第1話 禁止制限改定
リミテッド・ワンとなったカードは、
デッキに1枚までしか入れることができない。
黒羽主良はスマホを眺めながら、
手を震わせた。どうか神様、と心の中で祈る。
「(頼むよ……!)」
しかし、現実は残酷だ。
処刑の声は、冷酷に切札の名を告げる。
「リミテッド・ワンは――
《次世代神造姫アナエル》!」
「やはり、アナエルはダメだったか……」
残念ながら当然だ、と主良は思う。
祈りが通じないのも仕方なかった。
【神造】デッキの文字通り心臓であるアナエルは、
今期の禁止制限改定で規制候補となったカードの筆頭である。
禁止制限改定を告げる発表動画のコメント欄でも
「アナエル逝ったああああああああ!!!!」
「ゼロじゃないだけマシ」
「半年殺すのが遅い」
「なぜ刷ったの筆頭すぎる 開発はエアプ」
「アナカスさっさと死んで、どうぞ」
「顔が良くなかったらもっと早く死んでたはず」
「見た目だけの春日」
と、散々な言われようだった。
一人暮らしのマンションの一室で、主良は呟く。
「リミテッド・ゼロ(禁止カード)は回避したけど……まぁ。アナエルは禁止よりも制限が妥当だよな、カード効果的には」
ベッドの上にあぐらをかく主良。
目の前に広げたプレイマットにはカードが積まれている。
愛用の【神造】デッキを手に取り、
主良は一枚一枚を慈しむように、カードを広げていった。
「このデッキにはお世話になったよな……。
本当に、ありがとうな。
俺がスピキャスで勝てるようになったのは、
アナエルが強かったおかげみたいなもんだし。
とはいっても、アナエル軸じゃなきゃ、
【神造】自体はまだ使えるけど……」
そう呟きながら、一枚のカードを手に取る。
《次世代神造姫アナエル》。
錬金術師の少女精霊――
その、輝くような蒼い瞳を覗き込んだ。
【神造】である以上、アナエルは当然ながらデッキに4投されている――が、この1枚だけは主良にとって特別なカードなのだった。非常に低い封入率でパックに入っている、シークレット・エディション版。通常のアナエルとは違い、イラストがカードのフレームを超えたオーバーフレーム仕様という、特別なイラストをしており、市場価格は数十万円という高額カードなのだが――このアナエルは運命のように主良の元に訪れた。そう、普通に近所のカードショップでパックを買ったら、素引きしてしまったのである。ショップ内は騒然となったし、一緒にいたカード仲間がTwitter(現:X)に画像を上げたらバズってしまったりもしたっけ……。
アナエルとの思い出が、走馬灯のように駆け抜けた。
だが、決断の時は来ている。
「……やっぱり、抜くしかないよな」
リミテッド・ワンになった以上、
【神造】デッキにアナエルの居場所は無い。
さらば、相棒……と、
保管用ファイルを手に取った、その時。
――ぱち、と静電気のような音がした。
「……ん、何だ?」
カードの表面が、淡く光った。
このカードは、フレームを超えた特別なイラスト。
オーバーフレーム――イラストが、飛び出す。
主良の手前へと。
「え、ちょ、なに……!?」
主良が身を引くより早く、光は弾けた。
空気が震え、机の上に置かれたカードが一斉に舞い上がる。
中心で、何かが“形”を持ち始めていた。
細い足首。
引き締まった脚線。
豊かな胸元にかけて滑らかな曲線を描く、
柔らかそうな女性の身体。
光が収まったとき、主良の部屋に“それ”は立っていた。
「…………ッ!?」
主良は、言葉を失った。
銀髪のツインテールが、肩口で揺れている。
サファイヤのように澄んだ蒼い瞳が、
真っすぐにこちらを射抜いていた。
果実のような胸のラインや、
蠱惑的なくびれの腰元を強調するように、
細く引き締まった全身を包むのは――
近未来的な光沢を持つシルバー色のサイバースーツ。
ぴっちりとしたその装いは、
まるでカードイラストから抜け出してきたかのようだった。
――いや、抜け出してきたのだ。
カードの少女は、表情を無にしたまま、
主良に向かって告げる。
「断固、反対します、マスター。
まだまだ戦えると主張します……あなたの切札は」




