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黄色の花

作者: 春風友里


すごいねーーくんは

ーーは俺らとは違うよな

ーーくんなら出来る?

ーーくんだったら教えてくれるよね

ーーならやってくれるかなって思って

ーーみたいになりたい


お前らと何が違う?何で自分でやろうとしない?

なんで、俺みたいになりたいんだ


なんでーーばっかり

無理なの?ーーくんでも

ーーってそういう所、あるよな


俺にばかり来るのは皆がそうしているからだろう?

なんでも出来ると、本気で思っているのか?

ただ物を頼みにしかこないお前は何を知っているんだ?



ただ断れなくて、でもやれることばかりだからやっていた。

だからって、何でも出来るなんて限らないだろう。


少しずつ寄って来て小さく周りから食いちぎられていくよう。

まるで、撒き餌につられてよってきた小魚だ。食べたいだけ食べて満足したら帰っていく。

そうして食べられもせず、ぼろぼろになった残りカスだけが掌にかえされる。


なんで俺はこんなことをしているんだ?




ーーくんは、どうしてそうも溜め込むのかなあ


溜め込まないための、吐き出す場所を知りません。


ーーくんって何をしたいの?


したいこと?俺自身の、ですか


だって君が、これをやりたいとか言ったの見たことないから


自分の欲に忠実になれ、ってことですか?


違うよー 君がやりたいこと見ていたいだけ


見ていて、いいことでもあるんですか?


あるよ!なんたって面白いからねっ


それは…答えになっているんですか?


答えだよ。こうしたいって思うことに、ちゃんとした理由なんている?


……わからない、です


ーーーーーーーーーーーーーーー


ふと交わされた会話が耳から離れない。

彼女が何故あんな俺のことを聞いてくるのか、理解が出来なくてただ困惑しているだけだった。

なのに、不満気に曇らせた顔が何度も何度も言葉と共に蘇る。


忘れるなと、言いた気に。




「かの先輩」

「およ?れいくんじゃないかー」


一人でお弁当を広げてぼーっとしながら食べている彼女。

教室の窓から見える姿はどこか儚くて気づいたら消えてしまいそうで、つい見にきてしまう。


くりっとしたアーモンド色の猫目。さらさらと風になびく肩まで伸びた黒髪。色白ですらりと伸びた肢体。

美人と形容されるに値する彼女は、いつも一人でいる。



「今日はどうしたのー?」

「いえ、ただ陽当たりよくて気持ちよさそうだと思いまして。」


少し距離をおいて座れば彼女はさっきまでと同じように残りのおかずへと箸を向ける。

静かに流れる時間を、とても心地よく感じる。


「昨日は曇ってたからねー」

「そうですね。風邪とかひいてないですか」

「大丈夫だよ、強いからねー 私は!」

「ならよかったです」


ふと、口角が緩む。

学校で笑うのは彼女の前くらいしかないとふと考えるとしぜんと笑みが深くなる。


教室にいる同学年とはこんなふうに一緒にいて、落ち着いて空を見上げる気にはならない。

むしろ、自分から近寄ることなんてしない。

なのに何故、彼女の傍はこれほどまでに落ち着くのだろう。


「最近よく来るようになったけれど、もしかしてあれかな。イジメられたりしてるのー?」


急に、何を言い出したかと思えば。


お弁当を片付け、こちらに目を向けた彼女はさらりと大きなことを言う。

そんなことあるわけないと知っているだろうに。

時折話す教室での自分の姿はイジメなんてものとは縁もなく、ただ良いように使われているとわかるだけだ。

…使い勝手のいい道具を、手放すようなことはしないだろう。


「違いますよ。…ただあなたのそばにいたいと思うだけです」


ほんの少しの沈黙がおりる。


「それは、何だ?告白として受け取っていいのかな」


否定の言葉の次は、知っているでしょうと言うつもりだった。

それが何故、告白なんて呼ばれることを言っているんだ?

何か言わなければと口を開こうとすると


「違うのか?なら、そうちゃんと言ってほしいなあ。…期待してしまうじゃないかー」

「……え?」


彼女がなにかを口走る。


「だーから、本当にそうだったらいいのになーって、思ったのー」


それは、無意識にでた言葉を受けとってくれるものだった。


間延びした独特な話し方は、どこか聞いているこちらを落ち着かせてくれて。けれど入るのをためらうほど、一人でいる時の世界が完成されている。

その世界に入りたいと思う者はたくさんいるのだろう。

けれど彼女は一人でいる世界を失くすことはしないとどこかで聞いた。


だから、自分もダメなのだと思っていた。

ただ少し、昼の休憩時間に近くにいてぽろぽろと落ちていくように言葉をおとす。

それだけでよかったのに。


彼女の方から扉をつくって開けてくれるなんて。


「…そうです、よ。かの先輩が好きです」


わざわざ扉を開けてくれたのなら入らないといけませんよね。


目を見て言えば恥ずかしそうに口元を抑え、お弁当が入っている手提げへと手を伸ばす彼女。

目当てのものがちゃんとあったのか、ほっとしたような顔。

うつむきながら手に隠した物をおずおずとこちらに向けてきた。


「これは…」


掌に落とされたのはきれいにラミネート加工された小さな押し花。それは初めて会ったときに渡した、芝生に生えていた名前も知らない黄色の花。


いつもは目を合わせてくる彼女が、視線をそらしたまま珍しく俺の袖をきゅっと握った。


「初めて、君と話したときにもらったものだよ。今までなら何も思わずに捨てていたのに、捨てられなくて。萎れていくのも、見たくなくて。押し花なんていう、残せる物にしたんだ。」


ーー可笑しいでしょ。


目を合わせ、ふわりと浮かべた笑みに囚われるような気がした。


彼女はどれだけ自分を嬉しくしてくれるのだろう。ただ、少しの時間を隣で過ごせるだけでよかったのに。

手を、伸ばしてもいいんですね。


こちらを伺うような彼女は顔をより赤く染めて目を泳がす。


こちらをちゃんとみて欲しくて、袖を掴んでいる彼女の手を離しこちらから繋ぐ。

そうすれば驚いた彼女は目を大きく開いて視線をくれる。


「ーーおかしくなんかない、です。むしろ嬉しいですよ」


彼女がゆっくりと僕の手を握り返しながら笑みを浮かべた口を開く。


「ありがとう」


それは今までで一番の笑顔だった。



友達に姉さん女房の話を書いてと言われて書いたものです。

姉さん女房にちゃんとなっているかどうか今でも不安。

楽しんでいただけたら嬉しいです

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