第2章 ~現実逃避~
晴れ渡る青空。
どこまでも広がる広大な草原。
こんな場所で老後を過ごせたら幸せだなぁ、と心の底から思える場所を視たときの僕の第一声は…。
「………えっ?」
という、なんとも気の抜けたものだった。
でも仕方なくない?
玄関の扉を開いて振り向いたら”これ”だよ?
「………あぁ、そうか。きっとつかれてきてるんだな」
とりあえず、目を瞑る。
イメージするのはいつもの光景。
玄関の先にある門を想像する。
ついでに、自宅の向かいにある家も想像しておく。
ここまですれば、目を開けたときに映るのはいつも通りの光景のはずだっ!
なんて淡い期待を抱きながら目を開ける。
うん、まぁ、そうだよね。
何も変わる訳ないよね……。
「人の夢と書いて、”儚い”か…。この言葉考えた人天才だな、おい!」
行き場のない憤りを、”儚い”という言葉を考えた人に向けるという、理不尽極まりないことをする。
とりあえず、落ち着こう。
落ち着いたか?落ち着いたな?よし、落ち着いた!
「…とりあえず、一回家の中に戻ろう」
前には、果てしない草原が広がっているが、後ろには僕が開けて閉めた扉が、自宅に繋がる扉があるはず。
振りかえった先に映るのは、果てしない草原。
「………えっ?」
右をみても、左を見ても、後ろを見ても、前を見ても、僕の瞳が映すのは、青空と草原だけ。
「……人の夢と書いて、”儚い”だったな」
自分が言った言葉を噛み締める。
自分は割りと能天気な性格だと思っていたのだけど、、、。
予想の枠をぶち壊す勢いの衝撃を受けたときは焦るを通り越して落ち着けるものなんだな、と自己分析が出来るぐらいには落ち着いているらしい。
「夢、ではないよな…」
こんなことが起こるのは、ゲームや小説の中だけかと思っていたが…。
そりゃもちろん、僕も男子な訳ですし、異世界に憧れたことだってありますよ?
「しかしなぁ、異世界に繋がる扉が自宅の玄関の扉でした、ってのはないだろ、ふつう…」
とりあえず、小説のなかで、異世界に飛ばされた主人公が最初にすることをしておこう。
すなわち、荷物の確認である。
「えっと、、、。財布。お茶。筆箱。スマホ。スマホの予備バッテリー。」
ほんの30分前に確認したものをもう一度確認する。
「あとは、いつも鞄に入れたままだった、割り箸が2膳と、ストローが2本。んで、腕時計だけか」
なんとも頼りない所持品だな、と思ってしまうのは仕方ないだろう。
「メールとか電話とかは……。通じるわけないよな…」
アンテナが立つどころか、圏外って表示出てるなぁ…。
「さて、どうするかな」
ゲームとかの主人公だと、こうゆうときどんな行動してたかな。
「………町を探す、だな」
たしかに、このままここに居ても何も進展しそうにない。
町に行けば、この世界がどんな世界なのかも聞ける可能性もある。
もしかしたら、元の世界に戻る方法が見つかったりするかもしれない。
「ただなぁ、人の夢は儚いからな…」
なんてぼやきながら移動する。
ちなみに、進む方向は適当である。
見渡す限り草原しかないのだから致し方ない。
町についたらラッキーだな、みたいなノリで歩かないと今にもやる気、というか諦めそうだし。
スマホのズーム機能を使って先を見つつ進む。
30分ほど歩くと、豆粒ほどの大きさではあるが、草原以外の何かがスマホに映った。
「ん?おぉ!なんか見えた!さすがの神様も異世界に飛ばして放置ってことはしなかったな」
まだ町って決まった訳ではないが、とにかく進む方向は決まった。
「スマホのズームで見えるのがどれくらいの距離かは知らないが、10kmも歩けば着くだろ、たぶん」
町かどうかは分からないけど、現状ではこれにすがるしない。
「んじゃ、もう少しだけ頑張ってみますか!」
そう言って歩き出す。
ちなみに、10kmだと思った距離は予想を遥かに越え20kmほどあったため、目的地に着くころにはだいぶグロッキーになっており、割りと本気で神様を呪ったのはまた別のお話。