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第4章 ~遭遇~

異世界に迷いこんで、はや5時間。

僕は街にいた。

いや、正確に言うのであれば、街の外、街を囲う外壁の前にいた。

「どうやって入ればいいんだ、ここ…」

まず、門が見当たらない。

きっとあるのだろうけど、すでに疲労がピークに達しているため、門を探すために外壁に沿って歩く、という行動をとることができない。

だって、5時間も歩き続けたんだよ!?

どこのどいつだよ、10kmも歩けば着くだろう、とか言ってた馬鹿野郎は!!

…………自分でしたね、はい。

「なんか災難だよな、僕…」

道中ひたすら魔法が使えるかどうかを試した。

四大元素と光、闇属性で、今までゲームの中で見たことがある魔法全てを試したと言っても過言ではない。

それにも関わらずだ…。

何1つ起こらなかった。

火が出ることも、水が湧くことも、風が吹くことも、大地が割れることも、まばゆい光が出ることも、暗闇が生まれることもである。

結局、自分が知っている属性の魔法の適正がない、という結論を認めることになってしまった。

なんというか、とてつもなくツラかった。

ただでさえ、心に傷を負ったばかりだというのに、やっと辿りついた街には入れない。

もう本気で泣いていいではないだろうか?

「てか、泣きたい…」

だからと言って、泣いていても解決する訳がないことは重々承知しているので、泣くことはしない。

「とりあえず、少し休むか。町の真ん前にいる訳だし、もしかしたら誰か通るかもしれないからな」

誰か通ってくれればいいなー、という期待を抱きながら休む。

しかし、このときの僕はわすれていた。

異世界に召喚された主人公が、避けては通れないイベントがあることを。

町の周りをうろつく人間が、善人ばかりではないことを。

そう、そのイベントとはつまり、盗賊やチンピラといった、ちょっとした悪い人たちとの遭遇である。

「町を囲う外壁の周りに広がるのが草原だからって、ちょーと油断しすぎたかな…」

休憩をしはじめて15分後、いかにも盗賊です、みたいな格好をした5人組に囲まれていた。

少し、いや、かなり疲れていたとはいえ、警戒していなかった訳ではないのだが……。

いやはや、本物の盗賊、かどうかは分からないが、さすが異世界!といったところだろうか。

囲まれるまで全く気がつきませんでした。

それどころか、この人たちに脅すような感じで声掛けられるまで人がいたことにすら気がつきませんでしたよ!

………ほんと、なんで気がつかなかったんだろ…。

自己嫌悪に陥りそうになるが、そんなことしてたら、ただでさえ着の身着のままの状態なのに、元の世界から持ってきてたものすら、鞄とかすらなくなってしまう。

さて、どうやって逃げ出したものか…。

てか、そんなにビビってない自分にびっくりですね!

「まぁ、異世界に飛ばされるっていうことに比べれば、ねぇ…」

でも、ほんとどうしよ?なんて考えていると、

「おい、てめぇ!持ってる金目のもの全部置いてきな!」

なんていう、ありがちな台詞を言われてしまった。

「どーでもいいけど、僕の格好には違和感を覚えないのかな……」

なんて緊張感の欠片もないツッコミをしてしまう程度には落ち着いている。

いや、この状況で落ち着いてるのもどうかとは思うけどね…。

「おい、聞いてんのか!」

「えっと、聞こえてはいます、よ?」

「ならさっさと金目の物だせや!」

「金目の物と言われましてもね…。信じてもらえないかもしれないですけど、僕、この世界の人間じゃないんで、何が高価なのかとか全く分からないですよ」

正直に答える。

「……ねぇ、お頭ぁ。こいつぁ頭おかしいですぜぇ?」

「おぅ。そうらしいな」

……盗賊に頭おかしいって言われた、少し傷つく。

いやまぁ、確かに今のは僕が悪いのかもしれないけどね?

そんなずばって言わなくてもいいじゃん!!

せめて、僕に聞こえないよう話す気遣いぐらいみしてくれても良くない!?

と、心の中で盛大にツッコミを入れる。

でも、頭がおかしいって認識されて見逃してくれるなら安いか、なんて考えていたのだが、

「でもよぉ、こいつ、なんか高そうな服着てるぜ?どっかの貴族なんかじゃねのか?」

「言われてみりゃ、そうだな」

……今このときほど、高校の制服を恨んだことはないだろう。

「頭がおかしいってのはこの際どうでもいい!!さっさと金目のもんだしな!」

どうやら見逃してもらえないらしい。

とりあえず、時間を稼ごう。そしたら誰か助けてくれるかもしれないし…。

「えっと、ですね。金目のものを出すのはいいのですけどね?その前におひとつ聞きたいことがあるのですが…」

おっかなびっくり盗賊に聞いてみた。

「ん?金目の物は出すんだな?」

「ええ、もちろん」

「んじゃ、答えてやるよ!何でも聞きな」

「それでは遠慮なく。さっき僕に気がつかれずにかなり近くまできてましたよね?あれ、どうやったんですか?」

疑問に思ってたことを聞いてみた。返答によっては、知りたかったことが分かるかもしれない。

「んなもん簡単だ。魔法だよ、魔法」

「……今なんと?」

「だからぁ!魔法だよ!闇属性の気配を感ずかれ難くする魔法だよ!」

あぁ、神様!!この世界に呼んでくれた神様!!

魔法のある世界に僕を呼んでくれてありがとう!

今の状況を、盗賊に囲まれて割りとピンチな状況を忘れて歓喜した。

だって魔法あるってよ!?

あぁ、ファンタジーの世界最高!

なんて歓喜してると、ふと、この場を切り抜けられるかもしれない方法を思い付いた。

でも、そのためにはもう1つ確かめなければならないことがある。

「おい!質問に答えてやったんだからさっさと金目のものだせや!」

「すいません…。もう1つだけ確認させて下さい。この世界の通貨って”円”ですか?」

「何いってやがる。んなもん、”リム”に決まってんだろうが!んなことより、金目のものだ」

その解答を聞いて、僕は鞄から財布を取り出し、その中から4枚の”1円玉”を手に取り、盗賊に見せながら答えた。

「これはつい最近発見された、とても、そりゃもうとてつもなく高価な金属です。これを皆さんに渡したいと思います」

「ほぅ。そりゃなかなかいいもん持ってるじゃねぇか」

目の色を変えて、盗賊たちは1円玉を見つめている。

「でも、1つ問題があります。これは恐らく、この世界に4枚しかありません。そして、盗賊の皆さんは5人います。なので、1人もらえない人が出てきてしまいます」

嘘は言っていない。異世界に飛ばされる人間がそうそういるとは思えないし、それが日本人で都合よく1円玉を持っている可能性は低い。

ついでに言うと、僕はもう1円玉を持っていない。

僕は腕を野球の投手のように振り上げつつ、

「なので…。早い者勝ちにしましょう♪」

1円玉を、街の外壁とは反対側に全力で投げ、それと同時に街の方へ向かって全力で走り出した。

案の定、盗賊たちは我先にと、1円玉を追っていったため、僕のこと追ってくることはなかった。

ついでに、外壁に沿って10分ほど走ったところに、街へ続く門を見つけた。

街に入るまで生きた心地がしなかったのは、言うまではないだろう。

何はともあれ、無事盗賊から逃げおおせ、街に入ることもできた。

とりあえず、良かった、割りとマジで。

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