寄生鳴き
日常の静寂が歪み、忍び寄る恐怖を描いたホラー短編です。
猛暑の午後、自室に響く蝉時雨。ありふれた夏の日常は、ひとつの違和感を境に一変します。
静寂が訪れたとき、ベッドの下から現れる異形の存在。蝉の声に擬態しながら迫る恐怖と、逃げ場のない侵食の恐怖をぜひお楽しみください。
※注意 > 怪異や身体の侵食に関する不気味な描写が含まれます。苦手な方はご注意ください。
猛暑の午後、自室で横になっていた。
窓の外からは、頭が割れそうなほどの**蝉時雨**が響いている。ミーン、ミーンと、空気を震わせる狂気じみた大合唱だ。
ふと、違和感を覚えた。
蝉の声の合間に、かすかなノイズが混ざっている。
「……て……たす……け……て……」
掠れた人間の声だった。
気のせいかと思い耳をすますと、突如、蝉の声がピタリと止んだ。
訪れたのは、冷ややかな静寂。
——ギシ。
ベッドの下から、湿った音がした。
恐る恐る覗き込むと、暗闇の中で、全身が黒く変色した「何か」が丸くなっていた。
それはギチギチと首を不自然な角度に持ち上げると、落ちくぼんだ目で見つめ返してきた。
そして、カパリと口を大きく開く。
「ミーン……ミーン……タス……ケテ……」
蝉の声は、最初から外からなどしていなかった。
直後、部屋中の壁、天井、そして「それ」の喉から、耳を裂くような爆音の鳴き声が一斉に湧き上がった。
僕の身体に群がり、開いた口や耳の中へ滑り込んでくる「何か」の冷たい感触を最後に、僕の意識は真っ暗になった
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
夏の昼下がり、どこか狂気を感じさせるほどの蝉時雨を聞いているときに浮かんだ情景を短編にしてみました。
一番安全であるはずの「自分の部屋のベッドの下」に何かが潜んでいる恐怖と、逃げ場のない聴覚的・触覚的な絶望感を楽しんでいただけていれば幸いです。
これから暑い季節がやってきますが、みなさんの部屋の外で鳴いている蝉も……本当に「蝉」でしょうか?




