第一話:ヘルヘブン
「沙ー夜架!」
突然、背後から私の名前を呼ぶ声が聞こえた。
振り向いたら、友達の七原美樹がいた。
「いっつも人の名前大きな声で呼ぶな!って言ってるでしょ!!」
私がそう怒鳴ると、「へへっごめーん」と反省している様子も見受けられない顔で謝ってきた。
「次言ったら殺す。」
「えーー?!ちょっ!ごめんなさい!今度から気を付けます!!だからそれだけは勘弁ーーー!!」
私がそう言うと、美樹は凄い形相で謝ってきた。
「ははっ、冗談だよ。」
軽く笑いながら言うと、美樹はあまり信じていないのか、「本当にぃー??」と聞いてきた。その返答に「本当だよ!」と返すと安心したのかため息混じりに「吃驚した〜」と胸を撫で下ろした。
「バ〜カ。信じないでよね!この鈍感人間!」
「うわヒドッ!そう言ってる沙夜架だって鈍感じゃん!」
「んなわけないでしょ。美樹、あんたの基準おかしいんじゃない?私は鈍感じゃなくて、鈍いだけ!」
「それが鈍感って言うんだよーー!!」
そう訳の分からない言い合いをしながら家路を歩いていた。
学校帰り、私達はお金があれば喫茶店等に寄ったりして帰っている。お金が無い時は別だけど・・・
暫く言い合いをしていたら、もう交差点に着いていた。この交差点で、私達は別れる。
「じゃ、またね!美樹」
「うん!バイチャー」
お互い手を振ってそれぞれの家路に着いた。
「ふぅ〜全く。美樹ったらいっつもあんなテンションで疲れないのかな・・」
【お前も元はあれじゃね?】
「キル!!」
ポツリとそう呟くと、後ろから私の発言に続けて話す声が聞こえた。
振り向くと、小柄な少年が背後に立っていた。
否、浮かんでいた。
【暇だからきちった☆】
「きちった☆じゃないわよ!見られたらどうするの?!」
私がそう怒鳴ると、“キル”と呼ばれた少年は
【良いじゃ〜ん。べ・つ・に!それにさ、俺の事見えるのって霊感が強い奴にしか見えないぜ?だって俺、幽霊だし。】
「あー。。もう、分かったわよ!でもね、周りの人間が見てみれば怪しいの!分かる??全く、この異世界じゃ霊が見える人間が少ないとかまぢムカツクんだけど!」
【まぁまぁ、人気が少ないからってんな事でかい声で言うなよ。それこそ怪しいぜ?】
地団駄を踏みながら怒鳴り散らしていると、キルが注意に入った。
「わかってる!」
【本当かねぇ〜?】
「本当よ!」
またちょっとした喧嘩をしつつ家路を歩く。
先程も話した通り、キルは幽霊だ。霊感が無い人間には見えない。つまり、端から見れば沙夜架は一人で話しながら歩いている怪しい人となる。
「全く。少しくらい部屋で待っててくれたって良いじゃない!」
【だって迎えに来ないと沙夜架、仕事サボるだろ。暇だし来てやってんの!!】
「はいはい!わかりました。で、今日の仕事は?」
【○○市の一番でかい交差点で轢き逃げがあって、被害者は病院に搬送されてまもなく死亡。被害者の名前は神城昌。そいつの魂を地獄天国に送る。今回の仕事はそれ。】
キルが簡単に説明すると、沙夜架は興味なさそうに「ふぅ〜ん。」とだけ呟いた。
「じゃ、さっさと着替えて行くかな。」
気が付くと、家の門の前まで来ていて、沙夜架はそれだけ言うと家の中へと入って行った。キルはその間、門の前で待っている。
言い忘れていたが、沙夜架は異世界の人間で、沙夜架の世界の人間は、全員沙夜架と同じように霊と暮している。その中で、一番霊感の強い者が国から選ばれた霊と共に別の世界へと飛び、その世界から自縛霊などのを霊を地獄天国に送るという仕事をしていたのだ。
沙夜架の世界は“Soul Person Country”と言って、霊と人間が共に生きて行くという世界で、別世界と違って、自縛霊や悪霊などもいないに等しい。だから異世界で自縛霊などが問題を起す前に、霊を地獄天国に送るという使命があるのだ。
「お待たせ!さてと、行きますか!」
【おぅ!】
着替えが終わった沙夜架は、キルをつれて○○市の交差点へと向った。
「あなたが、神城昌さんね?」
【ここはどこだ。何故私の足が無い、何故お前は私の名を知っている。】
「ふふ・・・質問の多い方ね。ここは○○市の交差点。ここであなたは轢き逃げに遭いました。・・・あなたは今、死んでいます。」
そう沙夜架は説明すると、神城は驚いたような表情をし、そして、悲しそうな表情をした。
【君は、私を迎えに来たのか・・・?】
神城がそう尋ねると、沙夜架は「ええ」とだけ答えた。
【なら早く私を天国にでも地獄にでも送るが良い。このままでは未練がましくて仕方がない・・・それに早く、あいつの元へと逝きたい。】
神城は切なそうな表情をし、沙夜架の方へと顔を向けた。
「あいつとは?」
【私の妻さ。4年前に事故でね・・・】
「・・・それは、済みません。思い出させてしまって。」
【良いさ、それに、私は妻の事を忘れた事など一度も無い・・・】
「愛していたんですね。」
【あぁ・・・。だから、早く妻の元へ――】
神城がそう言うと、沙夜架は軽く頷き、キルを呼んだ。
「やるよ、キル」
【了解!】
キルが言うと、沙夜架は瞳を閉じ、手を振り上げた。
「神よ――」
「この者は今、地獄天国への道を望んでいる。」
「この者は、地獄か天国、どちらの世界が相応しいか――?」
〔――ヘブン〕
「神城昌、天国へと導かん―――」
手を振り下げると、神城の周辺が光り輝いた。
光の中で神城は、にこりと微笑むと、【ありがとう】と言った。
「さてと、仕事終了!帰るよ!キル。」
【腹減った〜】
キルに呼びかけると、いやにも疲れたと言う顔でそう言った。
「霊もお腹空くのね。」
【んなわけねぇーだろ、なんとなくだよ、なんとなく!】
「ふぅ〜ん。じゃぁ恋もするの?」
【そんなの当たり前だろ!お前バカだろ!】
「何よ!あんただってバカなくせに!」
【なぁにぃ〜やるか?!】
「臨むところよ!」
そして二人は、また喧嘩をしながら家路へと着いた――。
××県○○市 神城 昌
天国
いつまでも奥様とお幸せに――