最終話
砦の皆が見上げ、ゆっくりと降りて来る姿を歓声を上げながら見つめていた。その姿が近づき、はっきり見えてくると戸惑いの声が上がり出す。
「あ、あれ……」
降りてくる影は一人ではなく二人。
ぐったりとしたシノを抱き抱える見知らぬ女性。気品があり、美しい女性。皆が一つの名前を思い浮かべる。
皆のすぐ頭上でアンは止まり、シノだけがゆるやかに落ちてくる。集まっていた中の一人が慌てて受け止める。体は動かないシノだったが意識はまだあった。目も開けず、受け止めてくれた人を確かめる事は出来なかったが、その腕のぬくもりには覚えがあるような気がした。
受け止めた男は不安そうにアンを見上げた。アンは優しく微笑みかける。
「大丈夫ですよ。今は疲れて眠っているだけ。そのうち元気に目を覚ますでしょう」
その言葉を聞き、男はほっとした様子だった。
アンは皆に語りかける。
「スターフィールの民よ。私の名はアン。遠い昔、この地を統べていた者」
どよめきが起こる。しかし、疑う声はひとつとして上がらない。皆はアンに注目し、次の言葉を待った。
「この地を脅かしていた危機は去りました」
一斉に湧き起こる歓声。皆、アンを讃えた。
「いいえ、私ではありません。私の力はすでにほとんど残ってはいませんでしたから。そこの女性に少しの手助けをするのが精一杯でした」
え、なんか話が違う。かろうじて残っている意識の中、自分を讃え、労う声を聞きながらシノは思った。
「私は今回かすかに残った力を使い果たし、もうじき消えてしまうでしょう」
しんっと静まりかえった。
「私は長い生の間、一つの事を願っていました」
薄れゆくアンの体。
「そしてこれからも祈り続けるでしょう」
アンの体を白い光が包み込む。
「スターフィールに住む全ての人が幸せになれますように、と」
皆、涙を流しながらアンの名を叫ぶ。
「皆様、お元気で」
優しげな微笑みを残してアンは消えた。
体に力が戻ってくる。目を開けた。自分を覗き込む愛しい人と目が合った。
泣いていた。
微笑んでいた。
何か言おうとしたがその前に強く抱きしめられた。
その胸に顔をうずめる。
あたたかだった。