第四話
エイタルの前のトカゲが裂けた。周りのトカゲ達も裂けていく。風が中庭を駆け巡り、あっという間にトカゲの群れは消滅してしまった。
兵士達は呆然とした。何が起こったのか理解出来ない。周りを見渡す。すぐに見つけられた。地下へと続く通路の扉が開いている。その前にいた。女が浮かんでいた。
「シ……シノ…………さん?」
エイタルは呟いた。まさしくそれはシノであった。呼び捨てに出来なかったのは彼がヘタレなせいであったが疑問形なのは無理からぬ事であった。
シノは宙に浮き、ほの白く輝いていた。その目は薄ぼんやりと半分閉じ、何の表情も浮かんでなく、夢でもみているかのようだった。
皆がその姿に見惚れている所に新たなトカゲ達が次々に飛び込んできた。
シノの腕が上がる。皆が見ていた。その手のひらは前を向いていた。風が吹いた。
トカゲ達は切り裂かれ、黒い煙と化した。兵士達はそちらの方もちらりと見、何が起こったのか理解した。
すーっとシノが宙を移動した。門へ。門の外へ。手を上げたまま。
その前に立つトカゲ達は次々と煙と化す。シノは砦の周りをぐるぐる回る。トカゲ達は消えていく。そしてついに砦を取り囲んでいたトカゲは一体残らず消えてしまった。
シノは再び門の中へ。宙にういたまま。戦士達は城壁で戦っていた者も、補給に走り回っていた者も、中庭で迎えた者はもちろん、シノに見入っていた。
シノはすーっと中庭の中程まで進み、そこで止まる。
皆がかたずを飲んで見守る。
ふっと、シノの体から力が抜けたように見えた。シノの身体が落ちてくる。
皆、あっと心臓が止まるかのような衝撃を受けたが、一人の男がその身体を受け止めた事により安堵のため息となった。
受け止めた男はエイタルであった。
計算通りであった。