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九つの極罪  作者: 阿志乃トモ
第一章 クシャトリア大迷宮編
10/33

第十話 旅立つために

第七話の[嫉妬]の説明部分を一部修正しました。

 リアとの生活を始めてからそろそろ3ヶ月になろうとしていた。日に日に壁に傷を付けていたのであっているだろう。この3ヶ月間は戦い方を研究していた。解放されたユニークスキルを使い、それぞれのどんなことができるのか、または、どこまでできるのかを試行錯誤していた。


 そこで面白い物が作れた。<無知の知(ディクタソクラテス)>の玉をくっ付けてみると、虹色の玉を作ることができた。これがおそらく④の魔法無力化能力なのだろうが、④は攻撃が出来ないと書いてあったがそれは魔法の攻撃だったらしく、これを剣の形にして戦ってみると、魔法が斬れる剣を持つ魔法殺しの剣士が誕生した。


 リアと模擬戦してみても、イザナに魔法が全く効かず、リアが勝てた試しがない。リアの魔法で氷漬けにしようとしてもイザナがその剣を持っている限り、本当に無効化していて、足止めにすらならなかった。


 実を言うと、この3ヶ月でイザナの『七つの大罪』の中の[色欲]が解放された。


 ある日、リアが持って帰って来たキノコのおかげである。明らかにやばそうな毒々しい感じのキノコだったのだが、あまりにもリアがドヤ顔(イザナ視点)をしていたため、食べないとは言えず、仕方なく、調理してみた。キノコ自体、ここら辺では貴重な食料には違いないので、これが食べられるのなら、食料が増えてイザナ自身の為にもなる。


 結論は言わなくても判るだろうが、毒だった。それもかなりの猛毒だった。このキノコは極寒の中で育ったため生き残るために毒キノコに進化した種である。一口食べただけで死に至るほどで、イザナ自身死にかけた。痙攣けいれんや苦しみ悶えた。リアはどうしていいのか解らず、イザナの周りをウロチョロしていて意外と邪魔だった。その時である。


『解放条件を確認。これより[色欲]を解放します』


 お馴染みの声が聞こえたと思ったら、急に体が軽くなった。その回復ぷっりに逆にリアに心配された。すぐさま、自分のステータスを見た。


 朝霧誘 男 16歳 レベル1

 種族:人間

 天職:魔従師

 体力:1/1

 魔力:1/1

 筋力:1

 耐久:1

 俊敏:1

 魔耐:1

【称号】

 異世界人 孤独な旅人 道化の見習い 狂科学者

【スキル】

 全言語理解 鑑定 詐偽

【ユニークスキル】

 『七つの大罪』

 [???](未解放)

 [強欲]<無知の智(ディクタソクラテス)

 [色欲]<約束されし生存者>

 [嫉妬]<剥奪されし強者>

 [怠惰]<働かざるニート者>

 [憤怒]<我を忘れし者(オーディン)

 [???](未開放)


<約束されし生存者>………あらゆる状態異常、及び呪いの(たぐい)を無効化する。

 発動条件、死に至る状態異常の経験をした場合。


<働かざるニート者>………レベル、及び全ステータスを1にすることを条件にステータスを2の相手と自分のレベル差乗の倍にする。また、レベルはこれより上がることはない。

 発動条件、戦闘行為をした後、1週間の間、戦闘行為を行わない場合。


我を忘れし者(オーディン)>………効果と範囲を最大10倍まで引き上げることができる。

 詠唱【怒れ、グングニル】

 発動条件、親しい者の死を見た場合。


 まず、<約束されし生存者>の効果でリアの魔法がなくても外での寒さが無くなった。どうやらこれは環境にも適用されるようで、今では寒い思いをしなくて助かっている。それに、毒キノコなども普通のキノコとして食べられるようになったのは嬉しい誤算だった。リアは食べられないので狩ってきた肉を頬張っている。


 次に<我を忘れし者(オーディン)>はユニークスキルには適用されていないみたいで<無知の智(ディクタソクラテス)>に使ってみたが、いつもと変わらない威力だった。範囲の方にも何の変化も見当たらなかった。だが、剣が木に触れずとも木を斬ることができるようになった。斬ると言っても木の表面を傷つける程度のものだ。それ以上は剣が木に挟まった様な感覚と共に剣を動かすことができなかった。試しに手を離してみると剣が空中で浮いた。そして、スキルを解除するとその剣が落ちたのでなかなか面白かった。どうやら刀身の範囲を引き延ばすとそこには見えない長剣を元の大きさと重さのまま扱える仕組みのようだった。さらに『斬る』という効果を10倍にして木を斬るといとも容易くまるで豆腐を切るような感覚で斬れた。これで判ったことだが、効果と範囲を両方とも一度に10倍にすることはできなかった。良くて半分の5倍が良いところだった。さらに驚くことにこのスキルは自分だけではなく他の者にも適用することができた。それで、リアの魔法の範囲を10倍にしてみたら酷いことになった。


 さらに<剥奪されし強者>の能力の実験もしてみた。そこら辺にいた魔物を殺さないように適当に殴って、逃走劇を開演した。何となくだが常時発動しているスキルには感じないが任意で発動するタイプのスキルには「使っている」という感覚がある。それを使って、どれだけの時間使っていられるのか試した。様々な魔物で使ってみたところ、5分も掛からずスキルの効果は切れた。魔物たちが叫んでいたことを合わせて考えてみると、全ステータスが1になると効果が切れるらしい。そして、1より下には下がらないらしい。そして、半日で1になったステータスは完全に元に戻った。実験体(モルモット)のほとんどが狂喜乱舞していたので間違いない。ステータスも元に戻ると解かったので、ここら辺ではレベルの低いリアで実験してみると、3分も掛からずステータスが1になり、こちらも半日でもとに戻った。どうやら半日で戻るのは皆同じらしかった。


 最後に残った<働かざるニート者>は上に書かれている内容ではいささか難しい。判り易くリアを引き合い出して説明するとしよう。今のリアはイザナとの訓練(実験)でレベル56になっている。そのリアとイザナが戦闘を行うときのイザナのステータスは1に×かける2の(エックス)乗[(エックス)=56(リアのレベル)― 1(イザナのレベル)=55]倍となる。つまり、この時のイザナのステータスはすべて約3京6028兆7970億以下略となる。約って言葉は便利だ。この数値を疑うなら2の55乗をしてみてくれ。それにしても、途方もない数字だ。リアも良く生きていられるものだ。だが、ステータス上は全部1なので仮に見られても相手からは甘くみられる。なんとも酷いスキルだろうか。さらに、このスキルの嫌なところは相手が強ければ強いほど無双ができると言うことだ。はっきり言うと、レベル1の相手にはこのスキルが働かないのでステータスが1の状態で戦わなければならない。相手が弱いほど苦戦する可能性があるスキルなのだ。それに、上がってもらっても困るだけだが、このスキルのおかげでレベルが上がらないので必然的にステータスもすべて1だ。ステータスが1でも日常生活自体は何とかできるのでさほど苦にはなっていない。体力がすぐになくなるかと思ったが、走ってもなんともない。何なんだろうかこれは。


 称号のところに新しいのが書いてあるがこの3ヶ月間いろいろやった成果だと思ってほしい。


 イザナはダンジョンの最下層まで行くか、逆走して地上に出るかをこの3ヶ月考えていた。ただ、地上に向かって階層を進むと下手すると異世界に召喚された奴らがのさばっている可能性がある。イザナとしても彼らとはあまり会いたくない。会えばきっと王宮に行かなければならない空気になるだろうし。もちろん、無理矢理離れることはできる。むしろ簡単に殺すことすらできる。だが、殺すのは後々面倒くさそうなのでボツ案となった。


 そう考えると、最下層にあると言う秘宝に興味が湧く。こう見えてイザナは好奇心旺盛な少年なのだ。未知と言う言葉に興味を惹かれるお年頃だとも言う。それに、とりあえずやってみようと言う人間でもあるので、熟考した結果、最下層を目指すことにした。


 ヤラハクの肉を少しだけ備蓄として持っていくことにしている。あの戦ったヤラハクはどうやら老生体と呼ばれる個体で他の魔物たちも食べようとはしない。老生体は生殖行為をしなかった個体が1000年ほど生き、脱皮を繰り返してあのような爬虫類みたいなのに進化する。老生体になった個体は他のヤラハクと比べてあり得ないほどの戦闘力をほこるようになる。普通のヤラハクは戦闘力がかなり低いが一度の産卵で100個以上の卵を産み落とす。だが、かなり臆病で人前に出ることは基本ない。だからこそ、人も魔物もヤラハクを幸運の象徴としてみる。リリーシャがお祝いごとにこの肉を出したのはそのためだ。それにどうやらリリーシャはヤラハク狩りの名人だったらしく、備蓄がすごいあった。さらに、その姿は虹色に輝く翼を持つ鳥らしく、人々の間ではその姿見ることができると願い事が叶うとまで言われているのだが、イザナは一度も見た事はない。見たとして、気色の悪い方のヤラハクだ。


 あのヤラハクによって死んだリリーシャは土の中で眠っている。あの後、リリーシャのためにお墓を作り、日本語で『リリーシャここに眠る』と書いておいた。魔物たちにはお墓を作る習慣はないがイザナは恩も返せないまま死んでしまったリリーシャにせめてもの手向けにとお墓を作った。この極寒の中埋葬すると体が完全に凍ってしまって下手をすると他の魔物に食べられてしまう可能性があった。なので、リアが教えてくれた魔物たちが嫌う匂いを発している樹の近くにリリーシャを埋めた。


 リアは最初ふさぎ込んでいたが1週間もしたらどうやら吹っ切れたみたいで、それからはいつものように生活していた。イザナがはげましたとかそんな話はない。はっきり言うと放置していた。放置していたと言うのは言い過ぎだが、いつものように生活をしていただけだ。


 イザナは早朝、まだリアが寝ている間に外に出ていく。もう、この階層から出発しようとしているのだ。この3ヶ月間で次の階層の入り口も見つけている。その入り口に向かう前にある場所を訪れた。


「もう、ここを出ようと思う。リリーシャにはかなり世話になった。墓作ってやることしかできなかったけど、許してほしい」


 リリーシャにお別れを告げに来たのだ。


「それと、リリーシャとの約束を破っちまうが、リアはここに置いていくつもりだ」

『それどういう意味?』


 墓からではなく、イザナの後ろから声が聞こえて来た。振り返ると案の定、リアがいた。


『あんたがこそこそあの穴蔵から出ていくからあとを付いてみれば。……ワタシに一言もなくここを去るつもりだったの?』

「ああ、そうでもしないとお前俺に付いて来ようとするだろ?」

『………。おかあさんはあんたと一緒にいることを望んでたわ。おかあさんの望みを叶えようとして何が悪いの?』

「悪い、とは言わない。だが、それはお前の為にはならない」

『ワタシのため? 何よそれ、意味わかんないっ!』

「――――――。じゃあ、なおさら連れていけない。勘違いして欲しくないが、別にお前を連れていくのが嫌なわけじゃない」

『じゃあ! どうしてよ!!』


 リアの魔法のせいかリアの周りの雪が完全に氷付き始めていた。


「それは――――――」


 何かを言おうとしてから、口を閉ざしてしまった。何かを考えている素振りをしていたが、リアの方を人差し指を立てながら言う。


「ゲームをしよう」

『ゲーム?』

「そ。ルールは簡単、リアが俺の体のどこかに一撃でも攻撃することが出来たら、俺と一緒に付いて来ても構わない。で、そっちの敗北条件はリアが戦闘不能になったら、だ」

『ワタシをそれほど連れていきたくないの?』


<働かざるニート者>を会得してからリアとイザナのレベルが余りにも開きすぎてしまって勝負にならないのだ。リアはイザナに触れることすらできずに勝負が決まることもある。


「さっきも言っただろ、別に連れていくのが嫌なわけじゃない。ただ、そんな理由で付いて来てほしくないだけだ」

『そんな理由?』

「とっとと始めるぞ」


 そう言うと<無知の知(ディクタソクラテス)>ですべての玉を出した後、それを一つにして虹色の玉を出現させた。これでリアの氷魔法を全て無力化しようとしているのだ。事実、リアはこれで魔法による攻撃が出来なくなっていた。


 そもそも、リア自身イザナがこんなことをするとは思ってもみなかった。むしろ、自分が言えば素直に連れていってくれるものだとばかり思っていたのだ。それがいきなり戦闘を始められた。それも虹色の玉を出して、リアの魔法を封じてまでだ。


 イザナは一瞬でリアの背後に回ると気絶させるために手を振りかざした。この素早い動きを正確にできるようになったのはこの3ヶ月での成果とも言える。初めのころは制御ができずに通り過ぎたり、足を引っ掛けて自分が雪だるまになったりもした。


『――――っ!』


 だが、リアはその攻撃を反射的に回避した。


「避けたか………」


 それでもイザナの優位性は変わっていない。リアの態勢が整う前に一瞬で詰め寄り、軽く殴り飛ばした。それでもかなりの威力で山を描きながら7メートルは飛んでいった。


『くっ、ケホッ、ケホッ。―――っ、この!!』


 そして、立ち上がりイザナに向かって魔法を放つ。氷の矢が何本もイザナに向かって襲い掛かる。


 だが、イザナはあくまでも冷静にその氷の矢を一本一本棒の形にした虹色の玉に当てる。それだけで、簡単に氷の矢は弾けて消える。それがきらきらと太陽に反射して意外にも神秘的な光景だった。


 リアは効いてないと解っているからこそ、それを陽動に高速でイザナに近づく。イザナは氷の矢に意識を向けていたため、一瞬、リアの姿を見失うがすぐ右横にいることを確認すると氷の矢を一本手で弾いてリアの方に向けた。


 リアはそれを避ける素振そぶりも見せずに氷の矢が貫いた。


「――――!!」


 そして、()()()。魔法で出来た氷の人形だったのだ。


 すぐさま、イザナはその場から退避した。が、リアを完全に見失った。辺りを見渡しても一面雪景色だ。


 スノーウルフは狩りをするとき獲物にばれないように隠密をする。そして、その速さを以って相手を仕留める。スノーウルフたちは皆隠密系のスキルを所持している。それがこういう時こそ厄介だなとイザナは思う。姿を少しでも見ればスキル自体は解除されるが、あの速さで近づかれれば一瞬対処に遅れができる。戦闘においてはその一瞬が勝敗を決めるとイザナは考えている。


 すると、上に影ができた。何かと思って顔を上げれば、氷の塊が降ってきていた。魔法で出来ていると踏んでイザナは虹色の棒を氷の方へ向けた。


 だが、それがいけなかった。


 リアが突如として後ろから襲ってきたのだ。氷の塊を避けていればこんな事にはならなかっただろうが、魔法を消せる力を持っていたがゆえにそれで対処しようとした。リアに気付いた時には氷の塊を避けるのができないほど接近していた。


 この魔法無力化の力はイザナが触れていないと発動しない。なので、このまま手放すと氷に潰されるかリアによって攻撃されて、どちらにしろイザナが負ける。


 イザナはすぐさま虹色の棒を9色の玉にし、その中の銀玉を掴んだ。そして、魔法を発動する。


 光魔法【聖界】


 この魔法は全方位に光の障壁を展開する魔法だ。それによって、リアと氷の塊を防いだ。だが、とっさに作ったためかリアの方はどうにかなったが、氷の塊が余りにも重すぎて、障壁に早くもヒビが入り始めている。これではすぐに破壊されるだろう。


 だが、これで時間が作れた。ほんの数秒だが、次の動きをするための準備なら完了する。


 イザナは橙玉を掴みながら障壁を解除し、氷の塊の被害が及ばないところまで退避する。それと同時にリアに対して魔法を発動する。


 土魔法【土牢】


 名の通り土で牢屋を作る魔法だ。これでリアは行動ができなくなった。しかも結構小さめに作ったので捕まったリアは拘束されていて動ける状態ではなかった。


「さて、これで勝負あったな」

『こ、この!!』


 壊そうとするが身動きが取れないのでジタバタすることしかできなかった。それを見ていたイザナは何も言わずにそこから旅立とうとする。


『ちょ、ちょっと待ちなさいよ!?』

「ん? ああ、それなら俺がここを出るときには解除される」


 それとはきっと【土牢】のことを指しているのだろう。それだけ言うと、イザナは再び歩き出した。


『――――――あ』


 それを見たリアは本当にイザナが自分を置いていこうとしていることを悟った。何か言わなくちゃと思うが言葉が出ない。きっと自分が喚こうがイザナは立ち止まらない。


 自分の目の前から消えようとしているイザナを見て、自分でも知らないうちに言葉が出て来た。


『―――お願い。ワタシを独りにしないで』


 それは咲楽がイザナが死んだと聞かされた時に放った言葉であり、そして、中学の時に咲楽と決別したときに咲楽が最後に言った言葉と同じだった。そして、イザナの足を止めるには充分すぎる言葉だった。


『独りは嫌だよ………』


 リアから言葉が流れ出る。この3ヶ月、いつものように生活ができたのはイザナが居たからだ。リアにとってイザナと言う存在がいつの間にか大きくなっていた。だからこそ、一緒にいたい。


『イザナの傍でずっと一緒にいたいよ………』


 もう泣いているような声だ。いや、泣いているのだろう。母が死んでもイザナが居たから立ち直ることができた。そのイザナが居なくなれば、きっと壊れてしまう。


「………それがお前の答えか?」


 イザナがリアにようやく話しかける。


『………おかあさんが言ったからじゃない。ワタシがイザナと一緒にいたいの!!』

「リリーシャが言ったから、ではなく自分の意志で俺と一緒に行きたいと言えばどんな結果だろうが一緒に連れていってやろうと思ってた」

『そ、それじゃあ!』


 リアは嬉しさのあまり顔を上げる。


「だが、今のお前を連れていきたくない」


 そして、リアが凍った。


『ど、どうして?』

「今のお前の状態は少し危ない。少し俺に依存しているだろ?」

『―――――え?』


 リアにとってその言葉は青天の霹靂へきれきだったのだろう。


『い、依存? ワタシが?』

「気付いてないのか? まあ、普通気付かないか」


 そう言うと、イザナは【土牢】を解除した。


「本当ならお前をここに置いていきたいが、きっとそれはまずい。だから、連れていく代わりに今すぐにとは言わない。だが、いつかそれに自分なりにけじめを付けろ。それが条件だ」


 リアはなんだか釈然としないまま、その条件を呑むことにした。


「それじゃ行くか」

『う、うん』


 そして、2人はこの階層から姿を消した。リアは出るときにリリーシャの「いってらっしゃい」と言う言葉を聴いた気がした。



 ◯◎◎◯



 2人が出ていった後、その階層の魔物たちは一斉に巣の中に帰った。そして、ひれ伏す。老若男女のすべてが頭を垂れるかのようだった。それはまるで、何かに怯えているかのように。否、怯えているのだ。


 たった1匹のスノーウルフの存在に。


 魔物たちは本能的にそのスノーウルフに逆らってはいけないと魂に刻まれているかのような錯覚を得る。それほどまでに突如として現れたスノーウルフの存在でかさに畏怖した。


 そのスノーウルフはリリーシャの墓の前まで行って、一瞥するとすぐにその姿を消した。


 そのスノーウルフが消えたことで魔物たちは狂喜乱舞した。種族とか関係なく生きていることに喜んだ。これほど一体感を得たことは今の一度も無いほどに。


 そのスノーウルフがいた時はこの世の終わりを味わった気分だった。そして、その階層にいたすべての魔物たちは理解した。あれがあのスノーウルフこそが――――――。



 ――――――かの〈獣王〉クシャトリアなのだと。


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