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私による私のための楽しい打ち首回避生活

作者: 君影想

なんということでしょう・・・・。


「打ち首。」


 凍てつくような美貌の持ち主は冷たく言い放った。


「は、はははは・・・・・・。」


 時は三分ほどさかのぼる。


 

 * * * *



「夏だ・・・・。夏い・・・・・・。」


 夏いってなんだ?ついに私、頭おかしくなったのか。というか、周りに誰もいないのにしゃべってるってヤバくないか。もしかして私・・・・・・はたから見たら不審者じゃ・・・・?

 なぜ私が今ボッチなのか。それは、私がうっかり現国の課題を忘れてきて、放課後居残りするはめになったからである。ちなみにだれも私を待ってくれなかった。切ない。明るく、爽やかに「バイビー!!!」やら「アディオス!!!」やら「さよならいおん!!!」などといって去っていった。くそっ!!私のなにがいけなかったというんだ!!・・・・・・あ、課題を忘れてきたことか。


「なにかいいことないかなーぁあああああああァアアアアアアアアア!!!!!!?」


 私は突如できたまんまるな暗闇・・・・さっきまで水たまりだったよね!?・・・に吸い込まれた。怖かった。


 ドスッ


「ぎゃばっ!!!」


 激痛を覚悟していた矢先にあったのはフワフワしたなにか、だった。


「え、なに?死後の世界ってふわふわなの?え?マジ?めっちゃふわふわでぱふぱふなんだけど。」


 あれ?というか、なんだか私、ものすごく変なポーズしてないか?まるで、椅子の座面、だっけ?かなんかに胸から上をのせてる、みたいな・・・・。胸から下は、なんだかななめってるけど・・・・・。


「ヤバい、いい匂いする。死後の世界ってなんかすげー!!」 


 まるで、薔薇みたいな香りが・・・・・。


「貴様、面をあげよ。」

「いい匂いー!!素敵ー!!永遠にここにいたい・・・・。」


 そろそろ起き上がろっかな。そしたらきっと・・・あたり一面・・・薔薇の花びらなんだろうな・・・。それだったら、このふわふわしてて触り心地のいいこの地面も薔薇のいい匂いも納得できる・・・・。


「薔薇の色・・・・赤がいいな・・・・。白とか青とか緑もいいけど、やっぱり薔薇は赤だよね・・・。というか、赤が一番好きだな・・・・。」


 あれ・・・・?さっきなんか誰かに話しかけられたような・・・?もしかして、転生のご案内とか!?いやだ!!私はまだここにいたい!!!


「私、ここにいますからァ!!!(しばらく)どこにも行きたくないですゥ!!!!!」


 かっこのなかの、しばらく、は言い忘れた言葉である。あれ、もしかして私、ずっとここにいることになったり?・・・・・じゃなくて、私が勢いよく顔を上げた先には・・・・


「ビッジーン・・・・・・・。」


 ヤバい・・・・。美しすぎる・・・・・。もしかしてこの人神様?氷の神様かな?なんというか、ひんやりとした印象を受けるし。いや、薔薇の神様?めっちゃ薔薇のいい香りがするし。


「貴様、そこがどこだかわかっているか?」

「は、はひ・・・・。天国です・・・薔薇の花弁が敷き詰められている・・・・・・。」


 ヤバい、めっちゃ緊張する・・・。威圧感があるしなんか怖そうだけどとにかく美人だ。素敵。綺麗。美しい。あ。ヤバい。ずっと顔を見てたら、頭がくらくらしてきた。美人怖い。


「そうか。それは良かったな。苦しむ前に天国が見れて。

 んんっ?まだ私は死んでないと?・・・・・・ここで、私はなんとなく身体の下を見てしまった。


「・・・・・どwやいうふ3えhdべっ!?????」


 そう、私が下に敷いていたもの。それは・・・・


「我を下敷きにして満足か。では貴様、」


 とんでもない美貌を誇るその女の人の服と足だった。そう、私は女の人の太ももあたりに顔をうずめており、胸から下は椅子からのびた足にもたれかかっていた。そして、私の足の下に広がるのは女の人が纏っている美しいドレスの深紅色の裾。高そうな布がたっぷりと使われている。・・・・・どうやら私はこの人の太ももとドレスのおかげで死なずにすんだらしい・・・だが・・・。


 そして冒頭に戻る。



 * * * *



 ・・・・おわかりいただけただろうか?

 

「なにか言いたいことはあるか?我が聞いてやろう。」


 女の人をよくよく見ると頭の上には美しい細工の施された王冠が乗っていた。


「あっ、悪意はなかったんでっす!!別に怪しいものとかでもなくてっ!!」

「いきなり落ちてきた人間のそんな言葉を信じられるとでも?」

「ムリデスネー。」


 どこか逃げられそうなところはないかと周りを見回してみると、周りはお洒落な赤い軍服を着こんだ動物たちと人たちが私たちを囲んでいた。


「でもっ!!信じて下さい!!私は別にあなたに害をなそうとしたわけではないんです!!!」

「そうか。だが我の上に落ちてきた事実は変わりない。もちろん打ち首だ。」

「ううっ!!どうかご慈悲を!!!」


 その私の言葉を聞くと、女の人は赤色の宝石で縁どられた、氷のように冷たい血色の瞳でこちらを値踏みするかのように見つめる。


「お願いします!!」


 死にたきゃぁない!!!


「・・・・まぁ、よい。もともとすぐに打ち首にする予定ではなかったからな。残念ながら罪人は星の数ほどいてな。少なくとも半年は貴様の順番は回ってこない。・・・その半年間で我の上に落ちてきた罪を償え。もしできなくば、半年後に貴様の首はなくなっていることだろう。」


 え、それ、全然よくなってなくない!?というか現状維持ってことだよね!?なにが『まぁ、よい。』だったの!?


「ああ、安心せよ。半年間貴様は我の奴隷として首輪と鎖をつけて一日中そばにいてもらう。だから、衣食住安泰だし、罪を償うチャンスはいくらでもある。」


 奴隷!?首輪!?鎖!?


 ガチャリ


「なっ!?」


 後ろから首になにかが付けられた。そして、動物の一人が女の人に怯えながらなにか鎖のようなものを手渡した。


「動くな。」


 グッと女の人の方に引っ張られた。


「グエッ!!!」

「無様だ。聞き苦しい。これでは罪を償うどころか罪が重くなるぞ。」


 首元に手を触れてみると、なにかが私の首に・・・・・首輪だ。その首輪には鎖がつながっており、その鎖の先には女の人がいた。どうやら、それで引っ張られていたらしい。


「さて、我は部屋に帰るとしよう。」


 女の人がそういうと、一気に動物も人も赤いカーペットの周りに跪いた。・・・・なかなか圧巻の光景だった。


 パッパラパッパッパー


 ラッパの音が鳴り響いた。


「クイーンレッドさまのご退室!!!」


 なんとなく引っ張られているような・・・・。


「グギョッ!!!」


 く、苦しい・・・・。


「何をしている。貴様も我の部屋にいくのだぞ。」

「え、あ、はいっ!!」



 * * * *



「貴様、名は?」

「・・・久遠紅です。」

「そうか。」

「貴方様に

「レッドと呼べ。」

「レッドに質問をしてm、ッグエッ

「呼び捨てにしていいなどとと誰が言った。」

「だって今、レッドと呼べって!!」

「我は王ぞ?さまを付けるのが当然であろう?」

「高慢・・・・・。」

「何か言ったか?」

「ナンデモアリマセン。」

「それでよい。罪人ごときが我に口答えなどありえないからな。で、なにか質問はあるか?」

「・・・・ここってどこですか?」

「知らずにきたのか?」

「いや、道を歩いていたら急に地面に穴ができて、気が付いたらレッドさまの上に。」

「・・・・そうか。ここは赤の国だ。」

「赤の国以外にもあるんですか?」

「・・・・・いや、ない。」

「なるほど・・・・。ところで、」

「なんだ?」

「動きにくくないんですか?その服。」

「貴様こそその服はなんだ?美しくないし、すぐにスカートがめくれそうだ。逆に動きにくいのではないか?」


 なっ!!なぬっ!!花のjkが纏うブレザーに対してなんちゅう言いざま!!!ま、まぁ、レッドが着てる真っ赤なドレスに比べればかなり美しさにかけr・・・じゃなくてそのドレスに比べたらかなり動きやすいですし!?というかその恰好動きにくくない!?

 まず、頭!!髪長い!!真っ黒で艶々!!くるくるしてるのに膝裏まである!!しかも真紅色の薔薇が三輪と王冠が付けられている。・・・・・・重くないの!?薔薇だけだったらまだしも、髪と王冠とトータルで考えるとかなり重くない!?

 そして次に首元!!真紅の宝石・・・ルビーかな!?・・・が毒々しく輝いている。それはいい。だが、サイズが可笑しい!!ピンポン玉より一回りくらい大きいよ!?いくら!?肌に直接触れてるけど寒くないですか!?というかジャンプしたら顔面に宝石の部分直撃しそうですね!!痛そう!!

 極め付きは深紅色のドレス!!重そうの極み!!!なに!?このスカート部分の段々フリル!?布使いすぎじゃね!?なんで胸のところもフリフリだらけなの!?どうしてスカートの真ん中部分にいきなり切れ目ができて、黒いレースに覆われた深紅色の布にきりかわるの!?わからない!!そしてやっぱりスカート長すぎない!?すんごい後ろまで伸びてるよ!!邪魔でしょ!!あと、の肘上まである黒いレースの手袋が色っぽい!!そしてその手袋の上からつけてるブレスレット、めっちゃお洒落!!でもやっぱり宝石デカすぎない!?


「それ、靴、どうなってんですか!?」


 気になる!!!


「我のことが知りたいのか。」


 いや、貴方の靴のことが。


「まぁ、特別に見せてやろう。」


 そう言ってレッドがスカートをめくる。・・・・・重そう。そして、たはから見たら私が変態に見えるであろうことが容易に想像できて余裕で死ねる。


「エロい。」


 らーらーらーららーら言葉にできない・・・・・いや、しちゃったけど。


「けしからん。マジレッドけしからん。」

「ん?なにか言ったか?」

「ナンデモナイデスレッドサマ!!オウツクシイ!!!」


 なんだ!?あの黒いレースのニーハイ!!パンツの上にはいてるフリフリの何かもエロい!!!靴も!!赤い!!ヒールが高い!!そして足首に巻き付けられた、えっと。アンクレットだっけ!?がイイ!!!真っ赤な宝石がつなぎ合わされてできてるけど、やっぱり宝石がデカい!!いくらですか!?・・・・・あと、いい太もも・・・してますね。ぐふっ。


「そうか。」

「いやぁー、いいものが見れました。ところで、そのヒール、何センチですか?」

「十三センチだ。」

「高っ!!」


 いや、この人身長高いなーあきらかに190センチ超えてるよなーとは思ってたけど、これが原因か!!まぁ、それでも180センチ近くありそうだけど。いや、超えてるかも。


「足痛くならないんですか?それ?」

「別に。」

「スゲー・・・・。」

「ああ、そうだ。今日から貴様には我の着せ替え人形にでもなってもらうか。」

「えっ?」

「いつまでもその可笑しな洋服で過ごすのか?洗濯もせずに?・・・・・・まぁ、奴隷だったらそれでm

「いえいえいえいえ!!着せ替え人形にしてください!!どうぞお好きに!!」


 私、紅は今日から着せ替え人形になりました。ヤッター!!ドレイカラショウカクシタヨ!!!・・・昇格・・・?


 

 * * * *



「ちがう。・・・・・それもちがう。ちがう。ちがう。貴様、我を馬鹿にしているのか?」

「ヒィイイ・・・・・!!!違います!!!許してください!!!」


 酷い怯えっぷりだな・・・・。あ、ここに来てから一カ月ぐらいたったよ。・・・・・そして、今、私がおかれている状況。それは・・・


「我は、この娘に似合う服を、といった。似合わぬ服を、とも、美しくない服を、とも言った覚えはない。それについてどう思う?貴様?」


 レッドが私の服を仕立て屋に作らせ、その作ってきた沢山の服をさっきまで試着してた・・・・・が、どれもこれもが私に似合わないし美しくない、ということでレッドが大激怒しているところだ。・・・・どれもこれも素敵な服なんだけどな。どうやら、レッドのお気には召さないらしい。あ、ちなみにここは衣裳部屋の着替えの間ってとこだ。ここにはレッドの寝室に繋がる扉以外にも沢山の扉があるが、これはそれぞれバッグの間やら靴の間やらドレスの間やらにつながっている。


「はっ、はひっ!!!!すみません!!!ごめんなさい!!!!」

「それでは説明になってない。・・・・まぁ、よい。・・・・・・打ち首。」

「ひゃああああ!!!それだけはお許しを!!!!どうか!!!!!」

「断る。」


 可哀想だな・・・・。・・・・役に立つかわかんないけど、少し助太刀してあげようかな。


「いや、でも、レッドさま。この白いドレス素敵ですよ。」


 と言って、レッドが一回も私に試着させようしなかった純白のドレスを手に取る。


「そっ、そうですか!?そうですよね!!!はっははははは!!!!!」


 声が震えてるよ、仕立て屋さん。・・・・でも、本当に素敵なドレスだ。腕はシフォン生地が途中から切り替わって薔薇柄のレースになり、肘上に十センチまで覆われている。なので、私のぷにぷにした二の腕はばっちり隠されている。首元から、前は胸元までと後ろは肩甲骨の下あたりまでは薔薇柄のレースで覆われている。そのレースが切り替わって、胸元から下と肩甲骨から下からはシルクで腰までは覆われているが、腰からは布が切り替わって再び薔薇柄のレースの・・・恐らく着れば膝丈ぐらいであろうスカートが・・・フワリと広がっている。きっとこのスカートはパニエをはいて膨らませるのだろう。


「・・・・・我は白を好かぬ。」

「ひっ、いやっ、でも、白も・・・

「好かぬといっておるのが聞こえぬのか仕立て屋。」

「すっ、すみません!!!!!!」


 これは・・・・レッド、ガチでキレてるぞ・・・・。纏う空気がブリザードだ。


「貴様も結局白が好きか?紅?」

「いや、私はそこまで好きではないです・・・・。」

「我は決して裏切りは許さぬぞ、紅。よく覚えておけ。」

「はい。」


 私のその返事を聞くと、レッドは衣裳部屋から寝室へと立ち去った。・・・・のを確認して仕立て屋に声をかけ・・・・・


「大丈夫ですくわぁっ!!!」


 そうだった・・・・・。レッドが出て行ったということは、鎖の先の持ち主が移動したってことだから私も出て行かなきゃなんないんだった・・・・・。うぇっ、苦しい・・・・。


「紅、さっさと来い。」


 慌てて後を追う私の視界の端に、兵士に囲まれどこかへと連れて行かれる哀れな罪人が見えたような気がした。



 * * * *



「レッドさまはどうして白が嫌いなんですか?」


 この世界に来てから三カ月。前々から思ってたことを質問してみる。あ、ちなみに今日の私のドレスは不思議の国のアリスのドレスを白い部分を黒く、水色の部分を赤くしてフリルとレースを大量に投入したみたいなドレスだよ。


「・・・・・・好かぬ。」


 だからなんでって。


「・・・・なぜ?」

「・・・・・・白は愛される。白は誰からも愛される。・・・・・なぜ・・・・なぜ、みなあれのもとに行く・・・・・。我のなにが悪い?我が皆のためになにをしようとも誰も我を見ようとなんてしない。なのにあれが笑っただけでなぜ皆が幸せそうになる?全てあれに奪われる。」


 んん?なぜ白と自分を比べる!?え!?名前がレッドだから!?私も名前は紅だけど、他の色と自分を比較とかしたことないよ!?というかどうやって色と自分を比べればいいのかわからない。


「あれがいなければ・・・・・失せろ失せろ失せろ失せろ失せろ失せろ失せろ失せろ失せろ失せろ失せろ失せろ失せろ失せろ失せろ失せろ失せろ失せろ失せろ失せろ失せろ失せろ失せろ失せろ失せろ失せろ失せろ失せろ失せろ失せろ失せろ・・・・・・


 失せろ、とずっと呟いている。というか、目に光が入ってない。怖い。


「いや、私は白よりも赤・・・・レッドが好きですよ!!!」

「嘘をつけ。嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘

「嘘じゃないですって!!私は世の中(の色の中)でレッドが一番好きですよ!!!」


 赤、好きだよ!!!別にレッドのことは世界で一番好きじゃないけど。


「そう、か・・・・・。」


 一瞬固まったあとにそういうと、レッドはゆったりと目を閉じた。


「我が・・・・一番か・・・・・。」


 閉じたままの瞼が震えるのに合わせ、睫毛にのせられた柘榴色の宝石が煌きを放つ。


「レッドさまのことは好きですよ!!」


 一番じゃあないけど。・・・・でも、まぁ、結構?かなり?好きだよ。


「好き、か・・・・・・。」

「好きです!!!!」


 そういって、なんとなく抱き着く。


「・・・・・・温かい。」


 おお!!意外なことに好反応だ!!初めて抱きしめ返してくれた!!


「紅、貴様だけは我のそばから絶対に離れぬな?」

「・・・・・・・。」


 できれば、もとの世界に戻りたいな・・・・・。


「我を裏切らぬな?」


 たぶん・・・・・。


「あれになど魅了されぬな?」


 さっきから思ってたけど、あれってなにさ?


「白など生涯好きにならぬな?」

「・・・・・・はい。」


 たぶんそれは・・・・・ないと思う。というか、あれ?もしかしてこれ、今の「はい。」で、レッドの全部の言葉に頷いたとかとは思われてないよね?


「そうか。・・・・・・では、我についてこい。」


 そういうと、レッドは庭へと出て行ったので、私も慌ててついていく。・・・・・苦しい思いしたくないし。 


「どこに?」

「来ればわかる。」


 レッドは赤い薔薇しかない薔薇園の奥へ奥へと進んで行く。


「ぎゃっ!!!」


 薔薇の棘が刺さった。めっちゃ痛い!!・・・・・というか、どこまで奥に行くんだろ?そもそも、こんなところに道なんてあったっけ?


「・・・・・・?」


 今気が付いた。薔薇が自らレッドの行く道をよけている。・・・・・・まぁ、動物もしゃべる国だし可笑しくないか。


「・・・・・・止まれ。」


 気が付けば、私の目の前にレッドの背中があった。


「だせ。」


 はっ?と思ったら、私じゃなかったらしい。薔薇の蔓が動き、レッドになにかを渡した。


「紅、これを。」


 そういって振り返ったレッドの手にあったのは、レッドの冠にそっくりな冠だった。


「どうするんですか?」

「我の手に口づけせよ。」

「えっ!?」

「我のことを愛しているのだろう?」

「えっ、いやっ、はい・・・・・・・・・。」


 冠となんの関係があるんや!!かなり恥ずかしい!!が、なんとか白磁のようなレッドの手の甲に口を付けた。


「そのままでいろ。」


 マジで!?


「赤き薔薇の誓いを。祝福を。呪いを。」


 と、レッドが言うと、頭になにかが乗せられた。


「はひっ!?」

「貴様に冠を授けた。それだけだ。もう、口づけはいい。」

「はぁ・・・・・。」


 手の甲から唇を離す。ところで、くれるの?この冠・・・・。


「・・・・・ああ、その冠は外れないが、必要な時以外は出てこないから安心するとよい。」


 外れないっ!?安心!?とんでもない言葉を聞いた気がするぞっ!?


「・・・・・・首輪も鎖ももう必要ないな。外してやろう。」

「・・・・よっしゃ!」


 首輪と鎖を外してもらえたーーーー!!!・・・・・結局、そのまま私はレッドにこの冠の意味を尋ね忘れたのだった。



 * * * *



「あら?貴方・・・・。」


 んんん!?なんだ!?いきなり扉を開けてそれか!?そして貴方誰!?


「なぜ、クイーンレッドの部屋にいるのですか?」

「・・・・・・貴方は?」

「ああ、ごめんなさい。私はクイーンホワイトです!!クイーンレッドの双子の妹です。」


 んん?・・・・・・そういえば、よく似た見た目をしている・・・・。レッドとは違って目の色は淡いアイスブルーで髪は真っ白だし、ドレスは全身真っ白だけど。・・・・・やっぱりドレスの裾は長いんですね!!!


「で、なぜ貴方はクイーンレッドの部屋に?」

「・・・・・私、レッドさまの奴隷なのですが・・・・今日は絶対にここから出るなと言われているのでここにいました。」

「奴隷!?」

「はい。」


 えっ?ここの国では普通なんじゃないの?でも、私、奴隷って言ってもレッドと同じ生活してるし、好きなことさせてもらえるしで結構楽しいよ。


「クイーンレッド、なんて酷いことを・・・・・・!!!!」

「え?」

「貴方、どこから来たのですか!?もとの場所に返して差し上げます!!もし帰るところがなければ私の城へ!!!」

「白の城?」

「まさか・・・・・知らないのですか!!?」

「え、いや、すみません・・・・。五カ月ぐらい前に異世界から急にこの世界に来ちゃったので・・・。」

「そんな・・・・・・!!!時々あるとは聞いてましたが・・・・。」


 そのあと、クイーンホワイトにこの世界には赤の国と白の国があり、赤の国をクイーンレッドが、白の国をクイーンホワイト・・・つまり彼女が支配しているらしいことと、この世界の基本情報、そして、白の国に来たら、もとの世界に帰れる方法が見つかるかもしれないということを教えてもらった。


「・・・・で、どうするのですか?」


 ・・・・・・もとの世界、か。なるべく考えないようにしてきたけど、やっぱり戻りたい。母さんにも父さんも妹の燈にも友にも会いたい。だからといって、潔くこの世界を捨てるには思い出を作りすぎた。レッドと永遠に会えないのも・・・・・。


「決められませんか。貴方はきっと・・・・・いえ、なんでもありません。でしたら、とりあえず私の城にいらしてはどうでしょうか?」


 そういうと、クイーンホワイトは淡いアイスブルーの瞳を細めて私を見つめた。


「そう、ですね。」


 なぜか私は即座にそう答えてしまった。・・・・まるで、アイスブルーの瞳に惑わされたみたいに。


「そうですか!!それは良かった!!」


 クイーンホワイトが私の眼を見つめ微笑んだ。すると、なにもかもどうでもいいような気がしてきた。


「そうと決まればすぐに!!」


 クイーンホワイトは私の手を取り、私を引きずりながらどこかへと走り始めた。


「どっ、どこに!?」

「私の馬車です!!!」


 ええ!!?今から出発!?


「いやっ!!でもっ!!レッドさまに話した方が!!」

「大丈夫です!!クイーンレッドは私のお願いを拒否したことはありません!!」

「ええっ!?」


 レッド、どんだけこの人に甘いの!?


「さぁ!!!さぁさぁさぁ!!!!」


 あれよあれよという間に馬車に乗せられてしまった。


「お馬さん、さぁ、馬車を出してください!!トップスピードで白の王城まで!!」

「かしこまりました。クイーンホワイト。」


 今の、馬の声!?随分低い声だね!!


「安心してくださいね。もう、大丈夫です!!ところで・・・・貴方の名前は?」


 今更だな!!


「えっと・・・・くれ・・・・・え・・・?」


 ポタリ、血が一滴、私の掌に滴り落ちた。


「え・・・?は・・・・?なにが・・・・?」

「なっ・・・!!!貴方、その冠は・・・・・!?」

「えっ・・・?」


 頭に手を這わせると、金属のようなひんやりとしたなにかが手に触れた。


「それは、クイーンレッドのもの・・・・貴方・・・・・・まさか・・・・!!」


 えっ!?なに!?驚いている間にも血が頬をすべりおちて掌に零れてくる。


「貴方、クイーンレッドと誓いを交わしたでしょう!?」

「えっ!?いやっ?えっ!?」


 なんのこと!?


「とにかく、貴方をクイーンレッドから解放するためには・・・


 バタバタバタ


 沢山の足音が聞こえてきた。・・・・・・まるで、馬車を囲まれているみたいな・・・・・。


「ひぃっ・・・・・!!おっ、おりますよ!!この馬車から!!!」


 そういって、クイーンホワイトは私の手を取って馬車から私とともに降りた。


「クイーンレッド!!」


 クイーンホワイトが叫んだ。


「なんだ?クイーンホワイト。」


 いるっ!?


「この子を解放してあげてください!!!」


 んんんん!!!?


「・・・・・安心せよ。今日、この日に解き放つ。」

「そうなのですか!?でしたら!!

「ああ、罰の執行日だからな。」


 ・・・・・・えっ?


「なっ、なにを!!!クイーンレッド!!!」

「喜べ。我がこの手で貴様の息の根をとめてやろう。」


 はひっ?


「なっ、なっ・・・・・!!」

「・・・・ああ、クイーンホワイト。聞いていなかったのか?この娘は罪人ゆえ、じきに打ち首になる予定だったのだ。少々早まったが、大した問題ではない。」

「・・・・・・・・・・。」


 え?まって、わたしのうちくびがしっこうされるの?え?なんで?なにが・・・・?


「帰るぞ。」

「クイーンレッド!!!」

「失せろ。クイーンホワイト。」


 私とクイーンレッドは兵士に囲まれながら、赤の城に戻っていった。



 * * * *



「嬉しいか?我は嬉しいぞ。最高に幸せだ。貴様の全てを奪えるのだからな。」


 レッドが、笑っている。とても、とても幸せそうに微笑んでいる。・・・・初めて見た。


「穏やかな日々が続けばいいと思っていた。だが、紅、お前は違ったようだ。貴様は我を愛しているといいながら、白薔薇に惑わされた。・・・・・信じていたのに。」


 白薔薇・・・?


「愛している。なによりも。どんな宝石よりもどんなドレスよりもどんな花よりも愛している。」


 なぜ私もレッドもおそろいで深紅色のウェディングドレスのようなものを身に纏っているのだろう。なぜレッドはこんなにも幸せそうなのだろう。なぜ私は今から死ぬのだろう。


「二人だけの・・・・楽園を。」


 レッドに押し倒され、唇を塞がれた。・・・・レッドの唇で。下から抜け出そうともがくも、レッドはびくともしない。


「愛している。愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛して・・・・・・


 そのままレッドの手が首に触れ、ゆるゆると締め始めた。


「くるっしい!!くるしい、くるしい!!!!」

「逃げないで、行かないで、どこにも・・・・・・。」


 徐々に締め付けが強くなっていき、それとともに意識もぼんやりとしてくる。


「ああっ、愉しい・・・・・!!」

 

 レッドの氷のように冷たい唇を再び押し付けられ、私は意識を失った。



 * * * *



「うっ・・・・・・。」


 体が、動かない・・・・・・。首が・・・痛い・・・・・。


「ん・・・・?」


 レッドが私をのぞき込んだ。私は・・・・ベッドで寝かされているのか?この部屋・・・・天井が全部薔薇だ。首が動かないので、目を少し動かしてみると壁や床、家具など全てが真っ赤な薔薇でできた、美しくも不気味な部屋の内装がちらりと見えた。・・・・・こんな部屋、城にあっただろうか?


「おはよう、紅。気分はどうだ?」

「動け、ない・・・・・。」

「気分はどうだ?」

「体が、

「気分は?」

「苦しい。辛い。助けて!!」

「そうか。それは良かった。」


 良かった?なにを、いって・・・・・。・・・・・いや、なんでもいい。なんでもいいからこの地獄から解放してほしい。動こうとしても身体が一切言うことを聞かない。動くのは首から上だけだ。もしや、全身を鎖で雁字搦めにしているんじゃないか?レッドのことだからありえる。・・・・・そのわりに鎖の冷たい感触がないが。それに地獄はそれだけじゃない。首が痛い。本当に痛いのだ。まるで・・・・折れているみたいな・・・・・。


「どうやら、貴様は首の骨が折れ、四肢麻痺になったようだ。」


 四肢麻痺・・・・?よくわからないけど、それって・・・・・

 

「どうだ?一生動けない気分は?」


 やっぱり・・・・そういうことか・・・・・。


「・・・・・・死なせて。」


 いっそ死んでしまった方が楽だ。死、という終わりがこの地獄にあるのだと思うと、なんだか落ち着けた。


「死?そんな概念はこの世界に存在しない。」


 嘘をつけ!!!


「だったら、打ち首は!!?」


 死がなかったら、レッドが打ち首打ち首言っている意味がなくなるでしょ!!!


「首を落としてそれまでだ。ただ、頭より上がない事実とそれを現実だと認識させる激痛が罪人を苦しませる。死よりも苦しい、違うか?」


 ・・・・・・・・。


「ああ、安心せよ。罪人たちは妹が勝手に手引きして白の国へと逃がしているから、実際にそうなったものはほとんどいない。」

 

 ・・・・・・・・・・


「・・・・ひっ・・・・うっ、うっ・・・・・・・うわああああああああああああ!!!!!!!」


 嫌だ!!!嫌だ!!!自分で一切動けずに永遠の時を過ごせと!?ただ、このベッドに永遠と縛られ続けるのか!?元の世界に残してきた母さん、父さん、親友たちと会うことも出来ず、来世で再び会うことを夢見ることもできない。そんな、そんな・・・・・


「戻して!!戻してよ!!元の世界に戻して!!私の全てを返して!!私の体を返して!!自由を!!」

「断る。」

「なんで・・・・・?」

「なぜ?だったらなぜ、我を裏切った。なぜ、我ではなく妹を選んだ?・・・ああ、すまぬ。我は昔から兄なのに妹に劣るといわれ続けてきた。ゆえに劣等感があるのだ。・・・・だが、それも今日でおしまいだ。紅、貴様が我を裏切れず、我から永遠に逃れることができない、その事実だけでもう全てがどうでも良い。」

「・・・・・絶対に許さない!!!絶対に!!お前なんか大っ嫌いだ!!!お前から身体は逃げられなくとも心だけは逃げおおせてやる!!!!」

「ふふっ、そうか。それはそれでまた一興。その意地がどこまで続くのか見物だな。我以外、誰一人として貴様と永遠に関わることのないこの状況で。」


 ・・・・・・・永遠。


「・・・・・・いやああああああああああ!!!!!!!」

「うふふっ、あははははっ・・・・!!!狂え!!!狂ってここまで堕ちてこい!!我はいつまでも待つぞ!!貴様がこの腕に、深淵の底に堕ちてくるのを!!!!!!」


 私はこの美しい牢獄で、薔薇の香りに蝕まれながら永遠を生きるのか。そんな絶望に身を焦がしながら、私は全てを拒絶するように瞼を閉じた。

 



百合っぽいけど違います。クイーンレッドは『兄』なので一応男性です。クイーンレッドのクイーンは女王、という意味ではなく、レッドの名前が『クイーンレッド』なだけです。また、クイーンホワイトの名前も『クイーンホワイト』ですが、こちらは普通に女性です。うざそうに見えますがいい人です。魔性なだけです。二人は一卵性の双子です。

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― 新着の感想 ―
[良い点] クイーンレッドさまに振り回されている久遠紅が可愛い所と、ヤンデレ気味なクイーンレッドさまとすごく元気なクイーンホワイトさまが良かったです! [一言] ヤンデレおそるべし…
感想一覧
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