第2章 日向
筑紫少年隊は日向合宿の4期生である。筑紫の若者は生まれて15回目の収穫の秋に兵役訓練に参加する。この時代、弥生中期の列島の暦では春と秋に新年を迎える。数え年だから兵役訓練生は29歳と30歳ということになるが、義務教育修了相当の少年である。
「今年の収穫を高千穂の神様に届けよう」
「日向合宿は新嘗祭から始まる。」
新嘗祭は21世紀に続く、皇室と全国の神社が執り行う収穫を感謝するお祭りである。ハロウィンではない、現代の暦で新嘗祭は11月23日、祭日である。
「神様からお食事をいただく、それが直会」
「日向合宿の前半は山の訓練。」
「山の神様の力を身につける。」
「イワレ殿下のじいさまは、山幸彦王さまだ。兄の海幸彦さまと力を合わせて 、山の民と海の民が交易する市を始めた。」
「皆が豊に暮らす市のはじまりということだ。」
「市といえば博多、奴国はキラキラやな。」
「奴国は支那帝国と交易している。」
「綺麗なおねーちゃんが大通りにたくさんだと。」
「コラ!武者修行に邪念は敵だ。」
「日向合宿の後半は海の訓練。」
「玄海の冬は厳しい、だから日向合宿。」
「海の神様の力を身につける。」
「奴国の奴隷になどならない。」
「奴隷解放が目標だ。奴隷制を廃止して和の国をつくるのだ。」
この年ある日のこと、日向基地に来客があった。
イワレがもてなす。
「ミケヌ兄じゃ、ようこそ日向へ。」
イツセも声をかける。
「長く会わなかったな、筑紫各地を旅して良い情報を集めてくれたのか。」
「良くない情報だ。韓半島まで行ってきた。」
来客はミケヌ殿下、イワレにとっては三の兄である。筑紫鉄剣警備隊のインテリジェンス担当である。
「韓ですね。任那のイナヒ兄じゃにも会って来たのですか。」
イワレの問いにミケヌが答える。
「もちろんだ、イナヒ兄じゃは元気にしている。しかし兄じゃのいる任那に百済や新羅の賊が侵入している。背後には支那帝国の圧力があるのだ。高句麗、新羅、百済と韓半島を支那帝国が分断操縦している。いずれは海を越えてこの筑紫の地にも支那帝国の圧力が迫ってくるに違いない。この地の民を束ねて国づくりをしないと支那帝国に飲み込まれてしまうぞ。」
イツセが問う。
「奴国に金印が届くというのは本当なのか?奴国を起点に筑紫を帝国に組み込み、奴隷制度のもと博多商人は貴族生活ということか?」
「遠くない将来に金印下賜となるだろう。奴国の帝国での評価は高い。」
イワレが顔を上げた。
「大規模米作りを広めて東に協力勢力を求めよう」
イツセが答える。
「東の地に強力なミヤコか。」
イワレは決意した。
「行かねばならない・・・、ヤマトへ。いくさ舟を作るのだ。」




