第6章 竈山
日向軍本隊は和歌山の入り江に接岸した。補給部隊の吉備の船は帰還させた。
和歌山の漁民の館の提供を受け、重傷化したイツセの治療に当たった。
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉ」
横になったイツセは高熱にうなされている。
「兄じゃ、しっかりしてくだされ。傷を治して我が軍の指揮をとってくだされ。」
「イワレよ、私の復活は無理だ。自分のことはよくわかる。無念だ。」
「兄じゃ、筑紫に戻って軍団を作り直しましょう。」
「ダメだ前に進むのだ。そして日の本の我が軍はお日様に向けて矢を放ってはならぬ。お日様の力を得て戦うのだ。日向での訓練を思い出せ。」
イツセは最後の力を振り絞って立ち上がった。
「ああ、あのような古き世の山賊に打たれるとは。天よ弟に、日向軍に力を与えたまえ。国づくりをはたすのだ。」
イツセは力尽き倒れ、永久の眠りについた。
日を改め竈山、現在は和歌山市内。山頂での埋葬を終え兵士に続き、最後にイワレが下山。山の手前に設けられた祭壇に向かいイワレが鎮魂の詔に続き誓う。
「日向を遠くはなれ、ヤマト上陸もかなわず紀の国の地にてとどまらねばならぬとは、兄者にとって大きな無念に違いない。兄者よ、かならず国づくりを果たします。」
イワレが向き直り隊員に向かって語る。
「皆聞いてくれ、我らは南へ船を進める。熊野から上陸し吉野を進行してヤマトを目指す。サオネツによると南紀には荒ぶる敵が数多く潜んでいる。我らは実戦経験がまだまだ足りなく、戦士として未熟だが、一つひとつ進んでゆく。必ずヤマトに入る。力を合わせてくれ。」
一同は静かに頭をたれ、腰の鉄剣の鞘を握りしめ向き直り、行進を始めるのだった。




