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『誓約(ゲッシュ) 第一編』  作者: 津洲 珠手(zzzz)
第十五章 童子の遊戯
70/100

第十五章 童子の遊戯 其の四

変更履歴

2011/12/19 誤植修正 関わらず → 拘わらず

2011/12/19 誤植修正 して見ると → してみると

2018/03/28 誤植修正 結末を帰るべく → 結末を変えるべく

2018/03/28 誤植修正 知性を精神を → 知性と精神を

2018/03/28 誤植修正 推察すれは → 推察すれば

2018/03/28 句読点調整

2018/03/28 記述削除 やはり呼び出しの契機が~

2018/03/28 記述修正 大爆笑もやっと落ち着いて来た → 哄笑もやっと落ち着いて来た

2018/03/28 記述修正 海の神獣に憑かれた者は、この性質は → この疑り深さは

2018/03/28 記述修正 私に対して繰り返して → 海の神獣に憑かれた者は、私に対して繰り返し

2018/03/28 記述修正 うごめくものをはなつもの → うごめくものをはなつつかさ

2018/03/28 記述分割 破綻してしまった、しかしその時既に → 破綻してしまった。しかしその時既に

2018/03/28 記述修正 棺に封じられた後だった → 棺に封じられた後だったのだろう

2018/03/28 記述分割 逃避が出来なかった、そこで狂気に → 逃避が出来なかった。そこで狂気に

2018/03/28 記述修正 正しいと認識するかだけで → 正しいと見做すかだけであり

2018/03/28 記述修正 容易に切り替わったのだろう → 意外と容易に切り替える事が出来たのかも知れない

2018/03/28 記述修正 それをもしこの状況になって → もしそれが、この状況になって

2018/03/28 記述分割 おのずと消去される、ヅィザの転化は → おのずと消去される。ヅィザの転化は

2018/03/28 記述削除 ヅィザの転化は~

2018/03/28 記述削除 ここで問い掛けの内容を~

2018/03/28 記述分割 彼はあの三つの人格のうちのどれか、ではなく、誰かを考えるのであれば、答えは一つだ、 → 残る相手を改めて考えてから、それと相反する性質を持つ者が転化であるとすれば、残りが実体となる筈だ。これで

2018/03/28 記述修正 絶叫の時と同じ現象 → 絶叫の時と同じ現象が起こり

2018/03/28 記述修正 光、生者の門が浮かび上がった → 光が浮かび上がり、生者の門が出現した

2018/03/28 記述修正 その声からして気味が悪い程の、満面の笑みを浮かべているに違いない子供は → 気味が悪い程の満面の笑みを浮かべている子供は

2018/03/28 記述修正 船乗りの光を → 船乗り達の光を

2018/03/28 記述修正 鬼ごっこに → 命懸けの追いかけっこに

2018/03/28 記述修正 守護者へと対峙する様に見た → 守護者へと対峙した

2018/03/28 記述修正 この時、私は呆気に取られた → 私は呆気に取られた

2018/03/28 記述修正 建設的な論理ではない → 建設的な論理ではなく

2018/03/28 記述修正 ぶつける事なのだ → ぶつける事だ

2018/03/28 記述修正 それを実像として → それを実像とし

2018/03/28 記述削除 彼はそれを見定めようとして~

2018/03/28 記述削除 恐らくその程度の事を見破れる力が無ければ~

2018/03/28 記述修正 欲しかったなあ、ぼくならさあ → 欲しかったなあ

2018/03/28 記述修正 ぼくは誰でしょう? → ぼくは誰でしょう!

2018/03/28 記述修正 ちゃんと考えて答えてよ? → ちゃんと考えて答えてよ。

2018/03/28 記述分割 この結論には自信があった、今何よりも → この帰結には自信があった。今何よりも

2018/03/28 記述分割 強引な展開と屁理屈を加味した → 強引な展開の詭弁じみた

2018/03/28 記述分割 誰であるかを導き出した、何の事は無い → 誰であるかを導き出す必要がある。何の事は無い

2018/03/28 記述修正 謎の様なものだったと → 謎の様なものだと

2018/03/28 記述修正 今までの知能に問題がある → 今までの知能や性格に問題がある

2018/03/28 記述修正 癇癪を起こされて → 余計に勘ぐられて

2018/03/28 記述修正 最後の私も含めて皆殺しにするまでには → 最後の皆殺しに至るまでには

2018/03/28 記述修正 みんななかよくしてね → みんななかよくしてね!

2018/03/28 記述分割 うすのろのまね、けっこううまかったでしょ → うすのろのまね! けっこううまかったでしょ

2018/03/28 記述修正 あぁああ……、なぁんてね → あぁああ……、ううぅぅぅ……、なぁんてね

2018/03/28 記述修正 わかってる? ねえ → わかってる?

2018/03/28 記述修正 苛立ちに取り込まれ始めていた → 苛立ち始めていた

2018/03/28 記述移動 先程意識を失う寸前に~

2018/03/28 記述分割 依頼を果すと決めていた、それが召喚者達の → 依頼を果すと決めていた。あれが召喚者達の

2018/03/28 記述修正 それがここでの私の役目でもあり → その実現こそがここでの私の役目でもあり

2018/03/28 記述修正 私はそれに従うべきだと決めた → 私はそれに従うべきだと判断した結果でもある

2018/03/28 記述削除 ヴァハンの転化した相手は~

2018/03/28 記述修正 反論出来る者は居なくなる → 反論出来る者は居なくなり

2018/03/28 記述分割 思っていたのに、そんなにぼくは → 思っていたのに。そんなにぼくは

2018/03/28 記述修正 そんなにぼくは愚か者なのか → それって逆に言えば、そんなにぼくは愚か者に見られていたのか

2018/03/28 記述追加 あ、もしかして~

2018/03/28 記述修正 レヴィアの顔真似から → 青衣の神官はレヴィアの顔真似から

2018/03/28 記述修正 このひつぎのしゅごしゃにして、もぐるものにつかれるもの → もぐるものにつかれるレヴィン、うみのしんじゅうのしゅごしゃ

2018/03/28 記述修正 にどとつかわせないんだから → にどとつかえないんだから

2018/03/28 記述修正 ただでさえレヴィはまともに会話出来ない → そう意気込んでいたのだが、ただでさえレヴィは満足に会話も出来ない

2018/03/28 記述修正 何となく不気味に映る → 何だか不気味に映る

2018/03/28 記述修正 まあここまでは → まあこれ以上は

2018/03/28 記述分割 おかげだと言っていた、自分達で → おかげだと言っていた。自分達で

2018/03/28 記述修正 自分達で呼び出したのに → 自分達で呼び出したと推測しながら

2018/03/28 記述修正 でもなあ! あんまりにも → でもさあ、あんまりにも

2018/03/28 記述修正 レヴィアとは異なり → レヴィアとは違い

2018/03/28 記述修正 レヴィなのかと理解しつつ → レヴィなのかと把握しつつ

2018/03/28 記述修正 周囲の状況を確認し始めた → 周囲を確認し始めた

2018/03/28 記述修正 あの二人と同じ様な口上も、抑揚が無くて → 最初の口上も抑揚が無くて

2018/03/28 記述修正 つっかえる事も無く発していたのに → つっかえる事も無く発していたのが

2018/03/28 記述修正 で、はなしをもどすけど → ところで、はなしをもどすけど

2018/03/28 記述分割 人間達の光であろう、そしてこの担ぎ手達の → 人間達の光であろう。そしてこの担ぎ手達の

2018/03/28 記述修正 自らの疑り深さが → 猜疑心の強さが

2018/03/28 記述分割 あいつらを殺すからね、ほら → あいつらを殺すからね。ほら

2018/03/28 記述分割 思っていなかったんでしょ? どうせ → 思ってなかったんだね。どうせ


周辺から聞こえる意味の理解出来ない低い詠唱の中、それらの声とは違う距離感で、聞き覚えのある意味の無い喃語が私の耳へと届いて来る。

「あぁ……、あぁああ……」

これが聞こえると言う事は、船倉内で目覚めたのはレヴィンではなくてレヴィなのかと把握しつつ、私は周囲を確認し始めた。

状況は先程と変わらない様であるが、前にあった巨大な光の帯の代わりに、上空には幾つもの小さめの光の塊が蠢き、更に地平線辺りの高さから下へと伸びる光の柱が、周囲を取り囲む様に光っているのが見える。

これは恐らく、十字の棺が積み込まれた輸送船の船乗り達と、担いでいた人間達の光であろう。

そしてこの担ぎ手達の中の誰かが棺へと触れてしまった、だからこそ私は覚醒したのだ。

周囲を確認した後に目の前を見ると、そこにはここへ来て最初に見た青の祭服の子供、レヴィが両腕をだらりと垂らした姿勢で、こちらを見ながら口を開き、無意味な発声を続けていた。

前の時はかなり上機嫌にはしゃいでいたのだが、今はそんな事をする気配もなく、息を吐く代わりに唸っているかの様な発声を、少しも笑いもせずに無表情で続けているのが、何だか不気味に映る。

視線は私へと向けられているが、その胡乱げな眼差しはどんよりと濁り、私を認識しているのかどうかすら良く判らない。

「ううぅう……、ぅぅううぅう……」

先程意識を失う寸前に、私はヅィザとヴァハンの依頼を果すと決めていた。

あれが召喚者達の決断なのであれば、その実現こそがここでの私の役目でもあり、存在意義であるだろうから、私はそれに従うべきだと判断した結果でもある。

そう意気込んでいたのだが、ただでさえレヴィは満足に会話も出来ない相手であるのに、この状態ではこちらから何を言ってもまともに反応すらしそうもない。

この間に何か有益な行動を取れないものかと思い、色々試そうとした時、唐突に新たな同じ声が聞こえた。

「あぁああ……、ううぅぅぅ……、

なぁんてね、いまなにしようとしてるの、ねぇ?」

その目には先程までは感じなかった強い意思が宿り、弛緩した表情も無邪気な悪意を感じるものへと変わっていた。

「どうだった? うすのろのまね! けっこううまかったでしょ、すっかりだまされてたよねぇ?」

そう言ってレヴィの振りをしていたレヴィンは、腹を抱えて大笑いし始めた。

こういう真似をして来る事は想定していなかったので、すっかり私は騙されてしまったが、レヴィンに知られずにレヴィへと、何かを働きかけなければならなかったとしたら、あっさりと失敗していたところだった。

そんな策すらない現状であるから問題にはなっていないものの、レヴィンはそれを勘ぐって仕掛けて来たのだとすれば、レヴィ達を消し去る起爆剤として、この疑念は逆に利用出来るかも知れない。

哄笑もやっと落ち着いて来た青の祭服の子供は、鋭い目つきで私を睨みながら、口元を歪める様にしつつ、私へと捲くし立てて来る。

「あーあ、もうちょっとがまんしとけばよかったな、そしたらおまえがなにをたくらんでいたのか、あばけたかもしれないのに」

「でもさあ、あんまりにもたのしすぎちゃって、がまんできなかったんだよ! おまえがあまりにも、かんぜんにだまされちゃってたからさ!」

「ところで、はなしをもどすけど、いまなにしようとしてたの?」

「おれがもし、うすのろだったら、なにをするつもりだった? なんかたくらんでたんだろ?」

「ねえ、もうおしえなよ、どうせそのてはにどとつかえないんだから、だまってたって、いみないよ?」

この疑り深さは海の神獣の性格なのだろうか、海の神獣に憑かれた者は、私に対して繰り返し問い掛けて来た。

どうやら猜疑心の強さが仇となり、心に抱いた疑念に囚われてしまっているらしい、この様な性格故に太陽神にも暗黒神にも従わないのか。

レヴィは私を宥めすかしながら、何とかして有りもしない秘密を聞き出そうと、色々と喋っているが、徐々にその態度は苛立ち始めていた。

「そうやって、ずっとだまってるつもりなんだ、おれのおやくめのために、おまえはいるってこと、わかってる?」

「そういうのって、おれ、すきじゃないんだけど、やなんだけど、ねえってば!」

「むかつくなあ、それ、すごくむかつく、あぁもうむかつく!」

そう言って青衣の子供はくるりと体を翻すと向こうを向いて、それと同時にまるで上にある物を持ち上げるかの様に両腕を高く伸ばし、両手の平を上空へと向けた。

すると、レヴィアの絶叫の時と同じ現象が起こり、上空に十字の枠の光が浮かび上がり、生者の門が出現した。

「あはははははは! べつにおまえがさからってても、おれはもうおやくめをできるんだから、どうでもいいんだよ!」

「おまえのそのたいどはむかつくけど、それをききだすのももうあきちゃった、だからさ」

「ちょっと、きばらししてから、つづきをしてやるよ!」

楽しげに笑い出しながら、レヴィンは海の神獣の力を振るい始めた。




僅かに開いた生者の門は、まだ用意されていなかった糧を早速要求して来た様で、天空の光の十字が輝き始めた途端に、前回のレヴィアの時とは違って急速に海の中から糧が掻き集められて、それは私の意思の如何に拘わらず通り過ぎ、レヴィンへと注ぎ込まれて行く。

しかしその量は、一気に負の感情を爆発させたレヴィアとは違い、とても少量なのが判り、これが欠けた魂の大きさの違いに因るものなのか、レヴィンが力を抑える様な細工をしているのか、どちらかは判断出来ない。

「さてと、どうしよっかなぁ、うん、まずは、ごあいさつでもしとこうかな」

海の神獣の守護者はそう言うと、もう両腕を上げる動作には意味がなくなったらしく、その腕を下ろした後に、周囲の光の塊を確認する様に首を動かしているのが見えた。

「みんな、こんにちわ! おれはレヴィン、もぐるものにつかれるレヴィン、うみのしんじゅうのしゅごしゃ」

「またのなを、しずむものをまねき、もぐるものをとらえ、うごめくものをはなつつかさ」

そう言い終えると、ヴァハンやヅィザと同じ一礼を少々大袈裟な動きでしていた。

この態度は、かの二人と見劣りするものでは無く、最初の口上も抑揚が無くて棒読みではあるが、つっかえる事も無く発していたのが、何となく違和感を覚える。

「みじかいあいだだけど、みんななかよくしてね!」

その直後、この空間の周りからは悲鳴が起こり始めて、ずっと続いていた無意味な詠唱も聞き取れなくなり、光の塊は遠ざかる悲鳴と連動してその大きさが小さくなっていく。

ついにレヴィンが、棺から触手の怪物を呼び出したのだ。

「うわぁ! みいんなにげてくよ、すっごくはやいなぁ! そっか、おにごっこであそんでくれるんだ、ということは、おれがおにだね?」

もう愉快で仕方が無いと言わんばかりに、気味が悪い程の満面の笑みを浮かべている子供は、逃げ惑う船乗り達の光を見ながら、勝手な解釈で彼流の残忍な遊びを始めようとしていた。

「みんなはやいなぁ、ねぇ、まってよぅ、まってってばぁ!」

明らかにレヴィンはその力を抑えているのだと、私は確信を抱きながら、この戯けた遊びをいつまで続けるのか、過去の召喚を思い出し照らし合わせて確認していた。

あの時と全く同じ展開であるならば、確か触手は甲板まで出てから、隣の船からの反撃にあって一度引っ込み、その後船尾楼を突き破って一気に隣の船に攻撃していた筈だ。

最後の皆殺しに至るまでには、もう暫く時間がある様だが、この間にレヴィンに対して何をすべきなのか、或いは何をすべきでないのかを考えなければならない。

あの大海蛇としての召喚と同じ結末で、二人の神官の悲願が達成出来るのであれば、あれを再現させるべくこの子供を誘導するのだが、それとも敢えて結末を変えるべく嗾けてみるべきか。

恐らくこのレヴィンの状態では、どれだけ非道な行いを繰り返したところで、寧ろ歓喜するだけで人格消失へは繋がらないのではないだろうか。

となると、欠けた魂の大きさの問題で、あの様な力の解放がレヴィアにしか出来ないのであれば、レヴィンの感情を掻き乱してやるだけでもレヴィアに入れ替わる筈で、比較的難しくは無いと思える。

だがしかし、若しレヴィンもレヴィアと同様に力の解放が出来たとしたら、サーペントの私も含めて惨殺されるだけで、全ては終わってしまう。

そこの見極めが出来れば良いのだが、下手な事を言って余計に勘ぐられて台無しにする訳にも行かない、どうしたものだろうか。

「ねぇ? そろそろ、はなしてくれるきになった? さっきからたくらんでること」

絶対に鬼の変わる事の無い命懸けの追いかけっこに、夢中になっている間に考えていたつもりが、いつの間にか私の方を見据えたレヴィンが唐突に話しかけて来て、私は意表を突いて来た正面の守護者へと対峙した。




「もうそろそろ、おしえてくれないかなぁ、それともこっちからひみつをひとつおしえてあげたら、おまえもおしえてくれたりする?」

レヴィンの秘密、この言葉には思わず興味をそそられてしまい、その感情の変化を悟られたらしく、神官の子供は子供らしくない不敵な笑みを浮かべた。

「ああ、やっぱりきょうみあるんでしょ? おやくめのおにごっこも、そろそろつかまえるのがなくなってきちゃったから、あなたとおはなししてあげる」

「ヴァハンはこんなにたのしいこと、ひとりじめしてたなんて、ひどいとおもわない?」

「さいしょはいやなふりしてたけど、やっぱりはじめちゃうと、たのしくって、たのしくって、やめるのなんて、かんがえられない!」

「このおやくめが、もうできなくされるのなんて、いや、いやよ、いや、いや、ぜったいにいや!」

「もしそんなことになったら、ないてあやまるし、どんなことをしてもゆるしてもらうわ、おねがい、おねがいだから、あたしからおやくめをとりあげないでって」

「おやくめができなくなったら、あたしはどうにかなってしまう、だからおねがい、おねがいだから、とりあげないで!」

こう言って大きく見開いた双眸で叫んで見せたその姿は、まさにレヴィアそのものだった。

レヴィと同じくレヴィアの真似をしているのか、同じ肉体を共有する別人格を演ずるのは意外と容易いものなのだろうか。

しかしこれが何の秘密だと言うのか、まだ真意が掴み切れない私へと、青衣の神官はレヴィアの顔真似から無表情に戻した後に、口元だけを歪ませて笑いつつ、がらりと口調を変えて言葉を発した。

「まだ判らないの? もう時間切れだよ、もう少し利口な奴だと思っていたのに。

あ、もしかして、ぼくの演技力があまりに素晴らし過ぎたのかな?

それって逆に言えば、そんなにぼくは愚か者に見られていたのか、酷いなあ」

私は呆気に取られた、レヴィンは、すらすらと流暢に語り始めたのだ。

それを悟った青衣の神官は、満足げに今までとはまた違った笑みを、まともな知性と精神を具えた人間の笑みを浮かべた。

「あれ、今驚いた? ぼくが普通に話が出来るって、思ってなかったんだね。

どうせ知恵遅れの子供だって思ってたんでしょ?

最初にさあ、ぼくがレヴィの真似してた時点で、感づくくらいの洞察力は欲しかったなあ。

ところで、ここで次の問題、さて今のぼくは誰でしょう! いい加減鈍いきみだって判って来たでしょ? さあ、ちゃんと考えて答えてよ。

もし間違えたら、罰としてあいつらを殺すからね。

ほら、今ぼくの大事な神獣を傷つけているあいつら、こっちが話をしている間に調子に乗ってるから、丁度いいや」

そう言い終えたレヴィアを演じた、レヴィンであった少年は、更に別の人格へと変貌して、私へと問いを投げかけて来た。

その人格は今までの知能や性格に問題がある子供とは異なり、ヴァハンやヅィザと変わらない知能を持っているのは明らかだ。

新たな第四の少年の言葉で状況が気になって、周囲を素早く確認してみると、周辺には動いている光は見当たらず、少し離れた場所に十個程の光が固まってあるのが見えている。

現在は恐らく甲板上の輸送船の船乗りを殺し終えた後、隣の船から反撃を受けて船倉へと戻ったところの様だ。

近くでまだ残っている光の集団は、この後に串刺しにされていた聖職者の一団だろうか、彼等はもう暫く後にマストよりも高く屍を晒す事になる。

この結果が私の次の回答次第で変化するのだろうか、私は第四の少年の正体について考え始めた。




私の最初の召喚や、次に現われたヴァハンやヅィザの事を思い返し、これまでの状況や“嘶くロバ”の解説も思い出しつつ、何か思い違いをしている箇所が無かったか、何か気になった点は無かったかと再検証してみた。

そうしてよくよく考えてみると、どうも辻褄の合っていない箇所や、聞いた解説では答えになっていない箇所、それから謎のままになっている箇所など、幾つか思い当たった。

そしてこれらの疑問から、この人格の正体が誰であるかを導き出す必要がある。

何の事は無い、冷静に推察すれば判る、推理小説における謎の様なものだと、言いたいところだが、これはその様な理路整然としたものではない。

どちらかと言えば、レヴィンだった子供が自信有り気に語ってきたところから、答えを導き出すと言う、推理としてはタブーとも言える方法で解を求めるのだ。

今必要なのは確固たる真実の裏づけと、犯人を追い詰める建設的な論理ではなく、あの少年の演出から最も考えられない答えを導いてぶつける事だ。

まず、私を呼び出したのはヴァハンとヅィザの願望からだと言っていたが、それではどうして私は、その前のレヴィ達の召喚時点で姿を現しているのか。

あの二人の願望から私が召喚されたのであれば、まず彼等の前に現れなければ目的を伝える事も出来ないし、それどころか願いを伝える前に、全てを駄目にされてしまう可能性もある。

更にヴァハンは、自分達がここに出て来られるのは、良く判らないが多分光の帯のおかげだと言っていた。

自分達で呼び出したと推測しながら、その存在と出会えたのが偶然でその契機は判らないと言う。

それに大海蛇だった私には、彼等をここへ出られる様にする力なんて在る筈が無い事も、私自身が良く判っている。

つまりヴァハンとヅィザは、偶然に私と会話が出来たから、その願望を伝えただけの存在でしか無いと、自ら語っていた訳だ。

この証拠となるのは私を召喚した際の糧であろうか、陸と空の神獣の守護者では、この海上や海中では代償を集める事も出来ない、これが可能だとすると海の神獣の守護者しかいない。

それ以外だと、ヴァハンが何度か呼び出されたと言う実績が、伝承として“嘶くロバ”から語られていない点が、事実ではないと言う可能性を、ある程度表しているとも言えるかも知れない。

力を持っていると思われたあの二人は、実際には力を行使出来る状況ではなく、逆にまともに力を使えないと思われていた一人こそが、私を召喚可能な立場にあった。

この様に逆転して状況を捉える為には、ヅィザの解説を否定しなければならないが、これは意外に簡単だ。

レヴィの人格分裂を語ったヅィザの言葉だが、どうやってヅィザはレヴィの魂が分裂したと判ったのか、実はその根拠が何も無い。

伝承として双子以上の赤ん坊は、魂を分けて生まれて来ると言うのがあるのかも知れない、だがそれとレヴィの魂が砕けて人格が分裂したのは別の話だ。

そもそも彼等神官達には、神獣を操る力は持っていたのかも知れないが、人間の魂を見極める能力があったなんて聞いた事が無い。

彼等にはそれが判る手段など無かったのだから、あの推測には確証が無かった、結果から導き出した都合の良い想像か、或いは何らかの事実を歪めた妄想だったのだろう。

ここには彼等三人しかいないのだから、その推測を二人が真実だと信じ、それを否定する者を正気ではないとしてしまえば、それ以外に反論出来る者は居なくなり、即ちそれは真実へと変わる。

その結果正常な意識は失われて、かつて自分達が正常であった記憶と、こう在りたいと望んだ認識が生き残り、目の前の真実は歪められたのだろうか。




三人の神官のうち二人は何かしらの原因に因って、精神が破綻してしまった。

しかしその時既に、彼等は呪われた不死の身として棺に封じられた後だったのだろう。

死んで解放される肉体も持たず、精神体でしかない彼等には逃避が出来なかった。

そこで狂気に囚われた精神を分割し、それを押し付けて、まともな虚像を作り出してそれを実像とし、自分達は正常でありこの虚像こそが実像だとした。

その結果、二人の狂人は一人の常人を貶める事に因り、この空間での正当性を自分達の狂気の側へと持って来たのだ。

恐らく魂の分裂と言う理由付けは、自分達に起きた精神崩壊と、両性具有の肉体を持つ投影対象の存在とを重ねて、作り出した設定なのだろう。

一人の常人はそれを何故かは判らないが受け入れた、そして彼は一人で狂人二人の本性も抱え込んで演じて見せた、本当の狂人達がその哀れな己の姿を自分では無いと信じられる様に。

この空間ではもう誰も実体を持ってはおらず、実像と虚像の違いは、他者からの認識がどちらを正しいと見做すかだけであり、意外と容易に切り替える事が出来たのかも知れない。

もしそれが、この状況になってすぐから始まっていたのだとすると、千年以上も続けていたのか。

まあこれ以上は詭弁を弄さずともいいだろう。

最後の問題は、答えるべき名前は果たしてどれが正しいのかだ。

あの三つの内のどれかなのかは間違いなく、その中の一つは転化した点を考えればおのずと消去される。

残る相手を改めて考えてから、それと相反する性質を持つ者が転化であるとすれば、残りが実体となる筈だ。

これで回答すべき名前は定まった。




こうして私は今までの真実を反転させた、かなりの強引な展開の詭弁じみた自論を構築した。

結論への到達経路はおかしいかも知れないが、私としてはこの帰結には自信があった。

今何よりも必要なのは、目の前の少年へと確信を持って回答出来る自信だ。

「さて、答えを聞こうか、ぼくは誰?」

私はその唯一の常人の名を、真の召喚者たる彼へと告げた。





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