第四話 過去があるから今がある
いつもよりも少し長めです。
今回は加奈子視点です。
水島加奈子は自らの行為を後悔していた。
加奈子たち5人は小学校以前のころから仲が良く、弟たちを置いてよく同い年だった他の4人と遊んでいた。
残された弟は正輝とイザナの妹とよく遊んでいた。遊んでいたというより遊ばれていた。
そんな関係がずっと続くと思っていた。だが、中学に上がるとすぐに破壊された。初めは幼馴染みの一人が家の都合で転校することになったのだ。その子とは中学以来会っていない。そして、イザナと未央が二年の夏の終わりから付き合い始めた。その時、未央におめでとうと言ったが、その顔が笑っていたかどうかは判らなった。ただ、心にぽっかりと大きな穴が空いた気がした。
そして、家に帰って一人になると泣いた。これでもかと言うほど泣いた。こんなに泣いたのは初めてだったかもしれない。そして、イザナが好きだったんだと気付いた。けど、遅すぎた。気付くのが余りにも遅すぎたのだ。
弟は気付いていたような気がしなくもなかったが、加奈子は次の日普段通りに振舞った。違和感に誰も気づくことがなかった。
三年に上がる春休みにイザナから未央の誕生日プレゼントを買いたいから付き合ってくれと言われた。未央の誕生日は三月の下旬だった。イザナと一緒に過ごせると内心嬉しかったのですぐさま了承した。イザナからそれがぶっきら棒に見えていやいや了承した風に見えていた。
その日は、いつもはしないようなおしゃれをした。ポニーテールは止めて、髪を下したままイザナに会いに行った。それを見たイザナはかなり驚いていたけど、その姿を素直に褒めた。しかし、加奈子が何も言わなくても加奈子だと気が付いてくれたことの方が何倍も嬉しかった。買い物しているとき人混みが激しく、一回離れそうになったのでイザナが加奈子の手をつないだ時は、加奈子の心臓はこれでもかと言うほど大きな音を立てていた。だが、これがいけなかったのだろう。
三年生になってすぐに未央の下駄箱から一通の手紙が送られてきた。その時一緒に加奈子もいたので、また、ラブレターかなと思っていたが、よくあることなのでその場で未央が手紙を開けると、そこには一枚の写真が入っていた。
男女が仲好さそうに手をつないでいる写真だった。女の方は人混みで良く判らないが、男の方は間違いなくイザナだった。
だが、加奈子はすぐこの写真に写っているこの女が自分だと判った。この写真のイザナと左半部程度しか見えていないが女の服装や髪型が未央の誕生日を買いに行った時と類似していたからだ。
すぐに未央に言おうとしたが、自分の中の悪魔がこれをうまく使えばイザナを自分のものにできるんじゃないかと唆した。
結果としては言えなかった。
未央はすぐさまイザナに自分以外の彼女がいるんじゃないのかと問いただしたが、イザナの答えは知らないの一辺倒だった。当たり前だ。これは加奈子なのだからいるはずもない。しかし、未央には写真があったから、イザナの答えに不満を持つことになった。
そのことをクラスの女子に未央が相談すると、一方的にイザナが悪人へと様変わりした。クラスのマスコットに対してそんな仕打ちはあんまりだと、未央が学校の生徒から愛されているのが原因だろう。普通だったらここまで大事にはならなかっただろう。クラスでは未央が正輝に慰められていた。
さらに、不運なことにこの頃からイザナの両親が不仲になり、離婚することになったのだ。親権は母親が持つようになった。この母はイザナに対して無関心を貫いた。生活費だけは仕方なしに出していたようだが。どうしてこうも酷いのは知らないが、妹に愛情を注いでいた。
そして、イザナは誰に対しても心を閉ざしてしまった。加奈子自身声をかけようと思ったことは何度もあったが、こんな状況を作った自分が知らん顔でイザナに声をかけて良いものかと躊躇わせた。結局、あの後から声をかけたことは一度もない。
高校に上がった時知ったことだが、イザナの妹が同じ中学に入ってきたが、あからさまにイザナに対する態度が他の三人と違った。また、未央の心が正輝に向きそうになっていることも知っている。だが、まだ一歩は踏み出していない。イザナのことが少しばかり頭に残っているのだろう。
自らの罪悪に悩ませながら、結局声をかけるとこができずに一年が過ぎた。冬辺りから近藤達がイザナに対して虐めを行い始めた。彼は高校からの入学でその時未央に恋したのだろう。態度があからさまだが、未央は気付いていない。そんな彼が未央とイザナの噂を聞いたことにより、ちょっかいを出すようになったのだろう。加奈子は何度も止めようとしたが、一歩踏み出す勇気がなかった。
イザナはあの時から本を読むようになった。加奈子は本を読む習慣がなかったので、イザナと話すきっかけとなればと思い、本を読むようになった。イザナは基本本を机に出しているので、それを盗み見て同じ本を購入したりもした。だが、いつの間にか填まってしまい、今では友人に隠れてラノベまで読んでいる。そこから、派生してアニメも見始めた。はっきり言ってしまえば、そういう事が趣味になっていた。だが、今までの自分ではそういう趣味を持っているイメージを友人たちが持っていなかったので、イザナのことをオタクと笑うクラスメイトと一緒になって苦笑いしかできなかった。
これも失敗したのだ。変えなきゃいけない、と思っていても何もできない日々が続いた。
そんなある日、事件が起きた。―――異世界に召喚されたのだ。
始めは地面が光り出したと思ったら、目の前が白くなるのを感じた次の瞬間、周りの風景が校庭のグラウンドから人里離れた森の中に迷い込んだ風な景色になった。今いる壊れた建物がさらにそれを助長した。それに気が付いたのか、周りのみんなも騒ぎ出した。その中でも「異世界キター!」とか騒いでいる男子生徒に対して心の中で頷いた。最近は異世界モノも読んでいたので、次に来るパターンもだいたい判っていた。だが、隣にいた未央はそうでもないらしく、少し怯えながら訊いてくる。
「カナちゃん、大丈夫だよね?」
それに答える前に一つの声が割り込んできた。その声は未央の手を握りながら話す。
「大丈夫だよ。何があっても俺が未央を守るから。―――もちろんカナのことも、ね」
正直、後付のようで嬉しくなかった。しかし、未央は満更でもない様子だった。
「正輝が守り切れなくなったら、オレも守ってやるから安心しな」
正輝に続いて、宮本も声をかけて来た。正輝に言われるより、宮本に言われた方が安心感があるのはなぜだろう、と加奈子はどうでもいいことを考えていた。
加奈子たち四人で――正輝が未央にしつこく安心させるような言葉を言っていただけだが――話していたが、加奈子は目でイザナのことを捜していた。朝会では常に一番後ろに並んでいるので、そちらの方を見ると早速イザナを見つけた。
何をするわけでもなくだた立っているだけだった。その姿を見ていると無性に一人にしてはいけない気がした。だが、イザナと話す勇気もない。
そうこうしていると、加奈子の背中から音が響いてきた。大勢の兵たちがこちらにやって来た。加奈子たちの近くまで来ると、その中から一人の男が前に出て来た。
「おお! よくぞ、我が召喚に応じてくれた! 感謝しよう! 我はバルハット王国の国王である!」
どうやら王様らしかった。
「汝たちを召喚したのは我々を救ってほしいからだ! 今! この国―――いや、人間たちは悪逆非道な魔族どもに危機に貶められているのだ! 多くの者が友を! 仲間を! 親しき者を失ってきた」
そして、地面に膝をつき、泣き声上げながら叫んだ。
「もう! これしか方法がなかったのだ! 汝らには悪いことをしたと思っている! 我らの身勝手な理由で召喚してしまったことを!」
誰も何も言えなかった。この姿を見て何かを言うことが躊躇われた。だが、生徒会長だけがそのすべてを引き受けて加奈子たちの代表として、前に立った。
「ここにいる全員を代表して貴方がたにお聞きしたいことがございます」
「……できうる限り、答えよう」
「まず、我々は元の世界に帰ることが可能なのでしょうか」
「今すぐに、と言うのはできない。しかし、魔族たちの王である魔王を倒すことができれば可能だ。この召喚の儀に必要な魔力は魔王を倒すときに手に入る魔力で補うことができる。我々は汝らを召喚するのに今まで残してきた魔力石を全て使ってしまった」
最初は怒鳴りそうな衝動が芽生えたが、後半のことを聞いて周りのみんなが歓喜したのは言うまでもない。
「では二つ目を、先程救っていただきたいとおっしゃっていましたが、それは戦うという意味ですよね。ですが、戦えない者も現れるはずです。その方々の処遇はどうなさるつもりなんでしょう」
「そういった者たちの待遇もしっかりと考えている。初めから非戦闘員が少なからずいることは見越している。あなた方の誰かが魔王を倒すまでの保証はこちらで致そう」
周りも自分がチートだと疑ってもいないのか、王の話を聞いた直後とは打って変わって皆やる気を見せていた。
その後は騎士団長を名乗る男がステータスプレートの説明を始めた。加奈子はステータスを確認した。すると、ほとんどが高ステータスだった。天職には侍と出て来た。加奈子は小学校から剣道を習っていたので、努力が実を結んだ気持だった。
それからユニークスキルの『大和魂』をじっと見ているとそこに説明文が現れて驚いて、声を出しそうになった。ユニークスキルの二つはこんな効果だった。
『大和魂』……戦闘時、一緒に戦う仲間が多いほどステータス上昇。
『居合の達人』……戦闘時に帯刀状態の場合、俊敏の値を2倍にする。また、視界内の物体の速度が半減して見えるようになる。このスキルを発動中に居合切りをするとその射程が刀身の3倍に及ぶ。
チートを喜ぶより、イザナがどうだったかの方が気になった。
次にそのステータスをクラスの前にいた騎士に見せるように言われた。その中で最初に騎士が絶賛したのは、正輝だった。どうやら勇者だったらしくそのステータスも他と比べて割かし高かった。それに続き、加奈子たちも見せると騎士は驚いていた。どうやらこのステータスは他の人に比べると高かったようだ。中でも未央のステータスを見た時の騎士の顔は忘れられない。
他にもこのクラスから勇者が出たらしい。それは近藤だった。このクラス以外にも三年の風紀委員委員長の火村夏希先輩や副会長の輝弥翔琉、あとは名前を知らないので判らなかったが一年に2人、中学生に4人いた。
これを聞いて加奈子は自分のクラスに勇者が多いな、と思った。
プレートを見せた後の道中、未央がプレートを見せてと言うので見せることにした。代わりに未央の方のプレートを見る。
感想としてはすごかった。何がすごかったってあまりにも魔法特化型のステータスがすごかった。魔力と魔法数に関して召喚者随一なのではないだろうか。そして、自分と同じように未央のユニークスキルを見ることにした。
『魔導の極致』……発動した魔法の威力を10倍にする。
そして、固まった。どこまで魔法特化にすれば気が済むのだろう。加奈子はこの子生まれてくる世界を間違えたんじゃないだろうかと真剣に思い始めた。
その様子を見ていた正輝が便乗し始めたことによりここにいる4人で自分のステータスを見比べることになった。
まず宮本のステータスを見ることになった。正輝は未央にすぐさま渡したので結果として宮本のを見ることになったのだ。
感想としては未央と打って変わって筋肉野郎だった。そして、天職の守護騎士と言うのを見て、正輝の言葉より安心感があったのはこれのせいかとも思った。ユニークスキルを覗いてみると、宮本らしいスキルだなと思った。
『一騎当千』……1対多の状況で発動可。敵対者の数が多ければ多いほどステータスが急上昇する。
次に正輝のステータスを見せてもらった感想は、レベル1にしては高いがよくバランスの取れたステータスだなと思った。このバランスの良さが勇者なのかもしれない。加奈子と同じでユニークスキルが2つあった。
『輝く聖騎士』……自身のステータスを5倍にする。ただし、効果は15秒ほどである。
『聖剣を持つ者』……あらゆる聖剣を創造できる。聖剣の精度はレベルに依存。
前者もそうだが後者もチートだった。加奈子は自分のことを棚に上げてそう思った。
4人で話していると、城がいつの間にか見えて来た。これほどの大きさなら、先程いた場所からでも十分見えるはずなのに、と疑問に思ったが、気にしないで城の中に入ることにした。すると、男子と女子とで向かう方向が違うのか。初めて見るメイドと執事が案内していた。
メイドの後に付いて行くとドレスが沢山置いてある部屋に案内された。どうやら、パーティーを行うらしく女子たちはここでお化粧直しするみたいだ。ドレスもこの中から好きに選んで好いそうだ
加奈子はイザナが喜んでくれそうなドレスはどれかなといくつものドレスの前に悩む羽目になった。意外と彼女は乙女なのだ。それを見ていた未央が「誰のために選んでるのかな?」と聞いてきたので、慌てる羽目にもなった。そして、何人か未央が男子の名を挙げたがその中にイザナの名前がなかったことがなんだか悲しかった。
悩んだ末に青色と水色のドレスをチョイスした。さらにポニーテールをといて髪を下すことにした。未央の方はピンクっぽい色のドレスだった。
そして、その後、パーティーが行われる場所までさっきと違ったメイドに案内された。
案内された場所はいかにも貴族たちが社交のパーティーなんかを開くような場所だった。中に入ると、先に案内されたのか男子たちが制服のままその場にいた。それ以外にも貴族らしき人や楽器を持った人までいた。おそらくオーケストラだろう。
会場に入って加奈子が初めにやったことはイザナを探すことだ。誰よりも先に自分姿を見せて、褒めてほしかった。
だが、イザナを見つけるよりも早く正輝が未央を見つけて声をかけて来た。
「未央! ずいぶん綺麗になったじゃないか。見違えたよ」
「えへへ、そうかな」
「それで未央。そちらの方は知り合いかい?」
正輝が加奈子の方に視線を向ける。すると、未央が少し怒気を含んだ声で指摘する。
「何言ってるの、マー君。カナちゃんだよ」
「ええっ、あのカナなのか! 誰かと思ったよ、見違えたな」
すぐさま加奈子はイザナならすぐに自分だと気付いてくれるのに、とイザナを引き合いに出して心の中で正輝をした糾弾する。
だが、正輝たちが来たことでこちらに来ようとしていた貴族たちが少し躊躇いを見せていた。中には話しかけて来た貴族もいたが、正輝たちが対応していた。
結局、イザナを見つけることができずにパーティーが始まった。王様が長々と話していたが正直ほとんど聞いてはいなかった。
パーティーが始まるとすぐに二人の少女が手を振りながらこちらにやって来た。
「正兄ィ~! ようやく見つけたよ」
「ちょ、ちょっと待って、サクラちゃん」
訂正、一人の少女が手を振りながらもう一人の少女を引っ張っている。手を振っている方は、朝霧咲楽で、名前から解る通りイザナの妹だ。もう一人が草津麻衣。こちらは正輝の妹だ。
加奈子の弟がいないことからこの二人とは別行動をとっているんだと予測した。
「よう、二人とも。ずいぶん可愛いくなったじゃないか」
二人に出会った開口一番がこれである。
「お世辞でも嬉しいな」
「いや、お世辞じゃないよ」
「でも正兄ィは誰でも同じこと言うし~」
「そりゃ、綺麗だったら素直に綺麗って言うのは当たり前じゃないか」
咲楽と正輝は言い合っていると、麻衣がきょろきょろと辺りを見渡す。そんな行動に未央が疑問に思ったのか訊いてきた。
「どうしたの、マイちゃん」
「あ、あの、ミオお姉ちゃん。イザナお兄ちゃんがどこにいるか知りませんか?」
その言葉を聞いて、未央は少し固まった。加奈子も内心焦っていた。正輝がどんな表情をしていたかは加奈子からは見えなかったから判らない。だが、麻衣の言葉を返したのは咲楽だった。
「あんな人ほっておけば良いの。麻衣が気にすることないよ」
「で、でも~」
「………。イザナに何かあったの?」
麻衣が余りにも心配そうにしていたので、勇気を振り絞って加奈子が麻衣に質問した。
話を聞くところによると、麻衣と咲楽は最後尾にいた。だから、イザナが騎士にステータスプレートを見せた時、剣を突き付けられ、その後、団長と共に城の方に向かって行ったところを見ていたのだ。
加奈子はその騎士に対して斬ろうかとも一瞬考えたが、一度冷静になろうと手に持っていた飲み物を飲み乾した。
だが、宮本がすぐに麻衣の話に対してある方向を指さしながら大丈夫だろうと言った。
みんなでその方向を見ると窓際で一人ぽつんとグラス片手に立っているイザナを見つけた。それを見てすぐに駆け寄りたかったが、そんな雰囲気ではなかったので断念した。さらに、一人の少女がこちらに来たので本格的に行けなくなった。
「あの、あなたが勇者様ですよね。私はこの国の第三王女のメルディア=ミスト=マーティナと申します。気軽にメルディとお呼びください」
優雅にドレスの裾を摘み、腰を折った。
王女様と話していたが、イザナが外に出ていくのが見えたので、加奈子はお花を摘みに行くと言って席を外した。
廊下に出るとすぐにイザナは見つかった。と言うより、廊下から見える月を見ていた。そして、こちらに気付いたのか加奈子の方に振り返った。
「―――カナか……。どうした、勝手にパーティーを抜け出して」
「そ、その、…………」
すぐに自分だと気付いてくれたのは嬉しかったが、声の感じが前と違っていて何て声をかけて良いのか解らなかった。
「―――ごめん、なさい」
「……。何に対して謝ってんだ?」
「その、今までのこと許して貰えるとは思っていないけど……。私のせいで未央と別れることになっちゃったし……」
「……それは別にカナのせいじゃない」
「け、けどっ、私がちゃんと未央に言わなかったから、未央がイザナのことを!」
「―――ふう、だからさ、あの写真のことも噂のこともさ、誰がやったかなんてとうの昔に知っているから。だから、未央と別れたのはカナのせいじゃないよ」
「―――え?」
加奈子自身かなり驚いた。噂は耳に入ることがあるだろうが、誰もイザナには写真のことなど話してはいないのだ。だが、イザナは写真のことどころか未央と別れるように仕向けた犯人まで知っていると言っているのだ。
「というかさ、未央と別れたのが自分のせいだと思って、俺に話しかけてこなくなったのか?」
それどころか、下心があったなんて口が裂けても言えない。
「まあ良いさ。―――それよりも早くあいつ等のところに戻らなくていいのか?」
「……イザナはどうする?」
「ん? 俺? 俺は行かないよ。あそこに俺の居場所なんてないことだし」
その答えに少し不満を持った。そして、居場所ならここにいるじゃないか言いそうになる。
「そう。またね」
だが、言いそうになったことを口に飲み込んで違うことを言った。それからイザナに背を向けて未央たちのところに向かって歩き出す。
「あー、そうそう」
「ん? なに?」
イザナに声をかけられたので後ろを振り返ると、イザナはすでに月の方を見ていた。
「きれいだな」
たったそれだけ言うと、月から目を逸らし廊下を歩き出した。闇と一体になって見えなくなるまで、イザナを見続けた。
未央たちのところに戻った時には、今までにないほど加奈子の心が軽かった。
気分で加奈子を書いたけど、これから未央の扱いどうしよう……