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第7章 ~信頼~

とりあえず、今までのことを振り返ってみよう。

時計の今の時刻が15時半ちょっと前。

ってことは、約7時間前に、僕はこの世界に来た訳だ。

そこから、5時間歩いてこの街の外に着いて、そこで盗賊に絡まれたんだな。

そこから、30分後には街の中にいて、さらに、30分後には街の頂上で異世界を実感。

疲れたのと、空腹からこの広場に降りてきたのが1時間ちょっと前。

そして、ルリちゃんとテト君が喧嘩してるのを見つけて、腹話術を使って人形劇をして、終わったのが数分前。

うん、たしかこんな感じだったな。

「もしもし?聞こえてますか?」

それにしても波乱万丈だよな。

突然、異世界だもんな。

ほんと、びっくり。

「聞こえてないんですか?」

しかし、お金がないのはツラいよな。

どうにかしないといけないな、うん。

「……絶対聞こえてますよね?」

………駄目だ。

そろそろ聞こえない振りが使えなくなるな。

「えっと、聞こえてます…よ?」

目の前に立つ少女のことを見ながら答える。

ぱっちりとした紺色の瞳。

腰ぐらいまで伸びた透き通るような水色の髪。

夢に登場していた少女と寸分違わない姿。

「……他人のそら似、とかだったりは、、、しないよな」

現実逃避するためにしていた、今までの回想をやめて、改めて目の前に少女を見る。

………うん、全く同じだね。

「認めるしかないよな…」

人生、諦めが肝心。

そんな言葉が頭に浮かんだ。

「聞こえていたのなら、もう少し早く返事をしてもらいたいものです」

ルミア、と街の人々に呼ばれていた少女が愚痴をこぼす。

「えっと、それで僕に何の用ですか?」

ーそして、あなたは僕のことを夢で見たことがありますか?ー

この質問は、心の中でした。

理由は単純。

今までの彼女の態度をみるに、恐らく僕のことを見たことはない。

もし知っていた場合、多少なりとも反応があるはずである。

そんな状況で、こんな質問したら自分の立場がいっきに悪くなる可能性がある。

………ただでさえ、状況悪いのに…。

これ以上悪いなったら本気でヤバい。

でもさ、現実逃避ぐらいしてもいいよね?

見るたびうなされてた夢の中に出てた女の子がいきなり目の前に現れたんだよ?

なんの冗談だよ、ってなるよね?

………はい、ちゃんと現実見ます。

「この広場に見たこともない術を使って子供をタブらかしてる奴がいるって連絡があったんですよ」

現実をちゃんと見る、と心の中で決意したところで少女は話かけてきた。

「…変な術を使って子供をタブらかしてる奴?」

この広場には1時間ほどいると思うけど、そんな奴をみた覚えはない。

「僕、1時間ぐらい前からこの広場にいるけど、そんな奴見てないぞ?」

思ったことをそのまま口にすると、

「そうですね。変な人というのは、決まってそうゆうことを言いますね」

……あれ、なんかおかしくない?

その言い方だと、僕が変な人みたいじゃない?

僕あれよ、子供が喧嘩してたから、腹話術使って人形劇してただけだよ?

…………ん?

変な術ー腹話術ーを使って、子供の喧嘩を止めるために人形劇ー子供をタブらかーしてる奴…。

もしかして、もしかしなくても僕のことですか、それ!?

という、心の中の問答は、真相から受けるダメージが大きすぎて、口から出ることはなかった。

顔から血の気が消え失せた僕に救いの手を出してくれたのは、またしてもルリちゃんとテト君だった。

「ちがうよ、ルミアさま。このおにいちゃん、ぼくたちのけんかとめてくれたんだよ!」

「そうだよ、ちがうよ、ルミア様」

「……喧嘩を止める?」

聞いていた話と違うのかルミアは首を傾げている。

すると、周りにいた人たちも、

「そうですよ、ルミア様。そのにいちゃんが不思議な術を使ってたのは事実だが、子供をタブらかすってのは間違いだ」

「喧嘩止めるために人形劇をしてくれたんですよ」

「………」

何かを考えるように黙るルミア。

少しして、

「……そのフクワジュツというものを私にも見せてくれないですか?」

「えっと…?」

「実際に見ていないものを危険なものかどうか判断するのはいかがなものかと思いましたので、実際に見せていただきたいなと」

正論である。

しかし、

「ちょっとでも怪しいって思われたら、僕やばくね?」

今まで乱立してきた死亡フラグを回収するチャンス到来!

いや、チャンスじゃないよ!?

むしろピンチだよね!?

自分でボケて、自分でツッコミをいれられる程度には落ち着いてると思う。

「……分かりました。ちょっと準備するので待ってもらっていいですか?」

「はい、大丈夫ですよ」

許可が取れたので、準備に取りかかる。

流れ的に断ることは出来そうにないので、話がややこしくなる前にこちらからやるっていう方向で話を進める。

ここで渋るよりは怪しまれずにすむ、という判断なのだったのだが、

「何の抵抗もせずに……。怪しいですよ…」

後ろから聞こえた声に、ちょ!?疑り深すぎない!?、と思ったりした。

そんなこんなで準備も終わり、

「えっと、僕が出来る話がさっきやってた”道化と姫”しかないので、演目はそれでいきたいと思います」

2体の人形と、ルーズリーフに描いたドラゴンの絵を見せつつ、恐る恐る聞く。

「内容はお任せします」

「…じゃあ、始めますね」

と、始めようとしたところで、心配そうにこちらを見つめるルリちゃんとテト君と目が合う。

「そうだ、さっき見ていた人は、ちょっと退屈かもしれないので、帰りたい人は帰っていただいても…」

「ここにいるもん!」

「ここにいる!」

僕の台詞を途中で遮ったのはルリちゃんとテト君。

その2人を皮切りに、

「おいおい、にいちゃん。ここまで来て帰るって選択肢はないぜ」

「そうよ。それにさっきの途中からしか見てないのよ」

ほんと、さっきからいろんな人に励まされてばっかりだな。

「それでは、人形劇”道化と姫”を始めたいと思います」

そして、この世界にきてから2度目の人形劇を始めた。

1回目のときに比べ、腹話術が受けるかどうかは分かっているし、たくさんの声援ももらってる。

目の前にルミアと呼ばれた少女が座っているため緊張感だけは1回目よりあるかもしれないけど、リラックスはできている。

なにより、2回目ということで、間の取り方に馴れたため、先程より円滑に劇を進めることができた。

そして、約20分後。

「めでたし、めでたし」

本日2度目の、目の前に座る少女の印象次第で、僕の運命を大きく左右する劇が終わった。

僕としては会心のできだったと思うのだけど、人によって感性は異なる。

……うわ、また緊張してきたよ。

周りの人々も、少女の反応を待っているのかとても静かである。

何分そのまま黙っていたのかは正直分からない。

そもそもの話、腹話術を見せてくれと言われたのはいいが、それで何を判断するのかも分からない、という状況で劇をやっていたので何に気を付けて腹話術をすればいいのか検討も付かなかったよ?

てか、話の中心にいるのは僕のはずなのに、一番僕が話に付いていけてなかったんだけど、と今更心の中で葛藤していると、

「……ありがとう。劇自体はとても面白かったですよ」

なんて感想を頂けた。

あれ?実はなんとかなったりしちゃう?

なんて、思ったいたのだが、

「それでは、単刀直入に私が感じた結果だけを伝えましょう」

………え?

面白かったですよ、で終わりじゃないんですか?

「……その前に、1つ確認をしておきたいのですが、フクワジュツ、というのは口を開かずに声を発する術のことでよろしいですか?」

「えっと、はい。大丈夫です」

「君たちもそれで大丈夫?」

僕だけでなくルリちゃんとテト君にも確かめる。

「そうだよ、ルミア様」

「そうだよ」

「そう、ありがとう」

再び僕の方を見る。

「最初、私はフクワジュツというものは新しい魔法あるいは魔術だと思っていました」

そして語りだす。

「なので、彼がフクワジュツを使っているときは必ず魔力の反応を調べていたのですけれども、何も感じることができませんでした」

思わず見とれてしまうほど凛々しく。

「そのため、この人が使っていたものは、魔力や魔道具を使用せずに使えるもの、つまり、”呪い”の一種だ、というのが私の出した結論です」

「えっ?呪い?」

腹話術の正体を知っている僕としては、何を言っているだ、という感じなのだが、腹話術の正体を知らない人達にとってはそういう訳にいくわけもなく、

「…の、のろいだぁ?」

「ほ、ほんとかよ!?」

「でもルミア様が言っているのよ!それに、あの子の服見たことないものよ」

そんな言葉が聞こえる。

僕としては突然ありもしない罪を擦り付けられた気分である。

呪い?そんな上等なものでないです!

そう謂って信じて貰えるなら言うつもりではあった。

しかし、この場において、僕という存在はイレギュラーでしかない、というのを十分理解しているため、何を言っても無駄だろう。

諦めて一回捕まった方がいいのではないか?という考えが出てきていたのだが、またしてもそれを遮る人がいた。

何を隠そう、ルリちゃんとテト君、そして先程から僕のことを庇ってくれている人達である。

「ルミア様、ちょっと待ってくれや」

そういって1人のリザードマンらしき人物が前に出てきた。

どこかで見たことがあるな、この人。どこでだ?

「兄ちゃんはさっきぶりだな。俺とぶつかってから数時間以内にこんな大事を起こすやつだとは思ってなかったよ」

ぶつかって?

まさか、この街に入ったところでぶつかった人!?

「……知り合いですか?」

「ん?いや、知り合いってほどではないですよ?数時間前に、通りでぼーっとしてた兄ちゃんとぶつかったってってだけでさぁ」

怪しむルミアにそう答える。

「ところで、ルミア様。この兄ちゃんが使っていたのが”呪い”だって確証はあるんですかい?」

「…いいえ、確証はないです。それでも、魔法や魔術の類いではないということは、”呪い”の類いである可能性が極めて高いです」

「んじゃ、この兄ちゃんが使っていたのが”呪い”だとしてだ、それが害のあるものだって確証はあるんですかい?」

「害のない”呪い”というものを私は聞いたことがありません」

「次で最後の質問でさぁ。この兄ちゃんが悪い”呪い”をこの街に広げにきたとしてですよ?子供の喧嘩を止めて、尚且つ、こんな目立つようなことをすると利点があると思いますか?」

「………それは、確かにそうですが…。危険なものの可能性がある以上見過ごす訳にはいきません」

そこで、ルリちゃんとテト君も会話に混ざる。

「でも、ルミア様。このおにいちゃんがいなかったら、わたしとテト、まだ喧嘩したままだったよ?」

「そうだよ、ルミア様。このおにいちゃん、僕たちの喧嘩止めてくれたんだよ?」

「……うっ。それは…」

言葉に詰まっているのはルミア。

「それでも、駄目です!やはり危険が少しでもある以上、彼の身柄は一度拘束します!!」

……ん?拘束?

何それ聞いてないですよ!?

なんて目で訴えたところで通じる訳もなく、

「ここにいても何も解決しそうにないので、一度一緒に来てもらいますよ?」

そういって手を捕まれる。

しかし、それを許さない人もいた。

「ルミア様、ちょいと待ってくだせぇ。まだ話は終わってませんぜ?」

「そうだよ、ルミア様。このおにいちゃん連れていかないで!」

「いかないで!」

どんどん話が拗れてきている。

話の中心にいるのは僕なのに、僕以外の人がもめている。

僕のせいで街の人を巻き込んだ大事になってしまっている。

もちろん、これが自分だけが悪いとは思ってはいない。

そこまで愚かではない。

それでも、なんか嫌なんだ。

僕が原因で、周りがもめるのは。

僕のせいで、今まで仲が良かったであろう人達の関係がおかしくなってしまうのは。

分かっている。ここで何か言おうものなら、僕の状況が悪くなることぐらい。

それでも……。

僕が悪者になればこの場が収まるのであるなら…。

僕のことを庇ってくれた人た

ちと、目の前にいる少女が築きあげてきた信頼関係を守れるのであれば。

柄じゃないけど悪者になるよ。

「あっと…。なんか盛り上がってきてるところ悪いんですけど、いいですか?」

なるべく軽い口調で、

「”呪い”ですよ?腹話術って」

嘘を付いていることがばれないように、

「なんで、連行するなら、僕が他に何かする前にした方がいいと思いますよ?」

僕だけが悪者になるように話す。

真っ先に反応したのは、ルミアだった。

こちらを向き驚いた顔をしたあと、まるで全てを悟ったかのような表情をした。

少し遅れて、ルリちゃんとテト君が僕の方を向き、

「……おにいちゃん、悪い人だったの?」

「僕たちの喧嘩止めてくれたのに?」

「……そうだね。悪い人だったのかもしれないよ?だから、もう僕みたいな悪い人に頼らなくても大丈夫なように、喧嘩なんてしちゃ駄目だよ?」

「……うん、わかった」

「……うん」

頷いてくれた、僕にはそれだけで十分だ。

次に僕に話かけてきたのはリザードマンのおじさんだった。

ルミアの反応、そして、僕とルリちゃんとテト君の会話で、僕の考えたことがだいぶ分かったのだろう、少し寂しそうな、悔しそうな顔をしていた。

「…兄ちゃん、あんた……」

僕は、自分の考えが気がつかれたことに気づかない振りをして、

「……駄目ですよ?僕のことなんて信じちゃ。見ての通り怪しい奴ですから」

自分の服を見つつ、少しヘラヘラしながら答える。

「僕は悪い”呪い”を使う人間なんですから。僕なんかを庇うより、”様”をつけて呼ぶほど信頼している人のことを信じてあげてください」

それだけ伝える。

そして、最後にルミアと呼ばれた少女の方に向かう。

「…なんで、あんなことを言ったのですか?」

「さて、なんでだろう…。僕にも分からないよ」

「…………」

少女は黙ったまま。


だから一言付け加える。


こんなものをただのお節介だ。


きっと余計なお世話だろうし、この子はきっとそんなことは百も承知なんだろう。


実際、僕は外から来た人間で部外者以外の何者でもない。


それでも、一言言いたかったから言う。


ここまて来たんだ、余計なお世話の1つも2つも変わらないでしょ?


「……あんた、”様”を付けて呼ばれるほど街の人たちに慕われてるんだろ?」


少女は頷く。


「だったら、あんたのことを慕ってる街の人たちのことは信じてやりなよ。それが慕われてる者がするべきことで、決して違えちゃいけないものだと、僕は思うよ」


そして、僕は彼女の横を通り過ぎる。


僕が言ってやりたいことは全て言った。


あとは、最悪と言っていいほど最悪なこの状況をどうにかする方法を考えて、そして、なんとかして元の世界に戻る方法を見つける。


でも今は、大人しく連行されますかね。

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