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『誓約(ゲッシュ) 第一編』  作者: 津洲 珠手(zzzz)
第十六章 断罪と贖罪
76/100

第十六章 断罪と贖罪 其の四

変更履歴

2011/05/31 誤植修正 向かえて → 迎えて

2011/06/04 記述修正 「連れていけ」 → 連れていけ、と。

2011/12/26 記述修正 追っ手 → 追手

2011/12/27 誤植修正 例え → たとえ

2012/05/15 誤植修正 これたげ多くの → これだけ多くの

2012/05/15 誤植修正 側近事は → 側近は

2012/05/15 誤植修正 答えてくれました → 応えてくれました

2012/05/15 誤植修正 出る事に出て → 出て

2012/05/15 誤植修正 床を汚れると文句を言い → 床が汚れると文句を言い

2012/05/15 誤植修正 その顔だちをしていて → 顔だちをしていて

2012/05/15 句読点調整

2012/05/15 記述修正 弟の屋敷に近づいただけで → しかし、弟の屋敷に近づいただけで

2012/05/15 記述修正 元々黒い修道服でしたが、浴びて来た血で更に黒ずんだ → 浴びて来た血で黒ずんだ

2012/05/15 記述修正 かなり目立ってしまうので → かなり人目を引くので

2012/05/15 記述修正 捨てるかの様に袋を投げつけられました → 袋を投げ捨てたのです

2012/05/15 記述修正 見た事もない女が姉だと言って突然現われた事になり → 見た事もない女が、突然姉だと言って現われた事になり

2012/05/15 記述修正 怪しげな話にしか聞こえない → 怪しげな話にしか聞こえない筈です

2012/05/15 記述修正 丸薬を差し出したのだけれど → 丸薬を差し出したのですが

2012/05/15 記述修正 もしその真意が通じなかったら、或いは全くの別人だったとしたら、もし全く相手にされなかったら → もし弟ではない別人でその真意が通じずに、全く相手にされなかったら

2012/05/15 記述修正 どうなってしまうのだろう → その先の事はもう考えられませんでした

2012/05/15 記述修正 貿易商人の男とも会えず → 会う事すら許されず

2012/05/15 記述修正 私は多分来月には何も出来ずに死ぬ事になる → あれが弟だったのかを確認する事も出来ずに、私は死ぬ事になってしまいます

2012/05/15 記述修正 その運命に従おう → その運命に従うしかない

2012/05/15 記述修正 一週間が過ぎて → やがて一週間が過ぎて

2012/05/15 記述修正 貿易商人の男の屋敷へと向かいました → 再び屋敷へと向かいました

2012/05/15 記述修正 入り口の上には → 入り口の頭上の壁には

2012/05/15 記述修正 大きなステンドグラスがあり → 大きなステンドグラスがあって

2012/05/15 記述修正 天より赤子を授かる聖母の姿が → 赤子を胸に抱く聖母の姿が

2012/05/15 記述修正 もう遥か昔のこの手で → 遥か昔にこの手で

2012/05/15 記述修正 取り上げた時の事を思い出して → 取り上げた時の事を思い出し

2012/05/15 記述修正 これだけ多くの人間を雇い → これだけ多くの使用人を雇い

2012/05/15 記述修正 大儲けしていると言う噂は → 大儲けしていると言う噂が

2012/05/15 記述修正 少し嬉しく思いました → 自分の事の様に嬉しく思いました

2012/05/15 記述修正 主が近づいて来るのに → しかし、この様な奇跡的な再会で感動に浸っていた私に対して、

2012/05/15 記述修正 私が立ち尽くしているのを見て → 私が立ち尽くしているのに見張りの男達が気づくと

2012/05/15 記述修正 左右に居た見張りに力ずくで → 力ずくで

2012/05/15 記述修正 礼をさせられました → 礼をさせられたのです

2012/05/15 記述修正 この様な奇跡的な再会で~、私が立ち尽くしているのに~、 → 私が立ち尽くしているのに~、この様な奇跡的な再会で~、

2012/05/15 記述修正 屈辱と悔しさが → 一転して屈辱と悔しさが

2012/05/15 記述修正 私の事を伝えさえすれば → 私の事を伝えさえすれば、きっと

2012/05/15 記述修正 意識を取り戻して気がつくと → 意識を取り戻して目を覚ますと

2012/05/15 記述修正 座らされた状態で縛りつけられていて、更に手や足を縛られていました → 座らされた状態で、手や足を縛られていました

2012/05/15 記述修正 私に対する拷問でした。側近は → 私に対する拷問で、側近は

2012/05/15 記述修正 聞きだそうとして来たのです → 聞き出そうとしてきたのです

2012/05/15 記述修正 もうどうしようもない → もうどうしようもありません

2012/05/15 記述修正 殺されてしまうのだろう → 殺されてしまうのでしょう

2012/05/15 記述修正 当然なのかも知れない → 当然なのかも知れません

2012/05/15 記述修正 どこかに隠す為だったのか → どこかに隠す為だったのでしょうか

2012/05/15 記述修正 血の繋がった弟だった → 血の繋がった弟だったなんて

2012/05/15 記述修正 夜中になったら私は、口封じで始末されると言う現実でなく → 夜中になったら口封じで殺される恐怖などではなく

2012/05/15 記述修正 これが頭の中をずっと回っていました → これが頭の中から一時も消える事なく巡っていたのです

2012/05/15 記述修正 二度と叶わないものにされていた → 二度と叶わないものにされてしまった

2012/05/15 記述修正 私は決して赦す事は出来ない → 私は決して赦す事は出来ません

2012/05/15 記述修正 おまじない → お呪い

2012/05/15 記述修正 私は目の前の弟に対して → この時私は目の前の弟に対して

2012/05/15 記述修正 貿易で航海しているのか → 貿易で航海中なのか

2012/05/15 記述修正 この時期を逃したら → それにこの時を逃したら

2012/05/15 記述修正 そう思って私は意を決して → そう思い私は意を決して

2012/05/15 記述修正 私は会う様にする方法を → 会う方法がないかと、私は必死に

2012/05/15 記述修正 屋敷から出てきて私の所へと戻り → 先程の男が屋敷から私の所へと戻って来て

2012/05/15 記述修正 条件を飲むのなら → 条件なら、主人に取り次いでやるから

2012/05/15 記述結合 出直して来いと言われました。私は頷いて袋を男に預けてから → 来いと告げられたので、私は頷いて袋を男に預けて

2012/05/15 記述修正 物に宿るのだと言っていましたが → 物に宿ると言っていましたが

2012/05/15 記述修正 同じ場所には行けないだろうとか → 同じ場所には行けそうもなく

2012/05/15 記述修正 約束の日まで過ごしていました → 約束の日を待ち続けました

2012/05/15 記述修正 その男の一団の側へ来た → その男の一団を見た

2012/05/15 記述修正 白い肌に少し癖のある金髪と碧眼と → 白い肌と少し癖のある金髪に澄んだ碧眼であり

2012/05/15 記述修正 これ以上打たれれば → これ以上打たれ続けたら

2012/05/15 記述修正 このまま殺されてしまうかも → ここで殺されてしまうかも

2012/05/15 記述修正 話をさせてくれれば話すと → 話をさせてくれれば教えると

2012/05/15 記述修正 これが唯一最後の機会だと思い → これが最後の機会だと思い

2012/05/15 記述修正 弟は私へと薬の入手先の話を → 弟は私へと丸薬の入手先の話を

2012/05/15 記述修正 父の事を問いました → それを尋ねました

2012/05/15 記述修正 命の代償は命で → 命の代償は命に因って清算させるべく

2012/05/15 記述修正 私の残る寿命を費やして → 私の残る寿命を費やし

2012/05/15 記述修正 我が手で購わせると → 私の手で購わせると

2012/05/15 記述修正 弾き飛ばされただけで未だ無事の様で → 弾き飛ばされただけで、無事だったらしく

2012/05/15 記述修正 小屋と同じ運命を辿り、頭が胴体から切断されて → 頭と胴体が切断された上に

2012/05/15 記述修正 別々の所に飛ばされて死んでいるのが → 半ば焼け爛れた塊となって、別々の所に転がっているのが

2012/05/15 記述修正 この弟には姉も親もいない → この若い男には姉も親もいない

2012/05/15 記述修正 鞭で顔を打たれました。弟の顔を見ると → 鞭で顔を打たれたので、驚いて弟の顔を見ると

2012/05/15 記述修正 唖然として私は袋から目を離して、 → 私はその状況が理解出来ず、唖然として

2012/05/15 記述修正 僅かに微笑んだ弟の口から → 僅かに微笑んだ弟は

2012/05/15 記述修正 初めて言葉が発せられました → こちらを見下ろしながら言葉を発しました

2012/05/15 記述修正 溢れる涙を拭いながら → 溢れる涙を零しながら

2012/05/15 記述修正 側近の男は忌々しそうに私へと → 側近の男は忌々しそうに、

2012/05/15 記述修正 側近へと頭を下げながら → 側近へと媚び諂いつつ

2012/05/15 記述修正 衛兵達が見回って使用人が走り回り → 衛兵達が見回り、使用人が走り回り

2012/05/15 記述修正 新たな商人が入ってきたりで → 人の往来は途絶える事がなく

2012/05/15 記述修正 中は三階まで吹き抜けになっていて、二階と三階は → 二階と三階は

2012/05/15 記述修正 渡り廊下が繋がっていて → 渡り廊下が繋がっており

2012/05/15 記述修正 全ての階にもずらりと部屋の扉が → 全ての階の廊下には扉と窓がずらりと

2012/05/15 記述修正 私は必死で地面に這いつくばって → 私は地べたに這いつくばって

2012/05/15 記述修正 零れ落ちてしまった丸薬を探して → 必死で零れ落ちてしまった丸薬を探し回り

2012/05/15 記述修正 何とか全て拾う事が出来ました → 何とか全て見つける事が出来ました

2012/05/15 記述修正 走りながら誓いました → 走りながら改めて心に誓いました

2012/05/15 記述修正 そして先程と同じ要領で → すかさず先程と同じ要領で

2012/05/15 記述修正 捕まってしまうと思い → 捕らえられてしまうと思い

2012/05/15 記述修正 急いで屋敷から逃げ出しました → 急いでそこから逃げ出したのです

2012/05/15 記述修正 それは、緋玉の王を → 実はそのお呪いとは、緋玉の王を

2012/05/15 記述修正 遺言を聞いて欲しいと懇願し → 遺言を聞いて欲しいと訴えて

2012/05/15 記述修正 明らかに殺した後にどこかに → 明らかに殺した後何処かに

2012/05/15 記述修正 更に憎悪は強まりました → 更に憎悪と殺意は強まりました

2012/05/15 記述修正 身なりをした男達、このうち左側に居るのが → 身なりをした男達のうち、左側に居るのが

2012/05/15 記述修正 入り口から真っ直ぐに → 屋内は三階まで吹き抜けになっていて、入り口から真っ直ぐに

2012/05/15 記述修正 大きな白い階段が見えました → 大きな白い階段が見えています

2012/05/15 記述修正 この狭い小屋の中に突然現われた → この狭い小屋の中に突然

2012/05/15 記述修正 紅蓮の炎を剣にした様な → 紅蓮の炎を刃にした様な

2012/05/15 記述修正 赤い剣は私を中心に → その剣は私を中心に

2012/05/15 記述修正 爆発しました → 轟音と共に大爆発を起こしたのです

2012/05/15 記述修正 彼らは私が懇願しても、泣き喚いても、苦痛のあまり嘔吐しても → 彼らは非情にも、私が懇願しようと、泣き喚こうとも、苦痛のあまり嘔吐しても

2012/05/15 記述修正 その手を緩めずに打ち続けました → その手を止める事はありませんでした

2012/05/15 記述修正 挨拶をしている所からして → 丁重に挨拶をしている様子からして

2012/05/15 記述修正 約束の一週間後を待っている間、 → 約束の日を待っている間に

2012/05/15 記述修正 まず考えていたのは、貿易商の若い男が弟だったなら、最初に何と → 考えていたのは、弟へと最初にどう

2012/05/15 記述修正 薬の商売の話があるので → 薬の取引の話があるから

2012/05/15 記述修正 伝えて欲しいと言って → 語り

2012/05/15 記述修正 見張りの男達に頼みました → 見張りの男達に頼んだのです

2012/05/15 記述修正 大富豪だと言って笑いました → 大富豪だと言って、私に対する充て付けの様に、声高に笑ったのです

2012/05/15 記述修正 何か吹っ切れたかの様に語りました → 何か吹っ切れたかの様に語り出しました

2012/05/15 記述修正 丸薬を渡した成果があったのか → 丸薬を渡した成果があった様で

2012/05/15 記述修正 広い庭を通り過ぎて → 広い庭の奥にある

2012/05/15 記述修正 側近もこの後すぐに小屋を後にして → 側近も私を縛っている縄を確認すると、小屋を後にして

2012/05/15 記述修正 遠ざかって行く足音を微かに聞きました → 次第に足音が遠ざかり、やがて静寂が訪れました

2012/05/15 記述修正 弟は左手に鞭を持っていて → 弟は左手に短い革の鞭を持っていて

2012/05/15 記述修正 私へと話すように言ってきました → 私へと話すように促がしてきました

2012/05/15 記述修正 通り過ぎる人間達は皆 → 通り過ぎる人達は皆

2012/05/15 記述修正 薄汚れた外套姿の私を見て → 薄汚れた外套姿の私を見ると

2012/05/15 記述修正 怒鳴りだす使用人も居て → 怒鳴りだす使用人までいて

2012/05/15 記述追加 果たして仲間の人達は~

2012/05/15 記述追加 私に殺される直前~

2012/05/15 記述修正 弟が今日まで命を繋いでいるのは → 弟が今日まで命を繋いでいるからには

2012/05/15 記述修正 興味を持って会えると思い → 興味を持ってもらえると思い

2012/05/15 記述修正 火事になり掛けた所為で → 火事になり掛けて

2012/05/15 記述修正 それは酷くなっていきました → それは酷くなっていったのです

2012/05/15 記述修正 側近は手にしていた鞭で → 側近は手にしていた革製の鞭の先で

2012/05/15 記述修正 被っていたフードを外した後、私の顎を → 私が被っていたフードを払った後、顎を

2012/05/15 記述修正 日の下に晒すと目立つのと → 陽の光の下に晒すと目立つのと

2012/05/15 記述修正 入手する方法は知らないと → 手に入れる手段なんて知らないと

2012/05/15 記述修正 音も無く落ちました → 音も無く落ちて、それを弟は足で踏みつけたのです

2012/05/15 記述削除 落とした袋を足で踏みつけてから、

2012/05/15 記述修正 それでも構わない、そう思いました → それでも構わない

2018/01/18 誤植修正 そう言う → そういう


隊商と別れてから一ヵ月後に港町へと入り、噂で聞いた若い貿易商人の屋敷のある地域へと向かうと、そこはあの隊商を率いていた冒険商人よりも、更に裕福な大商人や貴族の館が立ち並ぶ場所でした。

その貿易商人が弟かどうかを確認する為に、とりあえず一度姿を見たいと思い、私はそこから出来るだけ近くて安い宿屋を拠点にして、この男の屋敷や港を見て回りました。

ですが今は、貿易で航海中なのか、一向に本人の姿を見る事は出来ずに、時間だけが過ぎていきました。

こうして一ヶ月が経った頃に、外国からの航海から戻って来た男の姿を、遂に港で見る事が出来ました。

それは間違いなく、弟でした。

どうやって今まで生きて来たのか判らないけれど、あの子は生きていたのだと判って、私はとても嬉しく思いました。

残る命の時間は僅かでも、最期に姉弟として再会出来るのなら、たとえ父や母の眠るあの故郷の墓地に戻れず、そこらの道端に骸として転がる事になろうとも、それでも構わない。

それにこの時を逃したら、もう私には時間が無い、そう思い私は意を決して、弟のいる屋敷へと向かったのです。




しかし、弟の屋敷に近づいただけで、敷地内を見回りしていた、傭兵風の男達に目をつけられました。

浴びて来た血で黒ずんだ修道服は、陽の光の下に晒すと目立つのと、自分の目もここではかなり人目を引くので、常に襤褸切れ同然の外套を着て、フードを被ったままと言うのもあり、とてもまともな人間には見えなかったかも知れません。

最初の一週間は何の策も無く、ただここの主と話がしたいと言って、通して貰おうとしたのですが、全く相手にされず、門前払いの日々が続きました。

次の週からは、自分はここの主と血の繋がった姉弟なんだと言いましたが、余計に怪しまれてしまい、力ずくで追い払われたり、時には男達が手にしていた槍の柄で、小突かれたりしました。

その次の週になると、もう私はすっかり見張り達に顔を覚えられていて、私が近づくだけでまたかと言う顔をされた後に、お前の様な乞食が来るところじゃないと怒鳴られたり、手にしていた武器で威嚇されてしまい、門扉に近づく事も出来なくなりました。

このままでは、残り僅かな再会の機会を失ってしまうと思い、どうにかして会う方法がないかと、私は必死に考えました。

そうして思いついたのは、商売の話を持ち掛ける事で、薬の取引の話があるから、主人と話がしたいと語り、残り三粒にまで減っていた丸薬の袋を見せて、私は見張りの男達に頼んだのです。

弟が今日まで命を繋いでいるからには、半分に分けたこの丸薬を飲み続けている筈で、これさえ見ればきっと興味を持ってもらえると思い、それ以外に今の私が弟へと直接会って話す方法が思いつかず、決死の覚悟で、なけなしの薬が入った袋を男達に差し出しました。

男達は丸薬の入った袋を胡散臭げに見ながら、汚い物でも触るかの様に、指でつまんで中身を見ると、たったこれだけしか無いのかと言って、口も閉めないままに袋を投げ捨てたのです。

この時、袋から零れた丸薬が地面に散らばってしまい、私は地べたに這いつくばって、必死で零れ落ちてしまった丸薬を探し回り、何とか全て見つける事が出来ました。

その私の狼狽した態度を見て、男達はこの丸薬の価値を見直した様で、相変わらず横柄な態度ではありましたが、話をしてきてやるから、その薬をもう一度渡せと言って来ました。

私はこの時、念の為に一粒だけ袋には戻さないで、二粒入った袋を男達へと渡しました。

男達はさっきよりは丁寧に袋を扱って受け取ると、一人が広い庭の先にある大きな屋敷へと入って行き、もう一人が私へと、暫くそこで待っていろと命じてから、見張りの仕事に戻りました。

暫く待っていると、先程の男が屋敷から私の所へと戻って来て、この薬は預ると言う条件なら主人に取り次いでやるから、一週間後にもう一度来いと告げられたので、私は頷いて袋を男に預けて、宿屋へと戻りました。

宿屋で約束の日を待っている間に考えていたのは、弟へと最初にどう話しかけたら良いのかでした。

私の存在は、父から何かを聞かされているかも知れないけれど、そんな小さい頃の記憶なんて残って無ければ、弟からすれば、私はずっと存在していなかった肉親なのだから、見た事もない女が、突然姉だと言って現われた事になり、今の裕福な立場を考えると、それはいかにも怪しげな話にしか聞こえない筈です。

だからこそ、こちらも命懸けであの丸薬を差し出したのですが、もし弟ではない別人でその真意が通じずに、全く相手にされなかったら、その先の事はもう考えられませんでした。

まだ会わせて貰えれば良い方で、会う事すら許されず、袋を返しても貰えなかったら、あれが弟だったのかを確認する事も出来ずに、私は死ぬ事になってしまいます。

その時はそういう運命だったのだと諦めて、その運命に従うしかない、そう思ったら、かつて多くの仲間達へと、この手で死を与えて来た事を思い出しました。

果たして仲間の人達は、私に人生を閉じられると言う運命を、本当に受け入れてくれていたのでしょうか。

私に殺される直前、あの人達はこれまでの人生で何を悟り、死後に対して何を望んだのでしょうか。

母は昔、死んだ魂は子孫の為に力を貸すべく、物に宿ると言っていましたが、自分の様な混血の穢れた魂ではその価値も無くて、きっと生前の罪により、父や母と同じ場所には行けそうもなく、だとしたら私の魂は、どうなってしまうのかを思い悩みながら、約束の日を待ち続けました。




やがて一週間が過ぎて約束の日になり、私は再び屋敷へと向かいました。

ここでまた先月と同じ様に、見張りに小突かれて終わったら、どうしようかと心配していましたが、今回はあの丸薬を渡した成果があった様で、見張り達は約束通り、私を館の敷地内へと通して、広い庭の奥にある建物へと案内されました。

外から見ても大きくて立派な屋敷は、中もとても豪勢な作りをしていました。

屋内は三階まで吹き抜けになっていて、入り口から真っ直ぐに奥へと続く縦長の大広間には、毛足の長い絨毯が敷かれ、その両脇には細工を施してある、良く磨かれた大理石の柱が立ち並び、奥には三階まで繋がった大きな白い階段が見えています。

二階と三階は奥の階段から渡り廊下が繋がっており、全ての階の廊下には扉と窓がずらりと並んでいました。

そこを衛兵達が見回り、使用人が走り回り、取引相手の商人らしい男達が部屋を出入りしていて、私が入り口近くでそれを眺めている間にも、人の往来は途絶える事がなく、とにかく皆忙しそうにしていました。

入る時には気づかなかったのですが、入り口の頭上の壁には、教会の大聖堂の様な大きなステンドグラスがあって、赤子を胸に抱く聖母の姿が、色鮮やかに輝いているのを見て、遥か昔に、この手で弟を取り上げた時の事を思い出し、懐かしさに目頭が熱くなりました。

私の近くを通り過ぎる人達は皆、薄汚れた外套姿の私を見ると、嫌悪感を露にした態度をとったり、蔑んだ顔で睨んでくる侍女や、中には連れて来た見張りに対して怒鳴りだす使用人までいて、私みたいな人間が居て良い所ではないのが、身にしみて判りました。

これだけ多くの使用人を雇い、多くの商人が出入りしていると言う事は、商売で成功して大儲けしていると言う噂が、大袈裟でもなかったのだと感じて、こんなに裕福なら、私の様な恵まれない人生ではなく、幸せに過ごして来たのかも知れないと思えて、自分の事の様に嬉しく思いました。

入り口の脇で立たされたまま、同行して来た見張りに挟まれて暫く待っていると、二人の護衛を連れた小柄な金髪の男が、奥の階段の三階から側近らしき男と話しながら、階段を降りて来るのが見えました。

その男の一団を見た使用人や商人達は、皆立ち止まると頭を下げて、丁重に挨拶をしている様子からして、あれがこの屋敷の主である、噂の貿易商だと判りました。

こちらへと真っ直ぐに近づいて来るその姿は、白い肌に少し癖のある金髪と澄んだ碧眼であり、私よりも母に良く似た顔だちをしていて、これは凛々しく成長した弟に間違い無い、私はそう確信しました。

しかし、私が立ち尽くしているのに見張りの男達が気づくと、この様な奇跡的な再会で感動に浸っていた私に対して、力ずくで床に跪かされた後、頭を下げる様に命じられて、私は床に額をつけて身分卑しい者の礼をさせられたのです。

何故肉親である弟に対して、こんな事をさせられなくてはいけないのかと、一転して屈辱と悔しさがこみ上げましたが、今はまだ仕方が無いのだと自分を宥めて、とにかく話さえ出来れば、私の事を伝えさえすれば、きっと気づいてくれると信じて、この時はじっと耐えました。

弟の一行は私の手前まで来ると、頭を上げる様に命じられて、私は顔を上げました。

二人の大きな長い武器を手にした護衛の大男に挟まれた、二人の高価な身なりをした男達のうち、左側に居るのが、今命じて来た細身で長身の側近で、この側近の右側に居るのが、貿易商として名を上げた、我が弟その人でした。

私は再会の感激のあまりに堪えきれず、溢れる涙を零しながら、立派に成長した弟を何も言えずに見ていると、側近の男は忌々しそうに、床が汚れると文句を言い、それを聞いた見張りの男達は側近へと媚び諂いつつ、私を小突いて泣くのをやめろと命令しました。

この間弟はずっと無言で、じっとこちらを見ているだけでした。

私は何度も溢れてくる涙を外套の袖で拭って、涙を堪える様にしながら、嬉しさと緊張で震える声を抑えつつ、まず預けていた丸薬の事を尋ねました。

この問い掛けを聞いた弟は、私が預けていた袋を、上着の隠しから取り出すと、私へと差し出しました。

そしてそれを私が受け取ろうと手を伸ばした時、袋は弟の手から離れて落下し、私の目の前の床へと、音も無く落ちて、それを弟は足で踏みつけたのです。

私はその状況が理解出来ず、唖然として再び弟の顔を見上げると、僅かに微笑んだ弟は、こちらを見下ろしながら言葉を発しました。

連れていけ、と。

私へではなく、部下へと指示を出した弟は、顎で護衛に合図した後に踵を返すと、側近と共に立ち去ろうとしました。

私は予期していなかった展開に驚き、動揺しましたが、今はそんな暇は無いと悟り、立ち上がって声を上げようとした時、私が動くのと同時に立ちはだかった護衛に殴られて、そのまま意識を失いました。




意識を取り戻して目を覚ますと、私は屋敷の大広間ではない別の場所に居て、粗末な木の椅子に座らされた状態で、手や足を縛られていました。

狭い小屋らしいその場所には、さっき弟と一緒にいた側近の男と二人の護衛がいて、私は水を浴びせられて、意識を取り戻したのが判りました。

この後に始まったのは、私に対する拷問で、側近はあの袋の丸薬の入手方法を、私から聞き出そうとしてきたのです。

私は母から貰っただけだから、手に入れる手段なんて知らないと、何度言っても聞く耳を持たず、護衛の男達は私が知らないと答える度に、木の棒で私を打ちました。

彼らは非情にも、私が懇願しようと、泣き喚こうとも、苦痛のあまり嘔吐しても、その手を止める事はありませんでした。

これ以上打たれ続けたら、ここで殺されてしまうかも知れないと思い、私は最後の賭けに出て、弟に直接話をさせてくれれば教えると、嘘を言いました。

側近は手にしていた革製の鞭の先で、私が被っていたフードを払った後、顎を上げさせると値踏みする様に、私の顔を睨んでいましたが、私の必死の言葉を自白と勘違いしたらしく、護衛の一人に屋敷へ行くように、指示をしているのを聞いて、これで気が緩んでしまい、また気を失いました。




またしても水を浴びせられて目を覚ますと、今回は護衛の姿はなく、弟と側近だけでした。

弟は左手に短い革の鞭を持っていて、それを軽く振りながら、私へと話すように促がしてきました。

これが最後の機会だと思い、私は必死で弟へと私が姉である事や、この手で取り上げた事、二人を探して旅をした事や、父の墓標を見つけた事、その後旅の途中で噂を聞いて、ここへ会いに来た事を話しました。

弟はそれをずっと無言で聞いていましたが、その顔には徐々に苛立ちが現れていて、私の話が進めば進む程に、それは酷くなっていったのです。

私が次に母の話をしようとした時に、唐突に鞭で顔を打たれたので、驚いて弟の顔を見ると、弟は私へと丸薬の入手先の話をするようにと、冷たく命令して来たのを耳にして、私は最後の賭けが失敗したのだと悟りました。

この裕福な貿易商人は間違いなく弟だけど、この若い男には姉も親もいない、弟からすれば私は存在していない、私は姉を名乗る怪しい女でしかなくて、それはどうやっても変えられないのが判ったのです。

今まで父とも死に別れて、たった一人で生きてきたのだから、そうとしか思えなくても、仕方がないのかも知れない、あの丸薬を見せても駄目だったのだから、もうどうしようもありません。

きっと私はこのまま殺されてしまうのでしょう、でもその相手が弟なら、かつては幼い頃の事とは言え、一度は殺意を抱いてしまった罪もあるし、それと今まで姉らしい事を、何もして来れなかった罪を合わせれば、この罰も当然なのかも知れません。

でもせめて、最後に一つだけ、父の事を確認したくて、私は弟へとそれを尋ねました。

すると、不機嫌な表情をしていた弟は、不意に不敵に笑うと、何か吹っ切れたかの様に語り出しました。

旅の途中で手に入れた、価値ある財宝を奪う為に、自分がこの手で毒を盛って殺してやったと、子供だと思って侮ったのが、あの男の命取りになったのだと、隠した宝を回収するのに、随分時間が掛かってしまったが、おかげで今や大富豪だと言って、私に対する充て付けの様に、声高に笑ったのです。

その後私を睨みつけると、ただの物乞いにしては、随分と調べ上げて来たものだと言った後、お前が本当に姉だとしたら、そんな事まで知られた身内の人間など、生かしてはおけないと言い残して、側近へと夜中に私を始末する様に告げて、小屋を出て行きました。

側近も私を縛っている縄を確認すると、小屋を後にして、外から閂をした音の後、次第に足音が遠ざかり、やがて静寂が訪れました。

この後私は、体の震えがずっと治まりませんでした。

その理由は、夜中になったら口封じで殺される恐怖などではなく、弟の口から出た言葉、父に毒を盛って殺したと言う言葉が、私にとっては衝撃で、これが頭の中から一時も消える事なく巡っていたのです。

弟は金品を奪う為に父を毒殺して、あんな山奥に捨てた、小さな弟が一人で山の麓まで歩いていたのは、殺した父から逃れる為かそれとも、奪った宝をどこかに隠す為だったのでしょうか。

私から父を奪ったのは誰でもない、たった一人しかいない、血の繋がった弟だったなんて。

この時に私は、母の事も思い出してしまい、弟が生まれた事に因って、母は身代わりの様に死んで行き、生まれてからは、ずっと独占されていた父との再会も、弟の我欲によって、二度と叶わないものにされてしまった。

私から幸せな生活を奪い、父も母も奪い、更にこの命さえも奪おうとする弟を、私は決して赦す事は出来ません。

この全ての罪は、私の残る寿命を費やし、死神と言われた私の最後の仕事として、命の代償は命に因って清算させるべく、私の手で購わせると、心に誓いました。

そして夜になるまでの間、私はその報復の手段を考えて過ごし、夕暮れ頃には出来上がったその策が、上手く行く事を亡き母へと祈りつつ、運命の時を待ちました。




そして真夜中がやって来て、静まり返った中に小屋へと近づいて来る、数人の足音が聞こえて来ました。

やって来たのは、護衛の男達二人と側近と弟の四人でした。

護衛の手には大きな麻袋やロープがあり、明らかに殺した後何処かに処分する準備だと判り、もうこれで完全に弟への未練は無くなって、むしろこんな我欲の為に、人殺しも厭わない様な非道な人間を、生かしておくべきではないと、更に憎悪と殺意は強まりました。

四人は私が泣き喚いたり、暴れて抵抗すると予測していた様で、逆に大人しくしている私の態度に、驚いている様でした。

私は最後に、弟に遺言を聞いて欲しいと訴えて、それだけ叶えばもう思い残す事は無いと伝えると、最後の慈悲だとしてその機会を与えられました。

この時私は目の前の弟に対して、かつて母からお伽話として聞いていた、お呪いの様な言葉を唱えたのです。

そのお呪いは、窮地に陥った時に助けてくれる、力強い神様を呼ぶお呪い、そう聞かされていました。

実はそのお呪いとは、緋玉の王を召喚する詠唱でした。

私は緋玉の王を召喚し、ここに居る全員を、その力で殺して欲しいと望んだのです。

本来は、儀式の手順や道具等が必要だったのかも知れないし、もっと正しい詠唱でなければいけなかったのかも知れない、でも私の懇願に、緋玉の王は応えてくれました。

この狭い小屋の中に突然、紅蓮の炎を刃にした様な、赤く光る剣が現われると、その剣は私を中心に周囲を薙ぐ様に一閃し、その直後に小屋は凄まじい熱風と赤い閃光に包まれて、轟音と共に大爆発を起こしたのです。




何が起こったのか判らず、いつの間にか自由になっていた体を起こすと、小屋は床を残して吹き飛んでいて、元々は壁や屋根だった、引火した木の破片が周囲に飛び散り、幾つかの破片は屋敷にまで届いていました。

更に護衛や側近達も、頭と胴体が切断された上に、半ば焼け爛れた塊となって、別々の所に転がっているのが見えました。

しかしあの凄まじい衝撃の中でも、弟だけは離れていた所為なのか、屋敷の方に弾き飛ばされただけで、無事だったらしく、弟は私よりも先に体を起こすと、屋敷へ向かって逃げていく所でした。

私はすぐにもう一度、止めの一撃を与えようとしましたが、その時にはもう、赤い剣は消えてしまっていました。

すかさず先程と同じ要領で、もう一度召喚を試みても上手く行かず、その内に屋敷内に光が灯り始めて、これ以上ここに居ては、屋敷から新手が来て捕らえられてしまうと思い、急いでそこから逃げ出したのです。

とりあえずは、身を隠さなければならないと思い、私は貧民街の方へと向かって走りました。

屋敷は火事になり掛けて混乱していたおかげで、私は追手に捕まる事もなく、逃げ切る事が出来ました。

この時私は走りながら改めて心に誓いました、最後の薬も今日飲んでしまい、残る命の期限であるひと月の間に、母から与えて貰ったこの力で、必ず最後の使命である、弟の殺害を果たすと。

こうして私は、弟との再会を果し、そこで決定的な決別を迎えて、互いに殺しあう運命へと転落していったのです。





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