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九つの極罪  作者: 阿志乃トモ
第一章 クシャトリア大迷宮編
12/33

第十二話 黒ウサギは月である

前話に比べると少し短いです。

 あの恐怖の重力空間から脱出したイザナたちを待ち受けていたのはジャングルだった。1日とは思えないほどのありえない速度でここまで来たので、二人はここで暫く休むことにした。


 2日で次の階層に行こうと初めは考えていた。だが、2人は4日もここにいる。


 なぜなら次の階層への入り口が見つからないのだ。むしろ、今までの重力階層が早すぎただけとも言える。または、あの重力空間がきつい分入り口を見つけ易くしていたのかしれない。ここまで来れると言うことはかなりの高レベルだと言うことだ。それに伴いステータスも高い。すると、二人のように地獄を見ることになる。


 レベルが200を超えるような魔物は人間を見つけても基本的には殺さない。喜んで襲ってくるのはその階層でも弱い部類の魔物だ。弱いと毎日の食事にも困る。肉食なら間違いなく餓死することになるだろう。それなら上の弱い魔物がいる階層で生活するのが普通だが、リアのようにその階層で生まれたのなら、その階層で過ごしたいのが心情だ。故にダンジョンに挑む人間が見るのはその階層に近い魔物ばかりである。逆に低すぎると自分の身が危険なのでオチオチで歩くこともできない。


 そうなるとどうなるのか。


 人間たちには襲い掛かってくる魔物しか見えないので、魔物のレベル≒今の階層という勘違いも甚だしい構造が出来上がる。全部のそれぞれの階層に下は1から上は200以上のレベルの魔物が存在している。まるで、マスメディアの情報操作みたいだ。知っているか? エジプトにある有名なピラミッドって砂漠の真ん中にあるみたいに見えるけど後ろを振り返れば都会が見られるんだぜ? 信じられないよな。


 閑話休題。


 目ぼしい場所も見つからないまま暗くなってきたので、仕方なく、野宿するための準備を始める。夕食の調達とか火を起こすために焚火の用意したりとかいろいろ。リアには食料の調達の方を頼んでいる。今日はどんな魔物を捕獲してくるのか、ここ毎日のイザナの楽しみになっている。


 準備を終えたところで、リアが帰ってきた。その口には一匹の黒いウサギを咥えていた。


『帰ったわよ~』

『やめて! ボクを食べてもおいしくないよ!!』


 何やらウサギは必死になって抗議しているが、リアの方は気にした風もなく、むしろイザナの褒めて褒めてと言いたそうな顔をしている。そんなリアのイザナは一言。


「リア、今すぐそいつを元の場所に捨てていなさい」


 捨て犬(猫)を拾ってきた子供にお母さんが言いそうなことを言った。


『え~!! どうしてよっ!? せっかくの夕飯なのよ!』

『お兄ちゃん!』


 リアはイザナの言に不満を口にする。褒めてもらえると思ったのに、そんなモノは要らないと言われれば反抗をするだろう。そして、ウサギの方は馴れ馴れしくもイザナのことをお兄ちゃんと呼び、嬉しそうな顔をする。自分の窮地を救ってくれる恩人なのだから、そんな顔もするだろう。


「いいか、リア。食料にするにしてもこいつ一匹は少なすぎる。それに前に図鑑で見たが、食料として食べるには肉が硬いし、味の方もかなり不味いらしい。だから、そんなモノ捨てて来なさい。今度は俺も一緒に食料集め手伝ってやるから」

『えっ? ホント!?』


 リアはイザナと一緒に狩りができることに喜んだ。ウサギは何とも言えない顔をしている。


 リアは早速、ウサギを捨てに行く。というか、近くにポイッと捨てた。そして、イザナの横に並んで早く行こうとせがむ。


『ちょ、ちょっと待って!』


 どこかに行こうとする二人をウサギは慌てた声で引き留めようとする。だが、二人は無視して歩く。後ろを振り返りもせず。


『え? 行っちゃうの!? ボクの声が届いてないの!?』


 ウサギは慌てて二人の後を追う。二人は歩いているだけなので、追いつくのは簡単だった。


『お二人さんお願いだから、ボクの話聞いて!! こんなところに置いて行かれたら、ボク食べられちゃうよ!! ボクこう見えても弱いんだよ!?』


 イザナがチラッとウサギを見る。どっからどう見ても強そうには見えない。レベルも10でよく今までここで生活できていたなと疑問が湧いてくる。


 イザナはああ、と思い出す。


(コイツ、不味いんだった)


 他の魔物も不味い物を進んで食べようとはしないだろう。そして、それがこのウサギが今まで生き残ってきた理由である。この階層にいる魔物はこのウサギが不味いことを知っているので襲うことはないだろう。


 だから、イザナたちがこのウサギを置いていっても何ら問題ない。むしろ、いたら邪魔にしかならないだろう。


『お願い無視しないで!? 何かリアクションしてよ!? 無視されるのが一番心に突き刺さるんだよ!?』


 何かウサギが鬱陶しい。追いつけないように走ろうとするが、次のウサギの言葉で足を止める。


『あっ! お兄ちゃん、人間だよね!? だったら、ここの案内なら任せてよ。次の階層の行き方知ってるよ!』

「――――なに?」


 イザナはウサギを見下ろす。ウサギの眼はクリクリとした黒色で―――イザナはどこに眼があるか解らなかった。クリクリと書いたがそれはイメージであって、事実とは異なる。見下ろして見えたモノは黒い塊だった。ウサギだと最初から知っていなければ、近づかないであろう。


『ね! だから、ボクも連れていってよ! 実言うとボク迷子なんだ。ママとパパが見つかるまででいいから、お願い!』


 頼んでもないのに自分の状況を語りだした。


『ボク、本当はもっと下の階層に住んでいたんだけど、ある魔物たちの戦いに巻き込まれちゃって、みんな散り散りになちゃったんだ。ボクもその戦いから逃げるのに必死で気付いたらいつの間にかこの階層まで来ちゃってて』


 イザナにとってはどうでもいい情報だった。イザナはこのウサギを助けようなんて微塵も考えていない。だが、リアはそうでもないらしく、なぜか涙目になっている。おそらく家族と離ればなれになったと言うのに同情しているのだろう。


『そうなの辛かったね………』


 リアがウサギに優しい眼差しで見つめている。そして、イザナの方に「助けてあげないの?」と言いたげに見つめてくる。なので、イザナははっきりと告げる。


「このウサギの両親を見つける気はないぞ」

『えぇ!? どうして!! ここは同情するとこでしょ!?』


 ウサギがなんかふてぶてしい件について。


 厚かましいウサギを無性に蹴りたくなったが、そこはグッと我慢した。リアもウサギと同じようにイザナを非難している。だが、ここでウサギのペースに乗せられてはダメだ。厄介事が増えるだけである。


 イザナはこのダンジョンの秘宝に興味があるから、最下層を目指しているのであって、ここの秘宝のことを知っていたならば、迷わず上の階層に向かっただろう。だが、それはイザナにとって良かったのかもしれない。上の階層に行けば、あまり会いたくない奴らがいるからだ。面倒くさそうな事態になるのが目に浮かぶ。


「このウサギの両親を見つけるのに興味が湧かない。だが、こいつはここの階層の入り口を知っているらしいから、連れていく価値はある。下の階層で()、このウサギの両親が見つかればいいんだろ?」


 それを聞き、ウサギは嬉しそうな顔をし、リアは素直じゃないわね、みたいな顔をしている。はっきり言うが、イザナはこう見て素直な人間だ。


「それよりも今日の夕飯の食料を調達するぞ。さすがに、非常食として用意しておいたヤラハクの肉を食べるのはもったいないからな」


 ウサギが仲間になった。


 正直、邪魔以外の何ものでもない。戦闘はできないし、むしろ、守りながら戦闘をしなくならなければならなくなったし、何かできないのかと訊けば、こんな愛くるしいボクが何かできるとでも、と言う始末。


 もう自力で入り口を見つけるから、このウサギを思いっきり投げ飛ばしてストレス発散をしたい。


 イザナはこんなんだが、リアの方はこのウサギのことを気に入ったらしく、よく2人(?)で会話している。ウサギの方もリア姉ちゃんなんて呼んでいるくらいだ。その2人の会話で知ったことだが、このウサギの名前はツキと言うらしい。かなりどうでも良かったので、イザナは今まで通りウサギと呼んでいる。


 ちなみに夕食として調達したのはクレイジーマウンテンとかいう名前のゴリラだった。味の方は大味で美味とは言わなかったが、意外にもリアが苦戦するほど強かった。これにより学んだので、今度からはクレイジーマウンテンを狩ることはないだろう。美味しくない獲物はあまり食べる気が起きないものなのだ。


 だが、逆にこのウサギが不味いそうなので、どのくらい不味いのか試しても好いかとウサギに尋ねたら、リアに前足で引っ掻かれた。してはいけないことをしたくなるのが人間の(さが)だ。おっと、意味が違った。いや、合ってるのか?


 翌日、イザナたちはウサギ――もとい、ツキの後に付いて歩いている。入り口の場所はツキしか知らないので、仕方なくだ。ツキはリアの頭に乗りながら、ル~ルル~ル~、とさえずっている。しかも、音痴だった。メロディーが安定していない。それを表現するならば、ルがいきなりルに濁点が付いたモノに変わっていたりする。


 イザナとしては止めてほしいのだが、それを言うとリアが睨んでくるので口を閉じている。本当にどうして2人はこんなに仲が良いのかイザナには理解に苦しんだ。2人の仲が良すぎて、疎外感を感じるほどだ。これがツキの策略なら嵌り過ぎて抜け出せそうにない。


 イザナはツキのことをまだ信用していない。一緒にいるのは一応利用価値があるかとツキが弱いからだ。それにこれが罠でもイザナには抜け出す自信もあった。それに最悪の場合はリアを囮にしたりもするだろう。こんなことをリアに言えば、本気で怒りそうだが。


『そういえば、お兄ちゃんの名前をまだ聞いてなか――――っ! そ、そういえば、どうしてお兄ちゃんはボクと会話しているの!?』


 今更過ぎることを訊かれた。なので、イザナは正直に答えた。


「俺の名前はアサギリだ。どうして、会話ができるかと言うと、それは俺が魔従師だからだ」


 嘘は付いてない。苗字も立派な名前なのだから。だが、リアはそれが嘘に聞こえたようで、


『どうして、嘘つくのよ。あんたの名前はイザナでしょ』


 リアにはしっかりとフルネームを名乗ったはずなのだが、どうも苗字の方を忘れているらしい。


「――なあ、リアよ。俺の名前をしっかり言えるか?」

『はあ? イザナはイザナでしょ?』


 どうやら完全に忘れているらしい。それ以外に何があるのと言いたげだ。


「………。俺の名前は朝霧イザナだぞ」

『…………………。わ、忘れてたわけじゃないわよ!? ちょっと思い出せなかっただけなんだから!!』


 人はそれを忘れたと言う。


『お兄ちゃんはイザナと言うのかぁ………』

「何か思う所があるのか?」


 リリーシャがそうだったようにツキにも何か思う所があるかもしれないと身構える。


『ううん、変な名前だなって思って』

「よし。そいつぶん投げるからこっちに渡してくれないかリア?」

『ぎゃああああ!? ごめんなさい、ごめんなさい!』


 割と本気でツキのことを掴んで投げようとするが、ツキはリアにしがみついて離れようとしない。引っ張ってみるが、引きはがせない。ウサギの手足でどうやってしがみついているのだろうか?


 それにしても、朝からかれこれ3時間は歩いている。案内があるのだから、もっと早く付いても問題ないと思うのだが。


 イザナがこの階層を端から端まで歩いたら、5時間程度かかる。およそ徒歩は時速5キロぐらいだと言われている。そこからこの階層の直径を考えれば、25キロメートル程度となる。実際は、休憩やジャングルなので障害物があることを考えれば25キロメートルもないのだが、そこは割愛しよう。


 何が言いたいのか言うと、時間が掛かり過ぎておかしい、と言うことだ。イザナはツキのことを真っ先に疑ったが、ツキもおかしいと頭を捻っている。リアだけは疑問に思っていないのかいつも通りの態度である。ああ、バカなのか。


『ふむむ、おかしいなぁ。こんなに歩いてもたどり着けないなんて』

「お前がわざとやっているんじゃないのか?」

『そんなはずないよ!?』


 ツキが言うにはこの階層の入り口はどうやらこの階層のど真ん中にあるらしく、何度もそこに向かっているが、入り口が開かないらしい。そこで目を付けたのが人間のイザナだった。このダンジョンには人間が挑んでくることがあるとツキの両親から聞いていたので、人間の特徴を曖昧だが両親から聞いておいた。ここまで来たことがある人間はいないので、その人間の特徴は見聞でしかないのだが、それでも人間だと判るほどのものなのだろう。現にツキはイザナが人間だと解った。


 その人間が挑むのなら必ず入り口を開ける方法があるはずだと思ってのことだった。それならツキがやるよりも人間に任せた方が良い。


 リアと違って意外にもツキは賢かった。しかし、ここにイザナが来なかったどうなっていたのだろうか。さらに言えば、リアが連れてこなければ、イザナに会う可能性も減っていた。いや、その入り口のところにいたのなら会っていたのかもしれないが。そもそも、イザナがツキに出会わなければ、その入り口にたどり着けなかった可能性の方が高い。


『ん?』

「どうしたウサギ」

『今まで会話が楽しくって気付かなかったけど、なんか違和感が――――って、もしかしてこれは………。お兄ちゃん、ボクたち魔法に掛かっているかも』

「魔法だと?」

『うん。どうやら、幻を見せて入り口の方に向かわせないようにしているみたい。でも、ボク一人の時はこんなのなかったのに、どうしてだろう』


 ツキが言った最後の言葉にもしやと思う。


「……………」

『? イザナ、どうしたの?』

「ああ、もしかしたらこんなことになってるのは俺のせいかもしれない」

『ボクのこと疑ってたのに、お兄ちゃんのせいなの!?』


 ツキが非難めいた声で訴える。


「それに関して悪いと思ってない」

『思ってないの!?』

「そんなことは今どうでもいい」

『えー!』


 ツキが抗議してくるがそれを無視して続ける。


「もしかしたら、人間がここの入り口に近づこうとしたら、幻術の類の魔法が発動するのかもしれない。このウサギが一人で行った時にはなんともなかったらしいからな」

『ねえ、いい加減、ツキのこと名前で呼んであげれば』

「俺は自分が呼んでもいいかなと思った奴にしか名前は呼ばない」

『そうだったの!』


 なぜかリアが嬉しそうだ。


「まあいい。これが魔法のせいならどうとでもなる」


 そう言うと、目の前に虹色の玉が姿を現す。そして、リアに近づき玉の形状を変形させて、リアとツキが触れられるようにする。というより、リアは足の付け根に巻きつけ、ツキに関しては体に巻きつけた。


 飼い主が犬の散歩をするような恰好に見える状態で再び歩き始めた。ツキがこんなんで大丈夫なのと言ってきたが、有無を言わせず、案内をさせた。


 今度は30分も歩いたら、ツキがあそこだよと言ってきた。少しと遠いがイザナからも何か見えてきていた。


 そして、そこに行くと――――――巨大な遺跡があった。


なんかリア以外に魔物が話すのって久しぶりな気が・・・・・

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