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◇人は見かけによらぬものと言いたいけれど。


 俺が大柄な男に睨まれていると、もう一人、小柄な男も走り寄ってきた。


「おいタンガ。俺達だけだと、この数は無理だ。一旦、退くぞって……こいつヒューマンか?」


 そう言って声を掛ける小柄の男は、俺にどこか蔑みを含んだ視線を向けてくる。そこで、怒鳴っていた大柄の男も、俺の容姿に初めて気付いたのか、その目元を険しくさせた。

 屍食鬼グールに囲まれまずい状況にいた俺は、助けがあった事にほっとした。だが、それも束の間、男達から放たれる見下すような不躾な視線に、訳も分からずかなりの不安を覚えてしまう。

 そこで改めて、突然現れた男達を眺めてみる。

 小柄な男は頭の上に尖った耳を持ち、目尻が吊り上った狐を思わせる顔立ちしていた。二人共、どちらかといえば、人よりも獣に似た面立ちをしている。


 ――この二人、獣人ライカンスロープだな。


 そして、少し離れた所にいる者は、左の盾で屍食鬼グールを押し返し、右手に持つ大剣を軽々と振り回している。


 ――あっちは、蜥蜴人リザードマンか。


 大剣を振るう者は、太く長い尾を持ち、鎖を編んだ鎧から飛び出す手足は、緑の鱗に覆われていた。獣人ライカンスロープの二人は、人と獣を足したような顔立ちをしていたが、蜥蜴人リザードマンの顔立ちは、人というよりトカゲに近かった。

 ゲームの時は、ある程度ディフォルメされた人に似た姿をしていたが、この現実となった世界では、まるで二足歩行するワニに見える。


 その蜥蜴人リザードマンが、こちらに顔を向け擦過音混じりの声で怒鳴る。


「タンガ、クルス! グールノ相手ヲ、俺ヒトリ二押シ付ケルナ! ソレト、天光球ノ魔力ガモウ直グ切レルゾ」


 ――ん? 天光球?


 耳慣れない言葉を聞く。もしかして、この頭上に浮かぶ光のことか。

 頭上を見上げると、辺りを照らし出していた光が、徐々に弱まっていくのが見えた。それに従い、周囲の闇が迫ってくる。

 どうやら、すっかりと夜になっていたようだ。


「手持ちの天光球も、こいつで最後だ」



 クルスと呼ばれた狐顔の男が、拳大の石を取り出すとぶつぶつ何か唱えた後、その石を頭上に放り投げた。その途端、「ぱぁん」と頭上で音を響かせ、辺りを強烈な光で照らし出す。その明かりに、周囲の様子が浮かび上がる。と、百を軽く越える屍食鬼グールが、周りで蠢いているのが分かった。しかも、それ以上の屍食鬼グールが、遠くから集まって来るのもまで見てとれた。

 それを見たタンガと呼ばれていた大柄な男が、「くっ」と唸ると、蜥蜴人に怒鳴り返えす。


「グイド! 引き上げるぞ。先導を頼む!」


「……分カッタ」


 グイドと呼ばれていた蜥蜴人が返事をすると、目の前の屍食鬼グールを、盾で弾き飛ばし大剣を振るって道を切り開いていく。


 ――この蜥蜴人リザードマンの男は、かなりのパワーファイターのようだ。


 グイドが、屍食鬼グールも密生した藪も、お構い無くその大剣で切り払う。その後を狐顔のクルスが続く。そして、タンガと呼ばれていた男が、俺に尖った視線を向ける。


「ちっ。おい、ヒューマン! 命が惜しかったら俺達の後を付いてくるんだ」


 タンガは少し躊躇う様子を見せた後、そう言うと、その後は振り返る事もなく二人の後を追いかけて行く。それは付いてこれなければ、見捨てていくと言わんばかりの態度だった。

 彼等に付いて行くのに一抹の不安を覚えつつも、今の状況では付いていくしかない。俺も、慌てて先行する三人を追いかける。


 屍食鬼グールは、その動きがかなり遅い。囲みさえ突破してしまえば、後はどうって事はない。経験値の塊でもある、あの黒い珠を回収できない事に、後ろ髪引かれる思いを抱きつつ、俺は彼等の後を付いていくだけだった。


 先行する三人。蜥蜴人は鎖で編んだ鎧、ゲーム内ではリングアーマーと呼ばれる鎧を着込んでいる。見たかんじ、力を重視する戦士といったところか。

 獣人の二人は、革をなめした茶色い革鎧を身に纏っていた。防御よりも速さを重視した装いに、こちらの二人は剣士だと思われた。

 三人共、かなりの実力者に思えるが……。


 ――それにしては、装備が貧弱だな。


 その一言に尽きる。そのアンバランスさに、俺は首を捻っていた。

 それにしても、言葉が通じるのには安心したが、どうも妙な感じだ。

 日本語で会話している感覚ではないのだ。それなのに、言葉が理解できる上に、自然と知らない言葉が口から飛び出す。何とも奇妙な感じだが、スキルなどが普通に使える世界だ。そっちの方が驚くべき事なので、そんな物かと、あまり気にしない事にした。

 それよりも、モンスターや彼ら獣人、蜥蜴人にも違和感を感じる。天光球といったアイテムも聞いた事がない。その天光球だが、俺達を追いかけるように移動し、頭上で辺りに明かりを投げ掛けている。ゲーム内ではライトの魔法を使うか、松明を使うのが当たり前だった。天光球というアイテムは、見たことも聞いた事もない。

 ここは、『ゼノン・クロニクル』に似た世界と思ったが……。


 そんな事を考えながら彼らの後ろを走っている間に、屍食鬼グールは遥か後方に置き去りにしていた。そして、それとは入れ換えに、前方から水が流れる音が聞こえてくる。

 それから森の中を30分ほど走ると、唐突に視界が晴れた。生い茂る樹木が途切れ、目の前には滔々と流れる大河が現れたのだ。

 森を縦断するように流れる大河は、昔見たアマゾン川を思い出す。

 そして、その大河には、一艘の帆を畳んだ帆船が停泊している。帆船の前の河原では数ヶ所篝火が焚かれ、数個の簡易テントが張られていた。その中央には大勢の者が大きな焚き火を囲み、飲食しながら歓談している。

 その中に、タンガと呼ばれていた獣人の男が、真っ先に駆け込む。


「嬢! お嬢の言った通りだ。もうじき、グールの群れがこっちに来る!」


 タンガの大声に騒いでいた者達が押し黙り、一瞬、辺りを静寂が押し包む。しかし、直ぐに蜂の巣をつついたような大騒ぎになった。

 怒号が飛び交い、各々が手元にあった得物を手に取り立ち上がる。

 そんな騒ぎの中、最後に焚き火の明かりを背後に、ゆっくりと立ち上がる人影があった。

 その人影は、自分の身長より長い杖を手に持ち、目の前の地面に勢いよく突き立てる。途端に、杖の先に付いていた鈴が「りぃぃん」と、清浄な音を響かせた。

 その音に、周囲で騒いでいた者達が、ぎょっとした顔を浮かべた後に、片膝を付き頭を垂れた。

 俺もその音に誘われるように、その人影に注目する。


 ――こいつは……。


 そこには、絶世の美女が立っていた。

 透き通るような肌に切れ長の目元も涼しく、まるでフランス人形のような整った顔立ち。腰近くまで伸ばした髪は銀色に輝き、宝石のようだった。その髪から突き出る耳は、先端が尖っている。


 俺はぽかんと口を開け、その絶世の美女を見詰めていた。生まれて初めて本当の美女を見たと思ったのだ。


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