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九つの極罪  作者: 阿志乃トモ
第一章 クシャトリア大迷宮編
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第十四話 狂った強者 Vs 氷狼

 リアが上から襲ってきた何かを避けることができたのは偶然であった。


 ツキがこっちからおかあさんの匂いがすると言いって、リアの頭から飛び跳ねて右の方へ走り出した。リアがツキを追うように方向を右へと転換し、走り出した瞬間、それは落ちて来た。


 ―――どおおおおおおおおおん!!!!


『きゃあああ!?』

『うわああああ!?』


 その時の衝撃で2人は吹き飛ばされた。周囲にあった木々もその時の衝撃で倒れているものまである。それはまるで小規模な隕石が落ちて来たかのようだった。そして、それが落ちて来たのはリアがさっきまでいた場所である。


 イザナはこの時コーヒーを優雅に飲んでおり、これには気付いていない。そもそも、あの部屋自体に特殊な防壁があり、外と内を断絶しているのだ。その防御力はすさまじいものだが、この時はそれが仇となった。


 リアは吹き飛ばされた瞬間にツキを守るように体で覆いながら吹き飛ばされた。そのおかげでツキに怪我はないが、リアの足に一本の木が刺さり、そこから血が流れ出す。足は痛むが動けないほどではない。最悪、足三本で行動することになるが、リアにとってはまだ大丈夫なことだった。ただ、それの傷を見たツキはそうでもないらしく、自分のせいだと思っているらしい。


『リア姉ちゃん! ボクなんかをかばったから――――!?』

『ツキのせいじゃないわ』


 ああ、と思う。母リリーシャもこういう気持ちだったのかと。過ごした日々は少ないがリアはツキに本当の姉のような存在になれたらと考えている。それは少し自分との境遇を重ねているのかもしれない。いや、自分のようになってほしくないのかもしれない。


 だが、傍から見ればまるで母と子のように見えたかもしれない。リアは優しくツキのことを舐める。ツキが罪悪感に悩まないように。


『それにこの程度傷のうちには入らないわ』


 その言葉とは裏腹に木が刺さっている右の前足から血がドクドクと流れ出る。真っ白だったその美しい毛は赤く染まり、リアの言葉を嘘だと思わせる。


『リア姉ちゃん…………』

『それよりも早くここから――――――』

「グォォォオオオオオオオオオオオオオッ!!!!!」


 リアが言い切る前に落ちて来たそれは雄叫びを上げる。2人がそっちの方を見ると、体にまだら模様がある巨大なトカゲがいる。


『あ、あれはもしかしてスカイドラゴン!?』


 ツキが驚いたような声を上げる。


 スカイドラゴンは気性が穏やかなドラゴンなのだ。だからこそラフラビであるツキたちと共存できていたとも言える。時にはラフラビたちに食料を分けてあげることすらあった。


 だから、スカイドラゴンがこんなことをするとツキには考えてもいなかった。さらに、ツキが驚いたのはスカイドラゴンにある斑模様である。本来、スカイドラゴンにはそんなものは存在しない。


『ドラゴン!?』


 リアはツキのドラゴンと言う部分に反応していた。


 ドラゴンはこの世界で最強種の一角である。〈獣王〉のように個体として強い魔物がその種族の中で出ることはあるが、最強種はそれとは違い種そのものが他の魔物と違い強力な力を持っているのだ。まあ、その最強種が〈獣王〉に勝てるかと聞かれれば、首をひねるしかない。


 このダンジョン出身のリアですら知っている常識である。そして、このスカイドラゴンは自分よりも強いことを肌で感じ取った。


『ラ、ラフラビ………』


 あのスカイドラゴンが何かを呟いてる。リアは耳が良いので、耳を澄ませて聞き取ろうとする。


『ラフ、ラビの、匂い、食う。腹、減った。―――もう、一匹、うまそう』


 何か壊れたラジオを聴いているみたいだ。リアなりに解釈するとどうやらこのスカイドラゴンは2人を食べようとしているらしい。ツキもそれを聞き取ったのか、リアの後ろに隠れる。涎をタラタラと流しながらスカイドラゴンは再び何かを言おうとする。


『ラフラビ、最後、一匹、味わう』

『――――――――え?』


 ツキは何を言われたのか理解できなかった。スカイドラゴンは自分以外のラフラビが死んだと言ったのだ。ここまで、両親を探しに来たツキには到底信じられない言葉だろう。


『腹減った。腹減った。腹減った。腹減った。腹減った。腹減った。腹減った。腹減った。腹減った。腹減った。腹減った。腹減った。腹減った。腹減った。腹減った。腹減った。腹減った。腹減った。腹減った。腹減った―――――――』


 ツキが問いただそうとするがそれよりも早くスカイドラゴンがリアとツキに向かって突っ込んでくる。リアはとっさにツキを後ろ足で蹴り飛ばした後、自分も横に跳んだ。


 スカイドラゴンの突進は木々を薙ぎ倒し、まるで新しく道を作っているかのようだった。そして、それをくらえばリアもツキもただでは済まない。ツキがリアの後ろ足近くにいたのが幸いした。もしリアの横にいたのなら、ツキを咥えようとしたところでその突進の巻き添えをくらっただろう。それほどの速さで突っ込んできたのだ。


 ツキはリアに蹴られたことで、かなりの距離飛んでいった。リアがスカイドラゴンの相手をしていれば逃げ切れることができそうなほど離された。そして、リアはそのつもりなのかスカイドラゴンに向かって魔法を放つ。


 氷の矢がスカイドラゴンに当たるが傷つけることさえもできていない。だが、目的であるリアに意識を向けることはできた。


『殺ス。殺ス。殺ス。殺ス。殺ス。殺ス。殺ス。殺ス。殺ス。殺ス。殺ス――――』


 その声には感情はない。しかし、憎悪を感じる。矛盾しているようだが、そうなのだから仕方ない。


 ツキは後ろを振り返らず、走り出す。リアに謝りながら。自分のせいでリアが死んでしまうことをリアに対して、そして、イザナに対して謝る。何もできない無力な自分に憤りを感じながら。


 走って、走って、走って、走って、走って、走って、走って――――。


 そして、たどり着く。母と父の匂いがする場所に。


 そこには母親の頭があった。頭しかなかった。胴体がない。父親の姿はどこにもない。匂いはここからするのに。ここ以外の匂いの場所を探す。見当たらない。そして、思い出す。スカイドラゴンが言っていた言葉を。嘘だと思った言葉を。そう思い込みたかった言葉を。もう両親はどこにもいない。自分は一人ぼっちなのだと。今まで何のために頑張ったのか。何のためにここまで来たのか。新しくできた姉を見捨ててまで来たのに。


『―――――――――――あ、』


 母親の顔が目に入る。こちらを見つめている。何をしているのと叱っている。あなたの今いる場所はここじゃないでしょと。あなたをそんな風に育てた憶えはないと言ってくる。


 向こうからリアの悲鳴が聞こえてくる。行かなくちゃ、と思うけど足が動かない。また、あそこに戻るのが怖くて、恐くて動かない。


 けど、動かないと大切な人をまた失っちゃう。それは嫌だ。嫌だ。嫌だと。


 母親の顔をもう一度見る。穏やかな顔で眠っている。それでいいのと言われている気がした。だから、走り出す。もう、失いたくないから。




 ツキが逃げたことにリアは安堵した。ツキを守らなければ、自分に嘘を付くことになる。だが、すぐに否定する。そんなことは粗末なことだと。重要なのはツキが生きていることだ。リリーシャがそうしたように自分も守りたいものを何としても守る。


 リアはもう一度、氷の矢を放つ。だが、スカイドラゴンはその矢を気にせず、突っ込んでくる。リアはジャンプして、その突進を回避する。スカイドラゴンの頭上を飛び越えるとき、怪我してない前足で引っ掻くがあまりの硬さに逆に爪が欠ける。


 今のリアでは攻撃に対して決定打に欠ける。氷魔法【ハドマ】を使えば、倒せるかどうか判らないが、かなりのダメージを与えられるだろう。けど、詠唱できるほど集中できる時間がない。


 リアにはスカイドラゴンのレベルを知る力はないが、それでも自分よりも格上の存在だと理解している。このまま戦っても勝てる気がしない。


 そもそもドラゴンに致命傷を与えること自体並み大抵のことではない。ドラゴンを独りで倒したらそいつは英雄と言われるだろう。言わらなくても人々から一目置かれること間違いない。


 単独で行動している存在はバカなのか、それとも強大な力を持っているかのどちらかだ。どんな種族でも基本集団で生活している。それが生きるのに必要だと知っているからだ。


 このスカイドラゴンはどうなのだろうか。強く、そして、狂っている。そんな存在が集団行動できるだろうか。できる訳がない。そして、その答えがリアの目の前にいる。


 見える全てを喰らう化け物に成り果てて――――。


「―――――――――!!!!!」

『きゃああああああああ!?』


 スカイドラゴンの咆哮が衝撃波となって、全てを吹き飛ばす。その衝撃に最初は耐えていたリアも耐え切れなくなり吹き飛ばされる。


 吹き飛ばされ、すぐに立ち上がるが目の前にスカイドラゴンが迫っていた。すぐに横に跳ぼうとするが―――。


『―――――ッ』


 怪我した右の前足から崩れ落ちた。しかし、すぐに態勢を戻し、その怪我した足をかばいながら横に跳ぶ。


 そして、間一髪でスカイドラゴンを避けることに成功した。だが、完全とはいかず、左の後足の骨が折れた。今、リアは左の前足と右の後足で体を支えている。普通なら歩くことすらままならないだろうが、リアは静かにスカイドラゴンを睨む。そして、全部の足を使い歩き出す。


 痛くない訳がない。今までのリアなら迷わず逃げていた――否、誰かに助けを乞いていただろう。だが、それをしないのはツキがいるから。ツキの方に行かせないためだけに立ち上がる。何度でも、何度でも。


 すると、スカイドラゴンが腕を広げる。腕と足の間にある皮というか肌と同じ色の半透明な膜と言うべきか、それがまるで凧のように見えるから面白い。スカイドラゴンは口から魔法を撃つ。


 ()()()――――。


 そして、浮上する。


 風魔法を地面にぶつけてが、その魔法は反射してスカイドラゴンに当たり、その力によって体が浮いたのだ。おそらく半透明な膜のようなものはこのためにあのような形になっているのだろう。


 魔法は発動した者が調節できるので、上向きの風魔法が消えないように自分自身を傷つけないように繊細に操って浮くことができるのだろう。あの狂ったスカイドラゴンが当たり前のようにやっているのは体が覚えているのだ。


 〈禁忌の実〉を食べたからと言って、完全に自分を忘れたわけではない。もちろん自我を失うと言ったあの老人の言葉は本当である。しかし、自分と言う精神が消えても、今まで過ごしてきた経験がなくなるわけではない。それはまるで、消えたくないと訴えているかのように体が勝手に動く。


 リアとスカイドラゴンとの間には絶対的な優劣がある。今まではきつい優劣がそこにはあった。もちろんスカイドラゴンが「優」でリアが「劣」である。しかし、スカイドラゴンが空を飛んだことでリアは手を出すことができなくなった。それほど空を飛ぶと言うのは優位に立つことができる手段なのだ。


 リアの魔法も上空にまで行かれたら、射程圏外で届くことはない。本当にリアには攻撃する手段を失ったのだ。さらに、リアは満足に走ることが難しい。こうして、立っているだけでも身体的にも辛いのだ。


(マズイ! 今、ツキの方に行かれたら、ワタシじゃ助けられない)


 そうなのだ。スカイドラゴンは今自由に行動できる。それこそリアを無視して、ツキを探しに行くくらい朝飯前である。


 リアにとって幸いだったのはこのスカイドラゴンは今リアにしか眼中にないと言うことだろう。


 そして、リアにとって不運だったのは――――、


『リア姉ちゃん!?』


 ツキがリアの(もと)に近づいて来ていることだろう。


『なっ! どうしてこっちに来たの!?』

『リア姉ちゃんを独りにできないよ!?』

『早く逃げないと、ママとパパに会えなくなるわよ!』

『ママに会ったよ………。そして、言われたんだ、大切な人がいる場所に行きなさいって!!』

『それどういう、――――ッ! ま、まさか!』


 ツキの言葉の意味がいまいち解らなかったが、すぐにツキの言葉の意味を悟ったのか、何も言えなくなってしまった。何て声をかけるべきか知らなかった。


 その時、スカイドラゴンが風魔法で攻撃してくる。この攻撃によってリアは助かったと思った。代わりにこの攻撃で死ぬかもしれない状況になったが。そいう窮地だからこそ意識を切り替えることができた。


 2本の足を器用に使って、ツキを咥えて、魔法を避ける。だが、風の弾が雨のように降り注ぐのですべてを避けることは叶わなかった。それでも、ツキだけは怪我をしないようにする。


『ウグッ!』

『リア姉ちゃん!? ボクなら大丈夫だから! ボクを投げて! このままじゃ、リア姉ちゃんが死んじゃうよ!?』

『そういう訳にはいかないわ』


 だが、頑なにリアはそれを拒否する。


『ワタシはあなたに死んで欲しくないの。ハア、ハア……』

『それはボクだって同じだよ!? リア姉ちゃんボクのために死ぬつもりだったでしょ!?』

『そ、そんなことないわ………』

『ウソだ!!』

『ウソじゃないわよ! それだったらどうして戻ってきたのよ!!』

『死ぬんだったら、リア姉ちゃんと一緒に死にたいからだよ!』


 助けに来たのではなく、一緒に死ぬために来たと言ってきた。戦力的に見て、ツキが加わったからと言ってこのドラゴンに勝てる要素は皆無だが、一緒に死にたいと言われるとは思ってもみなかった。


 リアは魔法が降り注ぐ中足を止め、そして、無意識にツキを下ろして見つめる。ツキも真剣な眼で見つめ返す。


 不思議なことにその2人を避けるかのように魔法は当たらない。


 時間的には5秒ほどだったが、2人は1分くらい見つめ合った気がした。そして、リアが息を吐き、ツキに優しく話しかける。


『解ったわ。死ぬときは一緒に―――。ふう、イザナとはここでお別れか』

『リア姉ちゃんってお兄ちゃんのこと好きだね?』

『―――――――――。何言ってるのよ、ワタシは魔物よ』

『その間何?』


 魔法が降り注ぐ中2人は和気わき藹々(あいあい)とした会話をしている。2人が会話している間にいつの間にか魔法は止んでおり、空を見上げるとスカイドラゴンが二人を見下ろしていた。


『―――!? これは!』

『どうしたの?』

『途轍もない魔力が口元に集まってる。もしかするとすごい威力の魔法を放つつもりなのかも!』


 ツキが言っていることは正しかった。スカイドラゴンは次で勝敗を決めようとしていた。初めは食べる気満々だったが、リアがなかなか死なないので、食べるのを放棄して完全に消滅させようとしているのだ。運が良ければ肉片が少しでも残っているだろうなんてことは考えてはいないだろうが、食べられないなら要らない、そんな思考の方がしっくりくる。


『リア姉ちゃん動けそう?』

『……正直に言うけど、無理そう。もう立っているだけでも辛いもの』

『じゃあ』

『うん。一緒に死のうか――――――』


 スカイドラゴンは口元に風を集めた風で出来た球を作っている。それですでに顔は見えないほど大きなっており、放てばリアとツキどころか半径1キロメートルに(わた)るほどの衝撃波を生む。それに直撃すればどうなるかは想像に難くない。そして、スカイドラゴンはリアたちに向けて放つ。


 リアは一緒に死のうと言ったがそれでもツキを守るかのようにギュッと身を寄せる。スカイドラゴンが放った魔法がすぐ目の前まで迫ってくる。リアは目を閉じ、イザナに謝る。




「いや、死ぬなよ」




 何も起こらない。それにイザナの声が聞こえた気がした。リアが恐る恐る目を開くと目の前にイザナがいた。


う~ん。なんか話の展開が少し雑な気がする・・・。

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