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九つの極罪  作者: 阿志乃トモ
第一章 クシャトリア大迷宮編
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第五話 悪化する愚行

 パーティーの翌日から早速、王宮の訓練場で訓練が始まった。その訓練は天職別に分かれており、武器を扱う者は基本素振りをしている。ただ、弓を扱う者たちは弓の扱いを習っていた。魔法を扱う者は訓練場ではなく、別の場所で魔法とは何かの勉強をしている。つまり、魔法の知識を蓄える作業をしているのだ。これを昼過ぎまで行い、昼食を摂った後は前者と後者を交換して行う。武器を扱う者でも魔法を使えるので覚えておいて損はない。逆に魔法を扱う者は一応武器の扱いを覚えてほしい、という意味合いがこもっている。


 これは戦闘系の天職の者たちである。全体の6割近くが戦闘系の天職だったが、4割近い人は生産系や学者系の天職を持つ。そういった人たちはそれぞれの専門家のところで特別講習を受けている。何人かは戦闘を行わなくて助かったというような表情をしていた。だが、ステータスはやはりイザナよりも高いものだった。


 そんなイザナは何をしているかと言うと、午前中は武器を扱う者たちに混ぜって素振りをしていた。


 城にいる位の高い連中――もとい王が何もしてこないということは、アクラス団長はあの騎士の口止めに成功したらしい。一度すれ違った時、イザナが挨拶したら目を逸らされると言う態度をとっていたが何もしてくることはなかった。


 なので、イザナは今魔物使いとして周囲には見られている。はっきり言ってしまえば、城の人からは腫物扱いだ。さらに、魔従師の代わりにイザナのステータスがいつの間にか知れ渡っていて、城の陰で「無能」扱いをされている。


 想像してみよう、そんな人間が周りからどんな目で見られるのかを。これが魔従師ならステータスに関係なく城から追い出されるだろう。なまじ魔物使いと言う微妙な立場にある天職だからこその扱いだ。


 1週間もすれば生徒の間にもイザナのステータスと「無能」と言うあだ名が広まっていた。それを聞いて動き始めるのが近藤たちだ。クラスメイトはイザナと関わろうとしないので無関心を貫いている。加奈子は心配そうにイザナの方を見ていたが無視した。他の学年の連中もそんな空気を察してか、もしくは噂のことを知っているのかイザナに関わろうとはしない。


 魔法の講義のあと夕食までの時間は自由時間となっている。ほとんどの生徒が他の生徒と談笑したり、遊んだりしている。イザナはこの時間を使って自主練と王宮にある図書館並みの資料部屋をアクラス団長に頼んで見させてもらったりしている。この王宮でイザナの頼みを聞いてくれるのはアクラス団長だけになってしまった。この2週間で会話をしたのも近藤たちを除いてアクラス団長だけだった。


 自主練と読書は毎日交互に行っており、今日は素振りの方だった。訓練場で素振りなどをしていると他に利用している兵たちが嫌な顔をするので、あまり人気がない王宮の外れで自主練することにしている。


 強くなっている気はしないが、基礎は大事なことだと思って素振りをする。今日の訓練では実戦形式の組手が行われたが誰もイザナとはやろうとはしなかった。なので、アクラス団長に手加減してもらいながらするハメになった。


 素振りが200回終わるころにはいい時間になる。なので、そろそろ切り上げようと思い、王宮の方へ向かおうとすると、近藤たちがすぐ近くまでいた。


「よお、無能ークン。こんなところまで来て、素振りだけじゃ満足できないだろ? 俺たちが今日誰からも組手の相手にしてもらえなかった可哀想な無能クンの練習相手になってやるよ。感謝しな」

「そうだぜ。無能。こんなことしてくれる優しい奴なんて俺ら位だぜ」


 近藤の後ろには手下の男が二人いた。名前は確か檜山ひやまと鈴木―――だったと思うが、イザナは良く憶えていなかったので彼らをモブAとモブBと名付けることにした。モブAは近藤の言葉に便乗していた。モブBは何も言ってこないと思ったら、二人の後ろで無言のまま素振りをしていた。


 イザナは近藤とモブAよりもモブBの方が怖かった。


 近藤たちが木刀をイザナに構えて来たので、仕方なく構えた。イザナと3人のステータスは離れすぎているので勝つことは難しい。如何にして相手の攻撃をいなせるかだ。レベル1だったこともあってかこの2週間の訓練で多少レベルが上がった。とはいえ、それは近藤たちも同じである。


 4人のステータスは以下の通りである。



 朝霧誘 男 16歳 レベル6

 種族:人族

 天職:魔従師

 体力:50/65

 魔力:58/58

 筋力:49

 耐久:80

 俊敏:65

 魔耐:63

【称号】

 異世界人 孤独な旅人 道化の見習い

【スキル】

 全言語理解 鑑定 詐偽

【ユニークスキル】

  『?????』(解放条件を満たしてません)


 〈道化の見習い〉……隠蔽系のスキルを習得したものに送られる。隠蔽系のスキルを覚えやすくなる。


 近藤悠 男 17歳 レベル8

 種族:人族

 天職:勇者

 体力:330/330

 魔力:280/280

 筋力:360

 耐久:340

 俊敏:310

 魔耐:280

【称号】

 異世界人 勇者

【スキル】

 言語理解 体術 剣術 槍術 魔法耐性・強 縮地 高速魔力回復 鑑定

【ユニークスキル】

 『百戦錬磨の覇者』

【魔法】

 火魔法・下 雷魔法・下 風魔法・下 


 モブA 男 17歳 レベル6

 種族:人族

 天職:剣士

 体力:166/170

 魔力:150/150

 筋力:140

 耐久:130

 俊敏:180

 魔耐:150

【称号】

 異世界人 先を読む者

【スキル】

 言語理解 剣術 鑑定

【ユニークスキル】

 『未来予測』

【魔法】

 風魔法・下 


 モブB 男 16歳 レベル7

 種族:人族

 天職:弓使い

 体力:190/200

 魔力:190/190

 筋力:190

 耐久:130

 俊敏:150

 魔耐:170

【称号】

 異世界人 撃ち抜く者

【スキル】

 言語理解 弓術 気配察知 鑑定

【ユニークスキル】

 『千里眼オーバーサイト』『矢を手放す愚者』

【魔法】

 雷魔法・下


 おそらくモブBが素振りをしていたのは今まで扱ったことがないからだろう。そう考えると、モブBの素振りが微笑ましく見える。それに『千里眼』だけルビ振ってあるのは何だろうか。


 これだけの差があればどうなるか簡単に判るだろう。それは稽古ではなく暴力だ。


 だが、イザナは近藤の木刀にわざと自分のをぶつけることによって木刀を逸らし続けた。伊達に加奈子と共に剣道場には通っていない。中学上がる前に辞めてしまったのだが。しかし、それでもステータス値が低いので体力値が徐々にゼロに近づいていく。いつもイザナの体力が先にゼロになるので、体が動かなくなったところを滅多打ちされる。そのおかげか、(孤独な旅人〉の効果により耐久値を他と比べると高く振り分けている。それでもまだステータスそのものが3人比べると低いことには変わりない。


 この世界には回復魔法と言うものがあるので、近藤たちは死なない程度に全力の攻撃をしてくる。イザナは王宮内では不当な扱いを受けているので、碌な手当てもしてもらえない。


 今回もイザナの体力がゼロになってしまったので、近藤たちの猛追を受けることになる―――はずだった。


「おいっ、お前ら何してんだ!?」


 そこ声は宮本だった。どうやら偶然ここを通りかかったみたいだ。宮本の後ろには未央と麻衣、それから、咲楽がいる。加奈子と正輝の姿は見当たらない。加奈子がここにいれば、問答無用で近藤に襲いかかったことだろう。


「何って、この無能がここで一人訓練してたみたいだから、その手伝いだよ」

「手伝い? 3人がかりの上に動けねぇ奴に対して攻撃することが、か」

「もちろん、立派な訓練だろ?」

「だが、それはやり過ぎだ。まだ、したりないなら今度はオレが相手になる」


 そう宮本は言って構えるが、近藤はその後ろにいた未央を一瞥いちべつしてから、イザナの方を見下ろした。


「運がいいな。今日はここまでにしてやる。―――また今度相手になってやるよ」


 そう言うと、モブA、Bを引き連れて、宮本たちの横を通って王宮に向かった。それを見送った後、麻衣がイザナによって来て魔法を掛けようとする。


「イザナお兄ちゃんじっとしててくださいね。今傷を治しますから」


 だが、イザナは手を震わせながら、制止させた。


「怪我をしたわけじゃないから、別に良い」

「け、けど!」

「ただ、体力がなくなっただけだ。しばらくすれば、また動けるようになる」

「な、なら、体力を回復させる魔法を―――」

「遠まわしに余計なことはするなと言っているんだが」

「―――あ、ご、ごめんなさい」

「ちょっと、あんた助けてあげようとしてんのに、その言い草はないんじゃない!」


 麻衣が傷つけられたと思った咲楽がイザナに向かって糾弾した。


「………………………………………………………………………………………………………………………………………。ああ、咲楽か」


 けど、イザナは場違いな言葉を発した。そして、その言葉が自分の妹を怒らせるには十分すぎる言葉だった。


「―――っ! 行こう、麻衣! だから言ったじゃん、こんな人ほっとけば良いって!」


 言うだけ言うと、麻衣の手を引っ張ったまま、王宮に向かって行った。それを見ていた宮本はやれやれと言った表情と仕草をしていて、未央はどうして良いのか判らないのかオロオロしている。


「ここは良いから咲楽ちゃんの後を追っとけよ」

「―――え、あ、うん」


 そのまま二人を追いかけるように走って行った。走る前にイザナのことを見たような気もするが気のせいに違いない。


 宮本は倒れているイザナの肩を持って立たせた。そして、歩き出す。イザナは何も言わずに黙ってされるが儘に身を任せた。


「それにしても、あれは流石に酷いんじゃないか?」

「あれ?」

「咲楽ちゃんのことだよ。お前の妹だろ?」


 先程の本気で誰か判ってなかったような表情で悩んだ挙句にようやく思い出したかのような態度のことを言っているのだろう。


「仕方ないだろ。中学上がってからは一度も顔を見てなかったんだし、あんなに短かった髪が長くなってりゃあ、最初誰だか判らないもんだよ」


 咲楽は黒い髪に背中辺りまで伸ばした長髪だ。イザナの記憶にある咲楽はかなりのショートヘアなのだ。ずっとその髪型と思い込んでいたのが、いきなりロングヘアに変わっていれば記憶と合致しないのも仕方ないだろう。麻衣の方は昔ら茶髪の三つ編みを左肩から前に出していたのですぐに判った。さほど雰囲気が変わってないことも大きい要因かもしれない。


「はあ、全くお前は……。それにしてもいつも近藤のこと見張っていられれば、お前がこんなことにはならなくて済むんだがな」

「気にするな。向こうにいた頃も陰でお前がいつも俺の扱いをどうにかしようと躍起になっていることは知ってるから」

「げ。どうしてそんなこと知ってんだよ」

「ふっ、俺の情報収集力を舐めんなよ。―――まあ、だからお前が気にすることじゃない」

「何でオレが気を使われちゃってるんだろ」

「だが、最近は情報屋の仕事を休業中でな。何か知っていることがあれば教えろ」

「はいはい」


 久しぶりに宮本と意気揚々と会話を交わした。そこから得た情報によると、来週から早速、ダンジョンと呼ばれる大迷宮に潜るそうだ。まだ、少し早い気もするが、魔物と戦いたいと要望する者が多かったため、予定を少し早めた。


 イザナが向かうダンジョンの名は——————《クシャトリア大迷宮》


一部修正しました。

ステータスを一部修正しました。

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