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『誓約(ゲッシュ) 第一編』  作者: 津洲 珠手(zzzz)
第十九章 電脳の天使
88/100

第十九章 電脳の天使 其の四

変更履歴

2012/01/06 小題修正 電脳の女神 → 電脳の天使

2012/01/11 誤植修正 位 → くらい

2012/01/11 誤植修正 利いていない → 効いていない

2012/01/11 誤植修正 して見ると → してみると

2012/01/12 記述統一 1、10、100 → 一、十、百

2012/08/08 誤植修正 しているに先は → している先は

2012/08/08 誤植修正 階段の側の壁は → 階段の側の壁には

2012/08/08 誤植修正 どうしょうもない → どうしようもない

2012/08/08 句読点調整

2012/08/08 記述修正 この生贄と言うものが → 私の説明の中でも、この生贄と言うものが

2012/08/08 記述修正 命である事を話した時に → 命である事を知った時に

2012/08/08 記述修正 明らかな戸惑いが見て取れた → 最も大きな動揺が見て取れた

2012/08/08 記述修正 ここまで話をした所で → ここまで伝えた所で

2012/08/08 記述修正 これ以上私の話をした所で → これ以上私の事を教えても

2012/08/08 記述修正 強めるだけであろうと判断し → 強めるだけであろうと判断して

2012/08/08 記述修正 先程外したケーブルと → 先程臍から外したケーブルと

2012/08/08 記述修正 案内しようとしている先は → 案内しようとしている先には

2012/08/08 記述修正 その現場なのかと推測していた → その現場なのではないかと推測していた

2012/08/08 記述修正 普通の人間の様に → 全般的に整い過ぎている感はあるが、普通の人間の様に

2012/08/08 記述修正 ノートPCとケーブルをテーブルに置いて → 物をテーブルに置いて

2012/08/08 記述修正 どうして雨戸が閉まっているのかにゃ? → どうして昼間なのに雨戸が閉まっているのかにゃ?

2012/08/08 記述修正 白いシーツの掛けられた → 白いシーツが掛けられた

2012/08/08 記述修正 脱がされた高校の制服と → 脱ぎ散らかした様な学校の制服と

2012/08/08 記述修正 何とも判断がつかない → この状況だけでは何とも判断がつかない

2012/08/08 記述修正 本当は今日から一週間家族旅行の予定だった → 本当は今日から俺以外の家族三人で一週間旅行の予定だった

2012/08/08 記述修正 繋がっているケーブルを外した → 繋がっているケーブルのプラグを臍から抜いた

2012/08/08 記述修正 PC側のケーブルも抜いた → ケーブルのPC側のプラグを引き抜いていた

2012/08/08 記述修正 どうやら今の季節は → どうやら今は

2012/08/08 記述修正 隣の向かい側の部屋のドアの前を → 突き当たった収納に隣接する奥のドアの前を

2012/08/08 記述修正 鏡に向かって口を開けてみたり → 鏡に向かって口を開けたり

2012/08/08 記述修正 舌を出したりしてみたり → 舌を出してみたり

2012/08/08 記述修正 普通の人間の様に舌も口内も瞼も出来ていた → 舌も口内も瞼もまるで普通の人間の様に構成されていた

2012/08/08 記述修正 右側に三つのドアがあり → 三つのドアがあり

2012/08/08 記述修正 左側の奥にも一つ扉が見えた → 左側の奥にも扉が見えた

2012/08/08 記述修正 ここは血の海でもなければ、 → そこは血の海でもなければ

2012/08/08 記述修正 バラバラの死体も見当たらない → バラバラの死体も見当たらず

2012/08/08 記述修正 台所の状況は意外にも → 台所の状況は意外に

2012/08/08 記述修正 予測よりも普通の状態で → 普通の状態であったが

2012/08/08 記述修正 私を後ろへと突き飛ばした → 後ろへと突き飛ばした

2012/08/08 記述修正 私はテーブルの椅子の一つに腰掛けて何するでもなく待っていた → 私はテーブルの椅子の一つに腰掛けて、何をするでもなく待っていた

2012/08/08 記述修正 判っていても抑え様も無く → 判っていてもそれを抑え様が無く

2012/08/08 記述修正 自発的に語ってくれる事に → 自発的に語り出すのを

2012/08/08 記述修正 死体の腐敗を遅らせる為に → 死体の腐敗を少しでも遅らせる為に

2012/08/08 記述修正 少しでも温度を低くしている様だ → エアコンを使って室内の温度を低くしている様だ

2012/08/08 記述修正 絞めた跡らしい絞溝があり → 絞めた跡らしい扼痕があり

2012/08/08 記述修正 私からすればこの即答出来ない点からして → この即答出来ない点からして

2012/08/08 記述修正 だが暫くの後に書き込んだ内容は → 暫くの後に書き込んだ内容は

2012/08/08 記述修正 その罪を償う根性や → その罪を償う責任や

2012/08/08 記述修正 迫害されて生き続ける決意や根性は → 迫害されて生き続ける覚悟は

2012/08/08 記述修正 敷いてある布団の上に座ったので → 敷いてある布団の上に胡坐をかいて座ってからこちらへと手を出したので

2012/08/08 記述修正 私はその隣に座った → 私がその隣に座ってPCを差し出すと、青年はノートPCを受け取りチャットへ入力を始めた

2012/08/08 記述修正 私とは対角線上のテーブルの椅子に座ると → 私とはテーブルの対角線上にある椅子に座ると

2012/08/08 記述修正 テーブルの中央に置いてある → テーブル中央に置いてある

2012/08/08 記述修正 伸びてすぐに千切れてしまう短い麺を → すぐに千切れてしまう伸び掛けた麺を

2012/08/08 記述修正 青年はその台所の入り口へと → 青年は台所の入り口へと

2012/08/08 記述修正 廊下の中央と廊下の逆側に → 廊下の中央と反対側に

2012/08/08 記述修正 廊下の向こう側の突き当たりは → 反対側の突き当たりは

2012/08/08 記述削除 †神‡邪†>今までの人生で~

2012/08/08 記述修正 ノートPCを画面を向けて → ノートPCの画面を向けて

2012/08/08 記述修正 青年は妹の体に興味があり → 青年は妹の体に興味を持って

2012/08/08 記述修正 目につくのは大量の洋服やバッグ類だろう → 最も目につくのは大量の洋服やバッグ等の衣料品だろう

2012/08/08 記述修正 通り過ぎた部屋が → 通り過ぎた階段側のドアが

2012/08/08 記述修正 隣の部屋へと入ると → 開けられた隣のドアを入ると

2012/08/08 記述修正 背面の縁にコネクタを見つけて → 背面の縁に差込口を見つけて

2012/08/08 記述修正 同じものが起動されていて → 同じものが起動していて

2012/08/08 記述修正 テーブルの上のケーブルを取り自分で臍に挿した → テーブルの上のケーブルを取って自分で臍に挿し込んだ

2012/08/08 記述修正 私は自分の姿を → 自分の姿を

2012/08/08 記述修正 青年の設定通りの → 私は青年の設定通りの

2012/08/08 記述修正 私と言う存在が → 私と言う意識は

2012/08/08 記述修正 青年が招いたのだと言う事 → 意図的ではないにせよ結果的には青年が招いたと言う事

2012/08/08 記述修正 見渡していたりしたのだが → 見渡していたのだが

2012/08/08 記述修正 聞きたかったんだろう? → 聞きたかったんだろ?

2012/08/08 記述修正 そのものなのだなと → そのものだと

2018/01/24 誤植修正 そう言う → そういう

2018/01/24 誤植修正 そう言った → そういった


私は態度を変えた青年へと、私と言う意識は青年の作り出したものではない、別の場所からここに来た存在だと言う事と、私が現れたのは意図的ではないにせよ結果的には青年が招いたと言う事、それと私を呼び出すには生贄が必要になる筈である事を書き込んだ。

私の説明の中でも、この生贄と言うものが動物や人間の命である事を知った時に、青年には最も大きな動揺が見て取れた。

やはり彼は何かを知っているのは、間違いなさそうだ。

ここまで伝えた所で、これ以上私の事を教えても彼から何も得る事は無さそうだし、それに悪戯に青年の混乱を強めるだけであろうと判断して、こちらからの話はここまでにしておいた。

私の説明を読んだ青年は下を向いて暫く考えていたが、心を決めた様で頭を上げてから、チャット画面へと書き込んだ。


†神‡邪†>腹が減ったから飯にする

†神‡邪†>一緒に来て欲しい


そう書き込んだ後に、青年は私と繋がっているケーブルのプラグを臍から抜いた。

「んにゃあっ」

あの設定は接続時だけかと思ったら、取り外しの際も作動するらしい、それを予期していなかったので、私はまたもや自分の声に驚いてしまった。

だが私の喘ぐ声にも反応せず、青年は黙々とケーブルのPC側のプラグを引き抜いていた。

そして机の上に置いてあった、小さめのノートPCを開いて何か操作してから、再び閉じて電源ケーブルを外すと、先程臍から外したケーブルとPC本体を持って立ち上がった。

部屋を横切りドアの前まで向かった青年は、そこでこちらを振り向いて手招きして来たので、私は彼の後を追った。

この部屋以外の場所に行けるのは、非常に興味深いと感じていた反面、彼が案内しようとしている先には、私の問うた生贄に関する答えがある筈で、食事すると言ったのは台所がその現場なのではないかと推測していた。




部屋を出るとそこは廊下の端で、この青年の部屋以外にもう二つのドアが廊下の中央と反対側に見えていて、そこから折り返す様に下へと階段が続いており、反対側の突き当たりは収納らしい引き戸が見える。

階段の側の壁には小さめの窓があり、外はかなり明るいのが判った。

天井から吊り下がる照明や、亀裂の入ったくすんだ柱や皹のある黄ばんだ砂壁等を見るに、かなり古い和風建築の一軒屋の様に思える。

部屋に比べて空調の効いていない廊下はかなり蒸し暑く、どうやら今は夏かそれに近い気温の季節らしい。

青年の後について突き当たった収納に隣接する奥のドアの前を通った時、空調の音らしい騒音が微かに聞こえて私は立ち止まった。

てっきりこの家には、生きている人間と言う意味では、青年しか居ないのだろうと勝手に想像していたので、若しや誰か他に居るのかと気になったのだ。

だがその時階段を下りようとしていた青年は、立ち止まった私にすぐに気づいて、ついて来る様に促がして来たので、私は気になりつつもその部屋のドアの前を通り過ぎた。

小柄な体の所為か少し急に感じる階段を下りると、正面は玄関で右側の壁には小さな窓があり、左側には開けっ放しになっている台所の入り口がある廊下に出た。

玄関には鏡があったので自分の姿を確認してみると、私は青年の設定通りの大きなオッドアイの瞳であり、彼の部屋に大量に並んでいた、フィギュアの様な顔をしているのが判った。

少し興味が湧いてきて、鏡に向かって口を開けたり舌を出してみたり、あかんべえをしてみたのだが、全般的に整い過ぎている感はあるが、舌も口内も瞼もまるで普通の人間の様に構成されていた。

まさに私は等身大の生けるフィギュアそのものだと、ここで改めて実感する。

そんな事をしている間に、青年は台所の入り口へと入って行ったので、確認を終えた私も後を追って台所へと向かう。

台所へ入る際に、家の奥へと伸びる左手の廊下の方を眺めると、廊下の右側の面には台所を合わせて三つのドアがあり、廊下の突き当りと左側の奥にも扉が見えた。

そこまで見た所で、私も台所の中へと進んだ。




室内には壁沿いに食器棚や冷蔵庫や流しにガスコンロがあり、中央には四脚の椅子とテーブルが置いてあった。

そこは血の海でもなければバラバラの死体も見当たらず、台所の状況は意外に普通の状態であったが、ただ流しに洗い物が溜まっているのと、昼間の筈なのに雨戸が閉められていて、灯りを点けている点に違和感を感じただけだ。

ガスコンロの方を見ると、青年は手に持っていた物をテーブルに置いて、戸棚から即席ラーメンの袋を取り出し、鍋で調理しようとしていた。

二口あるコンロの一つには、大きな鍋が載せられていて、近づいてみるとそれにはカレーが入っていた。

鍋の半分程度は残っているこのカレーも食べるのかと思い、私が更に近づくと青年は唐突に何かを叫んで私の肩を掴み、後ろへと突き飛ばした。

この突然の青年の行動に対応出来なかったのと、その力が思いの他強くて私はよろけてしまい、尻餅をついて倒れてしまった。

「にゃにゃあっ!」

この器でも痛覚はある様で、床に打った箇所が痛み思わず声が出た。

これでも、“痛い”と言ったつもりだったのだが、とてもそうは聞こえない鳴き声に変換されていた。

青年は謝罪のつもりかすぐに私へと頭を下げてから、こちらへと近づき手を伸ばしたので私はその手を掴んで立ち上がり、どう言う事なのかを確認したい意思を表すべく、解説を求めてノートPCを指差した。

私の態度を見た青年はすぐにノートPCを起動しようとしていて、その間に火に掛けていたラーメンの鍋は煮立って吹き零れてしまい、それに気づいた彼は慌ててノートPCから離れてコンロへと向かう。

ここで催促しても、要領の悪い青年がまた何か失態を増やしかねないと思い、とりあえず青年の食事が終わるまでは待つ事にして、彼がすっかり伸びていそうなラーメンを器に移している間に、私はテーブルの椅子の一つに腰掛けて、何をするでもなく待っていた。

青年は鍋の中身を移した、具が何も入っていないラーメンの器を持って、私とはテーブルの対角線上にある椅子に座ると、テーブル中央に置いてある箸入れから箸を取り出して、すぐに千切れてしまう伸び掛けた麺をすすり始めた。

この間私はやる事もないので、何となく台所を見渡していたのだが、青年の箸の持ち方が変わっていて妙なのと、箸の使い方の所為でやたらと麺を落としているのが気になってしまい、注目すべきではないと判っているのだが、ついつい視線がそちらへと向いてしまう。

自分の食べている姿が好ましくない事に気づいている青年は、ノートPCを開いて片手で操作してから、私へと画面を向けた。

画面を見るとそこには、先程ディスプレイに映っていた『にゃにゃんシステム』と同じものが起動していて、更にチャット画面が開いているのが判り、私はテーブルの上のケーブルを取って自分で臍に挿し込んだ。

「んにゃあっ」

やはり声を発するのは判っていてもそれを抑え様が無く、設定を変えさせるまではこれが止まらないのを痛感しつつ、ケーブルの逆側をノートPCに挿せそうな場所を探して、背面の縁に差込口を見つけてそこにケーブルを繋いだ。

青年が不器用な手付きで食事を摂っている間に、私は聞いておきたい質問を書き込んでおく事にした。


にゃにゃん>とりあえず聞きたいことを書いておくにゃん。

にゃにゃん>何でさっきにゃにゃんを突き飛ばしたんだにゃ?

にゃにゃん>ここにはさっきの話と関係する物があるのかにゃ?

にゃにゃん>どうして昼間なのに雨戸が閉まっているのかにゃ?

にゃにゃん>二階の向かいの部屋には何かあるのかにゃ?

にゃにゃん>おにいちゃんの他に誰も居ないのかにゃ?

にゃにゃん>答えられるのだけでも良いから、教えて欲しいにゃん。


あまり大量な質問は青年を問い詰める事になってしまいそうなので、避けた方が良いかも知れないとも思ったのだが、だからと言ってこちらから問い掛けておかなければ、その点に触れられないかも知れないと思い直し、確認したい事は全て尋ねておいた。

だがあまり直接的な問い、例えば誰を殺したのかだとか、何人殺したのかとか、死体は何処に隠したのか等は、自発的に語り出すのを期待する事にした。

召喚と言う意味合いでは、それがどうなっていようが知った事では無いのだが、彼の場合は確固たる信念の元に他者を殺めているとは思えないので、そういう意味で方針を知る為の情報になりそうであるから、確認しておきたいところだ。

私はラーメンを食べ終えた青年へと、ノートPCの画面を向けて押し返した。

チャット画面の内容を読んでから、青年は徐にキーボードを叩き始めたのを見て、私は彼の隣の席に移動する。


†神‡邪†>さっきは悪かった

†神‡邪†>カレーをつまみ食いするんじゃないかと思った

†神‡邪†>あのカレーには毒が入っている

†神‡邪†>昨日両親にあれを食わせた

†神‡邪†>死体は寝室に運んである


青年はそこまで書き込んでから、ノートPCを私に差し出したので、私はそれを受け取ると、彼は席を立って台所を出て行く。

私はその後を追って廊下を右に曲がり開けられた隣のドアを入ると、そこもやはり雨戸が閉まっている真っ暗な部屋だった。




照明を点けるとそこは和室の六畳間で、そこには箪笥や鏡台が並んでいて、後は押入れが一つあり、その手前には旅行用のバッグが置いてあるのが見えた。

部屋の中央には、明らかに人間が入っているらしき膨らみのある、二つの布団が敷かれていて、ここが彼の言っていた親の寝室なのが判った。

この部屋は、青年の部屋よりも格段に冷えていてとても肌寒く感じる。

どうやら死体の腐敗を少しでも遅らせる為に、エアコンを使って室内の温度を低くしている様だ。

私は念の為に布団を少し捲って確認すると、中身は苦悶の形相をした中年の男女の死体であるのが判り、これで青年が、両親と思われる二人の人間を殺しているのは確認出来た。

青年は私が持っているノートPCを自分の方に向けさせてから、新たな書き込みを行った。


†神‡邪†>本当は今日から俺以外の家族三人で一週間旅行の予定だった

†神‡邪†>だから雨戸は開けてない

†神‡邪†>家族は俺と両親と妹の、全部で四人だ

†神‡邪†>この家には生きている人間は俺しかいない

†神‡邪†>二階の通り過ぎた階段側のドアが妹の部屋だ


ここまで書き込んでから、青年は寝室の照明を消して部屋を出て、そして台所を通り過ぎ、玄関の前を通って階段を上っていく。

そして二階に戻ると、今度は先程降りる前に私が立ち止まった部屋のドアを開けて、中へと入った。




この部屋もやはりとても寒いくらいの冷房がついている、締め切られた部屋だ。

青年の雑然とした部屋や、家具に囲まれた両親の寝室や台所とは異なり、この部屋は若い女の部屋と言うのもあるのか、すっきりとした印象を受けた。

白い壁紙が貼られた室内は、今までのくすんだ砂壁の部屋と比べると明るく、家具や置いてある物も明るい色調のものが多いのも、そういった印象を与えているのだろうか。

ベッド、洋服ダンス、机、小さなテーブル、ハンガーラック、全身鏡、テレビ等が置いてあるのだが、最も目につくのは大量の洋服やバッグ等の衣料品だろう。

白いシーツが掛けられたベッドの上には、脱ぎ散らかした様な学校の制服と、下着姿の茶色い髪をした少女の仰向けの死体があった。

少女の首には絞めた跡らしい扼痕があり、派手なメイクが霞む程に顔面は酷く鬱血して変色していた。

だらりと投げ出された手は、付け爪らしい長い爪が折れたり剥がれていて、残っている爪には黒く変色した肉片らしき物が詰まっている。

更には顔と胸部から腹部に掛けて、何かの体液らしき白い液体が多量に付着していた。

察するにあれは精液と思えるが、少女は下着を着用している状態であり、強姦して体内で出さない様に考慮したものではないらしい。

若しかすると、単純に下着を穿かせたままの方を好んだ、趣味の問題かも知れないが、この状況だけでは何とも判断がつかない。

とにかく、青年は妹の体に興味を持って、何らかの行為に及んでいるのは間違いない。

そこまで考えていた所で、青年はここで無言のまま部屋を出て行き、私は照明を消して部屋を出るとその後に続いた。

こうして私に三人の死体を確認させた青年は、再び自分の部屋へと戻って来た。




部屋に入ると机の椅子には座らずに、敷いてある布団の上に胡坐をかいて座ってからこちらに手を出したので、私がその隣に座ってPCを差し出すと、青年はノートPCを受け取りチャットへ入力を始めた。


†神‡邪†>妹は毒殺じゃなくてこの手で絞め殺した

†神‡邪†>それ以外に何をしたのかも判っただろ

†神‡邪†>俺が何をしたのかを聞きたかったんだろ?

†神‡邪†>ご覧の通り俺は家族三人を殺した人殺しだよ

†神‡邪†>両親を毒殺して妹を犯して絞め殺したどうしようもない人間だよ

†神‡邪†>聞きたがっていた事は教えてやった

†神‡邪†>お前は俺に自首しろとでも言うのか


最後のコメントを書き込んでからこちらを睨んだ青年の顔は、若干居直った風な語気とは裏腹に、咎められる事に対する恐怖に苛まれた、とても怯えた目をしていた。

自首、そういえばこの世界にはそんなものもあったなと、私は青年のコメントを見て思い出した。

彼がそれを望んでいないのは、その表情からしてどう見ても明らかだ。

手に掛けたのが親族であろうと、私の立場から言えば、たった三人殺した程度であれば、私よりも全然罪は小さいだろうと感じていた。

数千と言う人間を死に至らしめてきた私が、善なる神の如く彼を責めて裁きその罪を咎められるとは、とても思えない。

私はあくまで召喚者の意向に従うのを信条とし、それがその世界の道徳観念や世論とは異なったとしても、使命の遂行は変更する気はない。

だから、私は彼を咎める心算はないが、ただ、召喚者が真に望む願望を使命とすべきなので、虚勢を張っていた時のコメントが真意なのかは確認しなければならない。


にゃにゃん>にゃにゃんはそんな事は言わないにゃん。

にゃにゃん>にゃにゃんはおにいちゃんの望みを叶える為にここに居るのにゃん。

にゃにゃん>両親や妹を殺したのは願い事を叶える為かにゃ?

にゃにゃん>にゃにゃんにはどうもそこが吊り合ってない気がするのにゃん。

にゃにゃん>おにいちゃんの願い事は前に言っていた復讐で本当に良いのかにゃ?

にゃにゃん>にゃにゃんはおにいちゃんの味方だから、正直に言って欲しいにゃん。

にゃにゃん>本当にそれだけかにゃ?

にゃにゃん>他にはないのかにゃ?


私からの問い掛けを読んでも、青年はなかなか回答しようとはしなかった。

この即答出来ない点からして、別の意図があるのを物語っていると、強く確信しているのだが。

暫くの後に書き込んだ内容は、青年の完全な真意ではないと思える回答でしかなかった。


†神‡邪†>俺の考えは変わらない、俺が望むのは復讐だ

†神‡邪†>手近な三人にはもうこの手で復讐してやった

†神‡邪†>毎日の様にギャーギャー喚いていたクソババアも殺した

†神‡邪†>顔を合わせる度に怒鳴って叩かれたクソ親父も殺した

†神‡邪†>俺の事をずっと見下して馬鹿にしていたクソビッチも殺した

†神‡邪†>残りは俺の手の届かないところにいる奴らだ

†神‡邪†>この一週間の間で全ての復讐を実行する

†神‡邪†>それで全てが終わるんだ


青年の言葉からは、前と変わらない願望と、この事件が明るみに出ない間に全てを片付ける心算でいる事が、新たに判った。

彼の言動からして、終わりの意味する者は自殺であろうかと思える。

青年には殺人や強姦を行う度胸と言うか勢いはあったらしいが、その罪を償う責任や、大罪を背負って周囲の人間から迫害されて生き続ける覚悟は、持ち合わせていないのだろう。

だから報復が終わったら、発覚しない内に自殺して全てを終わらせたい、そう願っているのは判った。

如何なる生物も生まれる時を選べはしないが、死ぬ時は時として当人の意思に因って選択可能で、それを行使するのも一つの権利であり、そこまで無事に生き延びて来た生者の特権でもあろう。

青年がそれを行使したいと言うのであれば、私はそれを叶える努力はする、それが本意であれば。

青年が暗に語った、死んで責任を放棄したいと言うのは、新たに見えた本心であろうと理解して、私は記憶しておく事にした。

だが彼からのオーダーはそれではなく、報復の幇助だ。

まだ時間は一週間はあると考えれば、その間で心境が変化する可能性もあるかも知れないと考えて、私はとりあえず青年の要求する望みを叶える事にした。





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