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ダンジョンテストプレイヤー  作者: 島地 雷夢
『千変万化』
5/26

01

 翌日。朝食を食べ終えたケイトは、今日は公園に来れない事をミーネに伝えてダンジョンへと向かう。

 ダンジョンへと着けば、入口の所に青い鳥が佇んでいるのが視界に入る。青い鳥はケイトを見付けると飛び立ち、彼の肩へ止まる。

『お待ちしておりました。私は春斗様とアラン様の使い魔、アオイと申します。以後、お見知りおきを』

 使い魔なのか、とケイトは青い鳥――アオイを見て目を丸くする。使い魔とは魔術師達が使役する疑似生命だ。自身の魔力と動物の毛や羽を触媒として生み出す自我の無い魔法生物であり、生みの親であり主人でもある魔術師の命令を忠実に守る。

 魔術師は魔法を扱えれば専門の学園へと通い、卒業して国から証明書を貰えば誰でもなれる。しかし、先天的にしろ後天的にしろ、魔法を扱える者はごく少数だ。なので、魔術師の総数も少なく、その内の大多数が証明書取得後に城勤めや研究所へと向かうのでお目にかかる事はあまりない。

 それ故、使い魔を目にする事もあまりない。ケイトは思わず好奇心故にアオイをじろじろと眺めてしまう。自分が珍しい存在だと自覚しているのかアオイはケイトの視線を気にせずに言葉を紡いでいく。

『本来ならば、主様方の下へとお連れする手筈だったのですが、先にダンジョンのテストプレイをしていただいてもよろしいでしょうか?』

「別にいいけど、どうして?」

 素直に疑問を口にするケイトに、アオイはやや伏し目がちに答える。

『あなた様がダンジョンを出てから春斗様とアラン様は昼夜問わず一睡もせずにダンジョンの作成に時間を費やしていました。それも、昨日の昼に終わり私にケイト様にその旨を伝えるように指示を出しました。その後、緊張の糸が緩んだらしく二人揃って深い眠りに落ちてしまいました。今も眠りについておりまして、申し訳ありませんがもう暫く眠らせては貰えないでしょうか?』

 以前に使い魔を見た事があるケイトにとって、アオイの言動と仕草には目を引くものがあった。アオイも使い魔なのだから、自我が存在しない筈。しかし、どうにも自我を持ち合わせているような振る舞いをし、感情もあるように見受けられる。

 そんなアオイは主人である春斗とアランを気遣い、ケイトに心底申し訳なさそうに様子を窺っている。

 そして、ケイトはまさか春斗とアランが一睡もしないで新しいダンジョンを作り上げる無茶をするとは思わなかった。そこまで無理して作る理由は彼には分からないが、生半可な覚悟では到底出来ない事は窺える。蜜柑欲しさに引き受けたが、そんな甘い考えは捨てなければ、とケイトは頬を叩く。気持ちを瞬時に切り替え、決して適当に終わらせようとは思っていなかったが、春斗とアランの期待に応える為により本腰を入れて取り組もうと心に決める。

「俺は別にいいよ。起こすの可哀想だし」

『ご配慮、ありがとうございます』

 礼を述べ、深く深く頭を下げるアオイ。やはり、この使い魔には自我があるんだ、とケイトは納得する。

『さて、ケイト様。これからあなた様は我が主様方の造り上げたダンジョン「千変万化」のテストプレイをしていただきます』

 頭を上げ、心持ちややキリッとした顔でアオイはケイトがテストプレイを行うダンジョンの説明を始める。

『「千変万化」は文字通り、変化するダンジョンとなっております。訪れる毎に罠の位置やダンジョンの順路等がランダムに変化いたします。これは一度ダンジョンから出るのは勿論の事、階層の移動によっても一瞬で変化が生じます』

 変化するダンジョン。世のダンジョンには一定期間で内部構造を変化させるものも存在するのでさして真新しい要素ではない。

 しかし、スパンはおよそ一ヶ月から半年と長く、変化の兆しが見えると数日はダンジョンに潜れないように結界が貼られる。これは人が変化途中に潜り込み、ダンジョンの壁に呑み込まれたり押し潰されないようにする為の措置だ。

 それに比べ『千変万化』ではほんの一瞬で終わる。その変化がダンジョンを出るだけ、別の階層へと向かうだけで行われるのだ。わざわざ変化が終わるまで待機する必要が無いのは冒険者にとってありがたい話だ。

 そして、そんなギミックをたった三日程で仕込んだ春斗とアランにケイトは脱帽するしかなかった。

『それでは、準備はよろしいでしょうか? 私も同行いたしますので、疑問に思った事は気軽にご質問下さい』

 アオイも同行する事に少し心強さを感じ、階段を下りてダンジョンへと潜り込む。

 ダンジョンへと入ると、松明が無くても明るかった。壁や天井に照明がある訳でもなく、かと言って外の光が零れ落ちている訳でもないのにこれだけ明るいのはどういった原理が働いているのか? と疑問に思うも解を導き出す事は不可能だと即座に頭を切り替え、一度踵を返してダンジョンを出る。

 そして再びダンジョンへと潜ると、様相が変わっていた。

「おぉ、確かに変わってる」

 光が無くても視界が確保できているのは同じだが、先程とは壁の位置等が変わっているのが見て取れる。先程は少し広い場所に出て、三方に抜ける道があった。今回は一本道に出ており、少し奥に曲がり角が見える。

 ほんの僅かの間にここまでがらりと変わるのなら、何回潜っても飽きが来ないかな、と期待に胸を膨らませながら一歩踏み出す。

「って、あれ?」

 踏み出して、自身に違和感を感じ、はたと立ち止まる。

「なぁ、アオイさん。何で俺の剣とバッグが消えてるの?」

 一度出た時には気付かな方が、ケイトの装備一式が忽然と消えていたのだ。村を出る時に選別だと父から貰った剣と、ポーションや毒消し、お金等が入った背負い袋が。後ろを向いても前を向いても剣もバッグも落ちていない。このまま見付からなかったら今後の生活が――特に宿代的な意味で――大変だとばかりに不安に駆られる。

『それはこのダンジョンの仕様です。挑む際は絶対に丸腰になるよう一時的に武器、防具、回復薬等を隔離します。ダンジョンから出ればきちんと手元に戻って来るのでご安心下さい』

 アオイはケイトの不安を和らげるように優しい声音で説明をする。そうか、ダンジョンの仕様か、と頷くも完全に不安が払拭された訳ではない。直に確認しない事には安心は訪れない。

「……不安だから、確認していい?」

『勿論です』

 回れ右をしてダンジョンを出ると、腰と肩に何時もの重みを感じる。

「……うん、剣も普通にあるし、バッグもある」

 だから一回目にダンジョンから出た時に気が付かなかったのかと納得し、完全に無くならなくてよかったぁ、と安堵の息を深く漏らす。

 不安が解消されたので、改めてダンジョンへと降り立つケイト。今度はこじんまりとした広間に出ており、左右にそれぞれ道が伸びている。

「で、なくなる、と。つまり魔物とは素手でやり合わないといけないって訳か」

『はい。ですが、ダンジョンでは一階層に最低一つは武器が落ちていますのでご安心下さい』

 それはよかった、と返してケイトは歩き始める。まずは左手に伸びる道を進んで行く。道幅は人が三人は余裕を持って歩ける幅があり、狭苦しさは感じられない。暫く進んでいると、先程と同じようなこじんまりした場所に出る。そこから更に前、右、左と道が伸びている。

 が、ケイトの視線は道ではなく広場の中央に向けられる。

「えっと、剣か?」

 そう、剣が落ちているのだ。鞘に収められた剣は宝箱なんぞに入っておらず、地面にぽつねんと侘しく落ちている。ケイトは僅かに屈んで落ちている剣を拾い、鞘から剣身を抜いて確認する。

「……材質は鉄じゃなさそうだ」

『それは銅で出来た剣ですね。鉄より柔らかいです』

「まぁ、無いよりはマシ、か」

 鈍く煌めく銅色の剣身を持つ剣を鞘に納めて腰に佩き、探索を再開する。

 暫く歩き、今度は広間ではなく道の端に何かが落ちているのを発見する。近付いてみれば、それが本だと分かる。指で軽く摘まめるくらい薄く、年季が入っているのか表紙は古めかしい。題字は記入されておらず、捲るがある一ページしか開く事が出来ない。そこにはただ『爆破』とだけ書いてあるだけだ。

「何? この本?」

『それは簡易魔法書です』

「えっ⁉ 魔法書⁉」

 魔法書とは、文字通り魔法が記されている書物の事だ。研究所に勤めている魔術師が生み出しているそれは、魔術師以外でも魔法を使えるようにする為の魔術道具である。

 魔法書には魔法の発動に必要な詠唱と魔法名が記されている。魔法書を開き詠唱し、その後に魔法名を口にすれば魔法が発現される。ただし、魔術師が行使する魔法よりも数段ランクが落ちてしまうが、それは微細な事だ。

 常人でも魔法が使える。それが重要だ。冒険者や護衛職に特に人気であり、強力な魔物相手に逃げの一手にも牽制にも使え、止めの一撃にも使える。それだけ魔法は便利で強力な物だ。

 ただ、魔法書の製造には多大なコストと短くない時間が掛かり、一定回数しか魔法を使用出来ないデメリットがある。一番安い魔導書でも半年は遊んで暮らせる程の金銭が必要になってくる。高価なものになれば、庶民では決して手の届かない程だ。

 そんな魔法書が、ダンジョンの道端に落ちている。目を疑わざるをえない状況だ。それを知ってか知らずか、アオイはケイトの拾った簡易魔法書の説明を始める。

『中に書いてある呪文――もとい魔法名を唱えれば、誰でもその魔法を使う事が出来ます。しかし、一回限りで、使用後は消滅します』

「マジかぁ」

『因みに、持ち帰る事が出来ればダンジョン外でも使えます』

「マジかっ⁉」

 ダンジョンの外でも一回限りとは言え使える魔法書。これだけでこのダンジョン『千変万化』に潜る価値が十二分にある。

 それ故に、ケイトは一つ疑問に思う事がある。それをストレートにアオイに尋ねる。

「って、今更だけど武器とか魔法書とか用意して大丈夫なの? 金銭的な意味で」

『問題ありません』

「本当?」

『はい。ぶっちゃけ、お金と時間を掛けずに大量生産出来るシステムが整っていますのでご安心下さい』

「…………」

 二の句が継げずに口を半開きにするケイト。世の魔術師が時間とコスト掛けて漸く一冊の魔法書を作り上げるのに対し、簡易魔法書は時間もコストも掛けずに作り出せると来た。それも大量生産が可能である、と。武器も右に同じ。

 何て非常識なんだ、とケイトは眩暈を覚えてしまう。が、それを行っているのがダンジョンを作った春斗とアラン(異世界から来た人達)なので、それこそ今更な感じがして無理矢理納得して眩暈を彼方へと吹き飛ばす。しかし、心は未だに動揺したままだ。

『では、疑問を解消出来たようなので探索を続けましょうか』

「う、うん……」

 アオイに促され、ケイトは動揺を表に出さないように気をつけながら歩みを再開させる。


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