第五話
「う……うん……」
シノが目を覚ます。一番近くに母の顔が。その向こうにエイタルの顔が見えた。心配そうな、ほっとしたような、そんな顔。
「大丈夫?痛い所は無い?」
母が問う。ううん、笑みを浮かべて首を振る。そして、体を起こした。見つめたい顔の向こうに見た事がない、やや威厳がある顔があった。
「シノ殿、こちらはタニアン砦の長、メガロ大隊長です。少しシノ殿にお話が、と」
感情を抑えた声でエイタルは言う。そんなエイタルを少しの間見つめ、シノはメガロの方を見る。
「初めまして、メガロ様。この度は私の村を助けて頂いてありがとうございました」
「あ、いやいや。それは当然の事。それより、先程の……その……」
メガロは言葉を探す。この女性はあの時とはあまりにも印象が違う。どう聞けば、何を聞けばいいのかなかなか判断出来なかった。シノは微笑む。
「あの時は……」
あの時、シノは熱を出していた。足の怪我のせいか、擦りむいた所から菌が入ったのか別の原因かは分からない。そして、あの声が響いた時には意識を失っていたのだ。そして皆が怯え震える中、光り始めたのだ。
「もちろん、私にも何が起こっていたのか、私が何をしたのか分かっていませんでした」
その言葉を聞いてむしろメガロはほっとした。しかし、シノは言葉を続けたのだ。
「今は全て分かります」
メガロは気を引き締められた。シノはその隣を見る。エイタルもまた緊張した様子でシノの次の言葉を待っていた。
「アン女王……」
その言葉を出すのにシノは少しの勇気が必要だった。その言葉は周りの者をはっとさせる。
「アン女王が私に力を貸してくれたのです。私は今、自分に何が起こったのか、自分が何をできるのか理解しています。大丈夫、これからどんな敵が来たとしても私がこの砦も私の村の人達もあなた達も守ってみせます」
胸を張り真っ直ぐにメガロを見て言いきった。
「そ……それは……」
信じられない。しかし、さっきの光景はそれ以上に現実離れしていた。受け入れるしかなかった。一方、隣のエイタルは違う事を考えていた。
「シノさん、それは、その力を使う事でシノさんの体には危険な事は無いのですか?」
シノは嬉しくなった。この状況で、こんな時に真っ先に私の事を気遣ってくれている。恥ずかしそうな照れたような笑顔が浮かぶ。
「大丈夫です。安心して下さい」
その言葉を聞いてやっとエイタルは緊張を解いた。
エイタルの腕の中で意識を失った後、シノは夢を見たのだ。今まで見た事が無いぐらい美しい女性が説明してくれた。シノは真っ先に聞いた。それで私はあの人を……皆を守れるのですか? と。美しい女性は優しく微笑んで力強くうなづいてくれた。ええ、もちろん。そして付け加えた。
「その代わり、あなたは命のひとつやふたつは覚悟しておいて下さいね」
ツツメス。王宮の奥深く。暗い部屋で一人、長髪の男が豪華な椅子に座っていた。
ニヤァっと笑う。
「来たか、アン」
そう呟くと男は立ち上がり、そこから消えた。