第7章 暗黒カルト
登美ヶ丘、生駒山を越えた丘陵地帯がナガスネの根拠地。この土地は水田には敵さない。そもそもナガスネ族は狩猟生活を送っていた。登美ヶ丘から盆地へ下だれば米作りの民、生駒山を越えれば漁民が暮らす。民からの収奪で自分は贅沢が出来る。そのうちにそれぞれの村からナガスネの協力者が現れ、民は奴隷同様の生活に落ちぶれた。
ナガスネの館の室内には縄文のシンボル土偶が飾られている 。
ナガスネの他に協力者であるエシキ、オトウシキ、ヤソタケルが訪れている。
ナガスネはイライラして歩きまわっている。他の3人は床に腰掛けてナガスネの話を聞く。
「ついに現れたな、筑紫鉄剣戦隊。あれは海の民だな。」
ヤソタケルが答える、
「みごとに撃退しました。やつら武器だのみ、数だのみでいくさになっていなかった。」
再びナガスネ。
「筑紫軍は城攻めを知らないのだな。我らは前の夕から奴等の侵入路が全部見えていた。愚か者めがその通りに攻めて来た。我らは待ち伏せでひとひねりだった。しかしあれだけの数の鉄剣を目にしたのは初めてだ。冷や汗ものだった。」
「ナガスネさま、筑紫の軍団は自由交易という呪いで西の地を飲み込んで来たというぞ。」
「自由交易?わけが判らん。西の民は筑紫の呪いで洗脳されたのか。」
エシキが話に加わる。
「奴ら米食新人類は長生きして、子供をたくさん育てるのだそうだ。」
エシキの話に弟のオトウシキが反応した。
「兄じゃよ、米を食べると子供が増えるのか。力があれば大勢の嫁を得られるのか。しかし、米など秋にしか食べられないだろ。」
ヤソタケルが情報提供する。
「ヤマトでは米が取れると冬までには食べつくすが、筑紫には水をたたえた大きな田んぼというものがあって、秋、冬、春、夏と蓄えた米を食べているのだと。そして子供づくりに励んでいるとか。」
うつ向いていたナガスネが顔を上げた。
「恐るべし、また現れるのだろうか。米食新人類に乗り込まれて、我らの土地や富が吸いとられては大変だ。」
ヤソタケルが突っ込む、
「この登美が丘で米づくりは無理でしょ。我ら鹿を追いかけて山をおりたら、米づくりの村をみつけたのだ。やっとホンの少しの米にありついただけだ。ヤマトの米倉はすぐに空っぽだ。」
オトウシキが話題を変えた。
「ナガスネさま、ニギハヤヒがいませんな。」
エシキが続く。
「妹婿殿はまた旅に出られたのか。前ののいくさでは後詰めにおられたが、何を考えているのか。」
答えるナガスネ。
「ニギハヤヒだな。いつのまにか登美にやってきて、気が付いたら我が妹に求婚して住み着いていた。ニギハヤヒは諸国の話を面白く伝えてくれてありがたいが、ときどき天の声が聞こえたとか行って旅に出てしまう。」
エシキが警告する。
「妹君に協力してもらって、ニギハヤヒのことを探ったほうがよいぞ。」
「妹のほうがな、ニギハヤヒのあのまが玉の霊力にあやつられているんだ。ところでだ、ヤソタケルよ銅剣の手ごたえはいかがかな」
「出雲から譲り受けた銅剣か。これは重たいし、狭いところでは引っかかる。打てば曲がる。石斧がずっと使いやすい。」
ナガスネが決意した。
「筑紫の兵士はみなが鉄剣をもっていた。あんな大量破壊兵器で館に乗り込まれたらたまらない。これからも水際で撃退する。」
エシキが締める。
「それでは強敵退散をドグーさまに祈りましょう。」
ナガスネの不気味な舞いとともに一同唄いはじめた。ドグーの呪いが館の外に漏れ聞こえ登美ヶ丘に夕暮れを迎える。