第七話
崩れながら黒い煙となって消えていくトカゲ。戦いは終わったのだ。鉄の巨人は再び胸を開いてシノを放出すると空へと消えた。
空中に浮かぶシノ。しかし、徐々に落ちていく。シノの意志とは無関係に。体の中から力が失われていくのが感じられた。
もう、自分は長くは無いのだろう。しかし、シノは満足していた。
下を見る。砦からこちらに駆けててくる人々が小さく小さく見える。あの人の姿を探した。意識が無くなる前に一目、と。
(お疲れ様)
頭の中に声が響いた。夢の中で聞いたあの声。気品があって凛としていてそれでいて包み込むような優しさを感じさせる声。
「アン女王様……」
(あなたはよくやったわ。もう大丈夫。あの男のここでの体は粉々になって星に帰って行ったから)
「あの男のここでの体……?あの男っていったい……?」
(さあ?私は知らない)
明らかに知ってそうだったが疲れていたシノは流した。
「いろいろありがとうございました。皆を助ける事が出来たようです」
視線を下に向けシノは微笑む。
(ううん。あなたが頑張ったからよ。ご褒美に足は治しといたから。皆の感謝をしっかりと受け止めなさい)
「え……?私はもうすぐ死んじゃうんじゃ……どのぐらい私は生きてられて……」
(え?死ぬ?誰が?)
「え?いや、わたしが。女王様がそうおっしゃって……」
(あ、あー……)
アンは何かに思い当たったようだ。
「ごめんね。あれ嘘」
後ろからいたずらっぽい声が聞こえた。振り向くとそこには夢の中で見たあの顔が。少しぼんやり透けていたが確かにそこにいてシノを抱き抱えていた。
「え……?」
「だってあなたがあんまりにも幸せそうで妬けちゃって妬けちゃってついついあんな事を……」
「ええ?」
「ま、いいじゃない。私のおかげでかなりアピールできたんじゃないかな。エイタル様だっけ?」
アンはにやにやとシノの顔を覗き込む。その表情は凛ともしておらず気品のかけらも無かった。
「い、いや、あの、それは、」
赤くなり慌てるシノ。
「それにね、私の力を使うと疲れるのは本当なの。遠くにいる私の力を中継してもらっているんだから」
シノはそう言われて自分の体がほとんど動かない事に気づいた。
「後は私に任せてあなたはゆっくり休みなさい」
そう言ってシノの頭を優しく撫でた。実体が無いアン。もしかするとそれは風だったのかもしれない。しかしシノは確かに感じた。優しい、母を思わせる手の平だった。