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第8章 ~ディシオン~

”人生とは選択の繰り返しである”

どこかでこんな言葉を聞いたことがある。

どんな些細な事柄でも選択を迫られ、そして様々な分岐を経た先に今がある。

そして、選択しなかった未来が来ることは、ない。

しかしながら人間というのは、来ることのなかった未来に、今とは違う現実に思いを馳せる生き物であると思う。

ん?結局何が言いたいのかって?

僕、東条未来は、その来なかった未来に、自らの選択によって選ぶことがなかった未来に思いを馳せているよってこと。

つまり、絶賛後悔中ってことです…。

「……大人しく連行されようとは思ってたけど…。その先のこと何も考えてなかったのはマズイよな」

右手と左手にかけられた手錠のようなものに目を向けながらぼやく。

人生初体験ですよ、手錠。

そんな初体験を異世界でしちゃったよ、僕。

……あぁ、笑えない。

「そんなに落ち込まないで下さいな。あなた様のおかげで、ルミア様と街民の関係が悪くなることなく解決したのですから」

僕の少し後ろを歩いている人から、少し年季の入った声がした。

とても優しい言葉をかけてくれるのは嬉しいのだけど、

「……どなたですか?」

僕はこの声の主が誰なのか知らない。

「あぁ、これは申し訳ございませんでした。私、ルミア様の執事をしております、セバスチャンといいます。以後、お見知り置きを」

「…えっと、名前がセバスチャンなんですか?」

「はい、そうでございます」

……悪魔だったりしないよね?

なんて失礼なことを考えてしまう。

しかし、

「執事がいるとか…。どれだけ偉いんだよ、あの子」

そんな偉い人に説教ぽいことをしてしまった僕…。

やばくない?

「いえ、偉い、という訳ではないですよ」

「…そうなんですか?執事といえば、いいとこのお坊ちゃんとかお嬢様の特権っていうイメージがあるですけど」

「確かに、貴族の御子息には大抵、執事が1人はいますが、ルミア様の場合はちょっと違いますね」

僕は前を淡々と歩く少女に目を向けながらセバスチャンの話に耳を傾ける。

「ルミア様のご実家が裕福ではないという訳ではございませんが、貴族という訳でもございません」

「それじゃあなんで、執事がいるんです?」

執事の人と話すなんて機会は滅多にないことなので、現在の自分の状況を忘れて会話を続ける。

「ルミア様は少し特別なんです」

「特別?」

「はい、さようでございます」

"特別"。

自分とそんなに年齢が変わらなそうな少女がそう呼ばれる理由。

気にならない、と言ったら嘘になる。

「……何が特別なんですか?」

「そうですね、この街の人も全員知っていることですし、あなた様にお教えしても良いでしょう」

少し間をおき、

「ルミア様は、愛されているのです。魔法を使う上でひつようふかけつな存在である"精霊"に」

「"精霊"?」

「おや?"精霊"をご存知ではないのですか?いやはや、本当に不思議なお方ですな」

そういって、年季のある声が笑う。

いやね?僕としても、知りたくなくて知らない訳じゃないんですよ?

突然、異世界に飛ばされたんだから仕方ないよね?

しかし、

「そろそろ、この声の主がどんな人なのか気になる…」

手錠をかけられ、前を歩く少女から伝わる、何かおかしなことしたら許さないよ、みたいなオーラを感じている身としては、挙動不審なことはしたくないのであるが…。

会話するときに、相手の目を見てはなさないのは失礼だよね!って言い訳をして振り返る。

なんか優しそうな人だからなるべくフレンドリーにいこう。

「そういえば、ちゃんと挨拶をしてなかったですね、セバス、、、チャンさん?」

誰もいなかった。

いや、正確に言えば、いた。

ただし、僕が振り返ったときの視界の下の隅っこに。

そっと目線を下げる。

すると、僕の腰ぐらいの高さに顔があって、その人物と目があった。

「えっと、セバスチャンさん?」

「はい、なんでございましょう?」

わぉ、人違いじゃなかったよ。

何かの童話に出てくる小人みたいだな。

ほんと、そのイメージにピッタリ。

そして何より、

「……小さい」

思わず素直な感想が口から出る。

「おや?ドワーフを見たことがないのですかな?」

「えっと、はい。初めてです」

「なるほど、それはなかなかに不思議ですな。基本的にどの街にもドワーフはいると思っていましたが、改める必要がありそうですな」

「あー、僕の話だけ聞いて認識を改めるのは良くないと思います、よ?もっとたくさんの情報を集めてからの方が……」

異世界から来たばかりなのだから、見たことがないのは当たり前。

そんな僕の話聞いただけで認識を改めて、実はそんなことありませんでした、ってなったら嘘つきのレッテルまで貼られてしまう…。

と、とにかく、怪しまれないような話を作ろう。

「えっとですね、あれです!僕、ほんとド田舎から出てきたばかりで…。

それでえっと、僕のいた村って普通の人間しかいなかったんです、、はい」

く、苦しい……。

「ほう、今の世の中になっても、ヒューマンしかいない村があるとは…。なかなか興味深いお話ですな」

あれ?もしかしなくても、ミスった?

き、記憶喪失です、って方が良かったかも…。

なんて後悔と同時に、セバスチャンが言った言葉で、初めて聞くものが出てきた。

「ヒューマン?人間のことですか?」

「まさか、ヒューマンという単語を聞くのも初めてなのですかな?」

な、なんて答えるのが正解なのだろうか…。

考えても仕方ない気がするし、さっきのド田舎から来たって話をなかったことに出来る気もしないし、このままで行くしかないか。

「そう、ですね。僕のいた村では、それこそヒューマン、でしたっけ?その、普通の人間しかいなかったので、他種族の名前なんて聞いたことも見たこともなかったです」

「いやはや、まだそんな場所があるのですか。私も割といろいろな所を巡ったつもりではいましたが、やはり世界は広いですな」

あれ?信じてもらえた感じ?

「ふむ。それでは、他の種族がどのようなものがいるかはご存知ですかな?」

「……えっ?」

「いえ、ヒューマンしかいない村から出てきたと言っておられたので、ドワーフ以外も知らないのではないのでは、と思いまして」

「教えてもらえるんですか?」

もしそうだとしたら願ったり叶ったりである。

この世界の知識に関しては、知って置いて損になるものはないだろう。

「構いませんよ。と言っても、数分もすれば屋敷に着いてしまいますから、その間だけという短い時間になってしまいますが、それでもよろしければ」

「是非お願いします」

「ふぉっふぉっ。良いですな、若いというのは。それでは、そうですな。まずは、種族がいくつあるかご存知ですかな?」

「種族の数ですか?」

ふむ、ゲームとかだと多くても15前後だろう。

その辺りの数字を言っておけば、あながち間違えてはいないと思う。

「……15ぐらいですか?」

「残念ながら間違いですな。この世界ーディシオンーに存在する種族は、全部で22種類ですぞ」

「……22」

正直驚いている。

22って流石に多過ぎじゃないか?

そして、さらっと世界の名前まで出てきたよ…。

「そうですな、まずはこの街ーヴェステンーにいる種族の説明から始めることにいましょう。まずは…」

「ちょ、ちょっと待って!」

思わず声を出して止める。

世界の名前とか、街の名前とか、ちょっと整理しないとわけ分からなくなるぞ、きっと。

えっと、この世界は、ディシオン。

この街は、ヴェステンだったな。

……なんか聞いたことあるようでない単語だな。

まぁ、いいか。

「すいません。続きお願いしてもいいですか?」

時間もあまりないので、説明の続きを頼む。

「では、まずはヒューマンの説明からまいりましょう。しかし、説明といいましても、ヒューマンという種族については私より、あなた様の方がお詳しいでしょう」

そう言ってセバスチャンさんはこちらを見る。

まぁ、元の世界の人間となんら大差がない、という条件なのだとしたら、僕の方がよく知っているだろう。

ただ、

「その、ヒューマンって種族は魔法って使えるんですか?」

種族が22種類もある、という話を聞いてしまうと、街の前であった盗賊の集団が、ヒューマンだったと断言できる自信はない。

ということは、ヒューマンが魔法を使うことができないという可能性だってある。

いやまぁ、出来れば使えるといいなぁー、とは思っているけどね?

「魔法ですかな?そうですな、生まれ持っての素質によるところは大きいですが、ヒューマンも魔法が使えますぞ」

聞いた?ねぇ、聞いた?

ヒューマンも魔法使えるってさ!!

ってことは、まだ僕にも希望はあるってことだよね?

生まれ持っての素質によるところが大きい、とか言ってたけど気にしない。

「それでは、次はドワーフについてにいたしましょう。しかし、ドワーフについても私の身体的特徴を見て頂ければお分かりになると思いますぞ」

そう言われた僕は改めてセバスチャンさんを見る。

背の高さは僕の半分よりちょっと大きいかなぐらい。

人間、もといヒューマンである僕が、人間の平均である7頭身であるのに対して、ドワーフであるセバスチャンさんは、4頭身ぐらい。

ただし、

「背の高さ以外に、ヒューマンとの違いってなさそうですよね」

「外見的特徴については、その点以外に違いはないかと。内面的なところになりますと、ヒューマンに比べて力があることぐらいですな」

なるほど、ドワーフの特徴は力が強いってところか。

ただ、比較対象がヒューマンだし、実際どの程度のものなのかは分からないけどね。

「次は、ワービーストとリアビーストについて説明しましょう」

「ワービーストとリアビースト?」

「はい、簡単にいうと、ワービーストという種族は半獣人。リアビーストが完全な獣人です」

「じゃあ、ルリちゃんとテト君はワービーストってことですか?」

「…ルリちゃんとテト君?広場であなた様のことを庇っていた子供たちのことですかな?」

「えっと、そうですね」

「あの2人はワービーストで当たっておりますぞ」

人の姿に尻尾や耳が付いてる人達が、ワービーストってところか。

なら、

「リアビーストっていうのは、それこそ完全に獣人って感じの人のことですよね?」

「その認識で問題ないですぞ。先ほどの広場にも何人かおりましたな」

徐々にではあるけど知識が増えていく。

知識が増えれば増えるほど、元の世界に戻るための方法に近づくのは間違いないのだからいいことだろう。

「子供たち以外に、最後まであなた様のことを庇っていらした方は、ドラゴニュートでしたな」

「ど、どら?」

「ドラゴニュートですぞ」

「リザードマンとかじゃないんですか?」

「リザードマン?はて、そのような種族はいなかったはずですが…。田舎ではそのような種族がいるという話を聞いたことがおありなのですかな?」

「いえ、そうゆう訳ではないのですが…」

もしかして、怪しまれてたりする?

なんて心配をしていたのだが、

「ドラゴニュートの特徴は、硬い鱗に全身を覆われている、という点と、ドワーフほどではないですが、かなり強い腕力がある、という点ですな」

「えっ?ドワーフってそんなに腕力強いんですか?」

「22いる種族の中で3番目ぐらいの強さだったと記憶しております」

トップ3!?

……セバスチャンさんと喧嘩だけはしないでおこう。

ドラゴニュートの人と喧嘩しても全く勝てる気がしなかったけど、目の前にいる人もっとやばい。

「この街に住む種族は、今までに紹介したヒューマン、ドワーフ、ワービースト、リアビースト、ドラゴニュート以外ではエルフと呼ばれる種族がおります」

「エルフっていうと、耳が尖ってて、魔法がめちゃくちゃ上手いって感じなんですかね?」

RPGの定番の設定を口にする。

「おや、よくご存知なのですな。えぇ、まさしくその通りでございます。ヒューマンとの違いといえば、その2点以外では、少しばかり肌が白く透き通っているように見えるというぐらいですな」

「肌が白いってことですか?」

「その解釈で問題はございませんよ」

なるほどね。これで外見的特徴だけだけど6つの種族の識別ぐらいは出来そうだな。

「ちなみに、この街にはいない種族って何があるんですか?」

「ふぉふぉふぉっ。勉強熱心なことですな」

「そうですか?まぁ、知識は多いに越したことはないですからね」

「そうですな、教えて差し上げたいのやまやまなのですが…」

そう言ってセバスチャンさんは前を向く。

それに釣られるように僕も前を向くと、街の頂上にあった白い建物の前にいた。

「……話に夢中だったから、ここまで登ってきてたことに気がつかなかった」

「申し訳ございませんが、ここまででございますな」

「……えっ?」

「目的地に着いてしまいましたので、続きはまた次の機会に致しましょう」

それだけ言って、セバスチャンさんは家の回りを囲っている門の扉を開ける。

「ようこそ、ここがルミア様が現在住まわれているお屋敷になります」

「そして…」

今まで無言を貫いていたルミアが口を開く。

「あなたに危険がないと判断するまで、あなたが住む屋敷でもあります」

こうして、入ってみたいなって思っていた街の頂上にある屋敷に入ることができた。

……罪人というか、なんか怪しい奴と思われているという最悪な状況ではあるけどね。

ほんと、これからどうしよ……。


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