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ダンジョンテストプレイヤー  作者: 島地 雷夢
『千変万化』
8/26

04

 ケイトはダンジョンの地面を剣先で突きながら進んで行く。時々顕わになるトラバサミもどきや、ガス罠、踏んだら何が起こるか分からないスイッチ数種類、そして落とし穴。何故か拳ほどの出っ張りが出現する事もあったが、一体どんな罠なのか見当もつかず、当然試そうとも思わなかった。

 マッドールやクイックモンキーも襲い掛かってくるが、大概一対一、たまに一対二であるが危なげもなく倒していく。

 時折この二体がタッグを組んだかのように同時に出てくるが、敢えてマッドールに変な踊りを躍らせ、クイックモンキーに眠気を誘ってから安全に倒していく。ケイトは眠らずの首輪の御蔭で眠くなる事はなく、相手だけ戦力減だ。

 今の所コケーンの姿は見えず、サーベルドッグとも遭遇しない。コケーンはともかく、サーベルドッグとだけは複数同時に出遭わない事を祈りながら前へと進んで行く。

 この階では特に真新しい事が起こらず、新たなアイテムも見付からず直ぐに下の階層へと向かう。

 下の階層、更に下の階層も内部構造の変化以外に特に変わっている所は見当たらず、魔物を倒して罠を見付け、アイテムを拾って下へと向かう。

 更に下の階層へと赴くと、雰囲気が少しだけ変わる。壁にやや青みが帯び、結晶のようなものが時折見える。

 魔物の種類もがらりと変わる。今まで見てきた魔物の姿はサーベルドッグのみで、他は新たに見るものだ。

 石で出来た手だけのモンスター、ハンドゴーレム。器用に二本脚で立ち、弓を使いこなすアローラビット。そして擬態が得意なミミックが出現するようになった。

 ハンドゴーレムは宙を飛び、執拗に頭を掴んで来ようとする。攻撃パターンはそれだけなので防御は簡単だ。しかし、一度頭を掴まれるとぎりぎりと締めつけられてしまう。死にはしないが継続的に痛みがこめかみに発生して涙目になる事請負だ。

 因みに、この特性を利用して頭を掴まれる瞬間に胡桃や外皮の硬い果物を身代りにする事により、特に労力を必要とせず中身を傷つける事無く外皮を砕く事が出来る。わざわざこの魔物を利用する必要性もあまりないが、知っていて損はない情報として多くの駆け出し冒険者は先輩に教えられていたりする。

 二本脚で矢を射るアローラビットだが、放つ矢に殺傷能力はない。あくまで己が逃げる時間稼ぎの為に使用され、丸みを帯びた鏃には相手を痺れさせる毒が塗ってある。他に魔物がいる時にアローラビットから痺れ矢を受けてしまうと袋叩きにされる未来が待ち受ける。このアローラビットの持つ弓と矢は自ら木を削ったり己の毛を編んで作ったお手製のものだったりする。

 気性は大人しく、自ら人間に襲い掛かる真似はしない。ただ、このダンジョンでは親の敵とばかりに襲い掛かってくるが。因みに、アローラビットを飼い慣らしてパートナーにし、魔物討伐や手先の器用さから道具作成の手伝いをさせる者もいる。

 ミミックは別名冒険者泣かせと呼ばれるある意味で忌み嫌われるモンスターだ。何せ、ミミックはダンジョンにしか生息しないが、その姿を宝箱に擬態している。宝箱だと嬉々として開けた冒険者の頭にがぶりと喰らいつく。当然、中には宝は入っていないので倒しても旨味はない。この『千変万化』では宝箱が無いので、落ちているアイテムそのものに擬態をしている。

 ケイトがパンが落ちていると顔をほころばせながら拾おうとしたら、突如として宝箱に姿を変えて頭にかぶり付いてきた。一瞬で無表情に変わったケイトはミミックを引き剥して一閃して屠った。

 ただ、『千変万化』に限った事なのか、ミミックを倒すと確実にアイテムを落とす。それも擬態したアイテムよりも僅かにランクが上の物を。小さなパンに擬態してればそこそこ大きなパンを落とし、100%木で出来た矢に擬態していれば鏃だけ鉄で出来た木の矢、鉄の剣に擬態していれば鋼の剣を確定で落としてくれる。

 なので、最初はミミックに頭を噛まれて表情を失くしていたケイトだが、二回目からは気分を高揚させながら屠ってアイテムを手に入れて行った。

 このミミックの御蔭で、ケイトの腹は膨れて装備も充実された。鋼の剣に鋼の盾、全部で十七本ある矢の内十本は完全木製で、残りの七本の鏃は鉄で出来ている。

 明らかに殺しに掛かってる、と内心不安が渦巻いていたケイトだが、今は一変して軽い足取りでアイテム習得――もとい、ミミック狩りを楽しんでいる。

 そんな中、あるアイテムの前ではたと歩みを止めるケイト。

「魔法書……」

 ケイトは脳裏にあの大爆発を思い浮かべてしまい、軽く頬が引き攣る。が、それでも一応手を伸ばして中を確認する。『千変万化』に落ちている簡易魔法書の外見は全く同じで、中を確認しない限り判別出来ないようになっている。

 普通に拾う事が出来たので、ミミックはなかった。ほっと一息吐いて、ページを開く。

「……『爆破』じゃない」

 中を開ければ『爆破』の文字は無く、代わりに『聖域』とだけ書かれていた。肩に止まっているアオイが中の文字を除いて「おぉ」と感嘆を漏らす。

『「聖域」の簡易魔法書じゃないですか。よかったですね。その魔法書は結構有用ですよ』

「と言うと?」

『魔法名を唱えるとですね、唱えた場所にいる限り十秒間無敵になるんです』

「は?」

『正確には唱えた場所に簡易的な聖域を展開し、その聖域から出なければ全くの無傷でいられる訳です』

「……え?」

『ただ聖域は十秒しか出現しませんし、聖域外に出れば恩恵受けられないので、使いどころを見極めないといけませんけどね』

「…………」

 それでも、充分反則的な魔法なんじゃ、と心の中では思っても口にはしないケイトだった。『聖域』の簡易魔法書を懐に仕舞い、探索を再開させる。

 ミミックはいないかと彷徨っていると、下へと降りる階段を発見する。このまま下に降りるか、それともまだミミックを探すか。少しだけ考え、アイテムが沢山落ちてるだろう下へと向かう事に決めるケイト。

『次でいよいよ最下層エリアです』

「あ、そうなの?」

『はい、現在ケイト様がテストプレイしている場所は地下十階層までなんです』

「成程」

 長かったような、短かったような。取り敢えず色々あり過ぎて心身ともに疲れたけどパンやミミックで癒されたのでプラスマイナスゼロな状態のケイトは最後の階段を下りて行く。

 最後の階段を下りて出た場所は、先の階層と同じ雰囲気を漂わせている。ダンジョンの最奥にはボスと呼ばれる強大な魔物が生息している場合があると両親に訊かされていたが、どうやら『千変万化』ではボスはいないようだ。ボスのいる階層は一部屋のみで大きな円形をしている。ここは迷路の構造になっているのでボスが入るとは思えない。

 ……が、罠の事もあるのでケイトはアオイに質問をする。

「ねぇ、アオイさん?」

『何ですか?』

「ボスっていないよね?」

『いませんよ。ここには(・・・・)』

 ここには、と言う言葉が気になったが、取り敢えずいない事にほっと息を吐くケイト。ボスの心配をしなくて済むので、少しばかり心に余裕を持たせながら探索をする事が出来る。

 今までの階層――勿論大きな魔物部屋は除く――と違い、ここには広場がない。道幅も若干狭くなり、曲がりくねり、幾つもの分かれ道が存在している。

 遠く前方にいるアローラビットの放つ痺れ矢を盾で弾き、飛来するハンドゴーレムをきちんと避けてカウンターを打ち込み、サーベルドッグ相手には遠くから矢で攻撃してダメージを与え、近付いて一閃して屠る。

 相も変わらずミミックに当たれば顔を綻ばせながら倒し、最終的に楽しんでしまっているなぁ、と人間の環境適応能力と言えばいいのか、移り変わりの早さと言えばいいのかにやや呆れながらアイテムも集めて行く。

「ん?」

 迷路の一角に、何やら奇妙な物が置かれているのが目に入る。

 直方体の箱だ。真っ白で不気味で、到底宝箱には見えない。

『あ、あれはかわりの箱ですね』

「かわりの箱?」

『はい。最奥に設置されたお宝です。価値は拾った本人しか分かりませんが、拾っても絶対に得しかないと断言出来ますっ』

「そうなの?」

『はいっ。ささ、早く早くっ』

 途中から言葉に力強さが増したアオイは翼をばたつかせながら白い箱――かわりの箱を拾うようにケイトを急かし始める。拾う本人よりも興奮しているアオイに促され、ケイトはかわりの箱を拾う。


 ぽろぽろぽろ~ん……


 何故か、呪いの盾を装備した時のようにケイトの頭に音楽が流れる。今回はおどろおどろしさの欠片も無く、オルゴール調で優しいテンポのメロディだ。

『さて、では地上へ戻りましょうっ。かわりの箱を地上へ持ち帰って、テストプレイは終了となりますっ』

 未だにテンションの高いアオイの言葉に頷き、ケイトは箱を小脇に抱えて地上へと目指す。来た道を戻って上りの階段へと向かい、上の階層へと進む。

 この階層でも上への階段を探し、進んで行く。魔物を相手し、アイテムを見付けては拾い、パンを食べて休息を挟む。

 休憩を終え、階段探しを再開させる。

「あ、あった」

 暫し彷徨い、お目当ての階段を見付けてそちらへと向かう。向かう際に慎重に地面を剣の切っ先で叩くのを忘れずに行っている。階段前で落とし穴に引っ掛かり、下へ落ちる。なんてのは御免だ。

 落とし穴も他の罠も無く、階段の前にこれたケイトだが、直ぐには上らない。階段の陰に隠れるように魔法書が落ちているのを見付けたからだ。

 取り敢えず、ケイトは中腰になりながらそれを拾って中を確認する。

『おっ、運がいいですねっ。それ「帰還」の簡易魔法書ですよっ』

 中を見るなり、アオイが大袈裟に驚きながらケイトに説明をする。最初の物静かなアオイは何処(いずこ)へ行ってしまったのだろうか? とケイトは少しばかり困惑しながら改めて魔法書に目を向け、『帰還』の意味を理解する。

「これって、もしかして」

『お察しの通り、直ぐに地上へ舞い戻る事が出来る優れものですっ』

「『帰還』」

 ケイトは迷う事無く『帰還』と唱える。すると燐光がケイトを包み込む。光は徐々に強くなり、彼の視界を白に染め上げる。

「あ、お疲れ様~」

「お疲れ様です」

 視界が戻ると、ケイトは春斗とアランの居住空間にいた。


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