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なないろツムリ【童話】

【あらすじ】

 あるところに、なんのへんてつもない色のカラをもつカタツムリがいました。

 カタツムリは、きれいなにじ色のカラに憧れて、自分できれいな色のカラを作ることを思い立ちました。


※自サイトに「絵本」として掲載している同名作品を、文章に改稿・加筆修正したものになります。


【タグ】冬童話2015、ハッピーエンド

 とあるところに、カタツムリがいました。

 カタツムリのカラは、ごく平凡な、目立たないクリーム色です。


 カタツムリが住むところには、にじ色のカラをもつ、にじいろツムリもいました。

 カタツムリは、にじいろツムリのきれいな色のカラを、うらやましく思っていました。



 ある時、カタツムリは、きれいな色のカラのかけらを拾いました。

 カタツムリは、きれいな色のかけらを集めて、にじいろツムリのようなきれいなカラを作ることを思いつきました。



 カタツムリは、きれいな色のかけらを集めるために、旅に出ました。

 とくに行くあてのない、でもすぐには帰れないだろうという旅です。



 カタツムリは、旅先でさまざまなカラの色のカタツムリたちに出会いました。


 小さくて好奇心旺盛な、真っ赤なカラのカタツムリ。

 おっとりとして優しい、桃色のカラのカタツムリ。

 元気いっぱいの、オレンジ色のカラのカタツムリ。

 ひょうきんで楽しい、黄色のカラのカタツムリ。

 のんびりゆったりとした、黄緑色のカラのカタツムリ。

 静かで落ち着いた雰囲気の、緑色のカラのカタツムリ。

 さわやかな性格の、青色と水色のカラのきょうだいカタツムリ。

 マイペースで寝てばかりの、紫色のカラのカタツムリ。


 カタツムリは、彼ら彼女らにカラのかけらを分けてもらいました。


 ある時は、欠けたカラを直す手伝いをしたお礼にと、お互いのカラのかけらを交換しました。

 またある時は、遊んでくれて楽しかったと、お互いのカラのかけらを交換しました。

 そしてまたある時は、永遠のお別れに立ち会い、形見分けとして、カラのかけらを分けてもらうこともありました。


 カタツムリはこうして、たくさんのカタツムリたちと出会いました。

 そして、さまざまな色のかけらを集めていきました。



 長い長い旅の末、カタツムリのもとに、色鮮やかなかけらが集まりました。

 カタツムリは七色のかけらをたずさえて、故郷への道をいそぎます。

 にじいろツムリのような、きれいなカラを作るために。


 その帰り道の途中、カタツムリは聞いてしまったのです。



『パリッ』



 軽くて儚い音でした。

 しかし、カタツムリたちにとっては、とても不吉な音でした。

 それは、カタツムリたちの大事な大事なカラがくだける音に、とてもよく似ていたのです。



 カタツムリはおそるおそる、音のした方へ様子を見に行きます。

 するとそこには、ぐったりとしたにじいろツムリと、粉々にくだけた、にじ色のカラのかけらが散らばっていました……。


「どうしたの!?」


 カタツムリはあわてて這い寄ります。


「何か大きなものが、突然ぶつかってきたの……」


 カラを失ったにじいろツムリは、弱々しく答えます。


 カタツムリがあたりを見渡すと、少し離れた崖の下に、カタツムリの頭ほどの大きな石がありました。

 あの石が、崖の上からにじいろツムリのカラの上に落ちてきたにちがいありません。


 カタツムリはひとまず、にじいろツムリを自分の家に運びました。



 カタツムリは、一生懸命にじいろツムリの看病をしました。

 にじいろツムリは、カタツムリの懸命な看病のおかげで、だんだん元気を取り戻していきました。


 カタツムリは看病のかたわら、粉々になったにじいろツムリのカラを直そうとがんばりました。

 けれども、にじいろツムリのカラはとても細かくくだけてしまっていて、どうしても直せませんでした。



 カラなしのにじいろツムリがすっかり元気になったころ、カタツムリは、にじいろツムリに新しいカラをプレゼントしました。

 それは、鮮やかなにじのような色合いに、うすくつなぎ目のあるきれいなカラです。


 きれいなカラをもらったにじいろツムリは、とても喜びました。

 そのきれいなカラは、カタツムリが長い旅で集めたかけらをつなぎ合わせて作ったものでした。


 カタツムリのカラは地味なクリーム色のままですが、にじいろツムリの喜ぶ姿を見て、このままでもいいかと思ったのです。



 やがて、二匹の間にたくさんのこどもたちが生まれました。

 こどもたちはみな、それぞれきれいな色のカラを持っていました。

 こどもたちはすくすくと育っていきました。



 こどもたちはある日、みんなで自分のカラをひとかけずつ割って集めました。

 こどもたちはきょうだいがたくさんいたので、小さなかけらは小山ほどの数になりました。


 こどもたちはカラのかけらを持って、カタツムリのもとへ集まります。


「おとうさんは、おかあさんにきれいなカラをプレゼントしたんだよね」


 こどもたちは、おかあさん(これはにじいろツムリのことです)から、おとうさん(カタツムリのことです)が、カラをなくしたおかあさんのために、きれいなカラをプレゼントしてくれた話を、何度も聞かされていました。

 そしてそのカラは、カタツムリがにじいろツムリのようなきれいな色のカラに憧れて、いろいろなところを旅して集めていたかけらで作ったということも。


「おとうさんのカラを、みんなできれいにかざってあげるね」


 こどもたちはよじよじとカタツムリのカラに這い上がり、自分たちで集めたかけらをはりつけていきます。


 ぺたぺた、ぺたぺた。


 こどもたちは好きなように、好きなところにかけらをはりつけたので、カタツムリのカラは、まるでモザイク模様のようです。


 それでも、カタツムリは出来上がったカラを見て、とてもとても喜びました。

 いつか憧れたにじ色とはちがいますが、七色の、とてもきれいで、この世界でたったひとつの、カタツムリのためだけに作られたカラなのです。


 カタツムリは、こどもたちから七色の気持ちを受け取って、なないろツムリになりました。



 なないろツムリは家に戻り、むかし粉々になってしまったにじいろツムリのカラのかけらを取り出しました。

 粉々になっても美しいそのかけらを、にじいろツムリにお願いしてゆずってもらい、大事にとっておいたのです。


 そのかけらの中に、自分の地味なクリーム色のカラを少し、割り入れます。

 そしてにじいろツムリにことわってから、そのカラのかけらたちをさらに細かくくだきました。

 なないろツムリのカラを作るために欠けてしまったこどもたちのカラを、これで直そうと思ったのです。


「それはいい考えだね」


 にじいろツムリも賛成してくれました。



 なないろツムリとにじいろツムリは、こどもたちを呼び集めました。そして、こどもたちの欠けたカラを直し始めました。


 こどもたちのカラはまだ薄いので、厚くなりすぎないよう、のりのようなものをつなぎとして入れ、ていねいにていねいに練って塗って、かたちを作ります。

 できあがったカラのかけらは、きらきら宝石のようなにじ色と、クリーム色が少し混じるふしぎな色合いになりました。


 こどもたちは、直ったカラの部分を見て大喜び!

 だれ一匹として同じ色合いのない、その子だけのものだからです。



 こどもたち全員分のカラを直し終えたところで、なないろツムリとにじいろツムリのカラのかけらも、ひとかけずつを残してなくなりました。

 二匹は、残ったお互いのカラのかけらを、二匹の部屋に飾ることにしました。


 やがてこどもたちはもっと大きくなり、二匹に直してもらったカラの部分は、体にたいして小さくなりました。

 でも、そこはいつまでも、こどもたちの自慢の部分でした。



 あるところに、モザイク模様のカラをもつなないろツムリと、うすくつなぎ目のあるカラをもつにじいろツムリがいました。

 二匹には、カラの一部に不思議な色合いのかけらをもつ、たくさんのこどもたちがいました。

 カタツムリたちは、それはそれは仲良く暮らしていたそうですよ。

気づかず踏んでしまったカタツムリの、「パリッ」を聞いた時のいたたまれない気持ちから生まれました。


2015.1.1投稿

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