第3章 ~特殊能力~
町らしき何かを発見、出発から30分。
僕の中では自問自答が繰り返されていた。
題材はずばり、”特殊能力”についてである。
だってあれでしょ?
異世界に飛ばされた主人公って何かしらもの凄い能力持ってることが多いでしょ?
僕が主人公かどうかはこの際どうでもいいけど、異世界に飛ばされたって事実は変わらない訳なのです。
つまり……。
何かしらの特殊能力に目覚めているかもしれない!
そんな訳でいろいろ試している訳です。
「よくありがちなのは、身体能力がめちゃくちゃ上がるってやつかな」
残像が残るスピードで動けたり、パンチ1つで建物壊したり。
「ちょいと試してみますかね」
とりあえず、屈伸運動。
そこからのジャンプ!
うん、いつもと変わらないな。
「ジャンプ力が上がった訳ではないと…。ってことは身体能力については何も変わってない可能性が高いな」
それでも一応他の運動もしてみることにする。
ダッシュ。変わらない。
パンチ。変わらない。
キック。変わらない。
「………」
結論。身体能力は上がってない。
「身体能力以外となると…。魔法が使えたりとかかな?」
めげることなく他の可能性を探る。
だって、特殊能力とか格好いいじゃん!!
「そもそもの話、この世界に魔法的な何かってあるのかな?」
世界そのものに魔法がない。そんな可能性もありえる。
しかし、そんなことで諦めたりしない。
むしろ、ポジティブに考える。
「魔法がない世界だった場合、僕だけが魔法使えたら、それこそ、勇者みたいなポジションでしょ?」
ほんと、無駄にポジティブある。
「さっそく試しますよー!ゲームとかだと簡単な呪文を詠唱したりしてるが、、、。とりあえず、何か言ってみるか」
手を前につきだしながら一言。
「も、燃えろ!」
沈黙。
「さすがに、一言だけだと駄目みたいだな…」
気を取り直してもう一度。
「ファイヤー!」
沈黙、再び。
「……。英語にしても駄目か。そもそも、どっちも一言だしな。次は何かしら呪文みたいなの言ってみるか」
ゲームとかでありそうな台詞を思いだしながらやってみる。
「炎の精霊よ、盟約に従い、我が元に集い、全てを焼き尽くせ!」
沈黙、以下省略。
「………。だ、駄目だな。盟約とか契約って入ってる呪文だとマズイ…」
なんせ、この世界に来てから、自問自答しかしていないのである。
誰かと契約を交わすとか、不可能にもほどがあった。
「しかも、なんか上級魔法ぽい呪文だったしな!最初だし、誰にでも出来そうな簡単な魔法からにした方がいいな」
だんだん勇者というポジションから離れている気がしなくもないが、魔法が使えるかどうかの瀬戸際である以上、四の五の言ってられない。
息を整え、唱える。
「闇夜を照らす淡き炎よ、出でよ」
そのとき、手元が光った!
魔法が存在するかどうか分からない世界ではあるが、元の世界では決して使うことができない”魔法”という神秘の力を使うことができたのである。
これだけで、この世界に飛ばされて良かったと思えることができた!
これで僕も特殊能力者の一人だ、やったぜ!!
なんて妄想をした。
もちろん、手元が光ることもなかった。
手元が光って見えた、というところから完全に、100%の願望でできた妄想である。
分かってたよ?でもさ、夢ぐらい見させてくれたっていいじゃないか!
「くっ…。精神的ダメージが半端ない」
それこそ、ここが異世界で、元の世界に戻れない、と分かったとき以上のダメージである。
ほんと、どんだけ魔法使いたかったんだよってレベルのショックを受けた。
しかし、火属性の魔法が使えなかったぐらいで諦めてやる未来さんではないのである。
「まだ、水とか風とかあるし。闇とか光とか格好いいよな」
火が駄目なら水。水が駄目なら風。
そんな具合で、自分が知っている全ての属性を試していく。
ちなみに、魔法の属性というのは割りといろいろある。
有名所を挙げると、四大元素の地水火風。
陰陽五行と呼ばれる木火土金水。
これ以外のものとしては、光や闇といったものがある。
魔法や魔術の素質が多少でもあるものは、これらの中で少なくても1つは適正がある。
中には、これら全てに適正がある天才もいたりするだろう。
未来が知っていたのは、四大元素に光と闇を含めた6属性のみだったが、どの属性にも適正がなかった。
それでも諦めきれない未来は、自分がまだ知らない属性に適正があるのだ、と自分に言い聞かせていたが……。
残念ながら未来に”魔法の適正はない”。
そのことに、本人が気がつくのはもう少し先になる……。