第十五章 童子の遊戯 其の六
変更履歴
2011/09/10 改行削除 ~居場所を見つけ出し、 → ~居場所を見つけ出し、右手は~
2011/12/22 記述統一 “!、”、“?、” → “! ”、“? ”
2011/12/23 誤植修正 話し → 話
2012/05/19 誤植修正 包帯で覆いて → 包帯で覆い
2012/05/19 誤植修正 全てを出来事を → 全ての出来事を
2012/05/19 誤植修正 神話のにおける → 神話における
2012/05/19 誤植修正 過去の召喚と同じ結果と同様に → 過去の召喚の結果と同様に
2012/05/19 句読点調整
2012/05/19 記述分割 大変に有益な実証となりました、もう暫くすれば → 大変に有益な実証となりました。もう暫くすれば
2012/05/19 記述分割 何にも実行出来なくなるのです、ですから今回の召喚の結果は → 何にも実行出来なくなるのです。ですから今回の召喚の結果は
2012/05/19 記述分割 同じ場所に召喚されたですと! おお、神よ → 同じ場所に召喚されたですと! おお、神よ
2012/05/19 記述修正 その境遇は今の吾輩としては → それは今の吾輩とすれば、
2012/05/19 記述修正 産み出す力を持っていて、右手で触れられれば死者も不死者も消されてしまいます → 産み出す力を持っています
2012/05/19 記述修正 奥深くの暗黒界に赴いても → 暗黒界の奥深くに赴いても
2012/05/19 記述修正 戻る事が出来る白馬です → 戻る事が出来る白い馬です
2012/05/19 記述修正 戻る事ができる黒馬です → 戻る事が出来る黒い馬です
2012/05/19 記述修正 愚者としか言いようが → 身の程を知らぬ愚か者だったとしか言いようが
2012/05/19 記述修正 子供は自ら望んだ結果を得たものの → 子供は自ら求めた結果を得たものの
2012/05/19 記述修正 語る私の行動を → 今回の私の行動を
2012/05/19 記述修正 釈然とは出来なかった → 釈然とはしなかった
2012/05/19 記述修正 次の召喚が来た時には → 次の召喚の際には
2012/05/19 記述修正 制御出来る範囲内でではあるが → 制御出来る範囲内ではあるが
2012/05/19 記述分割 裏目に出てしまう事が、そう言った → 裏目に出てしまう事が。そう言った
2012/05/19 記述修正 神を創るだけの材料が足りず → 神を創るだけの材料が足りなかったので
2012/05/19 記述修正 その領域の主となる獣を創り → 各領域の主となる獣を創り
2012/05/19 記述修正 それぞれの神獣に力を象徴する → 各々の神獣に力を象徴する
2012/05/19 記述分割 吾輩も知りません、貴殿が目にしたと言う → 吾輩も知りません。貴殿が目にしたと言う
2012/05/19 記述修正 伝承は聞いた事が → 伝承も聞いた事が
2012/05/19 記述修正 如何されたのですかな → 如何されたのですかな?
2012/05/19 記述修正 忘れる様にしていたから → 忘れる様にしていたが故に
2012/05/19 記述分割 言う事になりはしませんか、それを手伝わされただけの → 言う事になりはしませんか? それを手伝わされただけの
2012/05/19 記述修正 それぞれの支配者には → 支配者達には
2012/05/19 記述修正 玉座と三つの道具を与えます → その世界の王の証である玉座と、自らの所持品を模した三つの道具を与えます
2012/05/19 記述修正 混沌の固まりは残ってしまい → 混沌の固まりは余ったので
2012/05/19 記述修正 もう一つの世界を創りますが → もう一つの世界を創ろうとしますが
2012/05/19 記述修正 均一の世界にならなかったので → 今まで創った世界と同様に出来なかったので
2012/05/19 記述修正 丸くも四角くもあり → 丸くも四角くもあり、熱くも冷たくもあり
2012/05/19 記述修正 子供の名前についても →神官の子供の名前についても
2012/05/19 記述修正 全く知りませんでした → 全く知りませんでしたぞ
2012/05/19 記述修正 武器であり、 → 武器、
2012/05/19 記述修正 楯であり、 → 楯、
2012/05/19 記述修正 死の王の唯一の所持品は → 死の王が手にする所持品は
2012/05/19 記述修正 吹いて出す事に因り → 吹き掛ける事に因り
2012/05/19 記述修正 疑問に抱きつつも → 疑問を抱きつつも
2012/05/19 記述分割 人間以外の召喚とは! それも前に → 人間以外の召喚とは! それも前に
2012/05/19 記述修正 彼の外見や持ち物に関する記述は → 彼の外見に関する記述は
2012/05/19 記述修正 光と闇の王が → 十二本の脚を持つ双頭の馬に引かせた戦車に乗り、双方向に切っ先を持つ白黒の槍と、その槍と同じ長さの灰色の杖を持った、光と闇の王が
2012/05/19 記述修正 再び現われた果て無き帳へと旅立ち、自分の世界である彼方なる地へと帰りました → 果て無き帳が再び現われた時に、自分の世界である彼方なる地へと帰るべく旅立ち、創った世界から去りました
2012/05/19 記述修正 今回の出来事は差異は → 今回の出来事に差異は
2012/05/19 記述修正 原初の時代の創世神の名です → 原初の時代に登場する創世神の名です
2012/05/19 記述修正 答えを見出せずに → 結局答えを見出せずに
2012/05/19 記述修正 亡霊の作り出した幻の中に → 亡霊の作り出した夢の世界の中に
2012/05/19 記述修正 私は召喚されていたのかと → 私は呼び出されていたのかと
2012/05/19 記述修正 死に至らしめる事になったのだ → 死に至らしめる事になってしまった
2012/05/19 記述修正 生存者も居ない点からして → 存在も居ない点からして
2012/05/19 記述修正 私が関わったのが彼等としか → 私が関わったのは彼等としか
2012/05/19 記述修正 思い悩むところが多くあり → 思い悩むところがあり
2012/05/19 記述修正 捉えるべきではないとしたら → 捉えるべきでないとしたら
2012/05/19 記述削除 今後また何かが足りなくなった時の為にと、
2012/05/19 記述修正 最も隙間の多かった → まだまだ隙間だらけだった
2012/05/19 記述修正 お知らせ致す事が難しいです → お知らせ致す事が、非常に難しいのです
2012/05/19 記述修正 もう一つの所持品である → 第二の所持品である
2012/05/19 記述修正 魂や屍の肉体を → 魂や屍を
2012/05/19 記述削除 冥界での死の王に対する呪術を遺体へと施していて、
2012/05/19 記述修正 術を施した包帯で覆い → 包帯で覆い
2012/05/19 記述修正 何らかの神の名を呟いていた → 何らかの聖句らしき文言を呟いていた
2012/05/19 記述修正 理解する事が出来ずに生み出した → 理解する事が出来ずに生み出された
2012/05/19 記述修正 幻想だったのではないか → 幻想だったのではないだろうか
2012/05/19 記述修正 真っ青な光に包まれた後に → 真っ青な光に包まれた後
2012/05/19 記述修正 そんな事は出来ないのは → そんな事出来ないのは
2012/05/19 記述修正 創る予定ではなかった、言わば余りものの世界であり → 創る予定ではなかった世界であり
2012/05/19 記述修正 自分や空の神獣の守護者のヅィザが → 空の神獣の守護者のヅィザや自分が
2012/05/19 記述修正 右手でもって、その手で → 右手で
2012/05/19 記述修正 ローブを纏い、その顔は → ローブを纏っています。その腕や顔は
2012/05/19 記述修正 皮も肉も無い髑髏か → 皮も肉も無い骨だけか
2018/01/17 誤植修正 そう言う → そういう
2018/01/17 誤植修正 そう言った → そういった
2018/01/17 誤植修正 思いも因りませんでしたが → 思いも寄りませんでしたが
真っ青な光に包まれた後、一見同じ様に見えるが何処か質感に違いを感じる、こちら側の闇の世界へと戻って、四日が経過していた。
今回の召喚については色々と思い悩むところがあり、“嘶くロバ”が現れない間に、私は一つ一つの事象を思い返していた。
あの三人の子供達の正体は結局何だったのか、彼等の語っていた内容は何処までが真実で何処からが虚構だったのか、そして私の行動は召喚者に対する措置として正しかったのか。
これらの疑問が脳裏を延々と巡り続けていた。
あの呪われた黄金の棺に三つ子の神官が生贄として捧げられて、その性質はともかく彼等が封じられていたのは事実で、他に私を召喚可能な存在も居ない点からして、私が関わったのは彼等としか考えられず、そうなると言ってみれば亡霊が召喚者となってしまうが、でもそれで間違いはないと思える。
陸の神獣の守護者のヴァハンは、空の神獣の守護者のヅィザや自分が召喚者ではないかと言っていた。
しかしその後に、二人の神官の存在を否定した海の神獣の守護者であるレヴィは、自分が呼び出したのだと語り、その理由として他の二人では召喚目的が在り得ない事を説明していた。
その後私は彼の語った内容に疑問を抱き、それを突き詰めた結果彼自身を否定する結論を導き出して、その後レヴィは混乱を来してしまい、最終的には恐らく大海蛇の時と同じ運命を辿ったのだろう。
結局私は過去の召喚の結果と同様に、自らの手でかつての私を死に至らしめる事になってしまった。
そして最後に見えた光景が彼等の本当の姿だったのではないか、それまで見えていたのは、あの化物と化した自分達を理解する事が出来ずに生み出された、幻想だったのではないだろうか。
若しかすると、亡霊の作り出した夢の世界の中に私は呼び出されていたのかと考えると、これは前代未聞の召喚であった事になるが、実際のところはどうなのであろうか。
そうした事柄を尽きる事無く考えていたが、結局答えを見出せずに過ごしていると、五日目にしてやっと馬面の紳士は姿を現した。
「いやはや、お待たせ致しましたかな、もうそれともご無沙汰しておりますとでも、ご挨拶申し上げた方が相応しいでしょうか。
おや、てっきり吾輩の遅い登場にすっかり気分を害されているかと思いきや、何だか酷く落ち込んでいるご様子、如何されたのですかな?」
左手で聖書らしき書物を抱え、首からロザリオを提げた聖職者の格好をした“嘶くロバ”は、告解でも執り行うかの様に鷹揚な態度で私へと語り掛けて来た。
別に彼の赦しを乞う訳では無いが、そのままの流れで私は今回の召喚について語り始めた。
「死霊に召喚された!? それは初耳ですなあ、人間以外の召喚とは!
それも前に別の器で召喚された同時期の、同じ場所に召喚されたですと!
おお、神よ、この哀れな迷える子羊に救いの手を」
私の話を聞いたロバの神父は、右の手でロザリオを握り締めながら、何の神へと祈りを捧げているのか判らないが、何らかの聖句らしき文言を呟いていた。
これはどう言う演出なのかと疑問を抱きつつも、今はそれに突っ込む気力も無く、黙って彼の次の言葉を待ち受けていた。
「では迷える雪だるま卿よ、吾輩が神に代わって救済たる助言を授けましょう。
吾輩の察するところ、またもや貴殿は怪しげな者達に因って騙されているのです、と言いたいところですが、今回は荒唐無稽と言う訳でも無さそうですな。
貴殿が以前にサーペントとして召喚された際には、まさか逆の立場になってかつてのご自分と対決する展開になろうとは、思いも寄りませんでしたが、だがしかしそれは願っても無い事態でしたぞ。
出来る事なら以前と異なる展開を迎えるべく、行動して欲しかったのが正直な心境ではありますが、まあそれを今ここで申したところでどうにもなりますまい。
どうにもなりはしないが、それは今の吾輩とすれば喉から手が出る程に欲しかった境遇ですなあ、いやあ実に惜しい。
ああ、いくらぼやいていても仕方が無いですな、同時期の同じ場所への召喚が起こりうる事実だけでも、大変に有益な実証となりました。
もう暫くすれば吾輩の考えも纏まりますので、我が打開案についてはその時に改めてお話し致すとして、本日は貴殿の召喚について、吾輩の知る事をお話し致しましょう。
それでは以前の召喚の際には出て来なかった存在について、吾輩の知っている事を解説しておきましょうか。
まずは皇帝に殺される宿命となっていた、冥界の支配者である幽冥神たる『死の王』について。
死の王は負の力を操る存在で、その姿は長身であり、足元まで完全に覆い隠して、裾を引き摺る程の長さをした灰色のフードのあるローブを纏っています。
その腕や顔は皮も肉も無い骨だけか或いは、肉の削げ落ちた様な骨と皮だけであり、当然不死の存在です。
その目で見られると生者や死者を問わず硬直して動く事が出来ず、その耳はあらゆる生き物の呼吸する音を聞きつけて居場所を見つけ出し、右手は死者の霊魂や不死者の思念を吸収して消し去る力があり、左手には霊魂や屍を元に不死者を産み出す力を持っています。
更に死の王の息は生物のそれとは違い、霊魂を吸い取ったり吹いて出したりするのだそうで、吸い込む事でも魂を喰らい、吹き掛ける事に因り魂をより強大にする事が可能だそうです。
皇帝は死後、全身を全く隙間なく包帯で覆い、更に顔には棺と同じ黄金で出来た仮面を着けており、この黄金の仮面や包帯は、死の王の持つ負の力を跳ね除ける処置を施したのだと思われます。
更に死の王には足が無いとされていて、歩いた後には足跡が残らないと云われています。
死の王が手にする所持品は、両手で持つ長身の死の王の身長と同じ長さの、遺灰を塗り固めた灰色をしている、左巻きに捻れている枯れ木の様な木製の杖で、これが皇帝が手に入れるとされた、『幽き灰の杖』です。
この幽き灰の杖の力は、神官の子供が語った通りで、死の王自身が持っていない力である、再生・蘇りの力を秘めており、この杖の力と死の王の死を司る力は拮抗し、相殺する程の大きな力を保持していると云われています。
この杖を用いるには冥界の玉座に座す存在でなければならず、これは即ち冥界の王でなければ使えない事を意味します。
第二の所持品である『首無き青の馬』は、冥界と現実世界を行き来出来る首が切り落とされた馬で、これを乗りこなす為には不死者である必要があり、生者が乗れば命を奪われ、死者が乗れば残っている魂や屍を失うのだそうです。
死の王はもう一品の道具を持っていると云われているのですが、それは戦車ではなくて、如何なる文献にも記載が無く謎とされています。
次に太陽神や暗黒神の持ち物について説明しましょう。
太陽神の所持品は、『鋭き白の槍』『薄き白の楯』『軽き白の馬』の三つです。
鋭き白の槍は深い闇でも切り裂いて、闇に紛れた暗黒神の本体を貫く為の鋭利な武器、薄き白の楯は暗黒神の攻撃を受け流しかわす為の楯、軽き白の馬は暗黒神の住まう暗黒界の奥深くに赴いても、その軽やかな足捌きで戻る事が出来る白い馬です。
暗黒神の所持品は、『鈍き黒の槍』『厚き黒の楯』『重き黒の馬』の三つです。
鈍き黒の槍は夥しい光の中でも熔けずに、太陽神へと抉る様な深手を負わせる為の武器、厚き黒の楯は太陽神の灼熱の攻撃も防ぎ跳ね返す為の楯、重き黒の馬は遥か高き場所である天空界まで上っても、その力強き足で深き場所まで戻る事が出来る黒い馬です。
これらの神の道具は死の王の物と同様で、玉座に座す者だけを所有者として認めるので、ただ単に盗み取っただけでは使えず、それぞれ所有する神を倒す必要があります。
この二柱の相反する神の道具を合わせると云う話は、この太陽神信仰の創世記から来ているのだと思えますな。
神獣の守護者達の正体に関連する話は、守護対象の神獣が以前にお話しした姿の怪物である事しか、吾輩も知りません。
貴殿が目にしたと言う、雛鳥や猿の子供や寄生虫の塊だったと言う様な伝承も、聞いた事がありません。
更に言えば吾輩の記憶では、棺に封じられた者の欠けた魂に、重要な意味があると言うのも完全に初耳でしたし、神官の子供の名前についても全く知りませんでしたぞ。
だものですから、その三つ子の語っていた言葉の信憑性については、吾輩からも真実とすべきところを貴殿にお知らせ致す事が、非常に難しいのです。
今回の貴殿のお話から想定すると、守護者の子供の魂は死霊化していて、その死霊が貴殿を召喚したと結論づけるのは、吾輩の思想からすると認めたくはありません。
ですので吾輩の見解としては、かつて皇帝の棺にかけられた超自然の力の作用に因って、神獣の力を呼び出す際に、偶然にも貴殿がその力の根源として用いられてしまった、と解釈しております。
その際に貴殿が耳にした子供等の姿や声は、呪われた棺に囚われた死霊の残留思念であり、それが貴殿の精神を掻き乱しただけだと思われますなあ。
皇帝の死後の活躍の伝承についても、吾輩も多少は判っている事があります。
皇帝が最後に名乗ると云われる『四界の玉座の主』、又の名を『光と闇の王』と言うのは、この地方の神話における原初の時代に登場する創世神の名です。
陸・海・空のある現世と、空の上にある天空界、海底や地底の下にあるとされる暗黒界、それに死者の世界である冥界、この四つの世界を四界と呼び、それらを創造したのが全ての世界の初代の王である、光と闇の王です。
皇帝は最終的に、自らを至高の存在である創造主にしようとしていた、と言う事になりますな。
太陽神の化身と謳われた皇帝が、まさかその守護神すら倒すつもりでいたとは、何と傲慢極まりないのでしょうなあ、崇拝対象と同列に呼ばれるだけでは飽き足らず、国の財政を圧迫してまで己の死後の欲望に費やすとは、身の程を知らぬ愚か者だったとしか言いようがありますまい。
死後の皇帝の住まいだった双世宮については、墳墓内の皇帝の間の壁面に施された装飾にそれがあったと記憶していますが、その絵を直接見た訳では無く壁に描かれた図や絵の中に、そういう題材のものがあったと記録に残っているだけですから、具体的にその絵が建物の構造を表していたのか、それとも外観を描いていただけなのか、それすらはっきりしません。
ついでですので、ここで創世記の神話をお話し致しましょうか。
創世神である光と闇の王が、世界の区分けも無く唯一つの物質しか無かったところに、各世界を創造する話です。
最初この世界は混沌と云う唯一つの、暗くも明るくもあり、極彩色でも透明でもあり、丸くも四角くもあり、熱くも冷たくもあり、硬くも柔らかくもある、濃い霧の様な不定の物だけで出来ていました。
彼方なる地と呼ばれる別世界から、音も無く発生した果て無き帳と呼ばれる深い霧を越えて、十二本の脚を持つ双頭の馬に引かせた戦車に乗り、双方向に切っ先を持つ白黒の槍と、その槍と同じ長さの灰色の杖を持った、光と闇の王が混沌の地へとやってきます。
彼の外見に関する記述は一切ありません、ですので人間の形状であったのかすら判らず、果て無き帳とは何なのかや、彼方なる地とは何処にある世界なのかについても一切不明です。
そんな謎の存在である光と闇の王はまず、この混沌を二つに分けてその内の一つの塊から、光の支配する世界、闇の支配する世界、死と永遠が支配する世界の三つを創ります。
しかし未だ混沌の固まりは余ったので、それを使ってもう一つの世界を創ろうとしますが、材料が足らず今まで創った世界と同様に出来なかったので、そこには三種類の領域である、空と陸と海を創ります。
こうして分けた塊の半分を使い切ったところで、残りの混沌の塊を又二つに分けてから、そのうちの一つを使って、今度はこれらの世界に住む者達を創り始めます。
最初に創った三つの世界にそれぞれ支配者である神とこの眷属を配置して、支配者達にはその世界の王の証である玉座と、自らの所持品を模した三つの道具を与えます。
最後に創った世界には、三柱の神々を創った残りの塊から神を創るだけの材料が足りなかったので、その代わりにそれぞれの領域ごとに一頭ずつ各領域の主となる獣を創り、各々の神獣に力を象徴する三つの名を与えます。
残った四分の一の混沌を又半分に分けて、その分けた片方を使ってまず三つの世界に住人や物を創り、余った塊で現世の生物や物を創ります。
最後に残った八分の一の混沌の塊を三つに分けて、まだまだ隙間だらけだった現世の空と陸と海の何処かに隠しました。
こうして創世を終えた光と闇の王は、果て無き帳が再び現われた時に、自分の世界である彼方なる地へと帰るべく旅立ち、創った世界から去りました。
現世では三つの世界の神々すら予期出来ない、様々な事象が発生するのは、残された混沌の力が作用しているからだと云われています。
この太陽神信仰の元となる神話は、三と云う数が最も尊くより完全な数だとされており、その為に光と闇の王も、あらゆる物を三つずつ創っているのだとされています。
天空界・暗黒界・冥界の三つの世界は、光と闇の王が知る彼方なる地の世界と酷似しているとされていて、その叡智を注いで創られています。
ですが現世は本来創る予定ではなかった世界であり、光と闇の王はこの世界全体の支配者たる神を創る事が出来ませんでした。
その為に神獣達は自分の領土を広げるべく争い、更に他の三世界の支配者達も領土拡大を企み、残っている現世への侵攻を繰り返すのです。
これが以前に説明した、太陽神たる光の王と暗黒神たる闇の王の、果てしない戦いにある背景であり、これ以外に幽冥神たる死の王は、死者や死霊を現世に送り出す事で、現世への侵攻を行っています。
以上が、太陽神信仰における創世記の神話と現状になります。
最後に貴殿も気になっていたであろう、この度の召喚は果たして成功であったのかそれとも失敗であったのかについて、吾輩の解釈をお話し致しましょう。
貴殿としては召喚者と思われた存在であった、神官の子供の願いを叶えた事が、結果的に彼或いは彼の現実逃避から来る幻想を破壊し、かつての召喚者が望まなかった覚醒を齎した、そう捉えておるのですな。
吾輩としては先程も申し上げた通り、今回の召喚者は子供の亡霊ではないと考えていますが、仮にそうだったとすると、子供は自ら求めた結果を得たものの、それがたまたま自分が本来望まない結末だった、ただそれだけの事では無いでしょうか。
誰にでもあるでしょう、何かに欲をかいて一か八かの挑戦をしてみたがそれが裏目に出てしまう事が。
そういった言わば不運に終わった期待と、今回の出来事に差異は無いのではないですかな?
そう考えれば、彼は自分が忘れる様にしていたが故に、自らその結果を招いたのであるから、自業自得と言う事になりはしませんか?
それを手伝わされただけの貴殿が、何を悔やむ事があるのでしょう。
もしそうなる事が事前に判っていたら、そもそも召喚に応じなかった? そんな事出来ないのは判りきっていますよねえ、ならその召喚目的を叶えなかったのですか? そうしたら今度は召喚者は決して納得する事は無く、更に貴殿の心情としている召喚目的の達成を使命とする思想に反する事になりますが、その点はどう致しますか?
とまあ、この様にですね、後から知った思いもよらない事実などにいちいち固執していたら、何にも実行出来なくなるのです。
ですから今回の召喚の結果は正しいのですよ、あの子供の妄想は壊れるべくして壊れた、それだけなのです。
第一あやつらは人間ですらない、それ以下の死霊と化した化物でしかないのだから、ある意味その現実を知らしめてやった時点で、既に正しき行いとも言えるのでは?」
ロバの紳士はそう締め括ると、ロザリオを離した右手で胸に十字を切ってから黙礼しつつ姿を消した。
“嘶くロバ”が消えた後も、私は眠る事無くずっと考えていた。
今回の私の行動を擁護するロバの紳士の解説を聞いても、やはり釈然とはしなかった。
それは彼の言葉が、私を本当の意味で慰めようと言う意図で発していないのも気づいていたし、彼が私の思想をより自分の側へと近づけたいが為の、説得であるとも判っていたが、苦悩の原因はそれではなかった。
私は私自身のたった一つの信念であり、私なりの理念でもある、召喚達成の行為について、改めて疑問を抱いてしまったのだ。
ロバの紳士の言う程に、全ての出来事を否定的に捉えて利己的な結論にすり替えるのも違うと思うが、召喚目的の達成もまた絶対に正しいとは捉えるべきでないとしたら、私はどうすれば良いのだろう。
この心情をかの紳士に悟られれば、即座に更なる自論を展開して来るのは明白であったから、あの場では悟られない様に受け流しておいた。
しかし今後、近日中にでも来るであろう次の召喚の際には、またその場で私が制御出来る範囲内ではあるが、召喚達成の是非を選択しなければならない。
果たして今までの様に、迷う事無くそれを実行出来るのかが現状では判らず、不安だけがひたすら増大して来るのを感じて、私はそこにある筈の無い答えを求めるかの様に、周囲に広がる虚空の暗闇を見つめていた。
第十五章はこれにて終了、
次回から第十六章となります。




