プロローグ
まるで、空から落ちて行くような感覚だ。
重力を感じず、ジェットコースターが苦手な人だったら、気絶するような感覚だ。
なぜ、こんな状況にあるのかを確認するため、目を開けた少年はようやく、理解した。
本当に地上に向けて落ちていたのだ。少年は、あまりの恐怖で声も出せない。
意味もないのに、体をバタバタと動かす。
このままではあと数十秒で地面に叩きつけられ、内臓が潰れ、ぐしゃぐしゃになってしまうだろう。
少年が全てを諦めた瞬間、重力を一気に感じる。
少年の服の首もと掴んだ、一人の少女が、少年の目に入る。
その少女は、背中に数え切れないほどの蛇でできた羽で飛んでいたのだ。
「あ、あ」
少年は、[ありがとうございます]という言葉を思うように出せず、意味にならないものしか出ない。
少女は、少年をゆっくりと地上に降ろす。そして、背中の羽を消す。
「大丈夫?声も出ないぐらい怖がっていたけど」
少女の声は、とても綺麗で可愛いものだった。
少年は少女の質問に答える。
「だ、大丈夫なんですけど、ここは?」
「ん?ここは草原地帯だよ?」
「そうじゃなくて、ここの土地の名前を聞きたいんです。」
「そんなこと言われてもねえ、固定名がないんだよねえ」
「そうですか……」
少年は、ここがどこなのかを知りたかったのだが、自分の欲しい情報を得られず、少し落ち込んだ。
「じゃあ、あなたの名前は……」
「御嬢!ここにいらしゃいましたか。早く都市に帰りますよ!」
少年の話すところに、一人の男が大声で入り込んで来た。
「アルト……今は話してたのは見えなかった?」
「すいません……ですが御嬢!勝手に抜け出せれると我々も困るのですよ!」
御嬢と呼ばれた少女は、心底呆れた声で、アルトという男に話しかける。
アルトは一瞬、しゅんとなったが、すぐ先ほどのように、大声で話す。
「あ、あの……僕の事忘れてません?」
「あっ、ゴメンネ。ボクの名前だよね?最近自分の名前では呼ばれないから、御嬢でいいよ」
「おじょうさんか……よろしくお願いします。おじょうさん」
「君はなんて名前なの?ボクに聞いておきながらさ」
その言葉は正しい。普通人の名前を聞くときは、自分の名前から言うものだ。
「すいませんでした。僕は・・・・・・僕はあれ?」
何かが口の中から出ようとするがでない。そのような感覚で少年にも少女にも見える人は自分の名前が出せなかった。