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第5章 ~異世界~

盗賊から逃げ、街の入り口と思われる門を通過してから5分。

ひさびさの全速力でのダッシュの息切れから回復した僕は階段を上っていた。

門をくぐったらすぐ街が広がっているだろうと思っていたのだが、街に入るためには長い階段をのぼる必要があったのである。

おそらく、何かしらの襲来があったときに、その侵入者がすぐに街に入ることができないようにという配慮なのだろうが、

「はぁ、はぁ…。5時間歩いて、さほど休む、、はぁ、間もなく全力で走た、ばかりの僕に、この長さの階段は拷問、でしかないんだけど…」

全力で走らざるを得ない状況を生み出してくれた盗賊たちに感謝である。

もちろん、悪い意味で。

「しかしまぁ、盗賊との遭遇で分かったことも結構あったし、プラマイで考えると、むしろプラスなのかもしれないな」

盗賊に遭遇したことは間違いなくマイナスだろう。

ただ、盗賊との会話から得られた情報は、そのマイナスを補って余りあるほどのプラスだった。

まず、この世界における言語である。

書く方、つまり、筆記についてはまだ何とも言えない。

しかし、話す言葉。

会話をする上で用いられる言語が、日本語、とよばれるのかどうかは分からないが、少なくても未来がいた世界で言うところの日本語と全く同じ文法を使っている、ということが分かったのは大きい。

もちろん、元の世界の諺みたいな、特殊なものの意味が通じるかは分からないが、普通の、ごく一般的な会話が成り立つのは大変助かる。

「ほんと、良かった。これで、言語が通じてなかったら、盗賊から逃げることすら出来なかっただろうからな…」

そして、もう1つ、街に入る前に確認出来て良かったことがある。

「通貨が”円”じゃないってのは、分かって良かった」

知らずにいた場合、現在のお腹の減り具合から、通貨が円だと勝手に決めつけ、後先考えずに、店先に並んでる果物とか食べそうだったしな…。

「そんなことしてたら、異世界で命落としかねないからな。くわばらくわばら」

しかし、ここで1つ再確認できた問題がある。

”円”が使えないということは、

「マジもんの一文無しなのか、僕…」

なんとも悲しい現実である。

心に新しい傷を負いつつ、階段を上がり続けること10分。

僕はようやく、異世界で最初の街に入ることができた。

「なんというか、ファンタジー?」

街に入って真っ先に目に入ってきたのは、レンガをふんだんに使って造られた建物の列だった。

僕自身は直接見たことはないのだが、テレビなのでヨーロッパの街並みとして紹介されていたような、赤と茶色のレンガを基調とした家が並んでいた。

「直接見てみたい、と思っていた風景ではあるのだが…。異世界感全くないな」

素直な感想である。

しかし、そんな感想は、それこそ一瞬で一掃された。

家から目を外し、車が3台ぐらいなら余裕ですれ違える広さの通路に目を向ける。

そこにいたのは、ゲームで言うところの”リザードマン”と呼ばれる種族のような格好をした人?だった。

「おい、兄ちゃん。そんなところに突っ立てると通行の邪魔だぞ」

なんと声をかけられてしまったよ!

なんて歓喜に浸る余裕がないのは内緒である。

あぁ、盗賊の方が良かったかもしれない。

リザードマン、超怖い!?

「えっと、すいません…」

やっとの思いで返事をして、脇に逸れる。

「いや、分かればいいんだ。すまないな、驚かすつもりはなかったんだ」

そう一言告げて、そのリザードマン?は進んでいった。

「………っ!」

前言撤回!人、というかリザードマンを見た目で判断しちゃダメ!

中身めっちゃ好い人じゃん!!

そんじょそこらの日本人なんかよりよっぽど好い人だよ!?

リザードマンのおじさん?お兄さん?見た目だけで怖いとか言ってゴメンなさい…っ!!

心の中で、遠ざかっていく背中に謝る。

「……さて、どうしたもんか」

背中が見えてる間、謝り続けたのだが、ついに見えなくなったので、現実に帰ってきた。

「とりあえず、街の全体が見えそうなところに移動しますか」

街全体を見渡せる場所。

つまり、街の一番高いところを目指す。

街の形が円形なのは、外壁の形から想像がつく。

外壁から遠ざかるように登り坂が続いているので、恐らくは、ちょっとした山のようなものの斜面に家を立てたのだと考えられる。

さきほど登っていた階段の回り、階段を囲う壁の反対側にも家があるので、斜面が終わり平地になったところに外壁を建てたんだろう。

「それにしても…。街にいる住人は異世界って感じ凄いするな」

さっきまでは目の前のリザードマンしか目に入っていなかったが、少し落ち着いた状態で周りを見て思う。

一番分かりやすいのは、リザードマンであるが、他にも、人間の頭から耳、おしりの辺りから尻尾が生えているといった姿の人や、少し耳が長くて尖った、ゲームでいうところのエルフのような姿をした人もいる。

普通の人間、未来となんら変わらない人もいるのだが、まさに異世界って姿をした人に比べれば少数である。

そして、何より驚いたのが、髪が黒い人が全くいないことである。

リザードマンはそもそも髪という概念がなさそうなのでいいよだが、獣人は赤みのかかった髪が多く、エルフは金髪の人が多い。

まぁ、ここまではゲームなどでも似たような感じなのでいいとしても…。

ときどきいる普通の人たちですら、髪が黒くないのである。

茶色の髪の人が多く、赤や金がときどきいるという感じなのだが、黒い髪をしている人がいない。

「やっぱり、色素が違ったりするのかな」

そんな感想を持ちながらひたすら坂を登る。

とにかく、疲れました、はい。

「ふぅ。けっこう高いところまで来たな」

街の外観や、そこの住人を堪能しながら歩くこと20分弱。

割りと高いところまできた。

道中、割りと注目を集めていた気もするが、恐らくは、僕のこの格好と黒い髪が珍しいんだろうな、と高校の制服に目をやり、髪を少しいじりながら思う。

「服装も、変えないと駄目だよな。盗賊に貴族と間違われたってことは、この街の人たちにも間違われてる可能性あるし…」

髪に関しては染めるという手段があるといえばあるが、そのために必要なものは何ひとつとして持っていない。

それに何より、髪を染めると禿げる、という噂なのか事実なのかよく分からない話を学校で聞いて以降、髪は染めないと誓った僕としては、髪に対してできるアプローチは髪型を少し変える程度である。

だって、禿げるんだよ!?

禿げるぐらいだったら、一生黒い髪のままでいいよ!?

そんなことをぼやきながら、坂を登っていると、頂上が見えてきた。

「やっと終わりが見えてきた……。ん?」

街の一番高いところ。

そこにある家が、今まで見たきた家と全く違うので少しびっくりした。

「まだ遠いから、結論は出せないけど…。あの家、白いのか?」

そう、頂上にある家は白かった。

恐らく、街で一番偉い人が住んでいるか、会議か何かで使われる少し変わった建物なのだろう。

「あとでちょっと行ってみたいな」

盗賊に囲まれ、リザードマンと会話したことで、焦りというものは完全に消え、好奇心が圧倒的大多数となり、観光気分となっている自分がいる。

慣れってほんと怖い。

そんなこんなで、すでに頂上付近まで来た。

残念ながら頂上にある白い家の周りは塀で囲まれていたため、近くまでいくことは出来なかったが、その近くに展望台のような、少し高くなっているところがあったのでそこへ行く。

「これは…。凄いな」

それが高台から街を見た感想。

人間、ほんとに凄いものを目にしたときには、凄い以外の言葉が出ないものである。

ここから見えるのは街の半分程度だが、もう半分も同じような構造をしているのだと仮定すると、街の全体像が見えてきた。

頂上にある白い家を中心に道が一直線に一番下まで延びている。

その途中、ほぼ等間隔で、円形の通路が、下り坂と下り坂を繋いでいる。

そして、街を囲う外壁の外。

そこに広がるのは、ただ一面の緑。

きれいな草原だけ。

「これが異世界…っ!」

このとき僕が感じていたのは、喜び、だったのだと思う。

ただただ、目の前に広がる景色に心を奪われていた。

現状自分が置かれている状況を忘れるほどの感動があった。

盗賊に囲まれたときも、リザードマンに話かけられたときも、まだ実感がなかった。


どこかで、夢を見ているのではないか、と思っていた。


でも……。


この景色は本物だ。


それだけは分かる。


異世界に飛ばされて、6時間半。


僕、東条未来は、異世界を”実感”した。

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