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『誓約(ゲッシュ) 第一編』  作者: 津洲 珠手(zzzz)
第十九章 電脳の天使
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第十九章 電脳の天使 其の二

変更履歴

2011/07/28 性格設定に『記憶喪失』『精神年齢』を追記

2011/07/28 『性癖設定』、『完全初期化』 → 『性癖設定』、『記憶初期化』、『完全初期化』

2012/01/06 小題修正 電脳の女神 → 電脳の天使

2012/01/09 誤植修正 確立 → 確率

2012/01/09 誤植修正 利かなくなる → きかなくなる

2012/01/09 誤植修正 利いていれば → きいていれば

2012/08/06 誤植修正 実を委ねるべきだと → 身を委ねるべきだと

2012/08/06 誤植修正 飛ばされたくない一身で → 飛ばされたくない一心で

2012/08/06 句読点調整

2012/08/06 記述修正 何に動揺しているのかが → 何に動揺しているのか

2012/08/06 記述修正 私は敢えて問うている → 私は敢えて問うたのだ

2012/08/06 記述修正 少々受け付け辛い器に対する報復が半分だ → 少々受け入れ辛い器にされた事へのささやかな報復が半分だ

2012/08/06 記述修正 すぐに終わるか → それはすぐに終わるか

2012/08/06 記述修正 私は変わらないのではないか → 私は何も変わらないのではないだろうか

2012/08/06 記述修正 エンターキーを叩き → エンターキーを力強く叩き

2012/08/06 記述修正 素早く入力を済ませて → 素早く入力を済ませると

2012/08/06 記述修正 反映させてから、その後に閉じるボタンを押して、無駄な努力を終えて → 反映させてから閉じるボタンを押して、

2012/08/06 記述修正 彼の凝視しているディスプレイの前に顔を出して、青年の視界を遮るべく身を乗り出すと → 青年の視界を遮るべく身を乗り出して、彼の凝視しているディスプレイの前に顔を出すと

2012/08/06 記述修正 思いの他彼と顔が近づいてしまった → 予想以上に近づいて接触しそうになった

2012/08/06 記述修正 発熱で意識が揺らぎながら、止まらぬ嚔に襲われて → 急な発熱で意識が揺らぎ、それと同時に止まらぬ嚔に襲われて

2012/08/06 記述修正 そっけない回答を読んだ後 → 実にそっけない回答を読んだ後

2012/08/06 記述修正 “アホの子”へと合わせて → “アホの子”へと合わせると

2012/08/06 記述修正 チェックをつけてから、適用させた → チェックをつけて適用させた

2012/08/06 記述修正 この建物は二階以上あるらしい → 恐らくこの建物は二階以上あるらしい

2012/08/06 記述修正 操作していたのを横から見ていても → 青年が使っていたのを見た限りだが

2012/08/06 記述修正 表示させて見るだけなら → 画面に表示させるだけなら

2012/08/06 記述修正 適用ボタンを連打して → 適用ボタンを連打し

2012/08/06 記述修正 パスワード入力して → その後にパスワード入力して

2012/08/06 記述修正 発生の有無を設定するらしい → 日毎の回数を設定するらしい

2012/08/06 記述修正 空腹時の腹鳴の有無を設定をするらしい → 空腹時の腹鳴の有無を設定するらしい

2012/08/06 記述修正 主に命令するな → 主に指示するな

2012/08/06 記述修正 特に気にせずに聞き流した → 特に気にせずに聞き流す事にした

2012/08/06 記述修正 すぐに目を逸らして、ディスプレイへと向き直るとすぐに何かを入力し始めた → 目を逸らした

2012/08/06 記述修正 果たしてちゃんとこなせるのか → 果たしてちゃんとそういった要求をこなせるのか

2012/08/06 記述修正 メインメニューの全項目を → 全項目を

2012/08/06 記述修正 やはり視線は一瞬でも合うと即座に逸らしている → 声は震えて裏返り視線も逸らしたままだ

2012/08/06 記述修正 細かい事には拘らない設定だったらしい → 細かい事には拘らない性格だったらしい

2012/08/06 記述修正 意味などない事なんて → 何の意味もない事なんて

2012/08/06 記述修正 言われずとも判っている → 訊くまでもなく判っている

2012/08/06 記述追加 †神‡邪†>ダガーとダブルダガーだ

2012/08/06 記述修正 避けているのだろう → 恐れているのだろう

2012/08/06 記述修正 それと同時に青年は手から力を抜いて、すぐに私の手を離してしまい、結局青年は → すると青年はすぐに私の手を離してしまい、結局

2012/08/06 記述修正 慎重に握った → 慎重に掴んだ

2012/08/06 記述移動 にゃにゃん>だから無駄だって言ってるにゃん。

2012/08/06 記述修正 だから無駄だって → だからさっきから無駄だって

2012/08/06 記述移動 にゃにゃん>どれだけやっても変わらないにゃん。

2012/08/06 記述修正 どれだけやっても → だけどどれだけやっても

2012/08/06 記述修正 私が近づくと異常な行動をするのは一体何なのだろうと → どうして私が近づくと異常な行動をするのだろうと

2012/08/06 記述追加 その後青年はディスプレイへと向き直ると~

2012/08/06 記述修正 『基本的性格6』がある → 『基本的性格6』、几帳面からおおらかまでのレベルを設定するらしい『基本的性格7』がある

2012/08/06 記述修正 目があった途端に → 目が合った途端に

2012/08/06 記述修正 すぐに目を逸らして → すぐに顔を背けて

2012/08/06 記述修正 会話をしているのではないかとも → 会話をしているのではないかと

2012/08/06 記述修正 腕を組んだまま唸っていた → 腕を組んだまま唸り始めた

2012/08/06 記述修正 『生理期間』 → 『生理期間』、“寒がりから“暑がり”までをレベル設定するらしい『体感温度』

2012/08/06 記述修正 『体調悪化』 → 『疾病』

2012/08/06 記述修正 『体質』 → 『体調』


私はこの様な口調の言動を発する様には、念じた覚えは無いのだが。

何故か私の言葉は、意図しない過度の変換が行われて、画面へと表示されていた。

何とも言えない屈辱に似た感情を抱きつつ、私は召喚者でありこうなる様に設定した張本人であろう、青年を眺めた。

青年は私の顔を見つめて薄笑いを浮かべていたのだが、私と視線が合うと目を逸らした。

その横顔から見える片側の耳は真っ赤で、何に動揺しているのか私にはどうも良く判らない。

その後青年はディスプレイへと向き直るとすぐに何かを入力し始めた。


†神‡邪†>読み方は“しんや”だ


実にそっけない回答を読んだ後、私はこの青年へと再び語り掛けてみた。


にゃにゃん>と言う事は神が“しん”で邪が“や”なのかにゃ?

†神‡邪†>そうだ

にゃにゃん>じゃあ“†”と“‡”は何にゃ?

†神‡邪†>剣標と二重剣標だ

にゃにゃん>剣標と二重剣標とは何にゃ?

†神‡邪†>オベリスクとダブルオベリスクだ

にゃにゃん>オベリスクとダブルオベリスクとは何にゃ?

†神‡邪†>短剣符と二重短剣符だ

にゃにゃん>短剣符と二重短剣符とは何にゃ?

†神‡邪†>ダガーとダブルダガーだ

にゃにゃん>さっきからにゃにゃんの質問の答えになってないにゃん。

にゃにゃん>にゃにゃんはそれの別名を聞いているんじゃないにゃん。

にゃにゃん>これは読まなくても良いのかにゃ?

にゃにゃん>それらにはどういう意味があるのかにゃ?

にゃにゃん>別に意味がないならどうしてつけているのにゃ?


私の意図に気づいたのか、青年の返答の書き込みは途中から停止した。

これらの記号に何の意味もない事なんて、訊くまでもなく判っている。

恐らくは安易に格好良いからとかであり、それに“神邪”と言うのだって当て字であろう、有りがちとも言える幼稚な発想でのネーミングに違いあるまい。

それらを判っている上で私は敢えて問うたのだ、相手の性質を確認する目的が半分、少々受け入れ辛い器にされた事へのささやかな報復が半分だ。

私からの畳み掛ける問いに対して手が止まった青年は、私の方をばつが悪そうに睨んでから、今まで隠れていたメインメニュー画面を表示して、今度は『性格設定』のボタンをクリックした。

新たに開いたウィンドウには、幾つもの項目が並び、その項目の右には項目毎に入力フィールドや、チェックボックスやシークバー等が表示されていた。

並んでいる項目は、画面内で二系統に細分化されていて、『基本的性格』と『その他』に分けられている。

『基本的性格』には、“暗い”から“明るい”までのレベルを設定するらしい『基本的性格1』、“大人しい”から“元気”までのレベルを設定するらしい『基本的性格2』、“素直”から“天邪鬼”までのレベルを設定するらしい『基本的性格3』、“無口”から“お喋り”までのレベルを設定するらしい『基本的性格4』、“ゆっくり”から“早口”までのレベルを設定するらしい『基本的性格5』、“気長”から“短気”までのレベルを設定するらしい『基本的性格6』、“几帳面”から“おおらか”までのレベルを設定するらしい『基本的性格7』がある。

『その他』には、“ツン”と“デレ”の比率を設定するらしい『ツンデレ』、失敗発生率を設定するらしい『ドジッ娘』、奇行の発生確率を設定するらしい『不思議ちゃん』、泣き出し始める閾値を設定するらしい『泣き虫』、言う事をきかなくなる閾値を設定するらしい『わがまま』、甘える閾値を設定するらしい『甘えんぼ』、“大嫌い”から“大好き”までのレベルを設定するらしい『恋愛感情』、記憶の有無を設定するらしい『記憶喪失』、精神年齢を数値で指定するらしい『精神年齢』等がある。

これ以外には画面の下の方に『適用』、『初期化』、『閉じる』と書かれたボタンが並んでいる。

青年はこの画面の各項目を、色々とチェックしたり設定値を変更したりして調整していた。

なるほど、これだけ細かく私の性格は定義されていたのか、本来ならば。

残念ながら器としての性格や意思は、よほどの事が無い限り私へは殆んど反映されないから、恐らくこれをどれだけ弄った所で私は何も変わらないのではないだろうか。

因みに彼の設定では、どうやらもっと素直で大人しくて、細かい事には拘らない性格だったらしい。

彼はぶつぶつと、ディスプレイに向いたままで何かを言っていた。

私との会話はチャットで行う筈なので、どうやらこれは独り言らしいと理解して、特に気にせずに聞き流す事にした。

それはすぐに終わるか、断続的なものであろうと踏んでいたのだが、予想とは違い延々と独りで喋っているので、実は何か私の理解出来ない通信手段を使い、誰かと会話をしているのではないかと疑い始めた。

しかしそれらしい機器は口元にも耳にも装着していないし、ヘッドホンすら今は装着せずに首にかけたままであり、それに会話相手の声らしき音声は全く聞こえてこない。

青年は相変わらず独り言を喋りながら、設定画面にある適用ボタンを押下し、この後開いたパスワード入力ウィンドウに素早く入力を済ませると、エンターキーを力強く叩き反映させてから閉じるボタンを押して、ウィンドウを閉じた。

この後青年はチャット画面を手前にして、腕を組んだまま唸り始めた。

どうも変更が反映されているかが気になっていて、チャット画面の入力フィールドに、どの様に入力して確認したら良いかを、迷っている様に私には見えた。

ならば、その虚しい期待を打ち砕いてやろうと思い、私から語りかけた。


にゃにゃん>残念でしたにゃん。

にゃにゃん>にゃにゃんの性格はどんなに設定を弄っても変わらないにゃん。

にゃにゃん>それよりこの口調を普通にして欲しいにゃん。

にゃにゃん>にゃにゃんはにゃんにゃんにゃんにゃん言いたくないにゃん!

にゃにゃん>にゃんにゃんにゃんにゃん鬱陶しいにゃん!

にゃにゃん>どうせ設定で制御可能になっているに決まってるにゃん。

にゃにゃん>この変な設定を直してにゃん。


青年は最初に出会った時の様に、私の方を見て口をあんぐりと開けて固まった。

私はそんな彼の目を見て睨んだのだが、青年は視線恐怖症かの様に、目が合った途端にすぐに顔を背けてディスプレイへと向き直り、今度はメインメニューにある『知能設定』のボタンを押した。

この画面には、“感覚的から“論理的”までのレベルを設定するらしい『思考パターン』、“アホの子”から“秀才”までのレベルを設定するらしい『賢さ』、覚えた内容を忘れる確率を設定するらしい『記憶力』、指示された内容が理解出来る確率を設定するらしい『理解力』があった。

青年は『賢さ』のレベルを限界まで“アホの子”へと合わせると適用ボタンを連打し、その後にパスワード入力して反映させた。

そしてチャットの画面を手前に表示したので、透かさずまた書き込みを行う。


にゃにゃん>なるほどにゃ、設定反映にはパスワード入力が必須なんだにゃ。

にゃにゃん>だけどどれだけやっても変わらないにゃん。

にゃにゃん>だからさっきから無駄だって言ってるにゃん。

†神‡邪†>もう判った

†神‡邪†>貴様の言う通り性格設定が反映されないのは認めてやろう

†神‡邪†>だが話し方は断じて直さない

†神‡邪†>それが貴様の口調だと理解するのだ

†神‡邪†>俺様が作り出したキャラのくせに主に対して口答えなんて許さん!


やけに偉そうな語調で書き込む青年は、会話相手である私は隣に居るのに、こちらを全く見ようとせずに入力し続けていた。

そこで私は青年の視界を遮るべく身を乗り出して、彼の凝視しているディスプレイの前に顔を出すと、それと同時に彼はディスプレイに顔を近づけようとした為に、予想以上に近づいて接触しそうになった。

私がリアクションを取る前に、青年は素っ頓狂な声を上げて後ろにのけぞり、その拍子に椅子は後ろへと倒れて、彼は椅子の転倒に合わせて後方へと倒れた。

青年は転倒したダメージよりも、精神的な動揺の方が大きいらしく、何かを必死に叫んでいるのだが言葉は理解出来ない。

怒りと言うよりは動揺に因り彼の顔は真っ赤になっていて、私に対して怒鳴っているらしいが、声は震えて裏返り視線も逸らしたままだ。

この通常の会話が出来ないのも設定の何処かにありそうな気がするが、今はそれよりも自ら主だと名乗ったこの青年は、どうして私が近づくと異常な行動をするのだろうと考えていた。

とりあえず主なのだし手助けしてやるべきかと思い、倒れている青年へと手を差し伸べるが、彼は何かぶつぶつ呟きながら如何にも渋々と言った様子で、私の猫の手を躊躇する様に慎重に掴んだ。

この部屋は空調が作動していて、適温である筈なのに青年の手はじっとりと湿っており、彼が力を入れて立ち上がろうとすると、私は異常に軽い体重の所為なのか、支えるどころか青年に引っ張られそうになった。

すると青年はすぐに私の手を離してしまい、結局自力で起き上がった。

そして椅子を起こして座り直すと、再びチャット画面に書き込みを始めた。


†神‡邪†>俺様に勝手に近づくな

†神‡邪†>それに俺様に許可なく触れるのも許さん!

†神‡邪†>それから召使いの分際で主に指示するな

†神‡邪†>これは命令だ

†神‡邪†>そうしないのなら貴様に罰を与える

にゃにゃん>罰って何にゃ?

†神‡邪†>罰と言うのはなぁ、これだ!


主である青年は己の力を誇示すべく、何らかの逆襲に出たらしい。

メインメニューから『生体設定』のボタンを押して、新たな設定画面を開いた。

そこには先程の『性格設定』とは全く異なる趣きの設定項目が、細かな分類もなく一つの枠に並んでいる。

排便の日毎の回数を設定するらしい『トイレ(大)』、排尿の日毎の回数を設定するらしい『トイレ(小)』、生理の発生頻度を数値で入力するらしい『生理間隔』、生理中の期間を数値で入力するらしい『生理期間』、“寒がり”から“暑がり”までをレベル設定するらしい『体質』、“かかない”から“汗っかき”まで発汗量をレベル設定するらしい『汗』、眠気の発生する間隔の日数を設定するらしい『睡眠間隔』、一回毎の必要な睡眠時間を設定するらしい『睡眠時間』、日毎に食事を必要とする回数を設定するらしい『食事回数』、“無食”から“大食い”までのレベルを設定するらしい『食事量』、空腹時の腹鳴の有無を設定するらしい『空腹音』、“健康”から“虚弱”までのレベルを設定するらしい『体調』、発病時の各種症状を設定するらしい『疾病』、連続で稼働出来る時間に対する設定らしい『稼働時間制限』があった。

青年はこの中から、『疾病』の項目の一覧表形式になっている設定値から、『発熱』と『くしゃみ』にチェックをつけて適用させた。

すると突然、私はのぼせた様に意識が朦朧として、更に鼻がむずむずしてきた。

急な発熱で意識が揺らぎ、それと同時に止まらぬ嚔に襲われて、このシステムは精神的な要素については無効だが、器の肉体的な要素に対しては有効な事が証明された。

青年は私がふらつきながら嚔をしているのを、これ見よがしに高笑いしながら眺めていて、その間にも私の視界は暗くなり眩暈が襲い掛かる。

終いには呼吸まで苦しくなり始めて、私は荒い息へと変わって足元も覚束無くなり、意識を失いかけて机に寄り掛かりながら、何とかチャットへと書き込んだ。


にゃにゃん>おにいちゃんの力は分かったにゃん。

にゃにゃん>もう逆らったりしないにゃん。

にゃにゃん>だから許して下さいにゃん。

にゃにゃん>お願いしますにゃん。

にゃにゃん>苦しいにゃん。

にゃにゃん>もう許してにゃん。

にゃにゃん>お願いにゃん。


このまま力尽きるとまた何処かへ飛ばされるのではと危惧して、これ以上次々と飛ばされたくない一心で、私は青年へと懇願の表情と態度を示した。

それをちらっとだけ見た青年は、またもや少し動揺を見せつつも自尊心は満たされた様で、『発熱』と『くしゃみ』の設定を元に戻して適用した。

その途端に私の症状は改善されて、元の何でもない状態に戻った。


†神‡邪†>しょうがないからこの辺で許してやろう

†神‡邪†>始めから素直に言う事をきいていれば良いものを

†神‡邪†>二度と俺様に指図したり逆らうんじゃないぞ

†神‡邪†>少しそのまま待っているがいい


青年は私が屈服した事に満足出来た様で、すっかり気が大きくなったのか、私への命令をチャットに書き込むと、椅子から立ち上がって部屋を出て行った。

何処に行ったのかは判らないが、階段を下りる様な足音が聞こえたので、恐らくこの建物は二階以上あるらしい。

私は青年がすぐには戻って来ないのを確認して、この隙に何か出来る事はないかと考え始めた。

パスワード入力があるので、彼が不在の隙に設定を変更出来ないのは明白だが、でも設定画面を開いて設定項目の確認だけなら出来る。

青年が使っていたのを見た限りだが、画面に表示させるだけなら、マウスの操作だけで出来る筈だ。

私は明らかにデザインではなく、妙に光沢を放っているマウスをあまり触れない様にしながら、巨大な猫の手で押したり爪でクリックして、何とかメインメニューを手前に表示させる事に成功し、全項目を確認する事が出来た。

メインメニュー画面には、『チャット』、『表示設定』、『容姿設定』、『性格設定』、『知能設定』、『言動設定』、『機能設定』、『生体設定』、『性癖設定』、『記憶初期化』、『完全初期化』のボタンが順に並んでいた。

『チャット』は今も開いている会話に使う画面、『性格設定』は性格を設定する恐らく無意味な画面、『知能設定』もまあ同様だろう、『生体設定』は先程苦しめられた肉体的な影響を及ぼす画面だ。

これら以外の『表示設定』、『容姿設定』、『言動設定』、『機能設定』、『性癖設定』、『完全初期化』が未だ見ていない画面になる。

この猫の手は予想以上に不便で、掴むと言う動作が出来ず、青年がいつ帰って来てもすぐに元に戻せる様にと考えると、下手に新しい画面を開くと閉じられないかも知れない。

先程痛い目に遭ったばかりで、また主たる青年の機嫌を損ねるのは避けるべきだと判断して、ボタンは押さないで、すぐにでも元のウィンドウの状態に戻せる様に構えつつ、思案していた。

未だ見ぬ設定画面の中で最も気になるのは、やはり『性癖設定』だろう。

『生体設定』でも妙に生々しい設定項目が並んでいるとは思ったが、もうこちらはそのままで、要するにこの器は性欲の解消の為の存在なのではないかと思える。

この何とも言えない容姿や最初に見せていた解説の説明からしても、これは彼の少々問題のある性癖を満たす為の存在、つまり私は彼の性具ではないだろうか。

そう思うと、彼は今もこれからその行為に至る為の準備をしていて、戻って来た時には全裸で登場と言う急展開も、在り得なくもない気がして来る。

しかしもし私が彼の望んだ性具ならば、何故あんなに私が近づいたり触れたりするのを、嫌がると言うか、恐れているのだろう。

寧ろ青年の方から私へと、襲い掛かって来るのが筋と言うものではないか。

色々と謎はあるが、とりあえず召喚者が青年なのかどうか、それは確認したい。

そして召喚者であるのなら、その目的がどれだけ卑猥なものでも、または屈辱的なものであっても、それが私の存在意義であるのであれば、叶えるべきだろう。

そう考えた後、私は本来の自分の性別について改めて思い出し、迷いが生じた。

前回の転落死した召喚では、私は男だったが、今の器は女か、それを模したものだ。

今までの召喚では、超自然の存在であったのもあり、また性別特有の行動や行為も無かったので、外見こそは女性である女神等もあったが、あまり強く性別を認識した事はなかった様な気がする。

だが今回ばかりはそんな崇高な存在ではなく、男の性欲の捌け口そのものかも知れない。

それでも私は果たしてその様な状況になった時に、それが役目であり使命だと割り切って応じられるだろうか、そんな疑念が湧き始める。

この容姿でも違和感を感じ、チャット画面での口調でも嫌悪感を覚えたのだ、自身が男だと言う過去の記憶がある状態で、果たしてちゃんとそういった要求をこなせるのか。

そんな葛藤に苛まれたものの、この姿と立場である事が今の私の正体だと考えて、この際個人的な感情は抑制して使命に身を委ねるべきだと、強く念じた。

私はウィンドウを元に戻して、チャット画面に確認したい質問を書き込んでから、青年が戻って来るのを待っていた。

戻って来ていきなり行為に入らない限り、画面を見るだろうから、その時に質問に答えて貰いこの召喚の目的を明確にして、その後はその運命に従おう。

そう決心して私が待っていると、再び部屋のドアが微かに軋みながら開き、青年が再び姿を現した。





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