第37話 ごめんね 下
本日2話目の投稿です。
オリジナルスキル【転移】は、どんなものでも転移させることができる力だ。人や神自身はもちろん、自分が支配しているものであれば何でも……星そのものを転移させることだってできる。神の力に相応しい反則級のスキルだ。その神は、その力を……侵略に使った。
GPや神の力は、支配する動植物や土地が大きければ大きいほど強大となる。ならば、他の星を支配してしまえばいい。そうすれば、より強大な力を手に入れることができる。しかし、神は星に対して直接的に力を行使することができない。
まず彼は自分の星に住む生き物たちを争わせた。そう意識に働きかけたのだ。彼の星には様々な種族が住んでいたが、長年争うことにより、数の力で徐々に勢力を広げた”人間”が星を支配した。そして、彼はその人間たちの一部を、他の星へと転移させたのだ。転移した人間たちは、また侵略を開始した。星によっては強い個体が多く侵略に苦労することもあったが、そういった時は彼のオリジナルスキル【転移】で、強者を呼び寄せた。神はその強者に暗示することで、その星に住む者を敵と認識させ、(彼にとっての)正義のために力を振りかざす存在とした。そうやっていくつもの星を支配し、力を増していった彼のオリジナルスキルは進化する。転移の際に、勇者の力を与えることができるようになったのだ。スキルが進化する前から、彼が呼び寄せた存在は自分のことを勇者だと思い、正義のために戦っていた。彼の力が増したことによって、彼の望む通りの結果が得られるようになったということなのだろう。
そして、遂にその侵略の対象は、この星へと向けられた。送り込まれる大量の人間。転移させられてくる強力な勇者。そんな者たちを相手に、この星の者たちは文字通り蹂躙された。自分の愛する星の民が無惨に殺され、星が支配されていく。それを目の当たりにしても、彼女には何もできなかった。【春の風】を使って、より強力な芽吹きの力を星に与え、対抗させようとしたが、それはほとんど意味をなさなかった。
彼女は絶望した。どうして、愛する民がこんな悲惨な目に遭っているのに、私には何もできないのか。彼女がいくら力を行使しても、蹂躙は止まらなかった。GPが消費されるばかりで、補充される速度はどんどん弱まっていった。「ごめんね」彼女は星の民たちに何度も呟いた。届くはずがないとは知りつつも……。
そんなある日、彼女は新たな力を行使できるようになった。それは、転移の神のように、力を得たことによるスキルの進化ではなく、熟練度が増したことにより、力をより巧みに行使可能となったに過ぎない。彼女が行使できるようになった新たな力とは、【魔王任命】であった。
彼女はその力を使って、星に生きる最強の個体であるドラゴンを魔王に任命した。魔王の力は強く、人間たちに対抗できる力となった。彼女はもしかしたら……と期待した。これで、この星の民を守ることができるかもしれない。しかし、その淡い期待は、脆くも崩れ去る。敵は大量のゴッドポイントを有し、勇者を召喚することができる最強の侵略者だ。次から次へと勇者が送り込まれ、ドラゴンは墜ちた。その後も、GPが貯まる度に魔王任命を行使したが、皆敗れていった。そして遂にGPは尽きようとしていた。
星は侵略され、神の力も残りわずか。次の魔王任命が最後になることは明白であり、敵の神も神の力を行使することで情報収集を行っており、それを認識していた。そして、敵の神が侵略の仕上げ用に新たな勇者を召喚しようとしていることを、魔王任命に使うGPの余りを使用して掴んだ彼女は、初めてこの星以外の者を魔王に任命する計画を思いついた。
敵の神は、相手の星に生きる者を敵と認識させることを容易とするために、人間族を選んで勇者召喚していた。ならば、勇者に選ばれた星と同じ星に住む人間を魔王に任命し、敵の神の転移に巻き込んでこの星へと召喚すれば、見た目は人間だから任命後早々に殺されるリスクが減り、人間たちと対抗する力を得るまで生き残ることができるのではないか、と考えたのだ。それは別の神の力を利用する、成功するか分からない危険な賭けだったが、彼女にはもうそれしか選択肢がなかった。藁をもすがる思いで、彼女は最後の賭けにベットした。そして、トオルはこの星へ”魔王”として召喚された。
「ごめんなさい。あなたはこの星の運命とは何ら関係がないのに、私の我が儘で呼び出し、そして魔王なんて重圧を背負わせてしまって……」
また、彼女の瞳からは大粒の涙が零れ落ちている。
「たった一人で、誰にも相談できず、何をしてもダメで、自分の星が、星の民が苦しんでいるのをただただ見ていることしかできず、もうどうしていいかわからなかったんでしょ? 辛かったね……でも、もう大丈夫だよ」
俺の言葉に感極まったのか、全身を震わせて彼女は号泣していた。
「ごめんね。ごめんね」
プロセルピナは、うわ言のように謝罪の言葉を繰り返した。その小さな体で、今までどれほどの苦しみを背負ってきたのだろう。何度自分の無力さを呪ったのだろう。自分の無力さをただただ突きつけられる日々とは、なんて残酷で、容赦のないものなのだろう。
マイヤといい、プロセルピナといい、この世界の少女は強すぎる。でも、もう十分だ。これ以上、彼女たちが苦しんでいる姿なんて見たくない。俺は、彼女たちが心の底から笑った顔が見たい。想像なんて遙かに凌駕するくらい、可愛いんだろうなぁ……。
「大丈夫、後は全部僕に任せて」
そう言って、僕は彼女を抱きしめた。小さくか弱いその体を。
「ひっく……で、でも……て、敵は強く、私たちが置かれている状況はとても厳しい、です。そ、そんな世界に、私はあなたのような優しい方を……」
これ以上の謝罪の言葉なんて聞きたくなかった。だから、指で彼女の口を軽く叩いて、続く言葉を遮った。
……ちょっとかっこつけ過ぎたかもしれない。さっきから、体の底から沸き上がってくる感情を抑えられず、高揚しているせいだ。
「ありがとう。僕にしかできない、僕だけの使命をくれて」
「?」
地球に住む高校生で、はっきりとした将来の夢とか未来設計図とかを持っている人なんて稀だろう。僕も自分にしかできないことは何かないかって、ずっと探していた。でも、現実は残酷で……その人じゃなきゃいけないものなんて何もなくて、もっとすごい人なんて探せばいくらでもいた。あがいてもあがいても、何度も現実の壁にぶちのめされ……それでも諦めきれずに、強い心であがき続けていたけど、いつ折れてもおかしくなかった。
「安心して。あがらうことだけは、誰にも負けない自信があるんだ」
彼女の涙を拭って、僕は目を閉じた。なんとなくだけど、そうすれば元の世界へ戻れる気がしたのだ。
「ごめ……いえ、ありがとうございます、トオル様。あなたはこの星の……私の救世主です」
目を閉じているのに眩しく感じる程の光が体を包み、収束していった後、空気を切り裂くような音が聞こえてきた。目を開けると、そこは上空。ドラゴンの背の上だった。
「トオル様、何かございましたか? 目をつぶって開いたら、顔つきが変わられています。まるで何も迷いがなくなったかのような清々しいお顔に」
「そうだね。もう悩みはなくなったよ。この星は、俺が守ってみせる」
急にそんなこと言われても、訳が分からないだろうに、彼女は俺の言葉を聞いてそっと目を閉じ、再び目を開くと「はい」と小さく呟いた。これからの戦いに思いを馳せたのだろう。顔が少し紅潮しているようだ。
サンスティからブルーフォレスは1000キロ以上離れているそうだが、スカイドラゴンの飛行速度はさすがで、あっという間にブルーフォレスが見えてきた。本当に、もっと早く創造するべきだった……。
ブルーフォレスの周囲は、人間軍に完全に囲まれており、あちこちから火が上がっている。
「ギリギリ間に合ったかな?」
「そうですね、被害は甚大ですが、まだ抵抗できているようです」
「よし、カエルム。あの人間軍の主力と思われる部隊と獣人軍が戦っている戦場の最前線に降りてくれ」
「御意」
「で、地面に降りたら、ライムはひが……左、グレンは右の方の獣人軍を援護しに向かってくれ。カエルムは反対側の方を頼む。お前たちなら大丈夫だと思うけど、油断するなよ?」
「「御意」」
「ぎょい、なのー!」
うーん、ライムとグレンは本当に分かってるのだろうか? 心配なんだけど……まぁ、間違えて獣人軍を攻撃しなければ最悪OKだ。
「マイヤは王宮へ向かってくれ。そっちに攻撃はいかないようにするけど、一応注意してね」
「はい!」
さぁ、いよいよ戦い――この星の命運を握る、救星の戦いだ。
カエルムが高度を下げていくと、人間軍・獣人軍共に気づいたようで、上を見上げて驚愕している。そこから、マイヤが獣人側に少し身を乗り出して叫んだ。
「魔王様が、援軍に参られました!」
一瞬の静寂の後、耳をつんざく程の大歓声が獣人軍から発せられた。カエルムが地上に降り立ち、俺もその背から降りる。
「ごめんね」
これじゃ、あの子と同じだな。さっきたくさん耳にしたから、伝染ってしまったのかもしれない。そんな局面じゃないとはわかっていたけど、思わず少し笑ってしまった。
「助けにくるのが遅れたけど、もう大丈夫だから。この星は、俺が守るよ」
どうせ笑ってしまっているのだから、と獣人たちに微笑みながらそう言ってから、俺は彼らに背を向け、人間国の軍を睨んだ。
「さぁ、覚悟はいい?」
侵略者達よ、今度はお前たちが蹂躙される番だ。
予定通りいくと、次話で第1章は終わりです(伸びて2話に分かれなければ……)。
その後幕間を挟んで第2章に入りますので、よろしくお願いいたします。




