プロローグ《2》
「どうしたの?名前が思い出せないの?」
頷く。当たり前だが、一瞬警戒した反応が見えた。
「そういうこともあるかもしれないよね。それじゃあ行こうか。アルト、あれの手配を」
アルトははいと言って胸ポケットから小型の無線機を取り出し連絡し始めた。
少年にも少女にも見える人はアルトが使っている無線機を見て不思議に思った。なぜこんなファンタジーに出てきそうな容姿をしているにも関わらず使っているのは、タッチパネル式の携帯なのだ。贇が不思議に思うのも無理はない。
パピュッ。
なんの音かと思った瞬間、今までいた草原からどこかの部屋にいた。
「えっ!?ここは!?」
「大丈夫だよ。ここはボクらの浮遊艇“燐火”の中だから安心していいよ」
お嬢は驚いている贇に声をかける。
「そういえばアルトさんは何処へ……?」
周りを見渡すが、あるのは少年にも少女にも見える人とお嬢以外に一般のホテルにありそうなベッド等があるだけでアルトの姿がない。
『急に場所が変わったからって驚くほどじゃないだろ。パラシュートも着けず空にいたお前の方が驚く事だと思うんだがな!』
少し苛々したアルトの声が艦内放送で喚いた。
それを聞いたお嬢は誰にも気づかれない様に溜息をついたが、それに気づきビクッと震えた。
「どうしたの?ボク何か悪い事でもした?」
「い……いや、してはいないと思いますけど、溜息が僕に向かってしたのかなと思っただけで……」
お嬢は少年にも少女にも見える人の肩にポンと手を置き、顔を振る。だが横にだ。
「なんで会って初めての人に溜息を目の前でつかなきゃいけないのかなぁ。つく人もいるだろうけどボクはそんな人じゃないからね」
すいません……と何度も呟いた。
艦内放送が入った為またアルトさんか?と思ったが、その予想は外れ聞こえたのは、緊急を表しそうな、ビィービィーというつん裂くような音が響く。
その音に不快感を感じさせるが、お嬢は慣れているのだろうそれを顔に出さず、アルトに連絡する為部屋の内線電話で掛ける。
「アルト、第一戦闘配備させて。右舷の機銃は弾幕張らせて。いいね?ボクも行くから」
(やっぱり軍隊なのかなぁ。お嬢さんの手際の良さ凄いよ。僕なんて一兵卒だからなぁ)
そんなことを自分には関係のないように心の中で呟いた。
お嬢は電話をガチャと切って、外に向かいながら指示をした。
「ボクはブリッジに行って指揮を執るから、君はここに居て。ここなら安全だから。それじゃ!」
扉はガチャリと閉まりその部屋に残ったのは、当然答えれなかった少年にも少女にも見える人と、相変わらず鳴り続ける緊急音だけだった。