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『誓約(ゲッシュ) 第一編』  作者: 津洲 珠手(zzzz)
第十九章 電脳の天使
87/100

第十九章 電脳の天使 其の三

変更履歴

2011/07/27 今は『空中浮遊』のチェックボックスはついておらず → 今は『空中浮遊』の値は“0”で浮遊は

2012/01/06 小題修正 電脳の女神 → 電脳の天使

2012/01/10 誤植修正 位 → くらい

2012/01/10 誤植修正 乗せてあった → 載せてあった

2012/01/10 誤植修正 利かなかった → 効かなかった

2012/08/07 誤植修正 ないかだろうか → ないだろうか

2012/08/07 誤植修正 税に入って → 悦に入って

2012/08/07 誤植修正 体を振るわせたので → 体を震わせたので

2012/08/07 誤植修正 後付された → 後付けされた

2012/08/07 誤植修正 喘ぎ声のが → 喘ぎ声が

2012/08/07 句読点調整

2012/08/07 記述修正 機能を実装する場所としては → 機能を実装する部位としては

2012/08/07 記述修正 真っ先に気に掛けていた → 真っ先に気に掛けていた筈の

2012/08/07 記述修正 余裕も無かった事柄について → 余裕も無かった事柄を

2012/08/07 記述修正 気になり始めていた → たった今思い出した

2012/08/07 記述修正 気になっていた事の一つである、 → ずっと忘れていた

2012/08/07 記述修正 外見上の変化は判らない筈なのに → 外見上の変化はない筈なのに

2012/08/07 記述修正 私が理解出来なかった → 理解出来なかった

2012/08/07 記述修正 指示を理解した意を彼へと頷いて表してから実行すると → 彼へと頷いて見せてから指示を実行すると

2012/08/07 記述修正 先程までは何も入力されていなかった筈の → すると、何も入力されていなかった筈の

2012/08/07 記述修正 その部分が光った後に → その部分が光った後

2012/08/07 記述修正 更にそのウィンドウから → 更にそのウィンドウで

2012/08/07 記述修正 何かのコマンドを叩き → 何かのコマンドを打ち

2012/08/07 記述修正 やはり英数字ばかりの → やはり文字ばかりの

2012/08/07 記述修正 一旦最小化させて → 一旦最小化して

2012/08/07 記述修正 再び手前に表示して → 再び手前にして

2012/08/07 記述修正 そこで先程と同じ様な → そこで前と同じ様な

2012/08/07 記述修正 その情報を確認後に再び最小化する → その内容を確認した後にまた最小化する

2012/08/07 記述修正 同じ様に確認を行っていた → 同じ様に内容確認を行っていた

2012/08/07 記述修正 獣が数体、或いは人間を一人以上 → 獣が数体か或いは人間を一人以上

2012/08/07 記述修正 意思を持つ人形的、或いはよく出来たロボット的なものでは → 青年の意向に即した意思を持つ人形やロボットでは

2012/08/07 記述修正 彼自身の事に触れる方が話が進みそうだ → 彼自身の内面に触れる方が話が円滑に進みそうだ

2012/08/07 記述修正 笑い続けている青年へと → 笑い続けている何も知らぬ青年へと

2012/08/07 記述修正 ただ報復するだけであれば → その根拠はただ報復するだけであれば

2012/08/07 記述修正 生き辛そうに思え → 生き辛そうに思えてしまい

2012/08/07 記述修正 少し同情した → 思わず憐れみを覚えた

2012/08/07 記述修正 少し態度が変わり始めた青年は → 少し様子が変わり始めた青年は

2012/08/07 記述修正 こちらを向いたままで無言のまま頷いて見せた → こちらを向いたまま無言で頷いて見せた

2012/08/07 記述修正 返答の態度を確認してから → 返答を確認してから

2012/08/07 記述修正 まあいい、貴様の存在理由について → 貴様の存在理由について

2012/08/07 記述修正 青年の脈拍は大きくて → 青年の鼓動は大きくて

2012/08/07 記述修正 持って来たペットボトルのキャップを開けて → ペットボトルを開けて

2012/08/07 記述修正 照明になる程の輝度はないが、真っ暗闇であれば多少は周囲も見えそうだが → 真っ暗闇であれば多少は周囲も見えそうだが、照明になる程の輝度はなく

2012/08/07 記述修正 五秒で消える設定の様なので → 指定された秒数で消える設定の様なので

2012/08/07 記述修正 今は『空中浮遊』の値は“0”で浮遊は出来ない設定で → 今の『空中浮遊』の値は“0”の浮遊出来ない設定であり

2012/08/07 記述修正 後付けされた機能の様な → 後付けされた様な

2012/08/07 記述修正 青年の背中をゆっくりと触れると → 青年の背中をゆっくり触れると

2012/08/07 記述修正 英数字だけが表示された → 文字ばかりが表示された

2012/08/07 記述修正 表示がされている様だ → 表示がされている

2012/08/07 記述修正 だが何だか妙に楽しくて → それだけの事だったのだがこれが何だか妙に楽しくて

2012/08/07 記述修正 思わず何回か机に触れて、四個の光る足跡をつけてみた → 思わず何度も机を触ったり足踏みを繰り返して、幾つもの光る足跡をつけてみた

2012/08/07 記述修正 すぐに手を退かすと → すぐに手を退けると

2012/08/07 記述修正 掌の肉球の形と同じ光が燐光の様に光り → 触れた箇所には肉球と同じ形の燐光が現れ

2012/08/07 記述修正 これを見ろ → これを見るがいい

2012/08/07 記述修正 青年は今までの様な → この時の青年は今までの様な

2012/08/07 記述修正 この馬鹿みたいな → この馬鹿みたいに

2012/08/07 記述修正 少しだけ考えた後に、まだ止まらない咳をしながら → まだ止まらない咳をしながら、少しだけ考えてから

2012/08/07 記述修正 まず元の位置に戻ってから → 元の位置に戻った後に

2012/08/07 記述修正 彼から返答が書き込まれた → 返答を書き込んだ

2012/08/07 記述修正 こちらを涙目で睨むその表情は → こちらを涙目で睨むその表情は、部下に対する主の姿には全く見えず

2012/08/07 記述修正 いきなり狼狽し始めた → 早速狼狽し始めた

2012/08/07 記述修正 復讐の実現が貴様の存在理由であり → 復讐の実行が貴様の存在理由であり、

2012/08/07 記述修正 報復の実現こそ我が悲願なのだ! → 報復の達成こそ我が悲願なのだ!

2012/08/07 記述修正 エンターキーを押してから、次のパスワード入力を → エンターキーを押して、パスワード入力を

2012/08/07 記述修正 臍にケーブルを挿された時の声の設定には → 臍にケーブルを挿された時の声には

2012/08/07 記述修正 背中にある翼の機能らしい『空中浮遊』、翼の表示状態を変えるらしい『翼表示切替』 → 背中にある翼の表示状態を変えるらしい『翼表示切替』、宙に浮かぶ機能らしい『空中浮遊』

2012/08/07 記述修正 猫の手足の触れた場所が → 猫の手足で触れた場所が

2012/08/07 記述修正 何を確認しているのか、それは良く判らない → 何を確認しているのかは良く判らない

2012/08/07 記述修正 誕生日にケーキのローソクを → バースデーケーキのローソクを

2012/08/07 記述修正 口を窄めて息を吹いた → 口を窄めて息を吹き掛けた

2012/08/07 記述修正 私は青年の背中を擦っていた → 私は彼の背中を擦ってやっていた

2012/08/07 記述修正 だが口内には異物感は感じられず → 根拠はないがイメージ的に苦そうな印象だったのだが、実際には口内に異物感は感じられず

2012/08/07 記述修正 ある種のプレイではないかと → 性的な余興の一種ではないかと

2012/08/07 記述修正 コンコンと叩いていた → コンコンと叩いているのに気づき、急いでチャット画面を見る

2012/08/07 記述修正 無表情でこちらへと向かって来る青年は → 強張った無表情でこちらへと向かって来る青年は

2012/08/07 記述修正 まだ何か動揺しているらしい → まだ緊張している様だ

2012/08/07 記述修正 少なくとも二つの魂が → 恐らく三つの魂が

2012/08/07 記述修正 二人の人間を生贄として → 三人の人間を生贄として

2012/08/07 記述修正 椅子に座った → ぎこちなく椅子に座った

2012/08/07 記述修正 英数字が下から上へと → 英数字や記号が下から上へと

2012/08/07 記述追加 これは手だけでなく足も出来るのかと思い~

2012/08/07 記述修正 激しくキーボードの打鍵音を立てて → キーボードの打鍵音を激しく立てて


青年の姿は危惧していた様な状態ではなく、出て行った時と変わらない服装で戻って来た。

ただその右手には、黒い液体の入った大きな1.5Lのペットボトルを持っていたのが、唯一の違いに見える。

どうやら彼は飲み物を切らしてしまい、階下へと取りに行っていたらしいが、先程出て行った時と比べると、手にしていたペットボトル以外は外見上の変化はない筈なのに、どうしてか妙にすっきりした様に見えた。

強張った無表情でこちらへと向かって来る青年は、何気なくペットボトルをぶら下げているつもりらしいが、手と足の同じ側を同時に前へと動かしていて、まだ緊張している様だ。

そんなぎこちない態度の青年は、終始手足を揃えたままで行進して机まで来ると、ペットボトルを定位置らしい丸い後のついた机の左隅に置いて、椅子に座った。

そしてチャット画面を見て私からの問い掛けに気づき、それを読むと青年は格好つけているつもりなのか、キーボードの打鍵音を激しく立てて入力し始めた。


にゃにゃん>教えて欲しいにゃん。

にゃにゃん>にゃにゃんは何の為にここにいるのにゃ?

にゃにゃん>何かする為かにゃ?

†神‡邪†>己の能力も自覚出来ていないのか、愚か者め

†神‡邪†>貴様の存在理由についてこれから教えてやろう

†神‡邪†>これを見るがいい


青年はそこまで騒々しく入力してから、メインメニューの中の『機能設定』のボタンを押して、機能設定画面を開いた。

機能設定画面には、一部の髪が感情に連動して動作するらしい『アホ毛感情連動』、背中にある翼の表示状態を変えるらしい『翼表示切替』、宙に浮かぶ機能らしい『空中浮遊』、猫の手足で触れた場所が残光する設定らしい『足跡残光』、猫の手や足の着脱の設定らしい『猫の手着脱』『猫の足着脱』、ケーブル接続時の鳴き声の設定らしい『ヘソ接続音』等は、何となく項目名から想像出来た。

臍にケーブルを挿された時の声には、“んにゃあっ”が選択されていて、ここであの予期せぬ喘ぎ声が設定されていた事や、どうやらこの器は、翼を使って空を飛ぶか浮くかが出来そうなのと、手で触った部分に光を灯すのと、その機能を持った手足は取り外しが出来るらしいのが判った。

今の『空中浮遊』の値は“0”の浮遊出来ない設定であり、『猫の手着脱』『猫の足着脱』も同様に出来ない設定になっていた。

ここまでは何となく理解出来た項目で、残りの四つの設定項目である、『尻尾ID変換』、『尻尾パスワード解除』、『息ログ書き換え』、『息ログ消去』は、起こす事象は何となく想像出来るのだが、この器の何処に使われるのかがいまいち判らない。

青年は『足跡残光』の設定を変更して、今まで光らない設定だったらしい“0”の値を“5”に変えて反映させる。


†神‡邪†>まずは確認だ

†神‡邪†>机の上を掌で触れ


どうやら彼は、性格設定が効かなかった事で慎重になっているのか、この画面の設定が正常に反映されるかを、確認したいらしい。

多分これは反映されるのでないかと思いつつ、実際にどうなるのかについて私も興味があり、言われた通りに机に肉球のついた掌で軽く触れてみた。

すると置いた手の縁が一瞬光って見えたので、すぐに手を退けると、触れた箇所には肉球と同じ形の燐光が現れ、徐々に薄れて五秒程で消えた。

真っ暗闇であれば多少は周囲も見えそうだが、照明になる程の輝度はなく、指定された秒数で消える設定の様なので、これは実用性を考慮したものでは無く、装飾品の一種なのだろう。

これは手だけでなく足も出来るのかと思い、少し動きながら足踏みをすると、手と同様に光る足跡がついていく。

それだけの事だったのだがこれが何だか妙に楽しくて、思わず何度も机を触ったり足踏みを繰り返して、幾つもの光る足跡をつけてみた。

これで両手を合わせる様に叩いたら、一体どうなるのかとふと疑問に思い、試しに両手を合わせてから離してみると、足跡の燐光は何と宙に残った。

と言っても光は平面なので、手を合わせてから横に回りこまないと、正面からでは只の細い光にしか見えないのだが、横から見ると空中に光る足跡がついているのだ。

最近はずっと不可解で混沌とした状況が続いていたのもあり、この予期せぬ深刻ではない現象は、私の精神の緊張を緩ませたのかも知れない。

年甲斐もなく、と言っても自分の正体が成人男性であるならばだが、童心に返って無邪気に光の足跡を作っていると、この間あまり意識していなかった青年が、いつの間にかこちらを見ながら、まるで教師が注意喚起で机をノックするかの様にコンコンと叩いているのに気づき、急いでチャット画面を見る。


†神‡邪†>お楽しみのところ悪いが遊びは終わりだ

†神‡邪†>貴様の存在意義について教えてやろう


青年はそう書き込んでから、『尻尾ID変換』、『尻尾パスワード解除』、『息ログ書き換え』、『息ログ消去』のチェックボックスにチェックをつけて反映させた。

私の存在理由は、どうやらいまいち理解出来なかった、例の四項目にあるらしい。

次に青年は机の下の足元にある、電源の入っていなかったPCを立ち上げてから、更にその上に載せてあった、今机の上にある物よりも大きめのノートPCの電源も入れた。

それから二つ並んだディスプレイのうちの左側をリモコンで操作して、表示されていた画面を切り替えた。

そこには今まで映っていた画面とは違った、英数字や記号が下から上へと流れているばかりの、地味で味気ない画面が表示された。

青年はそれを確認してから、またリモコンを操作して、同じ様だが微妙に異なる文字ばかりの画面を表示させて、確認していた。

その後、切り替えていない右側のディスプレイを見ながら、何か新たな操作を行い、新しいウィンドウを開いた。

それは左側に表示されているのと同様の、文字ばかりが表示された味気ないウィンドウで、左上にはユーザー名の入力を促がす様な表示がされている。

青年はそのウィンドウへと、英字で何か人の名前らしい文字列を入力した後に、再びチャット画面へと入力した。


†神‡邪†>まずは尻尾の先で入力した文字をなぞれ


尻尾の先と言うのは、何らかの機能を実装する部位としては、果たしてどうなのかと思うが、まあとにかく言う通りに実行すべきか。

前を向いたままでは尻尾はディスプレイに届かず、仕方がないので後ろを向いて振り向きながら、尻尾を持ち上げてディスプレイへと伸ばす。

若しかするとこれは、性的な余興の一種ではないかと勘ぐり青年の方を見ると、彼の視線はディスプレイを凝視しているのが判り、どうやら純粋にこの機能の結果を確認したがっているらしい。

伸ばした尻尾は手の様には上手く動かせずに、どうも微妙な操作が難しくて何度かずれたりしたが、数回の試行錯誤で文字列をなぞる事が出来た。

入力されていた値は尻尾が通過すると、そこだけが白く光ってから全く別の文字列へと変化した、これが『尻尾ID変換』の機能か。

青年はそこでエンターキーを押して、パスワード入力を促がす行を表示させた後、次の指示をチャットへと入力した。


†神‡邪†>よし、次はその下のパスワードの右側の所をなぞれ


彼へと頷いて見せてから指示を実行すると、今度は一回で上手く行う事が出来た。

すると、何も入力されていなかった筈のパスワード入力欄には、先程と同じく尻尾の通過と共にその部分が光った後、アスタリスクが幾つか並んでいた。

それを確認した青年は、再度エンターキーを叩く。

そうすると、ログインが成功したらしい事を示す、新たな英字の行が数行表示された。

青年はこの状態から、更にそのウィンドウでまた同じ様にユーザー名を入力し、私にID変換とパスワード解読をさせて、もう一度ログインを行った。

そこまで実行した後は、何かのコマンドを打ち何回かの操作を行ってから、更に二つ別の文字だけの新たなウィンドウを開いて、こちらは自分だけで入力してログインした。

その二つのウィンドウには、それぞれ数回の操作の後に、やはり文字ばかりの何かの情報を表示させてから、一旦最小化して最初のウィンドウを手前にした。

その確認作業が終わった後で、再びチャット画面へと入力が行われた。


†神‡邪†>次はこのウィンドウに息を吹きかけろ


これが残りの能力の正体なのかと考えつつ、私は青年に言われるままにディスプレイへ顔を近づけるべく身を乗り出して、対象のウィンドウへとバースデーケーキのローソクを吹き消す様に、口を窄めて息を吹き掛けた。

気の所為か吐いた息が少しだけ、キラキラと輝いていた気がするが、近すぎてはっきりとは見えなかった。

私が体を放すと同時に、青年は先程最小化していた二つのウィンドウを再び手前にして、そこで前と同じ様な情報を表示させてから、その内容を確認した後にまた最小化する。

その後次なる指示をチャットへと入力した。


†神‡邪†>次はこのウィンドウの前で息を吸え


これが最後の機能なのだろう、そう判断しながらまた身を乗り出して、今度は息を吸い込む。

今度は何が起きているのかを確認しようと見ていると、ディスプレイから光る文字が放出されていて、私はそれを口で吸い込んでいる。

根拠はないがイメージ的に苦そうな印象だったのだが、実際には口内に異物感は感じられず、物理的に何かが入っている訳では無いらしい。

光る文字群の放出はものの数秒で収まり、それを見て私は息を吸うのを止めて、ディスプレイから離れる。

再び青年は先程の二つのウィンドウを開いて、同じ様に内容確認を行っていた。

私の力で何かが起こり、その結果があの表示情報に現れている、そこまでは判るのだが、彼が具体的には何を確認しているのかは良く判らない。

それはこの後に説明があるのだろうと期待しながら、私はかつての召喚であれば真っ先に気に掛けていた筈の、ここ最近は意識する余裕も無かった事柄を、たった今思い出した。

そんな最中に、突然勝ち誇った様な高笑いを始めた青年は、笑いながらチャット画面へと文字を入力し始めた。


†神‡邪†>待たせたな、では貴様の存在意義を教えてやろう

†神‡邪†>それは、復讐だ!

†神‡邪†>俺様を侮辱し続けて来た奴等に地獄を見せてやる為のな!

†神‡邪†>その為に与えた貴様の力は四つ

†神‡邪†>復讐相手の名前からIDを暴く『尻尾ID変換』

†神‡邪†>復讐相手のIDのパスワードを解読する『尻尾パスワード解除』

†神‡邪†>復讐行為を復讐相手当人が行ったかの様に偽装する『息ログ書き換え』

†神‡邪†>こちらの工作の痕跡を完全に抹消する『息ログ消去』

†神‡邪†>これが貴様の力だ

†神‡邪†>復讐の実行が貴様の存在理由であり、報復の達成こそ我が悲願なのだ!


狂信者気取りで哄笑し続けている青年を眺めながら、私はずっと忘れていた糧の状況を確認してみる。

今回の私に与えられた能力は過去の召喚で考えれば、それほど膨大な生贄は要らない様に思えていた。

だがそうは言っても、人間の子供程の大きさの実体を作り出し、さも生きているかの様に実在させるのは、植物や昆虫で済む様な量ではない筈で、最低でも人間以上の獣が数体か或いは人間を一人以上、そのくらいは必要なのではないだろうか。

今まで体験して来た、この懐かしい感情を抱く異世界では、それ以前に居た向こう側の世界とは違って、殺人は日常ではない筈だ。

だが私の探知した範囲内には、恐らく三つの魂が糧として流入しているのを感じていた。

これの意味するところは即ち、この尊大で挙動不審な青年は、三人の人間を生贄として私へと捧げているのではないだろうか。

それだけの犠牲を出して望んでいるのは、その対価としては割に合わない様な気がしてならない、報復と言う行為だけだ。

ここで多少愚かしくても、世界征服だとか言ってくれれば、今までの態度の演出にも納得が出来るのだが、実際に語ったのは極めて個人的で小さい望みに思える。

あの能力をこの世界で上手く利用すれば、それなりに大きな事件や犯罪も起こせるとは思うが、復讐ではその対象が何十人もいるとも思えず、やはり小さな事なのではないだろうか。

これが彼にとって、他者を殺めてまでも行いたい、何よりも重要な事なのだろうか、何か違っている様な気がする。

だがそこを確認するのは未だだ、未だ彼からすれば私は少々設定の反映に問題のある、彼の想像の範疇にある人形でしかない。

私がそれ以上の存在だと知ってしまうと、彼の明らかに脆そうな精神はその事実を受け切れないのではないか、そう思えた。

だからこの点は、時間を掛けて私の正体について良く理解させてから、順を追って確認して行くべきであろう。

私と言う存在が彼の考えている様な、青年の意向に即した意思を持つ人形やロボットではない事を理解させてから、彼自身の内面に触れる方が話が円滑に進みそうだ。

私は悦に入って笑い続けている何も知らぬ青年へと、チャット画面から問い掛けた。


にゃにゃん>にゃにゃんのやるべき事は大体判ったにゃん。

にゃにゃん>ねえおにいちゃん、ひとつ聞きたい事があるのにゃん。

にゃにゃん>おにいちゃんは、どうやってにゃにゃんを作ったのにゃ?


青年は私の書き込みを見ると、笑い声はぴたりと止まってしまい、早速狼狽し始めた。

最初からいきなり対応出来ないとは、こんな質問をされる事を想定していなかったのかも知れないが、もう少しごまかす能力は無いのだろうか。

本当に打たれ弱い子供だと少々呆れてしまうが、体の大きさの割に精神年齢は低いのであろうと理解して、自尊心を逆撫でしない様に気をつけつつ、私と言う存在を理解させなければいけないと、改めて考える。

青年は動揺を隠そうとペットボトルを開けて呷ったのだが、そうしたら気道に入ってしまった様で咽てしまい、半泣きになりながら苦しそうに咳をし続けていた。

やれやれ、どこまで間抜けなのだろう、こんな情けない人間が殺人なんて出来るのだろうかと、そこから訝しみながら、苦しそうに咽続けている青年の背中を擦ってやろうと手を伸ばした。

しかし青年は私に触れられた途端、一瞬小動物の様に体を震わせたので、私の方が驚いている間に、彼は咽ながらもチャットへと入力してその意思を書き込んだ。


†神‡邪†>俺様に勝手に触るなとさっきも言っただろう!


書き込んでから、急いで椅子ごと私から少し離れて、こちらを涙目で睨むその表情は、部下に対する主の姿には全く見えず、手負いの小動物が警戒して威嚇しているかの様な、か弱い必死さを感じさせた。

何となくこの少年の性格を察して来たので、こちらもそれに合わせて対処すべく、言葉を選びながら書き込んだ。


にゃにゃん>ごめんなさいにゃん。

にゃにゃん>でも、おにいちゃんがあんまり苦しそうだったから、つい……

にゃにゃん>あのう、背中を擦ってもいいかにゃ?


私のコメントを読んだ青年はまだ止まらない咳をしながら、少しだけ考えてから、まず元の位置に戻った後に、返答を書き込んだ。


†神‡邪†>許可する

†神‡邪†>今度からは事前に許可を求めろ


私はその返答を確認してから、青年の背中をゆっくり触れると今度はそれほどは震えずに、逃げようともしなかった。

青年が咽ている間、時間にして三分程度だろうか、私は彼の背中を擦ってやっていた。

この猫の手は、そういった感度が良く出来ているのかも知れないが、服越しの背中からでも判るくらいに青年の鼓動は大きくて、この動悸は決して咽て苦しいからだけでは無い様に思える。

やはり私の器、この“にゃにゃん”と言うキャラが、彼の恋愛対象なのではないか、そう思えて仕方がない。

その根拠はただ報復するだけであれば、この形の器にあの機能を組み込む必要がないからだ。

純粋に例の四つの機能だけを実装するのであれば、きっともっとコンパクトで扱いやすい形を想像した方が、遥かに合理的ではないか。

どうもあの機能は、元々あったこの容姿に、後付けされた様な気がしてならない。

これらについても、もっと突っ込んだ会話が出来る様になったら、彼に聞いてみよう、この馬鹿みたいに尊大な態度が改善されて、もう少し私へと素直になった時にでも。

大分咳も落ち着いて来たのを見計らい、私は背中を擦っていた手を心臓の位置辺りに添えたままで、彼へと新たな問いを投げ掛けた。


にゃにゃん>もう落ち着いたかにゃ?

にゃにゃん>さっきの話の続きだけど、話せるかにゃ?

にゃにゃん>にゃにゃんはおにいちゃんの事が知りたいにゃん。

にゃにゃん>どんな事を聞いても絶対驚かないから、正直に話して欲しいにゃん。

にゃにゃん>そしたらにゃにゃんも、おにいちゃんを信じられるにゃ。

にゃにゃん>だから教えて欲しいにゃん。

にゃにゃん>お願いにゃん。


こう書き込んだ後、私は青年の顔を見つめた。

この時の青年は今までの様な、焦燥から来る動揺ではなく、逡巡と思える躊躇をしている様に見えた。

これは何か私の言葉に思い当たる節がある、その様な態度であろう、ここまであっさりと態度に出るのは、こちらからすれば判り易くて良いが、当人からすればどうなのだろう。

根が小心者なのに、変に強がってそのくせすぐに襤褸が出るのだから、あまりに不器用過ぎて生き辛そうに思えてしまい、思わず憐れみを覚えた。

彼の脈拍は僅かだが落ち着き始めている様にも感じて、これならばもう一歩突っ込んだ話をしても大丈夫かと判断すると、言葉を選びながら再度彼へと問い掛ける。


にゃにゃん>別に答えられなくても良いにゃん。

にゃにゃん>多分おにいちゃんは、その答えを知らないと思うんだにゃ。

にゃにゃん>だから、これからにゃにゃんの知っている事を話すにゃん。

にゃにゃん>最初にゃにゃんが知って欲しい事を話すから、まず聞いて欲しいにゃん。

にゃにゃん>その後、にゃにゃんの質問に答えて欲しいにゃん。

にゃにゃん>それで良いかにゃ?


青年は、いつの間にか私の方を見つめていた。

その顔は今までの不遜な態度は薄れていて、その代わりに何かに怯える、不安げな子供の様な表情が混ざり始めていた。

もう咽てはいなかったが、その眼鏡の奥の目はまだ涙で潤んでいるかに見える。

先程までの虚勢を張った態度から少し様子が変わり始めた青年は、こちらを向いたまま無言で頷いて見せた。

私はその子供じみた返答を確認してから、あやす様に背中に当てた手を添えたままで、話を始めた。





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