第7話 正直者は得をする?
鑑定石を触る番が回ってきた!
触ってしまえば、自分が倒すべき存在・魔王だと明かしてしまう大ピンチ!
俺は、神に祈るくらいしかできないくらいに、追い込まれていた。
勇者たちには異世界召喚のことを事前に説明しておいて、俺はハブにしたという恨みを持っている相手である神に祈るくらいだから、相当な追い込まれっぷりだということがわかっていただけると思う。
「柴崎君には申し訳ないのだが、鑑定石は使用回数が決まっているとても貴重なアイテムでな。勇者の確認用になんとか確保している物なので、勇者ではない柴崎君の鑑定は省かせてもらえるだろうか」
願ってもない展開になった。
さっき、「俺も勇者だ」なんて嘘をつかなくて本当に良かった。
人間、正直なのがやっぱり一番いい。(魔王って称号隠してるけど)
「もちろんです。そんな貴重なアイテムを使う価値がないってことくらいは、弁えております」
「うむ、すまないな。もし修行する過程で、魔王を倒すのに有用なスキルや称号を手に入れたら、教えてほしい。その時は、鑑定石を使うことを惜しまない」
魔王を倒すのに有用なスキルや称号を手にすることはありません。
なぜなら、俺が魔王ですからー!!
「さて、勇者であることも確認できたし、これより王宮へ移動し、勇者をこの世界に迎えられたことを祝して、ささやかではあるがパーティーを行う。もちろん、柴崎君も参加してくれ。修行などは明日から行おう。今宵はとにかく楽しんでくれ」
王宮では、すでにささやかではなく盛大なパーティーの準備が終わっており、俺たちが到着するなりパーティーは始まった。
参加しているのは、王族関係や大臣など要職に就いている者たち、そしてこの国の有力な貴族たちだった。
参加者たちの興味は、もちろん勇者たち3人組だった。
俺が勇者じゃないってことは、大聖堂にいなかった人たちへもすでに伝わっているらしい。
次から次へと挨拶にやってくる人たちへの対応に、勇者たちは困惑しているようだ。
そりゃ、そうだよね。
ついさっきまで高校生だったのに、急に首相や大臣たちとの会食に参加させられて、全員の興味を集めてる……みたいな状況か。
普通の高校生なら緊張してしまって、何もできないだろう。
でも、彼らはいわゆる普通の高校生ではない。
3人とも、公な場に参加した経験はそれなりにあるようで、困惑しつつもうまく対応しているように見える。
一方、誰からも興味を持たれない、空気のような存在の俺は、異世界の料理を味わっていた。
さすが異世界、見たことない料理ばかりだ。
王宮で出される料理なので、おそらくこの世界最高峰の食材が集められているのだろう。
しかし、料理法や調味料などはそれほど洗練されていないのか、それとも俺の舌が肥えていないせいか、それほど美味しくは感じなかった。
庶民のごはんがどんなものなのかはわからないが、牛丼やラーメンが恋しくなる未来は容易に想像できる。
豚肉・牛肉・鶏肉のどれでもない謎肉のステーキを食べていると、見た目は若いが、妙に雰囲気をもった男性が話しかけてきた。
勇者歓迎パーティーで、唯一の一般人の俺に話しかけてくるなんて、ずいぶんと変わった人だ。
「あなたが、勇者たちと共に召喚された方ですね。初めまして、サイタミア王国にて大佐の地位についております、ランスロットと申します」
「ご丁寧にありがとうございます。勇者たちと一緒に召喚されたトオルです」
「トオルさん、あなたは勇者ではない……とのことでしたよね?」
「そうなんです、残念ながらただ巻き込まれただけの一般人です」
本当は勇者なのに、隠していると思われている?
勇者以外の人間が異世界から召喚されたのは初めてらしいので、疑う人もいるだろうとは思っていた。
が、その予想は悪い意味で裏切られることになる。
「確かに、あなたからは勇者が纏う光は感じられません。ですが、ものすごい魔気を感じます。高位の魔物からしか感じたことのないほどの、濃密な魔気を」
姉さん、またしてもピンチです。(姉なんていないけど)