第5話 俺、魔王なの?
勇者に巻き込まれて異世界に召喚されたら、俺は魔王でした。
「魔王…?」
思わず呟く俺に、王は嬉しそうに反応した。
「そうだ、お主たち勇者の使命は魔王を倒すことだ。この世界のどこかに魔王が誕生する時、勇者もまた召喚される。まだ魔王は確認されていないが、いずれ活動を始めるだろう。お主たちはそれまでに力をつけ、いずれ魔王を倒して欲しいのだ。それを知っているということは、お主も勇者という称号を確認できたのだな?」
3人組の使命は俺を倒すことでした。
今なら3人組じゃなくても、多分誰でも魔王倒せます。
はい、異世界に召喚されたと思ったらいきなり大ピンチです。
ここは、どう答えるべきなのだろうか。
馬鹿正直に「魔王です」と言ったら、もしかしたら害意のない魔王として共存できるかもしれないけど、普通に考えてさっさと殺すだろう。
リスクが高すぎる。
では、「勇者でした」と答えるのはどうだろうか。
いつどんなボロが出てばれるかわからないし、勇者だとしばらく…魔王がどこかで活動するまではここにいなくてはならない。
魔王は俺だから、どこかで活動することはない…ということは、ずっとここにいなくてはならない。
一生ばれるリスクと生きていくのはしんどすぎる。
しかも、ばれたら即死亡の最悪なリスクだ。
つまり、俺はなるべく早くここから脱出する必要がある。
こういう時は、あれしかないだろう。
「いえ、私には”勇者”という称号はありませんでした」
「なんと、いったいどういうことだ!?」
「代わりに”巻き込まれた者”という称号がありました。私は神様にもお会いしていませんし、ただ巻き込まれただけのようです」
「な、なんてことだ…」
あ、みんなびっくりしてる。
3人組も顔に「まじかよ」って書いてある。
そりゃそうだよなー、3人組からしたら巻き込んじゃった側になるわけで。
異世界救うために頑張ろうって思ったら、いきなり出鼻くじかれた感じだよな。
王たちも、まさか異世界から勇者でもない、何も関係ない人が召喚されてくるとは思ってないだろうしなー(本当は関係なくないんだけど……むしろ勇者よりも関係あるんだけど……)
扱いに困っている感じだよなー。
「ふむ、”ステータス”のことも知らなかったようだし、こちらに召喚されてきた時の驚きようからも嘘を言っているとは思えん。前例はないが、本当にただ巻き込まれてしまったのだろう。すまぬが、元の世界へは、魔王が倒されない限り戻ることができない言い伝えとなっている。勇者たちが魔王を倒すまで辛抱していただけないだろうか」
魔王を倒すまで元の世界に戻れない?
ってことは、魔王である俺は絶対に戻れないってことじゃん。
まじかよ……俺、もう帰れないのかよ。
元の世界へ帰れないことが確定した事実に落ち込んでいると、
「勇者たちが魔王を倒すまでは、我が国で手厚くもてなすから安心してくれ。お主にも部屋や召使を用意しよう」
と、励まそうとしているのか、王が優しい声で話しかけてきた。
が、俺はここにいるわけにはいかない。
「すみません、とてもありがたいお言葉ですが、ここにいても私にはできることはありません。どうせなら、彼らが魔王を倒すまでの間、この世界を見て回りたいと思います」
「そうか……ならば、旅に必要な物などを用意させよう。しかし、この世界では前魔王が使役していた魔物たちが、主を失って暴れており、外はとても危険だ。ここで勇者たちと共に少し修行し、多少の力をつけてから旅に出るのが良かろう」
魔物がいるのか。
新魔王が行ったら言うこと聞いてくれないかな?
主が違うんだから、そんな甘いことにはならないか。
ならば、王からの提案はとてもありがたい。
少し修行する間だったら、魔王だってことはばれずにやり過ごせるだろう。
「ありがとうございます。そうさせていただきます」
「うむ。それでは、まずは勇者たちのステータスを確認させてもらおう。鑑定石を持ってまいれ」
鑑定石?
それは、もしかしなくてもステータスを明らかにするやーつ?
……俺の短い人生、いや魔王生、早くも終了です。
短い間でしたが、ご愛読ありがとうございました。
もちろん、次回で完結じゃありません。
まだ続きます。