第三話
トカゲ達は瞬く間にタニアン砦を取り囲んだ。ある程度の知能は持っているのか、巨大な丸太を大勢で抱え、城門にうちつける。その他の者は城壁に手をかけ、よじ登ろうとする。砦の兵士達は城壁の上から弓で迎え撃った。数体黒い煙となって消える。それを見て兵士達の士気は上がる。
得体のしれない異形の兵士。今までは恐怖と不安しか抱けなかった。しかし、自分達の手で倒せた事に勇気づけられ、弓を引く手に力がこもった。
シャッコ村の力自慢の男達も投石で援護する。その他の男達も武器の補給に懸命に動いていた。トカゲ達はなかなか上がってこれない。
ある一人の兵士は思った。これは俺達やれるんじゃないか、勝てるんじゃないか、と。そして視線を上げてしまった。砦を囲むトカゲの数を見てしまったのだ。
恐怖と絶望に心が悲鳴をあげそうになる。が、故郷に残してきたある顔が浮かんだ。踏みとどまれた。ここでどんなに恐怖したとしても絶望したとしても手を止める訳にはいかない。男はまた弓を引き絞る。
城壁よりも城門が危なかった。巨木を持つ手は減るはしから補充され、門を撃つ勢いは決して衰えない。内側から支える手は徐々に押されていった。
そしてついに門が破られた。
中庭で迎え撃つのはタニアン砦の一番隊。先頭に立つのは隊長のエイタルであった。最初に門の隙間から出てきたトカゲを一刀で切り捨てる。
「続け!」
士気が上がる。兵士達は目の前の光景に勇気づけられ、トカゲ達に斬りかかっていった。
終わらない戦闘。
兵士達の身体は疲労に蝕まれていく。倒れていく仲間達。トカゲの数は減らない。徐々に押し込まれていく。
エイタルはまだ立っている。しかし、やはりその動きは鈍くなっていた。それでも懸命に剣を振るう。周りで劣勢な仲間の分まで。
デンの頭上に輝く刃が見えた。距離が。考える間も無く剣を投擲。今まさにデンに剣を振り下ろそうとしていたトカゲの眉間に突き刺さる。消えるトカゲ。そこに転がるエイタルの剣。そして丸腰のエイタルに剣を向ける別のトカゲ。
「隊長ーーー!」
今、命を助けられたばかりのデンが駆けつけようとする。間に合わない。
エイタルの命は今、尽きようとしていた。
その時、風が吹いた。