子」と名付けなくてはならない気がした。
2016.10.19投稿