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九つの極罪  作者: 阿志乃トモ
第一章 クシャトリア大迷宮編
17/33

第十七話 イザナの天敵

本日2話続けての投稿となります。

文字数的に少し短めです。


3/3に文章を付け加えました。なので、短くありません。

 イザナたちは120階層のボス部屋の前にいる。つまり、ここがこのダンジョンの最奥地であると言っても過言ではない。もし仮に次の階層へつながる道があってもおそらくそこには秘宝が置いてある場所だろう。本当に秘宝なんてものがあるのならの話だが。


 前の階層に面白そうな話がなかったので割愛した。しいていえば、いちいち次の階層に行くための仕掛けが面倒だったと言っておこう。探すのはそれほどこんなんじゃなかった。だが、次の階層に行くために頭を使わなければならなかった。あのスカイドラゴンがいた階層に行くために左右の魔方陣にそれぞれ誰かがいる状態しなければならなかったのを憶えているだろうか。これは簡単だったが、こんな風に少し知恵がなければ次に進めないようになっていた。


 一番面倒くさかったのはパズルである。知っているだろうか、宇宙飛行士が行っている訓練の一つである真っ白なジグソーパズルがあることを。それと同じで約100ピースの石で作られた絵も描かれていないパズルを上手に四角形の形にして、それをある場所に収める的なことをさせられたのが一番堪えた。何しろ、リアとツキはそのパズルを出来もしないのに触ろうとするからである。忘れそうになるが、2人はオオカミとウサギである。このパズルに関しては、2人はその気がなくても正直邪魔でしかなかった。


 身体的ではなく精神的な疲労が多かったのが、ここまで来た感想だろう。


 パズルが終わった後は、破竹の勢いでここまで来た。正真正銘のラスボスがいる部屋の前にいる。


「ここまで来たな。じいさんの話ではコイツが最後のボスだ」

『そうね。ここまで意外と早かったわね』

『それはお兄ちゃんがバッタバッタと魔物を瞬殺していったからじゃない? おかげでボク全然レベル上がってないんだけど………』

「いや、お前戦闘員じゃないだろうに。それに文句なら―――」

『ツキが怪我したどうするのよ!』

『リア姉ちゃんは過保護すぎだよ……』


 やれやれとツキはリアの反応に肩を竦める。


 ツキは戦闘ができない――したことがないから苦手なだけ――が、ツキの回復魔法には目を見張るものがあるとイザナは思っている。それに下手に回復担当のツキが最初に倒されるのは好ましくない。イザナとしてもツキに自分を守れるほどには強くなってほしいと思っている。一回、イザナがサポートしてツキのレベル上げをしようとしたらリアがすごい剣幕でそれを止めた。それ以来、ツキがレベル上げする機会が全くなくなってしまったのだ。決してイザナのせいではない。


 ツキの代わりにリアのレベルが前よりもかなり上がっている。もう少しでリリーシャを追い越すんじゃないかってほどだ。ちなみに今のレベルは353である。スカイドラゴンとの戦いで相当悔しかったのかそれともツキを守れるほど強くなろうとする現れなのか。とにかくリアは強くなった。


 イザナはそれがツキのおかげだと思っている。おそらくスカイドラゴンとの戦闘の時何かあったのだろう。少なくともイザナはそのことだけはツキに感謝している。まあ、これしかないけど。


「お前らふざけるのもいい加減にしろ。これからボスだぞ」

『でも、お兄ちゃんが瞬殺しちゃうでしょ?』

「何が起こるか判らないんだ。警戒を怠って悪いことなんて一つもない。それに俺が戦えない状態になる可能性もあるんだ。そしたら、お前とリアで戦わなくちゃならないんだぞ」

『うん。そうだよね………』

『大丈夫よ。何があってもツキだけは守るから』


 イザナは本当に大丈夫かコイツと思いながら、リアの方を見る。リアの顔は自信にあふれていてなんだか逆に不安になってくる。しかし、ずっとここにいる訳にもいかない。リアのやる気を削ぐのもなんだか悪いような気がしたので、イザナは扉に手をかける。


 ギギー、という音を出してゆっくりと扉は開いていく。扉の中に三人は慎重になりながら入っていく。


 しかし、入ったはいいが、暗闇でほとんど何も見えない。すると、入ってきた扉がいきなり閉じた。


『え? 何? 怖い』

『お姉ちゃんの近くに来なさい』

「――リアは周囲の警戒を、ウサギは魔力が感知できるか試してくれ」


 2人は頷くと辺りを調べ始めた。イザナはいつでも戦闘ができるように<|無知の智《ディクタソクラテス》>を発動させ、イザナの周りには9個の色鉛筆を思わせるような玉がふわふわと浮いている。


『特に魔力の気配はないよ』

「そうか。………けど、まだ何があるか解らないから警戒はしといてくれ」

『うん』


 光を灯す魔法をイザナが知っていれば良かったのだが、生憎イザナは攻撃と防御の魔法などの戦闘に役に立ちそうな魔法しか知らないのだ。


(こんなことなら、もっと魔法を調べておくんだった)


 あともう少しで一分も暗闇だ。さすがに堪える。神経を研ぎ澄ませるのには集中力がいる。いつ襲ってくるか解らない。何よりも神経が削られていく気分だ。きっとこれが目的でボスは出てこないのだろう。


『ん?』

「どうした、ウサギ」


 イザナは今もツキのことをウサギと呼んでいるいい加減ツキと呼んであげればいいものを。リアからはいつも口酸っぱく名前で呼んであげなさいと言われているが、イザナは直す気配すらない。


『魔力を感じる』

「――――!? 本当か!!」

『うん。けどこれは壁なのかな。ボクたちをぐるりと囲んで魔力を感じる。それともう一つ。ボクたちのもうちょっと先の地面に壁にある魔力よりも質と量が高い魔力を感じる。もしかしたらそこに魔法陣でもあるのかも!』


 ツキが言い終えると同じくして、周りの壁からぽつ、ぽつと火の玉が出現し、この部屋を照らしていく。


 そして、ツキが言ったようにイザナたちがいる場所から20メートルほど先に魔方陣があった。さらにそこから徐々に光を帯びてきている。何かがそこから召喚されようとしているのだとイザナは考え、構える。


 リアとツキもイザナの後に続いて戦闘体勢をとる。


 そして、魔法陣からの光もかなり強まって、直視するのも難しくなる。視界が白に染まっていく。イザナはここで目を開けていても閉じてもどちらにしても敵がいるかどうか確かめる方法がない為、眩しさのあまり目を閉じることにした。目蓋越しからでも眩しいことが伝わってくるほどだ。


 暫くすると光が止んだのでそっと目を開ける。


 しかし、目を開けたらさっきまでと全く同じ光景がそこにはあった。てっきり、ボスでも現れるのかと思ったが、何も起こってない。だが、あれだけのことがあって何も起こっていないのはどう見ても不自然である。


『――――ッ!? 気を付けてうしろよ!!』


 リアが前に走り出したのを見て、イザナは本能的に前へ避けた。


 イザナがさっきいた場所にブンと風を切る音がしたかと思うと、イザナの背中に衝撃が襲ってきた。それによって、イザナは前へ吹き飛ばされる。これで避けていなければ何かに直撃していたことは間違いない。


 イザナは学校の授業にあった柔道で習った受け身を自然ととって立ち上がる。イザナはまさかここで受け身をとるとは自分自身思っておらず、内心よく受け身が取れたなと驚いている。


 そして、攻撃してきた主を見る。そいつを見て、受け身をとったことに対して驚いたことなど忘れてしまいそうなほどの衝撃が走った。






 そこにはリリーシャを殺したのと同じ老生体のヤラハクが立っていた。






(マジかよ。ここでこいつが出て来るのか)


 イザナは平気だが、リアがどういうリアクションをとるのかが判らない。いくらツキが傍にいるからと言っても、いくら自分の親を殺した奴が死んだとしても同じ種族が目の前に現れれば、いくら目の前の奴は関係ないと言い張っても簡単に許せるものではない。


 リアが変な気を起こさない前に目の前のヤラハクを片付けようと赤玉を短剣状にして握った。


 しかし、ヤラハクに向かって走り出そうとしたところで違和感に気付いた。


 [怠惰]のスキルである<働かざるニート者>が発動していないのだ。とっさにヤラハクに向かって鑑定のスキルを使う。


 ヤラハク レベル1


「…………マジかよ」


 スキルが発動しないのは当たり前である。否、<働かざるニート者>は発動していることは確かである。しかし、イザナのレベルは常に1なのでレベル1の敵に遭遇した場合、ステータスにかけられるのは2の0乗―――つまり、1である。1に1をかけても1である。なので、スキルが発動いていても何も変化が見られないのだ。


<働かざるニート者>のことは諦めて、すぐに<無知の智(ディクタソクラテス)>で攻撃することに切り替えた。ちょうど赤玉の短剣を握っているので、それを投げつける。


 この短剣は避けられても自由に動かせるので回避は不可能である。さらに叩かれて弾かれてもぶつけられれば短剣が魔法を自動発動して爆発が起こる。どちらにしろ、ダメージを受けるのは確かだ。


 ヤラハクは避けずに叩き落とそうとした。


 それを見ていたイザナとツキは爆発が起こることを予期して、次の動きをしようとする。


 パッシと短剣は叩き落とされる。()()()()――――。


「な、なに!!?」


 それに驚き、次々と玉をヤラハクに向けて放たれる。今度は動くことすらせずに全ての玉がヤラハクに当たるが、やはり何も起こらない。短剣も操り、他の玉をぶつけている間にヤラハクの首に突き刺そうとしたが、またもや爆発どころか短剣が刺さることすらなかった。


 イザナは焦る。ヤラハクを攻撃する手段がもうない。スキルはまだあるがそれは<働かざるニート者>で強化されたステータスだからできることだ。[嫉妬]のスキルにしても一度対象に触れなければ発動しない。今のイザナがこのヤラハクに近づけば一瞬で殺されるだろう。


 このヤラハクはレベルが1のくせにステータスはおそらくレベル400に近いステータスだ。レベル1のステータスで衝撃波を生み出すほどの打撃攻撃が放てるわけがない。


 さらに言えば、<無知の智(ディクタソクラテス)>の攻撃を無力化しているのが、魔法の無力化なのかそれともスキルの無効化なのかで大きく戦力的にも傾く。


 あれがスキルの無効化なら[強欲]だけでなく[嫉妬]のスキルが効かないと言うことだ。このままでは確実にイザナが足手まといに成り下がってしまう。もしかしたら、[暴食]の意識を消し飛ばすスキルも意味を為さないかもしれない。


(なんかコイツ……、対俺用の魔物みたいな奴だな)


 イザナがそう考えてしまうのも無理はない。まさにイザナを殺しに来た魔物と言われても納得してしまいそうなほどのイザナキラーの魔物だ。


「おい、リア。お前が主体となって戦うぞ」


 本当は言いたくないが、こうなっては仕方ない。イザナもツキも戦力外のこの状況ではリアに頼るしかないだろう。


 イザナがリアの方を見ると、リアは震えながら横に倒れていた。聞こえてくるのは「ごめんなさい、ごめんなさい」といううわ言のような声だけだった。


 これはまずい、とイザナはすぐにリアの傍により、リアを蹴った。


 動物愛護集団も真っ青な見事な蹴りであった。ツキもヤラハクからもお前何やってんだと言ってそうな目で見られたような気がするがイザナは気にしない。そもそもそれほど吹き飛んでもいない。傍から見れば動物虐待にしか見えないが、リアのレベルを考えればイザナの蹴りでダメージを与えることすらできない。だが、それで平常通りに戻れば御の字である。


 しかし、それでもリアはごめんなさいと言い続けている。イザナに蹴られたことすら気づいてないような感じである。


「おいツキ! リアを戻す方法はないのか!」

『原因が解らないからボクには無理だよ!!』


 そうだった、とイザナは思う。ツキと出会う前の出来事なのでツキが知らないのは当たり前だ。説明しようとツキに大声を出そうとするが、


「ギャアアアアアアアアアアアアアアア――――――ッ!!!!!」


 ヤラハクが咆哮を上げ、イザナの声を遮ってしまった。さらに、ヤラハクは手を振り下して、そこから斬撃を飛ばしてくる。


「―――なっ!!」


 イザナ一人なら避けることは簡単にできたがイザナのすぐ近くにリアがいる。今のリアには避けるなんてできるはずもない。イザナもリアを運べるほどの力がない。このままイザナが避ければ、確実にリアに斬撃が直撃して致命傷を負ってしまう。ツキがすぐに回復魔法をかけてくれそうだが、リアが負傷してしまうとイザナたちは全滅してしまう。何度も言うが今のイザナにはヤラハクと戦う力がないのだ。


 今イザナが一番に考えることはあの斬撃からリアをどうやって守るかである。


無知の智(ディクタソクラテス)>を楯の形にもできるがそれでこの斬撃が防げるのかは怪しいところだ。なにせそいう使い方を今まで一度もしたことがないのだ。今まではチートではなくバグ級のステータスで魔物を一瞬で屠ってきたので防御するということをしたことがない。魔法なら虹色の玉で消せるが、あれは防御していると言えるのか。


 この斬撃が魔法によるものなら虹色の玉を使えば良いのだが、もしスキルなら虹色の玉でも消せない。ツキのように魔力感知ができれば苦労しないが、こんなところで無い物ねだりしてもしょうがないだろう。ツキに魔法かどうか聞くにしてもこのままではツキに訊く前に斬撃の方が早くイザナたちに到着してしまう。


(迷っている暇はない!!)


 目の前に来ている斬撃に対してイザナは<無知の智(ディクタソクラテス)>を虹色の玉にするのではなく、8色の層のように重ねていく。


 この玉は1個がだいたいソフトボールほど大きさなので、その直径は約10センチメートルである。一層の厚さを0.5センチメートルにして、長辺を1メートルほどの長さにすると短辺がわずか10センチメートルほどになってしまう。なので、厚さを0.2センチメートルにして斬撃の横幅がちょうど15センチメートルほどなので同じぐらいの長さにすると長辺イザナの身長と同じぐらいの175センチメートルになる。


 運がよかったのは斬撃が1本しか存在していないと言うことだ。これで4本も飛んできたら防ぐことすらできなかったに違いない。さらに、リアと斬撃の間にイザナがいたので、こんなにも極端な防御を作ることができたのである。


 そもそも斬撃がリアの方に行っていなければイザナがこんなに慌てることもなかっただろう。そして、リアがまともならこんな斬撃ぐらい簡単にかわせたはずだ。


 そして、斬撃と楯もどきがぶつかる。5層ほどは最初の衝撃で砕け散ってしまったが、ジリジリと激しい音を立てながら楯擬きで何とか防ぐことができた。


 たった数秒だけ―――――――。


 ピシ、ピキ、パキ、パキパキパキ――――と音を立てながら残りの楯擬きに亀裂が走り出す。イザナは何とかして持ちこたえようとするが、努力むなしく完全に砕け散る。


「―――――うぐっ!!」

『キャアアアアアア!!!』


 ()()()()()()()()()


 斬撃を喰らったのは避けることができなかったイザナだけである。リアはイザナが斬撃を喰らう前から準備していた()使()()()()をぶつけられてて吹き飛ばされたのである。


 さっきの叫びはそのときに生じたものだ。イザナの蹴りよりは効果があったとここは見るべきか。


 イザナは斬撃によって壁に激突した。見れば斬撃を繰り出したヤラハクのところから斬撃で地面が抉られている。その線を延ばせば壁にまで及んでいる。だが、地面からある地点まではイザナの血で作られている。イザナの右足から右肩に綺麗な一本の赤い線ができていた。男の大事なところに当たっていたら悲惨なことになっていただろう。


喰わず嫌い(ノウ・カイロス)>を使えばすぐに健康な元の姿に戻ることはできたが、イザナは使わなかった。[暴食]が解放された時のようにスキルが自動発動するのは本当に命の危険がある時である。しかし、その前にスキルを使っていたら自動発動せずにそのまま命を落としてしまう可能性も秘めている。


 今回は発動しなかったので、このスキルを自分の為ではなくリアのために残したのだ。ただ、かなり危ない状態なことには変わりない。下手をすればリアよりも自分の心配をしなければならないほどだ。


 正直に言えば、このまま動けるかと問われれば首を傾げるしかない。動かないことはないが戦闘はできそうにもない。戦闘に関してはリアに任せるつもりだったから問題はないのだが、これではサポートも碌にできない。


 ヤラハクもイザナの方を睨んでいる。確実に殺そうとしている目だ。


(リ、リアはどうなった………?)


 しかし、イザナの頭の中にはそのことばかりが包んでいた。


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