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九つの極罪  作者: 阿志乃トモ
第一章 クシャトリア大迷宮編
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第三話 最凶の魔従師

 イザナは団長と思しき男と対峙していた。団長の名前はアクラス=ウィクリートというらしい。バルハット王国第一騎士団団長であり、一応、騎士の中でトップの人間である。


 イザナたちを召喚したのは、バルハット王国という大国であった。イザナはこの国が召喚をしたのは自分たちを兵力として抱え込もうとしているに違いないと考えた。勇者の役割を欲しているのならば、1000人強の人間をわざわざ召喚する意味ない。それならば、数人で事足りる。


 イザナは聞いていなかったが、あの時、王は魔族の残虐な行いによって苦しめられている的なことをほざいていた。それは事実でもあるが、正しくもない。事実、魔族は幾度となく人間と戦争を行っていた。だが、今回に関して言えば、隣国であるカイゼル帝国が勇者召喚の儀式を行い成功させたことで、その兵力がこちらに向かないようにこちらも同じ手段を用いて対抗しようと企てたのだ。異世界より召喚された者は大抵この世界の人間より強いステータスも所持している。少し鍛えればそこらの兵士よりも強い存在と変貌するからだ。


 ここらで話を戻すとしよう。


 プレートを見た後、騎士はイザナに携えていた剣を抜いて、突き付けて来た。その姿はまるでイザナに恐怖したウサギの様だった。


 イザナ自身、何でこんなに怯えているのかが全くっていいほど理解できなかった。ステータスで見れば、明らかに自分より強いはずなのに騎士はまるで化け物を見ているかのような目だった。


 それを見ていたアクラス団長が大慌てでイザナの方に来て、騎士の愚行を止めさせた。


「おい、お前! 何をしてるんだ!?」

「あ、あの、これは……。――そ、そうだ! こ、これを見てください!」


 自らの行いを弁解しようと、騎士はアクラス団長にイザナのステータスプレートを渡した。アクラス団長はそれを受け取ると、一瞬顔をしかめるが、すぐ真面目な顔をし、イザナの方を向いた。


(ああ、これは早速面倒事の予感……)


 当のイザナはすでに心が沈んでいた。


 その後、イザナはアクラス団長に付いて来いと言われ、言われるが儘に付いて行く。向う先には自分よりも早くにプレートを騎士に見せた生徒たちが歩いていた。道は一本しかなく同じ方向に向かって歩いているのだから、当たり前と言えば当たり前なのだが。


 しばらく歩いていると、形状的に城と呼ばれる建物が見えて来た。これが城と言わずに何と言うのだ、と言いたくなるようなネズミランドにある城と似たような建物がそこにはあった。どうやら生徒たちは城の中に入っていく様が見える。


 イザナはこれから接待を受けるんだなとぼんやり考えていた。歓迎会と考えるところを接待と考えるがイザナである。


 城の中に入ると、他の生徒とは違う方向にアクラス団長は歩き出した。それから、広い廊下歩き続けて今どこにいるのかが良く解らなくなったところで、アクラス団長は一つの部屋に入った。


 そこに入ると、学校で言う所の校長室のような造りになっている部屋があった。


「ここは私の公務する時の部屋だ。とりあえず、そこにある椅子に座ってくれ」


 そう言うと、アクラス団長は一番奥にある机の方に向かった。イザナは言われた通りに近くにあった椅子――ソファーと言った方が好いような椅子に腰かけた。


「まず、先程は部下が失礼した」


 イザナに向かって頭を下げて来た。


 イザナはアクラス=ウィクリートという人物を通すべき筋をしっかり通す、誠実な人だなと評価する。


「いえ、お構いなく。――しかし、何であのようなことをなさったのか説明してくださるんですよね?」


 ここに自分を呼んだのもそのためだと睨んでいる。


「もちろんだ。異世界から来た君には本来関係ないことなのだが……。それで、部下が君にあのような態度をとった理由だが、それはおそらく君の天職と名前のことだろう。この世界で魔従師というのは忌避きひすべき存在なのだ。貴族の子供がこの天職を発現させるとその子供は問答無用で絶縁させられる。平民の子供でも同じだろう。むしろ、門番などにそのプレートを見せてみろ。牢屋に直行するのがオチさ」

「………。そもそも、魔従師とはどんな天職なんですか?」

「魔従師にかなり近い天職は魔物使いだ。その2つの決定的な違いは契約するかしないかと言われている。魔物使いは別名『召喚士』とも呼ばれていて、契約した相手をいつでも自分のところに召喚することができるのだ。無論、ほとんどの魔物使いは召喚など使用せずにかたわらに魔物を侍らしている。次に魔従師なんだが……、魔従師独特のスキルで魔物と会話することができるらしい。そのスキルを使い魔物と交渉するみたいなんだが、悪いが詳しいことは私にも解らないんだ。魔従師の数が少なくてな」

「それしか能がないのにどうしてそこまで嫌われるんです? いえ、それ以前にどうして自分の名前まで理由に挙げられたんです?」


 アクラス団長は一度天井を見てから、イザナと視線を合わせた。


「この国―――というより、この世界で一番信仰されている宗教を<エルミナ教>と言うんだ。その教えでは聖女エルミナは魔従師によって殺されたんだ」

「? ―――いえ、それがどうかし――」

「まあ、待て。言いたいことは解かる。私はこの世界の人間が魔従師を忌避している訳ではないと思っている。君も見たであろう? 私の部下が君に向かって剣を突き付けたのを」


 見たどころか当事者である。


「あのザマは悪の根源を見つけたというよりは、悪に対して恐怖した風に見えなかったか? 私はね、人々が魔従師に対して恐怖心を抱いているんだと考えている。―――かつて、聖女を殺した魔従師が再び誕生するかもしれないという恐怖を」


 彼は語りだす。


 かつて実在した魔従師のことを、()()()()を持った最凶の存在を―――。



 ◯◎◎◯



 の者は2000年以上昔に実在したと言われている。それは聖女と言われし少女と時を同じくした。


 彼の者は魔族だとも獣人だとも、人間とさえ言われている。本当のことは解らないが彼の者は魔従師であった。


 彼の者は9人の様々な種族を引き連れていた。そして、彼の者の傍らには常に〈獣王〉と呼ばれる今なお生存し、魔物たちの頂点に立っている魔物がいた。


〈獣王〉の強さは今なお顕在けんざいで出会ったら死あるのみとさえ言われる。〈獣王〉が現れた村や町は瓦礫へと変わり、その様から天災とも言われる。


 彼の者はそんな〈獣王〉と闘えるほどの力を持っていた。彼の者にとって〈獣王〉はライバルであり、よき相棒なのだ。


 彼の者は多くの魔物を引き連れ、人間や一部の獣人に対して戦争を起こした。


〈獣王〉と9人、そして彼の者の力は圧倒的だった。数は人間や獣人の方が圧倒的だったが、あまりにも彼の者たちの力が異常で、敵うものがいなかった。


 ほとんどの兵は逃げ出し、または、命乞いをした。しかし、そんな彼らが辿った結末は死あるのみだった。


 そして、ついに彼の者は先頭に立って戦っていた聖女を殺した。その後の人間側はあっけなかった。だが、聖女を殺した後、彼の者は姿を消した。


 この戦争が聖女を殺すためだけに起こしたかのような感じで。


 こうして、この戦争は人間側の敗北で終結した。その時の死者550万人、重傷者50万人、行方不明1万人という犠牲を出したのだ。この被害はこの世界の歴史的に見ても覆されることがただの一度もないほど悲惨なものだった。


 彼の者の被害は魔物たち以外なかったという。


 その後、魔族たちが魔物を使って人間に戦争を仕掛けて来たが、人間との溝はこの時からできていたのだろう。魔物を使っていたことから、彼の者との関係も疑われたらしい。


 魔族との戦争では初代勇者の活躍により、人間側の勝利で終わった。


 勇者は本来、彼の者との戦争の切り札として召喚したが、勇者と彼の者が出会うことなく戦争が終わったことにより、勇者は魔族との戦争で活躍した。


 この時の勇者は〈遅すぎた英雄〉と皮肉めいて言われている。しかし、彼の者との戦争の時、活躍していたなら必ず人間側が勝利したと王たちは口々に言ったことで、今なお勇者召喚はされ続けている。


 彼の者が歴史に姿を現したのはこれが最初で最後であった。だが、今なお彼の者が人々の心の奥底で恐れられているほどに異常な存在へとなった。


 さらに、その待遇のせいか、犯罪や革命を起こそうとする者は必ずといっていいほど、魔従師たちだった。これがさらに魔従師の立場悪くしたのは言うまでもない。



 ◯◎◎◯



 イザナ自身その話を聞いてもこの世界の人間ではないからピンと来なかった。こちらの世界で考えるなら、異教徒と戦ったということだろうか。なにぶん、無宗教のイザナにはその例えもしっくりこなかった。原発を落とされた日本だが、その威力を知っている人ならいざ知らすだが、伝聞の原爆が危険だと言われても、いまいち実感がわかない、そんな感じである。


「さて、それでここからが私が言いたいことなのだが」


 今までの話はイザナが聞きたい話だった。


「君には詐偽のスキルを手に入れてもらいたい」


『詐偽』……自身のステータスを一部偽ることができる。これは任意で解除可能。


 当然と言えば、当然の提案だ。


「部下には厳命しておくが、魔従師と言う存在が表に――召喚によって現れたとなっては国の古閑にも係わる。それに王に見つかれば最悪処刑されることもある。だから、君には詐偽のスキルを今すぐにでも身に着けてほしい」

「それは大賛成なのですが、スキルはどうやって習得すればいいのですか?」

「スキルの習得方法はいくつかある。まず、それを実践してみることだ。剣術のスキルなどは何千回と素振りとか実践とかしていれば、いずれ身に付く。それか、そのスキルを持っている者から貰い受けるという方法だな。あとは強奪系のスキルなんか持っていると簡単に手に入れることができる」


 強奪系は文字の如く相手のスキルを奪うことができる代物だ。スキルを奪うことはできるがユニークスキルだけは奪うことができない。もし奪えても、ユニークスキルは元々の保持者にしか扱うことのできないモノなので、奪う意味はない。また、この系統のスキルを持っていると人間などだけでなく、稀に魔物を倒したときにもスキルを手に入れられることができる。


 その前にあったスキルをもらい受ける方法だが、これは特殊な魔道具マジックアイテムを用いることによって受け渡しすることができるようになる。もしくは、そういう事ができるスキルもあるそうだが、こちらのほとんどがユニークスキルなので常人には叶わない夢だ。道具も道具で高価な物なので日常的な代物という訳ではない。


「――でだ。君には実践法でこのスキルを習得してもらいたい。何、詐偽は隠蔽いんぺい系のスキルの中でも最も程度の低いものだ。簡単という訳ではないが他の隠蔽系のスキルと比較すると習得しやすい」


 アクラス団長は隠蔽系のスキルを持っていないので、今この場で出来るのがこの方法しかなかったのだ。


「詐偽の習得法だが………、何回か相手に嘘を信じ込ませれば良い」


 この状況下ではかなりの難易度だとこの人は気付いているのだろうか?


「だが、君が嘘を付くと判っているこの状況ではいささか難しいだろう」


 この人、確信犯です!


 オオカミ少年が正直者なら羊は無事だっただろう。あの羊たちが食用かどうかは別として。


「この後、君たちのために歓迎のパーティーが開かれるんだが、それまでまだ時間がある。私と少し雑談しないか。君たちの世界がどんなところか知りたいんだ。もちろん、君が知りたいことも教えよう」


 パーティーと言う単語に対して楔と脳内変換したのは言うまでもない。


 一応、アクラスは団長なので色々とすることもある。かなり余裕を持ってこの雑談は切り上げた。これで判ったことだが、アクラス団長は意外とお茶目な人だった。


 イザナは向こうの世界のことをアクラス団長に話した。もちろん、虚偽を混ぜて。部屋を出ていくとき、頭の中に女性の声が響いてきた。


『詐偽の習得を確認しました』


 アクラス団長に声のことを訊いてみると、そういうもんなんだよ、と返された。



 ◯◎◎◯



 アクラス団長とか雑談はかなりためになった。まず、このバルハット王国の国王は先程話に出ていたエルミナ教の聖女であるエルミナの子孫だそうだ。かれこれ2000年の歴史がこの国にはある。近い全盛期は今から100年前にさかのぼる、大国にあるような全盛期の後の急激な衰退がなく過去何度も全盛期を繰り返しているらしい。それもあってか、エルミナの子孫と言う信憑性を高めた。


 バルハットと言うのは初代国王の名前でこの王国で王になる際、バルハットの名を世襲する習わしらしい。だから、初代から今現在までの王の名はバルハットである。もしこの国の歴史書を書くことがあったら、読む人が苦労しそうな歴史書になることだろう。いや、おそらく歴史家が勝手に二世、三世と付けることだろう。この無駄な一文は何だったんだろうか。


 ステータスプレートは他国と言うより都市に入る時、門番に見せるそうなのだがそれは門をくぐる際に名前を書くのだが、その名前と一致しているか確かめるのに使うそうだ。実はそれほどステータスプレートは必要ではない。門番がいるのはその場で罪を犯したことがあるかどうか、アーティファクトを用いて調べるそうだ。門番としての仕事としてはそっちの方が重要だったりする。


 だから、ステータスを偽装していても見破られることは基本ない。偽装していても門番はあまり気にしない。それで良いのか、門番。


 魔従師と似ているという理由で魔物使いはあまり人々に好まれる天職でない。しかし、魔従師と違って、一応職には就ける。だが、それが冒険者の場合はパーティを組んでくれる人すらいないだろう。逆に魔従師の場合は、門のところで門前払いされるから、職探しどころではない。


 ちなみに、イザナの今の天職は魔物使いだ。魔従師が詐偽のようなスキルを習得したら、大抵が剣士など戦闘職にするらしい。だが、あえてイザナは魔従師に近い魔物使いを選択した。詐偽を発動した後、アクラス団長に魔物使いに変えた天職のところに何て書いてあるか読んでもらったら、魔物使いと顔を引き攣らせて答えたので間違いない。


 イザナはこう見えても〈孤独な旅人〉なので、冒険者になったとしても基本的にはパーティを組むつもりないから、丁度いい天職だとも言える。


それから、名を名乗る時は朝霧の方にしろとも言われた。あの最凶の魔従師と同じ名前の人はこの世界にはいない。名前の方もイザナの部分は消して、朝霧だけにした。


 部屋を出ていった後もアクラス団長の後に付いて行ったので、正確にはまだ雑談は終わってはいなかった。二人で目的地まで歩いて行く。


 目的地は豪華な食事や装飾が施されおり、中には人が多くいた。ほとんどが生徒や教師だが、中には騎士に貴族、そして王族らしき者たちがいた。


 こうして、イザナはパーティー会場と言う名の地獄に足を踏み入れた。


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