第二話 ステータス
気絶していたのかと思ったら、別にそんなことはなかった。気付いたら建物の中にいた。建物といっても屋根は壊れたかのような感じで存在してなかったが。
どちらかと言えば、捨てられた巨大な廃屋のようだった。辺りを見渡しても木々が密集していて、他に何も見当たらない。建物からは蔦が生えておりかなりの年代物だと推測できる。
周りの人たちも意識をしっかりと持ち始めたのか再び騒ぎ出した。ほとんどの者が困惑していたが中には「異世界キター」とか「チートだ。チートを得られるぞ!」などと言っている者もいた。
しばらくすると、イザナの正面の方からガシャガシャと金属が擦れ合うような音が響いてくる。それは何やら大勢の兵たちの音のようだった。その中で先頭にいた男が喜ぶように声を上げた。
「おお! よくぞ、我が召喚に応じてくれた! 感謝しよう!」
イザナは心の中で舌打ちしたい気持ちなった。正直ここから早く抜け出したいと考えていた。
(異世界モノの本を読んだけど、この後主人公って面倒なことに巻き込まれるんだよな)
それはそうしなければ物語として成立しないからである。
イザナはもう王の言葉を右から左に流して、空を見上げた。そして、二つある太陽を見て言葉を失った。
この時、イザナは自分の中で閉ざされていた何かが開いた気がした。何かは解からなかったが、それは何か懐かしい感情のようにも感じた。そして、それから目に焼き付けるように太陽を見続けた。
イザナが空を見続けている間も周りの連中は質問したり、帰る方法がないことを知って泣いたり、怒鳴ったりしていた。だが、その後、生徒会長がみんなのまとめ役として率先して問答を繰り返していた。
その間のことはイザナは関知していない。故にここに書くことは何もない。
イザナが正気に戻ったのは、前にいた奴が白い板を渡してきた時だった。イザナは最後に並んでいたので、必然的に渡されたのは一枚のみである。これをどうするのかと思ったら、鎧をまとった位が高そうな男がここまで聞こえる声で説明を始めた。
「今、お前たちに渡したのはステータスプレートだ! この世界における身分証明書だと思ってくれれば好い! まず、プレートのどこでもいいから自分の血を垂らしてみろ!」
言われるが儘にイザナは近くにいた騎士が渡してきた針を使い、血をプレートに垂らした。もちろん、針は自分の指を少し切ってから前の奴に渡した。
血を垂らすとしばらくしてプレートに知らない文字が出て来たが、もちろんイザナには読めた。
朝霧誘 男 16歳 レベル1
種族:人族
天職:魔従師
体力:10/10
魔力:16/16
筋力:11
耐久:12
俊敏:20
魔耐:20
【称号】
異世界人 孤独な旅人
【スキル】
全言語理解 鑑定
【ユニークスキル】
『?????』(解放条件を満たしてません)
イザナにはこれがどれ程のものかは判らないが、他の奴らに比べて確実に低いだろうとは予測している。
気になるものはいくつかあったが、中でも【称号】のところにある〈孤独な旅人〉が気になったので鑑定で調べてみた。
〈孤独な旅人〉……他者と関わりを持ちたくないと考える者に与えられる。レベルが上がった時にステータス上昇分のポイントを任意に振り分けることができる。また、ポイントを全て同じところに振り分けた時、レベルが上がった際、そこ以外のステータスが飛躍的に上昇する。ただし、それができるのは最初の一回のみである。
すごいのかすごくないのかいまいちよく判らなかったが、【称号】にも何かしらの効果があるのかと思い、〈異世界人〉を調べたが何の効果もなかった。
「自分のステータスがどんなもんか確認したか! お前たち渡したプレートはアーティファクトと呼ばれる物だ。どういう原理かは知らないが、戦闘や訓練などの経験を積むとレベルが上がるようになる。レベルが上がるとそれに伴ってステータスの方も上がるようになる。この世界の者は10歳になるとプレートを手に入れるが、その時のステータスの平均は10~20といったところだ。とは言っても、冒険者などは別だが、平民は普通戦闘を行うことがないので成人男性のレベルは10未満でステータスの平均は50~70ってところだ。そして、一般的な兵士のステータスは100だと言われている」
(……平均的なステータスということか)
イザナは現実を見つめていた。チートじゃないだろうな、内心思っていたが事実チートではなかった。
「『天職』というものがあるだろう。それは所謂、その人の“才能”だと言われている。そして、『スキル』や『ユニークスキル』は大抵天職に関連するモノばかりだ。そして、スキルの方は後から習得しようと思えば誰でも習得できるが、ユニークスキルに関しては所持している者しか扱うことができないから注意して欲しい」
ユニークスキルの数は初めから固定らしい。増えることも減ることも基本的に無いそうだ。
この後もプレートについての説明を受けた。
『体力』……これはHPと違ってゼロになっても別に死ぬという訳ではない。ただ、体が疲労で動かなくなるだけ。
『魔力』……魔法を使うためのエネルギーである。この魔力の消費量によって同じ魔法でも威力が違うらしい。
『筋力』……肉体的なパワーのことである。これ以外に何か説明がいるだろうか?
『耐久』……肉体の頑丈さ。でも、切られると普通に切れる。どちらかと言えば、打撃や衝撃に強い。
『俊敏』……スピードのことである。これ以外に何を言えと。
『魔耐』……魔法に対する防御力のことを指している。
ステータスの説明をまとめるとこんなものだろう。
騎士の男はここにいる全員のステータスを一通り見ておきたいとのことで、各クラスの目の前には騎士たちがいる。その人たちに自分のステータスを見せた後、さらにその前にいる騎士に付いて行けと、プレートの説明していた男が言った。どうやら、その男はこの騎士団の団長らしい。
イザナの順番は最後なので暇を持て余していた。なので、クラスで強いのがどんなものか観察していた。
大抵の人はステータスの平均が50~80であり、ほとんどの人がイザナと比べて多少なりともチートだった。
その中でも最初に騎士の人に驚かれたのは、草津正輝である。自分の善がすべて正しいと思っている、いかにも勇者っぽい人物だ。ハーレム野郎と学校では言われている。そして、イザナの幼馴染みでもある。
そして、ステータスはこうなっている。
草津正輝 男 17歳 レベル1
種族:人族
天職:勇者
体力:120/120
魔力:180/180
筋力:130
耐久:100
俊敏:120
魔耐:130
【称号】
異世界人 勇者
【スキル】
言語理解 先読み 剣術 縮地 物理耐性・強 高速魔力回復 鑑定
【ユニークスキル】
『輝く聖騎士』『聖剣を持つ者』
【魔法】
光魔法・無 火魔法・無 水魔法・無 雷魔法・無 風魔法・無 回復魔法・無
見事なチートだった。それを見ていた騎士もレベル1で全部3桁はすごいと大絶賛していた。さらに、才能ある人でも魔法の属性はせいぜい23程度なのだそうだ。これは天才レベルである。
魔法は先天的なものもあるが普通の人間は後天的に魔法を憶えるものである。とは言え、魔法も扱うには才能が必要で魔力があっても魔法が使えない人間もいる。レベル1の時点で魔法があるというのは先天的に魔法が使えるということだ。
魔法の後ろに書かれている『無』の文字は魔法をどれだけ知っているかに関係している。『無』とは魔法の知識が全くないことを指している。
『無』→『下』→『中』→『上』→『最上』→『極』の順番で変わっていき、全ての魔法を知っているという意味の『極』を持っていると魔導士と呼ばれるようになる。
正輝のユニークスキルに関してはただ人伝で聞いたので能力までは判らなかった。『鑑定』のスキルは直接知りたいモノを見なければ、効果を発揮しないのだ。
そして続いて、正輝といつもつるんでいる3人の名があげられる。
身長が2メートル近い巨体の持ち主である。名前は宮本剛である。イザナとは幼馴染みという訳ではない。正輝とは中学から付き合いである。彼自身はサバサバしていて誰とでも仲が良い。最後までイザナに構ってくれた人物だ。
ポニーテールの髪型をしたスポーツを勤しんでいるというより、武道を嗜んでいるといった方がしっくりくるような少女で四大女神の一柱でもある。名前は水島加奈子で親しい者からは「カナ」の愛称で親しまれている。そして、イザナの幼馴染みである。
最後はボブカットの少し他より小柄な少女で彼女も四大女神の一人だ。名前は弓立未央である。彼女こそがイザナの元カノで幼馴染みでもある。彼が無視されるのも彼女の人気のおかげだろう。誰にでも愛されているマスコットは伊達でない。
その3人のステータスはこうである。
宮本剛 男 16歳 レベル1
種族:人族
天職:守護騎士
体力:100/100
魔力:60/60
筋力:150
耐久:150
俊敏:70
魔耐:90
【称号】
異世界人
【スキル】
言語理解 体術 楯術 剣術 槍術 剛力 鑑定
【ユニークスキル】
『一騎当千』
【魔法】
無魔法・無
水島加奈子 女 17歳 レベル1
種族:人族
天職:侍
体力:100/100
魔力:90/90
筋力:90
耐久:80
俊敏:100
魔耐:85
【称号】
異世界人
【スキル】
言語理解 剣術 縮地 鑑定
【ユニークスキル】
『大和魂』『居合の達人』
【魔法】
氷魔法・無
弓立未央 女 16歳 レベル1
種族:人族
天職:魔法使い
体力:60/60
魔力:200/200
筋力:50
耐久:50
俊敏:50
魔耐:150
【称号】
異世界人
【スキル】
言語理解 高速魔力回復 鑑定
【ユニークスキル】
『魔導の極致』
【魔法】
光魔法・無 火魔法・無 水魔法・無 風魔法・無 雷魔法・無 闇魔法・無 土魔法・無 回復魔法・無
騎士は未央のステータスを見たとき驚きで固まっていた。この時の滑稽な姿は当分頭から離れないだろう。
次に評価を得たのは、近藤悠である。そして、彼がイザナの虐めの主犯である。どうやら、イザナが付き合っていた元カノとの噂を聞いたようで、それで、ちょっかいを出してくる。所謂、彼女にホの字なのだ。―――ロリコン?
近藤悠 男 17歳 レベル1
種族:人族
天職:勇者
体力:110/110
魔力:100/100
筋力:150
耐久:130
俊敏:120
魔耐:100
【称号】
異世界人 勇者
【スキル】
言語理解 体術 剣術 魔法耐性・強 縮地 高速魔力回復 鑑定
【ユニークスキル】
『百戦錬磨の覇者』
【魔法】
火魔法・無 雷魔法・無 風魔法・無
意外なことに近藤悠も勇者だった。全くそんな柄には見えない。後から知ったことだが、勇者は全部で10人いたらしい。
近藤悠の舎弟(?)どものステータスも100近いものだった。
そんなこんなで周りはほんの数人程度になったところで、イザナの順番になった。途中でここからこっそり抜け出そうとも考えたが周りに騎士がいるのでそれは断念した。一般人レベルのステータスではそう足掻いても勝てないからだ。
プレートを渡した騎士の男はプレートを見た瞬間、こいつで最後だ、ようやく終わるみたいな顔を今度はこの日一番の驚愕した顔に変えた。
その顔を見て笑いそうになったことは、イザナの心にしまった。
ステータスを一部変更しました。