表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『誓約(ゲッシュ) 第一編』  作者: 津洲 珠手(zzzz)
第十五章 童子の遊戯
69/100

第十五章 童子の遊戯 其の三

変更履歴

2012/03/25 誤植修正 幽き灰の杖の使い → 再び幽き灰の杖を使い

2012/03/25 誤植修正 闇の世界と → 闇の世界へと

2012/03/25 句読点調整

2012/03/25 記述修正 再び幻影の様な透明感のある姿を現した → 再び姿を現した

2012/03/25 記述分割 それがあなたです、つまりあなたは → それがあなたです。つまりあなたは

2012/03/25 記述修正 あっさりと緑衣の神官である少年は → 普通に考えても多くの疑問と疑念が浮かぶと思うのだが、緑衣の神官である少年はあっさりと納得したらしく

2012/03/25 記述削除 普通に考えても多くの疑問と疑念が浮かぶと思うのだが、彼は何も聞いては来ない、

2012/03/25 記述修正 関係の無い立場で存在する → 全く動じない

2012/03/25 記述修正 それで光の王へと海の神獣を何とかして欲しいと頼んだ、それが先程のヅィザの願いでした → だから本当は、海の神獣を何とかしてレヴィたちから引き離したい、それがヅィザの願いです

2012/03/25 記述修正 千年経ちましたか → 千年ですか

2012/03/25 記述分割 経っていないのですね、もっと経ってしまっているのかと → 経っていないのですね。もっと経ってしまっているのではないかと

2012/03/25 記述修正 心配していたんです、安心しました → 心配していたのですが、安心しました

2012/03/25 記述修正 問いを投げかけると → 問い掛ける思念を投げかけると

2012/03/25 記述修正 冥界 → 冥府

2012/03/25 記述修正 現実世界 → 現世

2012/03/25 記述修正 ヅィザからの説明で → 先程の説明で

2012/03/25 記述修正 宮殿の双世宮についても、そこはヅィザの話と同じです → 宮殿の双世宮についても

2012/03/25 記述修正 帰ってくるのではなく → 帰って来るのではなく

2012/03/25 記述修正 五百人の英雄をつれて → 五百人の英雄を連れて

2012/03/25 記述修正 双世宮の英雄達は目覚め → 双世宮の英雄達は誓いの間へ集い

2012/03/25 記述修正 これが実現すると、神託により告げられた刻限は → 神託により告げられた、これが実現するその刻限は

2012/03/25 記述修正 陛下の死後一万年後です → 陛下の死後一万年後なのです

2012/03/25 記述分割 出来たかも知れない、それならば僕も喜んで → 出来たかも知れない。それなら僕も喜んで

2012/03/25 記述分割 その国には民がいる、それらの国との → その国には民がいる。それらの国との

2012/03/25 記述分割 繁栄はもたなかった、その現実に対して → 繁栄はもたなかった。その現実に対して

2012/03/25 記述修正 お互いに支えあって → お互いに支え合って

2012/03/25 記述分割 過ごして来ました、だから僕が → 過ごして来ました。だから僕が

2012/03/25 記述修正 このそれなりに穏やかだった日々が → それなりに穏やかだったこの日々が

2012/03/25 記述修正 怖くて恐ろしくて出来ない → 出来ない

2012/03/25 記述分割 顔も見たくない、しかしそうしなければ → 顔も見たくない。しかしそうしなければ

2012/03/25 記述修正 手段も思いつかない、それは良く → 手段も思いつかない。それは良く

2012/03/25 記述分割 過ごして来たんです、だからあなたに → 過ごして来たんです。だからあなたに

2012/03/25 記述分割 判っています、だけど僕には → 判っています。だけど僕には

2012/03/25 記述分割 判っていたのかも知れない、だから最後に → 判っていたのかも知れない。だから最後に

2012/03/25 記述分割 酌むべきなのかも知れない、血を分けた者同士の → 酌むべきなのかも知れない。血を分けた者同士の

2012/03/25 記述修正 ただ神獣を呼び出して → ただ神獣を呼び出し

2012/03/25 記述修正 ここに来れたのだから → ここに来られたのだから

2012/03/25 記述修正 発生源になっている生物の力が → 発生源になっている力が

2012/03/25 記述修正 僕たちをここへ来れる様に → 僕たちをここへ来られる様に

2012/03/25 記述修正 あれは、と言うか、あれも → あれも

2012/03/25 記述分割 判っていたのだと思います、でもヅィザの感情は → 判っていたのだと思います。でもヅィザの感情は

2012/03/25 記述分割 救っているんです、ヅィザがいなければ → 救っているんです。ヅィザがいなければ

2012/03/25 記述分割 来れなかったでしょう、そう、きっと → 来れなかったでしょう。そう、きっと

2012/03/25 記述修正 質問があるのです、教えて欲しいのは → 質問があります。教えて欲しいのは

2012/03/25 記述分割 やはり滅亡していましたか、どんな国であっても → やはり滅亡していましたか。どんな国であっても

2012/03/25 記述修正 避けられない宿命です、でも五十年と → 避けられない宿命だと思いますが、でも五十年と

2012/03/25 記述修正 僕たち神官の中でも → 神官の中でも

2012/03/25 記述修正 僕たち神官の中でも僕だけに告げられました → 告げられました

2012/03/25 記述修正 空となった勇者の間を → 無人となった勇者の間を

2012/03/25 記述修正 再び幽き灰の杖を使い → 再び杖を使って

2012/03/25 記述修正 鈍き黒の槍と、厚き黒の楯と、重き黒の馬を → 鈍き黒の槍、厚き黒の楯、重き黒の馬を

2012/03/25 記述修正 陛下の力で → たとえ陛下の力で

2012/03/25 記述修正 国の民を蘇らせたとしたら → 国の民を蘇らせたとしても

2012/03/25 記述修正 そうすれば既に → 既に

2012/03/25 記述修正 その国には民がいる → その国には民がいるはずです

2012/03/25 記述修正 たとえ陛下の力で一万年後の → 陛下の力で一万年後の

2012/03/25 記述修正 僕たちの民たちが蘇って → 多くの民が蘇って

2012/03/25 記述修正 築かれた文明には → 築かれた今の文明には

2012/03/25 記述修正 千年どころか、百年すら、築き上げた帝国の繁栄は → 築き上げた帝国の繁栄は、千年どころか百年すら

2012/03/25 記述修正 だから僕は決めたのです → だから僕は決心しました

2012/03/25 記述修正 反逆者や裏切者と罵られても → 反逆者や裏切者として未来永劫呪われても

2012/03/25 記述修正 生者の門が開けられなくて → 生者の門が開けられず

2012/03/25 記述修正 それは良く判っているけど → それは良く判っているのに

2012/03/25 記述修正 このジレンマを抱えて → この悩みを抱えて

2012/03/25 記述修正 過ごして来たんです → 過ごして来ました

2012/03/25 記述削除 都合がいいお願いなのは判っています

2012/03/25 記述結合 お願いしたい。だけど僕にはこれしか お願いしたい、僕にはこれしか

2012/03/25 記述修正 それは彼女の悲壮な → それが少女の悲壮な

2012/03/25 記述修正 でも無駄だと判っていても → 無駄だと判っていても

2012/03/25 記述修正 あのレヴィンですら、その力である程度大人しくさせているんです → あのレヴィンですら大人しくなっています

2012/03/25 記述削除 更に召喚者についてもあの子供達では無いとしても~

2012/03/25 記述修正 そうでは無く、どちらかと言えば神獣を呼び出す側の力で、神官達の欠けた魂を充填する存在らしいが、具体的には何者なのかが判っていない → そうでは無い様に感じる

2012/03/25 記述修正 姿を現す時期を思い出し → 現れる時を考えると

2012/03/25 記述修正 一度思念を切ると → 緑衣の神官は一度思念を切ると

2012/03/25 記述修正 槍と楯と馬をそれぞれ融合し → 槍と楯をそれぞれ融合し

2012/03/25 記述修正 幽き灰の杖の復活の力は → この杖の力は

2012/03/25 記述修正 常に代償を求める品物で → 常に代償を求めるもので

2012/03/25 記述修正 オウム返しに私の言葉を → 私の言葉を

2012/03/25 記述修正 これからの会話の内容は → それと、これからの会話の内容は

2012/03/25 記述分割 現世へと復活する、ですがその工程で → 現世へと復活します。問題なのはその工程で

2012/03/25 記述修正 目的が違うのです → 最終的な目的です

2012/03/25 記述修正 何かしらの形で自分の取れる行動で、それが実現出来る気がする → 今なら自分の取れる行動で、それが実現出来るかも知れない

2012/03/25 記述修正 ヅィザが望むのは先程もお話しした通り、 → ヅィザは

2012/03/25 記述修正 僕とヅィザとレヴィたちで → 僕やレヴィたちと

2012/03/25 記述修正 興味は無くなったらしく → 関心は満たされたらしく

2012/03/25 記述修正 先程のヅィザの語った内容には → 先程ヅィザの語った内容には

2012/03/25 記述修正 把握している事であろうから → 把握しているであろうから

2012/03/25 記述修正 不死と死の力を振るい → 再び不死と死の力を振るい

2012/03/25 記述修正 その死と不死を操る力で → 杖の持つその死と不死を操る力で不死性を奪い、

2012/03/25 記述修正 同意を現してから → 従い思念で以って

2012/03/25 記述修正 全て語って聞かせた → 全てを伝えた

2012/03/25 記述修正 ヅィザがレヴィたちを → レヴィたちは、ヅィザが

2012/03/25 記述修正 皆でやってこれたのは → 皆でやって来られたのは

2012/03/25 記述修正 あなたの力で → ……あなたの力で

2012/03/25 記述修正 それは混沌であり、死と破壊と混乱だけだと → それは死と破壊と混乱だけだと

2012/03/25 記述修正 神になろうとしているのです → 神になろうとしています

2012/03/25 記述修正 皇帝陛下の魂は冥府にいるのは → 皇帝陛下の魂は今、冥府にいるのは

2012/03/25 記述修正 多分ですが → 多分

2012/03/25 記述修正 それを酌むべきなのかも知れない → その決意を酌むべきなのかも知れない

2012/03/25 記述修正 それらの国との領土を巡る戦いや虐殺は → それらの国との、領土を巡る争いは

2012/03/25 記述修正 束ねた神獣達の力と陸の神獣の能力を使って、 → その力を使って

2012/03/25 記述修正 冥府と現世の行き来をする事が → 冥府と現世を行き来する事が

2012/03/25 記述修正 皇帝の遺志あたりだろうか → 皇帝の遺志と言ったところだろうか


ヅィザが消えてからヴァハンが再び現れる間に、私はまだ彼等からの説明を受けていない、私自身の正体について考えていた。

当初は神獣なのかと思っていたのだが、どうも先程の話を考えてみるとそうでは無い様に感じる。

察するところ、彼等の信仰する太陽神か、神格化した皇帝の遺志と言ったところだろうか。

この辺りに関しても、ヴァハンがある程度は把握しているであろうから、確認も出来るかも知れない。

そう考えていた時、緑の祭服の少年が私の前へと、再び姿を現した。

暫くして現われたヴァハンは、まずヅィザから聞いた私の言葉への礼を伝えて来た後に、落ち着いた口調で語り始めた。

「では早速ですが、僕から判る限りのあなたの正体について、お話しします。

先程ヅィザが語った、神官の欠けた魂の器を介して注がれる神の力、それがあなたです。

つまりあなたは、僕たちが崇める太陽神である、光の王の化身だと思います。

本来ここに現れる太陽神の化身とは、意思も持たずただ神獣を呼び出し、周辺から聖なる力をかき集めて、その力を増幅する事しか出来ない道具のようなもので、その道具をここへ呼ばれた神官が扱って、神獣を具現化させて従わせるのです。

過去に何度か僕だけはここへと呼び出された事がありますが、その時は今回の様に光の王の化身と会話をする様な事は、もちろん出来ませんでした。

そもそも今回は、僕やヅィザは呼び出されている訳ではなくて、自分たちの意思でここに来られたのだから、あの巨大な光の発生源になっている力が、僕たちをここへ来られる様にしているのだとも言えます。

ここに来る前にヅィザから聞いたのですが、あれもあなたなのですか?」

ヴァハンに尋ねられた私は、推測ではあるが、恐らくあれは以前の私なのだと説明すると、普通に考えても多くの疑問と疑念が浮かぶと思うのだが、緑衣の神官である少年はあっさりと納得したらしく、それ以上は説明を求めて来なかった。

それは私がどの様な存在であっても全く動じない、千年以上の長い歳月を過ごして来た、あらゆる意味で超越した存在だからなのだろうかと推測した。

この後緑衣の少年は、もう私の正体への関心は満たされたらしく、別の話題へと変わった。

「先程ヅィザの語った内容には、一部間違いがあるので、訂正させて下さい。

ここまで何とか皆でやって来られたのは、僕の力ではなくヅィザのおかげです。

ヅィザは役目を果たすその時まで、僕やレヴィたちと無事に過ごしていたい、ただそれだけを望んでいます。

だから本当は、何とかして海の神獣からレヴィたちを守りたい、それがヅィザの願いです。

だけどそれが叶わない事を、本人も判っていたのだと思います。

でもヅィザの感情はそれでは納得出来なくて、あの様なお願いをしたんです。

僕ならそんな努力は、初めから無駄だと判断してしまうから、絶対に出来ない。

無駄だと判っていても努力する前向きな感情や、何とかしたいと願う良心がレヴィたちに伝わっているから、三人とも精神が完全に壊れてしまうのを防いでいて、あのレヴィンですら大人しくなっています。

レヴィたちは、ヅィザが救っているんです。

ヅィザがいなければ、レヴィたちはとっくに消えてしまい、僕も一人だけではここまでは来れなかったでしょう。

そう、きっと、こうはならなかった……」

この後、陸の神獣の守護者は暫しの沈黙の後、私の予想しなかった事を語り始めた。

「多分、あなたをここへと呼び出したのは、ヅィザと僕だと思います。

海の神獣に取り込まれて、消えてしまうかも知れないレヴィたちを、何とか助けたいと願い、それを光の王に願ったヅィザの心と、どうしても確認したい事があった僕の願望が、あなたを呼んだんです」

ここで今までとは違う口調に変わったヴァハンは、決意を感じさせる様に表情を引き締めて私を見ると、会話を思念に切り替えた。

「僕からあなたに質問があります。

教えて欲しいのは、僕たちがこうして棺の中に封じられてから、どれだけの歳月が過ぎているのかと、僕たちの国はどうなっているのかです。

それと、これからの会話の内容は、ヅィザたちには聞かせたくないので、僕へと答えを思い浮かべてくれれば伝わりますから、口には出さないで下さい」

私はヴァハンの言葉に従い思念で以って、私がロバの紳士から聞かされて知る歴史を、彼等の帝国の興亡を、全てを伝えた。




「賢帝と呼ばれた陛下の時代の後、七愚帝の時代が訪れて、五十年後に滅んだ、そして今は、千年以上の時が過ぎている……」

私の話を聞いた緑衣の神官の少年は、噛み締めるかの様に私の言葉を繰り返していた。

やはり如何に聡明に見えるヴァハンでも、祖国の滅亡と途方もない時間の経過を知れば動揺しない訳が無い、私にはそう見えた。

しかし、この後に届いた思念の内容は、私の安易な推測の想定外であった。

「そうですか、やはり滅亡していましたか。

どんな国であっても、いつか滅ぶのは避けられない宿命だと思いますが、でも五十年と言うのは少し早かった気がします。

それよりも、千年ですか、良かった、まだ千年程しか経っていないのですね。

もっと経ってしまっているのではないかと、とても心配していたのですが、安心しました」

そう伝えてから安堵した彼の表情からは、祖国の滅亡よりも重要な事柄が一体何であるのかが読み取れず、それが気になって問い掛ける思念を投げかけると、陸の神獣の守護者は再び思念を返してくる。

「皇帝陛下の復活には、ヅィザやレヴィたちには知られていない、隠された真実があるのです。

僕はそれを生前に、大祭司から告げられました。

大祭司はそれを確実に達成する様にと、僕に語ったのでしょうが、それはその時からずっと僕の中での迷いとなり、時が流れるにつれて、迷いは疑問へと代わり、やがて疑念へと変化しました。

これからその、皇帝復活の真実について、あなたにお話しします」




「先程の説明で、皇帝陛下の魂は今、冥府にいるのはもうご存知ですね、それと棺でもあり住まいでもある、宮殿の双世宮についても。

皇帝陛下は確かに冥府から戻り、双世宮を通り抜けて現世へと復活します。

問題なのは、その工程で起きる事と、最終的な目的です。

まず、皇帝陛下は冥府の地を宛てもなく彷徨っていて、ただ双世宮へと帰って来るのではなく、ある目的の為に五百人の英雄を連れて旅しています。

五百人の英雄の魂は、冥府の支配者である、幽冥神たる死の王を倒す際に必要な生贄で、全て陛下の魂に取り込まれてしまいます。

その取り込んだ魂の力を使って、死の王を倒して冥府の玉座を奪い、新たなる冥王と言う名で、冥府の支配者である事を宣言します。

それと同時に、死の王のものだった、首無き青の馬と、幽き灰の杖を手に入れます。

首無き青の馬は、冥府と現世を行き来する事が出来る馬で、幽き灰の杖は、不死と死者を統べる力を持つと云われている杖です。

この杖を奪う事が冥府での皇帝陛下の真の目的で、これにより肉体と魂の融合が可能になります。

その後陛下は、これらを持って双世宮へと帰って来ます。

陛下の帰還の時に、見張りをしていた英雄達が凱旋の角笛を吹き鳴らして、それを聞いた全ての双世宮の英雄達は誓いの間へ集い、神官達は皆祈りの間へと呼び出されます。

双世宮の死者の門は、宮殿に残る五百の英雄達によって開け放たれて、皇帝陛下は幽き灰の杖を掲げながら凱旋します。

死者の門を通り抜けた陛下は、誓いの間へと進みます。

残りの英雄達は総出で陛下の凱旋を迎えた後、陛下は幽き灰の杖へと英雄達の魂を捧げます。

この杖の力は、常に代償を求めるもので、陛下の蘇生は英雄五百の魂で賄えられるのです。

全ての英雄が杖に取り込まれて、無人となった勇者の間を通り過ぎて王者の間へと入り、再び杖を使って陛下の魂は肉体との融合を果します。

肉体を得た皇帝陛下は、誰もいない聖者の間を通り過ぎて、神官達のいる祈りの間へと現れます。

ここで陛下は、神官達が自分の魂と引き換えに呼び出した、神獣達の力を吸収してから、その力を使って生者の門を開け放ちます。

その後、取り込んだ海の神獣の能力を使って深海へと向かい、その道中で現れる敵を倒して、幽き灰の杖への代償を蓄えながら、暗黒神たる闇の王の元へと目指します。

ここで現れる敵と言うのは、闇の王側の手勢や、取り込まれてしまった海の神獣を救い出そうとする、海の神獣の眷属です。

それらを全て屠りつつ闇の世界へと辿り着いた陛下は、本来定命の存在に対しては不死だとされている、神の一柱である闇の王を、神獣達の力で牽制しながら、その死と不死を操る力で不死性を奪い、倒します。

そして、闇の玉座に座して、更に闇の王の所有する、鈍き黒の槍、厚き黒の楯、重き黒の馬を手に入れます。

それが終わると再び地上へと戻り、今度は空の神獣の能力を使って天空の光の世界へと向かいながら、邪魔する者達を倒しつつ、太陽神たる光の王の元へと目指します。

そこへと向かう間にも、光の王の手勢や、空の神獣の眷属を屠りつつ、幽き灰の杖への代償を蓄えて行きます。

光の王の住む光の世界は太陽の中にあって、如何なる生物も燃え尽きるのですが、陛下には闇の王の装備があるので、それに耐える事が出来ます。

そして光の王の元へと辿り着いた陛下は、またしても神獣達の力で牽制しながら、再び不死と死の力を振るい、光の王を倒します。

そして闇の王の時と同じく、光の玉座に座して、光の王の所有する、鋭き白の槍、薄き白の楯、軽き白の馬を手に入れます。

この後、手に入れた光と闇の力を用いて、二柱の神が所有していた、槍と楯をそれぞれ融合し、両方の力を備えた、白と黒の槍、白と黒の楯へと作り変えます。

更に白と黒と青の三頭の馬に引かせる、光と闇と青の戦車を作って、全ての世界へと自在に行き来出来るようにします。

こうして冥府、闇の世界、光の世界を手にした陛下は改めて現世に降臨し、己を新たなる唯一絶対なる神、四界の玉座の主にして、光と闇の王と名乗り、全てを支配する宣言をするのです。

これこそが皇帝復活の真の目的、つまり皇帝陛下は、全てを支配する唯一絶対の神になろうとしています。

神託により告げられた、これが実現するその刻限は、陛下の死後一万年後なのです」




ここまで解説を私へと送った後に、緑衣の神官は一度思念を切ると改まってから、思念を再開する。

「もしも、皇帝陛下が統治した僕らの国が、まだ滅びずに続いていたのなら、国の民はかつての伝説の皇帝の復活によって、選ばれた民として、恩恵を受ける事が出来たかも知れない。

それなら僕も喜んで、この誇りある使命を果した事でしょう。

でも、もう祖国は滅び去って民もいない、国も民も失われた亡国の王だけが蘇ったとして、すっかり変わり果てた世界に対して、何を与えられるのかと考えてみると、それは死と破壊と混乱だけだと思います。

たとえ陛下の力でかつての国の民を蘇らせたとしても、既に何千年もの歳月の間で、今この世界を支配している国があって、その国には民がいるはずです。

それらの国との、領土を巡る争いは避けられない。

陛下の力で一万年後の世界に多くの民が蘇って、陛下と言う強大な神の元でかつての帝国を再建したとしても、それは多分とても古めかしくて劣った文明でしかなくて、一万年の歳月を経て築かれた今の文明には、遠く及ばないのではないか、そう思うのです。

当時、周辺諸国を全て倒し、比類なき王の中の王とまで呼ばれた、偉大な皇帝陛下であっても、築き上げた帝国の繁栄は、千年どころか百年すらもたなかった。

その現実に対して、復活に必要な一万年と言う歳月は、あまりにも長すぎました。

やはり滅びるものには、滅びるだけの理由と意味があって、それに逆らうのは愚かな事なんだと、僕は気づいたのです。

だから僕は決心しました、反逆者や裏切者として未来永劫呪われても構わない、そんな世界の破滅や時代の逆行しかもたらさない、皇帝の復活を阻止しようと」

そう伝え終えてから、ヴァハンは私をしっかりと見据えた。

その瞳には一切の揺らぎも感じず微動だにしないのを見て、この少年の抱く主君への反逆心はもう定まっているのが判った。

しかし、それをわざわざ私へと語った理由は何だろうか、支配者の命令に背く事以上の問題を語ろうとする彼の顔は、僅かに曇り始めた。

「その為には、陛下が復活する前に、何とか出来れば一番良いのですが、僕たちは聖者の間よりも冥府側へは行く事が出来ないから、陛下の帰還を阻んだり、英雄達に働きかけたりも出来ない。

もしかすると彼らが僕と同じ疑問を持って、同じ結論に辿り着いてくれれば、陛下の復活を阻んでくれるかも知れないけど、それはあまり期待出来ないし、期待してはいけないと思っています。

だから、もっと確実な方法を取るべきだと、考えていました。

僕たち神官の立場で出来るのは、陛下に神獣の力を与えない様にする事で、そうすれば陛下は、神獣の力を得る事が出来ずに生者の門が開けられず、その結果、双世宮から出る事が出来なくなり、現世は守られます。

今は都合がいい事に、レヴィの状態がとても不安定で、死と言う概念のなくなった僕たちであっても、今なら自分の取れる行動で、それが実現出来るかも知れない、これしか機会はない、そう思いました。

でも、僕たちはずっと三人でこの境遇を耐えながら、お互いに支え合って、今まで過ごして来ました。

だから僕が自らこの関係を壊すような振る舞いをして、それなりに穏やかだったこの日々が終わってしまうのが嫌で、ためらってしまうのです。

これを僕が実行すれば、少なくともレヴィたちは消えて、僕の望みは叶うかも知れないけど、その後に僕の手によってレヴィたちを失ったヅィザと共に過ごすのは、とても想像出来ません。

それにレヴィたちにそんな仕打ちをするのも、それをヅィザのいる前で実行するのも、とても僕には出来ない。

レヴィたちの苦しむ声も聞きたくないし、ヅィザの悲しむ顔も見たくない。

しかしそうしなければ、そのうち時が来て、陛下は蘇ってしまうかも知れなくて、その時に後悔したって、もう手遅れになってしまう。

どのみち陛下が復活する時には、僕たちは消えてしまうのだから、その時期が遅いか早いかの違いしかないし、それにこれしか取れる手段も思いつかない。

それは良く判っているのに、どうしてもその時起こる事と、その先の未来が怖くて、実行出来ないのです。

この悩みを抱えて、僕は今までずっと過ごして来ました。

だからあなたにお願いしたい、僕にはこれしか思いつかなかったし、もうこれしか選べない」

ヴァハンはここで初めてその端正な表情を歪めて、苦悩を露にしながら、搾り出す様に私へと願った。

「……あなたの力で、レヴィたちを消して欲しい」

そう告げると、彼の思念は沈黙した。




この時、彼の姿が一瞬霞んだ気がして光の帯を確認してみると、話に夢中ですっかり意識していなかった間に、どうも大海蛇の私は海上付近まで辿り着いていたらしく、丁度胴体が離れて光の帯が細く薄れ始めたのが見えていた。

悲愴な決意を告げたばかりの神官の少年は、一度何かを言いたげにこちらを見たものの何も発する事無く、顔を伏せた後いつもの一礼の姿勢を取ると、そのまま消えて行った。

これで私の正体と、召喚者と召喚目的は聞く事が出来たが、どうすれば良いのかに苦悩する。

ヅィザの願いはレヴィ達の救済であり、ヴァハンの望みは自ら下せない代わりとして、レヴィ達を消し去る事だった。

相反する二つの願いではあるが、ヅィザは最後の言葉で、もしレヴィたちがそれで救われるのであれば、それを望むとも言っていた。

ヅィザは若しかすると、ヴァハンの考えていた事を判っていたのかも知れない。

だから最後に自らの感情としては不本意ではあるが、それがより正しいと理性では判っていたから、自分の感情からは望まない願いを付け加えたのではないかとも思えた。

それが少女の悲壮な覚悟であるならば、その決意を酌むべきなのかも知れない。

血を分けた者同士の殺し合いに因って起きる、どうしようもなく深い溝が、私の関与で多少なりとも緩和されるのであれば、ヴァハンの望む通り私が手を下してやるべきなのか。

棺からサーペントの私が離れた事に因って、神官達が自在に現れる事が出来る条件を満たさなくなったのだろうか、もう誰も私の前には現れず、徐々に私の意識も薄れ始めていた。

擦れゆく意識の中で、この次に私が現れる時を考えると、それがレヴィ達との決戦になるであろう事を認識しながら、私は意識を失った。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ