第十五章 童子の遊戯 其の二
変更履歴
2011/12/18 記述修正 涙を拭う仕草も収まって → 涙を拭う仕草も止んで
2012/03/24 誤植修正 泣いているところが → 怒っているところが
2012/03/24 誤植修正 僕たちは役目です → 僕たちの役目なのです
2012/03/24 誤植修正 その答えにはたとえそれが → その答えはたとえ
2012/03/24 誤植修正 脆い心砕け散って → 脆い心は砕け散って
2012/03/24 句読点調整
2012/03/24 記述修正 いつもの闇の世界にしては随分と周囲が明るく → しかし良く見ると、いつもの闇の世界にしては周囲が明るく
2012/03/24 記述削除 その光はとても広範囲で強く何処かを照らしていると言うよりは、
2012/03/24 記述修正 全体的に柔らかな光でこの空間自体が、半分程覆われている様に見えており、この光景は今となっては遠い昔の、ロバの紳士と出会った時の白い夢を髣髴とさせた → 仄かな光が上からこの空間を照らしており、それは揺らいでいるのか緩やかに明暗が切り替わっている
2012/03/24 記述追加 ここはいつもの場所と違って~
2012/03/24 記述修正 目の前を良く見ると、その光ではっきりと見えない → いまいち薄暗くてはっきりと見えない前方を良く見ると、下の方に
2012/03/24 記述修正 馬面の紳士が待ち構えていると踏んで、視線を頭部まで上げて焦点を合わせると → 仮装した馬面の紳士が、待ち構えていると踏んで焦点を合わせても
2012/03/24 記述削除 ただ一つ気になるのは~
2012/03/24 記述修正 それとここは一体何処なのかと → だとすると、ここは一体何処なのかと
2012/03/24 記述修正 この柔らかな光は → いつの間にか明暗の揺らぎは止まっていて、安定したこの弱い光の光源は
2012/03/24 記述修正 この空間の五分の一程を占める程もある太い帯状で、空を → 上空を
2012/03/24 記述修正 下方ではその二本が一重に繋がっているのが判った → 壁を回りこんで床の下にまで達しているのが判った
2012/03/24 記述修正 一重に繋がっているのが判った → 繋がっているのが判った
2012/03/24 記述修正 上方では二重で下方は一重になって → 二本の光は下で繋がっており
2012/03/24 記述修正 一周巻きつけたかの様な光、この光の形状は → 一周半ほど巻きつけたかの様な光の形状は、
2012/03/24 記述分割 記憶にある気がする、これは大海蛇として → 記憶にある気がする。これは大海蛇として
2012/03/24 記述修正 ヴァハン、ヅィザ、『レヴィたち』 → ヴァハン・ヅィザ・『レヴィたち』
2012/03/24 記述分割 三人を超えている、この言葉の意味は → 三人を超えている。この言葉の意味は
2012/03/24 記述分割 沈む者に蝕まれる者のレヴィ、 → 沈む者に蝕まれるレヴィ。
2012/03/24 記述修正 沈む者に取り込まれて魂を全て蝕まれる前に、自分の魂を砕いて → 神獣に取り込まれそうになった時、魂が砕けてしまい
2012/03/24 記述修正 もっとも多くの心を失ってしまいました → ほとんどの心を失ってしまいました
2012/03/24 記述分割 潜る者に憑かれる者のレヴィン、 → 潜る者に憑かれしレヴィン。
2012/03/24 記述削除 レヴィが潜る者に憑かれてしまった時、
2012/03/24 記述修正 神獣の意思が憑依された部分を切り離した魂で → 神獣の意思に取り憑かれた魂の欠片で
2012/03/24 記述修正 海の神獣の悪意に影響された性格になってしまいました → 海の神獣に心を奪われている事すら、自分で判っていません
2012/03/24 記述分割 蠢く者に戦慄く者のレヴィア、 → 蠢く者に戦慄くレヴィア。
2012/03/24 記述修正 レヴィの魂が蝕まれる時の、耐え切れない恐怖の感情に囚われた魂で → 魂が砕けた時耐え切れなかった恐怖に囚われた魂の欠片で
2012/03/24 記述修正 常にその時の恐怖と不安に苛まれ続けています → 心は常にその時の恐怖と不安に怯えています
2012/03/24 記述修正 終わってしまう事への苦痛よりも → 終わってしまう事への失望よりも
2012/03/24 記述修正 終われない事への苦痛が勝り → 終えられない事への絶望が勝り
2012/03/24 記述修正 終えられない事への苦痛よりも、 → それよりも
2012/03/24 記述修正 終わらない事への苦痛が勝る → 終わらない事への非望が勝る
2012/03/24 記述修正 地面よりも → 床を見下ろす程の、地面よりも
2012/03/24 記述修正 聞き慣れない声、いや → 声と言うよりは
2012/03/24 記述修正 もう少し下方へと移した → そちらへと移した
2012/03/24 記述修正 良く見ると服の色だけでなく → 良く見ると違いは服の色だけでなく
2012/03/24 記述修正 気づいた事に気づいたらしい → 気づいた事を判ったらしい
2012/03/24 記述修正 この状態が維持できる筈だ → この状態を維持出来る筈で
2012/03/24 記述修正 浮上にかかった時間は → 浮上に掛かった時間は
2012/03/24 記述修正 今までに無い程に、正確で正しい情報を → 正確な情報を
2012/03/24 記述修正 会話しながら聞き出せると言う → 対話しながら聞き出せると言う
2012/03/24 記述修正 又と無い絶好の機会だ → 又と無い絶好の機会であり
2012/03/24 記述修正 未来を知っているかの → 未来を知っているかの様な
2012/03/24 記述修正 偽善めいた下手な気休めは言わずに → 偽善めいた気休めは言わずに
2012/03/24 記述修正 この状況が私の状況と → この状況が私と
2012/03/24 記述修正 耐えてこれたのであろうと → 耐えて来られたのであろうと
2012/03/24 記述修正 僕たちが判っている事を説明するのは出来るのですが → 説明するのは良いのですが
2012/03/24 記述修正 姿を現すのが出来るのは → 姿を現わしていられるのは
2012/03/24 記述分割 光がある間だけで、あの光が → 光がある間だけだと思います。あの光が
2012/03/24 記述修正 どれだけお話し出来るのかが判らなくて → どれだけの時間、お話し出来るのかが良く判らなくて
2012/03/24 記述修正 僕たち三人の神官が存在している場所で、そこは、真っ暗で何もない場所です → 僕たち神官が居る場所です
2012/03/24 記述修正 ただずっと三人で呼ばれるのを → ただずっと呼ばれるのを
2012/03/24 記述修正 陛下は死者の門から、誓いの間で凱旋の宣誓をして → 陛下は死者の門から帰還し、誓いの間で凱旋の宣誓を行い
2012/03/24 記述修正 その任を解放し → その任を解き
2012/03/24 記述修正 王者の間にて復活を果した後 → 王者の間にて肉体の復活を果した後
2012/03/24 記述修正 蘇りの詠唱を捧げてから、生者の門を開け放って → 再臨の詠唱を捧げて生者の門を開け放ち
2012/03/24 記述修正 現実世界へと → 現世へと
2012/03/24 記述分割 お願いをすると思います、あなたがこの先に → お願いをすると思います。あなたがこの先に
2012/03/24 記述修正 その答えはたとえヅィザにとって → その答えはヅィザにとって
2012/03/24 記述修正 教えてあげて下さい、それが結果的には → 教えてあげて下さい。それが結果的には
2012/03/24 記述修正 出て来れないはずなのに → 出て来られないはずなのに
2012/03/24 記述修正 今レヴィたちは眠っていて → 今はレヴィたちは皆眠っていて
2012/03/24 記述修正 本来有り得ない事なんです → 本来有り得ない事なのです
2012/03/24 記述修正 お願いです、ここに封印されて → 封印されて、
2012/03/24 記述修正 生きていくしか出来ない → 存在し続けるしか出来ない
2012/03/24 記述分割 わたしはこれで戻ります、あなたとお話し出来て → わたしはこれで戻ります。あなたとお話し出来て
2012/03/24 記述分割 ヴァハンのおかげだと思う、もしヴァハンが → ヴァハンのおかげだと思う。もしヴァハンが
2012/03/24 記述修正 あなたが知る結果が同じ様に訪れて → あなたが語った未来が繰り返されて
2012/03/24 記述修正 誰かが消えてしまったり → 誰かがいなくなってしまったり
2012/03/24 記述修正 わたしはそれを → とても悲しい事だけど、わたしはそれを
2012/03/24 記述修正 逸れてしまったけど → 逸れてしまったけれど
2012/03/24 記述分割 全て話したつもりです、お願いします → 全て話したつもりです。お願いですから
2012/03/24 記述分割 つい気持ちが抑えられなくて、こういうところは → つい気持ちが抑えきれなくて。こういうところは、
2012/03/24 記述修正 棺の蓋の事で → 棺の蓋に当たり
2012/03/24 記述修正 棺の底の事です → 棺の底を指しています
2012/03/24 記述分割 棺の底の事です、僕たち神官も → 棺の底の事です。僕たち神官も
2012/03/24 記述修正 全て生者の命の灯です、それらを遠ざけたりそこから逃れたりして、 → 全て生者の命の灯で、それらから
2012/03/24 記述分割 行く事は出来ません、なぜなら僕たちは生者たちに対して、陛下を → 行く事は出来ません。なぜなら僕たちは、陛下の眠るこの棺を、生者たちから
2012/03/24 記述分割 こちら側には来れません、彼らの役目が → こちらに来る事は出来ません。それは彼らの役目が、
2012/03/24 記述修正 期待出来ると踏んで → 期待出来ると思い
2012/03/24 記述修正 自分が何者かすら判っていないと伝えてから → 今の自分が何者かすら判っていない事実を明かしてから
2012/03/24 記述修正 彼は少し困った顔つきになって返答してきた → 彼は少し困惑気味に返答してきた
2012/03/24 記述修正 先程の子供の正体も同様だろうか → 先程の子供の正体も同様であるのは、もはや間違い無い事実であろう
2012/03/24 記述修正 もはやそれは間違い無い事実であろう、そうだとすると今の私の正体は何なのだろう、神獣なのか → そうだとすると今の私の正体は神獣なのか
2012/03/24 記述修正 怪物めいた形態ではない、と言うよりも肉体は持っていないのは判っている → 怪物めいた形態どころか、肉体すら無いのだが
2012/03/24 記述分割 陸の神獣の守護者、歩む者を呼び → 陸の神獣の守護者。歩む者を呼び
2012/03/24 記述修正 彷徨う者を操る者 → 彷徨う者を操る司
2012/03/24 記述修正 これからも終わりも → これから先も終わりも
2012/03/24 記述修正 そんな救済すら → あの子たちにそんな救済すら、
2012/03/24 記述修正 もうわたしやヴァハンでもどうしようもありません → わたしやヴァハンでは、もうどうしようもありません
2012/03/24 記述修正 あなただけなんです → あなただけなの
2012/03/24 記述分割 好意的に感じていた訳だ、そして → 好意的に感じていた訳だ。そして
2012/03/24 記述修正 幼児的な母親に構って貰いたいと言う → 母親に構って貰いたいと言う幼児的な
2012/03/24 記述修正 レヴィンには上手くいったけど → レヴィンには上手くいったけれど
2012/03/24 記述分割 染まってしまうかも知れない、レヴィアの → 染まってしまうかも知れない。レヴィアの
2012/03/24 記述分割 砕け散ってしまうかも知れない、レヴィも → 砕け散ってしまうかも知れない。レヴィも
2012/03/24 記述修正 レヴィの心は耐えられなくて → とうとう耐え切れなくなって
2012/03/24 記述修正 レヴィの魂は三人に分かれてしまいました → 三人に分かれてしまったんです
2012/03/24 記述修正 陛下の眠りを妨げた者が → 陛下の眠りを妨げる者が
2012/03/24 記述修正 具体的には陛下の眠る棺に → それは具体的には陛下の眠る棺に
2012/03/24 記述修正 具体的には棺の存在する → 棺の存在する
2012/03/24 記述分割 わたしはヅィザと言います、 → わたしの名はヅィザ。
2012/03/24 記述修正 棚引く者を御す者 → 棚引く者を御す司
2012/03/24 記述修正 ものの五分も経たず → ものの一分も経たず
2012/03/24 記述修正 少し感情的に → 彼女は少し感情的に
2012/03/24 記述分割 感情的になるかも知れません、でもヅィザは → 感情的になるかも知れません。でもヅィザは
2012/03/24 記述修正 時間を与えてあげて欲しい → 時間を与えてあげて欲しい、どうかよろしくお願いします
2012/03/24 記述修正 説明をさせたいのですが → 話をさせたいのですが
2012/03/24 記述修正 生者の門の → 文字通り死者だけが通る事が出来る扉で、生者の門の
2012/03/24 記述追加 この王者の間に入る事が出来るのは~
2012/03/24 記述結合 十字型の光の事です。僕たち神官やあなたも → 十字型の光の事で、僕たち神官でも
2012/03/24 記述分割 超える事は出来ません、あの門を超えられるのは → 超える事は出来ません。あの門を超えられるのは
2012/03/24 記述修正 そこは見慣れた闇の中で → そこは闇の中で
2012/03/24 記述修正 陸の神獣の守護者であるヴァハンが、 → 陸の神獣の守護者であるヴァハン。
2012/03/24 記述修正 橋の上や上空であれば → 橋の上や高い塔などの上空であれば
2012/03/24 記述修正 空の神獣の守護者であるわたしが → 空の神獣の守護者であるわたし。
2012/03/24 記述修正 レヴィたちが呼ばれる、と言う様に、 → レヴィたち。この様に、
2012/03/24 記述修正 目を閉じてから → 目を閉じて
2012/03/24 記述修正 どうかよろしくお願いします、ではヅィザと替わりますので → ではヅィザと替わりますので
2012/03/24 記述修正 皇帝陛下は亡くなってから → 皇帝陛下は今現在
2012/03/24 記述修正 その亡骸が王者の間で → その亡骸は王者の間で
2012/03/24 記述修正 やがて復活する為に冥界から死者の門を通って戻られるのです → やがて冥界から戻られます
2012/03/24 記述修正 この双世宮に存在する者は → 現在この双世宮に存在する者は
2012/03/24 記述修正 英雄たちだけで、他には誰もいません → 英雄たちだけです
2012/03/24 記述修正 眠りを妨げるあらゆる生者たちの手から → その眠りを妨げるあらゆる生者たちから
2012/03/24 記述修正 神獣の力を振るいお護りするのが → 神獣の力を用いてお護りするのが
2012/03/24 記述修正 消えてなくなるしかありません、でも魂は → 消えてなくなるしかないけれど、魂は
2012/03/24 記述修正 それも許されていません → それすら許されていません
2012/03/24 記述修正 成長も遅い子でした、だから → 成長も遅い子だったから、
2012/03/24 記述分割 判ったみたいですね、まず自己紹介を → 判ったみたいですね。まず自己紹介を
2012/03/24 記述修正 双世宮は → 双世宮とは
2012/03/24 記述修正 現実世界 → 現世
2012/03/24 記述分割 知ってしまった、次に呼ばれた時に → 知ってしまった。次に呼ばれた時に
2012/03/24 記述修正 わたしたち三人は三つ子で、昔から → 昔から
2012/03/24 記述修正 双子以上の赤ん坊は、他の人よりも魂が希薄なのです → 普通の赤ん坊よりも魂が希薄なのです
2012/03/24 記述修正 それが次へ進んでも良いかの確認を → それが進行の確認を
2012/03/24 記述修正 少女は、笑顔で優雅に一礼して → 少女は最後に微笑んで、優雅に一礼して
2012/03/24 記述修正 勇者の間に眠る英雄から → 勇者の間の英雄の中から
2012/03/24 記述修正 必要な者たちが目覚めて誓いの間へと呼び出されてから → 必要な者たちが誓いの間へと呼び出され
2012/03/24 記述修正 怪物や亡者たちを退治します → 怪物や亡者たちから、双世宮を守るべく闘います
2012/03/24 記述修正 ありがとう、そんな風に褒められた事は → そんな風に褒められた事は
2012/03/24 記述修正 死んでからのとても長い日々でも → 封じられてからのとても長い日々でも
2012/03/24 記述修正 消えてしまうかも、知れない…… → 消えてしまうかも……
2012/03/24 記述修正 残り半数の英雄たちのいる場所で、ここで英雄たちは眠っています → 残る五百人の英雄たちの居る場所です
2012/03/24 記述修正 亡骸が眠っているこの双世宮を → 亡骸が眠るこの双世宮を
2012/03/24 記述修正 千年以上にも及ぶ計算になる筈だ → 千年以上にも及ぶ筈だ
2012/03/24 記述修正 ああなる度にどんどん状態は → その度にどんどん状態は
2012/03/24 記述修正 多重人格を表しているのかと → 多重人格であっても一人の守護者として捉える事を表しているのかと
2012/03/24 記述修正 遥か足元と頭上に光る帯へと視線を向けて → 光る帯へと視線を向けてから
2012/03/24 記述修正 彼女も納得出来るのではないか → 少女も納得出来るのではないか
2012/03/24 記述修正 実際に見てみたいのもあって → 実際に会ってみたくもあって
2012/03/24 記述修正 封印されて → 棺に封印されて
2012/03/24 記述分割 離れ離れにしないで、せめて三人一緒に → 離れ離れにしないで。せめて、三人一緒に
2012/03/24 記述修正 王者の間は → 次の王者の間は
2012/03/24 記述修正 現実世界へと力を → 現世へと力を
2012/03/24 記述修正 冥界 → 冥府
2012/03/24 記述修正 もし、わたしもヴァハンと → それに、もしわたしもヴァハンと
私が再び目を覚ますとそこは闇の中で、今回は随分と早く召喚が終わったものだと思いつつ、ぼんやりと正面を眺めていた。
いつもの闇の世界にしては随分と周囲が明るく、仄かな光が上からこの空間を照らしており、それは揺らいでいるのか緩やかに明暗が切り替わっている。
ここはいつもの場所と違ってかなり奥行きも高さもある空間で、更に私のいる所も床を見下ろす程の、地面よりも少々高い位置らしい。
これもロバの新しい小細工なのだろうか、それにしてはかなり大掛かりな事をしたものだ。
いまいち薄暗くてはっきりと見えない前方を良く見ると、下の方に人影があるのが判り、てっきり仮装した馬面の紳士が、待ち構えていると踏んで焦点を合わせても、そこにはあの特徴的な頭が見当たらない。
「僕の声が聞こえますか?」
“嘶くロバ”にしては少々高めの声と言うよりは、つい先程まで聞いていた様にも思えるが、何か違う声が視線よりも下から聞こえて、私は視界をそちらへと移した。
そこに居たのは、意識を失う前に見ていた、青の祭服の子供にそっくりな、色違いの緑の祭服を着た子供だった。
良く見ると違いは服の色だけでなく、髪の長さも今目の前に居る子供の方が多少短い気がするし、それにこの子供の目や表情には、前の子供には見られなかった理性が感じられた。
私が気づいた事を判ったらしい緑の祭服の子供は、僅かに表情を崩して微笑むと語り始めた。
「どうやら僕の事が判ったみたいですね。
まず自己紹介をしましょう、僕の名はヴァハン。
死せる皇帝陛下にお仕えする神官にして、陸の神獣の守護者。
歩む者を呼び、駆ける者を制し、彷徨う者を操る司。
陛下の復活の日まで、その眠りを妨げるあらゆる生者たちから、神獣の力を用いてお護りするのが、僕たち神獣の守護者の使命」
ヴァハンと名乗った緑の祭服の子供は、私の視線を受け止めながらしっかりした口調でそう語った。
私はこれを聞いて、意識を失う前に感じた疑念が正しかったのだと理解した。
『神獣の守護者』『歩む者』『駆ける者』『彷徨う者』、これらは以前の召喚で、私を殺そうとしていた触手の怪物の正体に関する、馬面の紳士の説明で聞いた名だ。
つまり、このヴァハンもあの時の触手を操っていた者と同類と言う事は、先程の子供の正体も同様であるのは、もはや間違い無い事実であろう。
そうだとすると今の私の正体は神獣なのか、それにしてはそんな怪物めいた形態どころか、肉体すら無いのだが。
だとすると、ここは一体何処なのかと気になって周囲を良く見ると、いつの間にか明暗の揺らぎは止まっていて、安定したこの弱い光の光源は、上空を横切るかの様に平行に二本走り、壁を回りこんで床の下にまで達しているのが判った。
二本の光は下で繋がっており、まるでこの空間を縄で一周半ほど巻きつけたかの様な光の形状は、私自身の記憶にある気がする。
これは大海蛇としてあの十字の棺を抱えた時の、私の胴体の姿勢ではないだろうか。
現状において確認したい事は数多くあるものの、果たして何処までヴァハンは把握しているのかが判らないが、先程とは異なりこの少年であれば、漠然とした問い掛けでも的を得た回答が期待出来ると思い、私は今の自分が何者かすら判っていない事実を明かしてから、今の状況を尋ねてみると、彼は少し困惑気味に返答してきた。
「説明するのは良いのですが、僕たちがあなたの前に姿を現わしていられるのは、多分あの巨大な光がある間だけだと思います。
あの光がいつ消えてしまうか判らないので、どれだけの時間、お話し出来るのかが、良く判らなくて」
そう言いながらヴァハンは、光る帯へと視線を向けてから、再び私を見る。
あの光がかつての私の器である大海蛇の胴体であるなら、私が棺を抱えていた時間はこの状態を維持出来る筈で、海底から黄金の棺を抱えて浮上に掛かった時間は、相当に長かったと記憶している。
それに今ならば、正確な情報を把握しているであろう相手と、対話しながら聞き出せると言う、又と無い絶好の機会であり、これを失いたくは無い。
私は緑の祭服の少年へと、過去の召喚での記憶を元に計算し、推測ながら時間には余裕がある筈だと伝えて、まずは出来るだけ詳しくこの場所や今の状況、それに私の存在について語って欲しいと頼んだ。
それを聞いた陸の神獣の守護者は、私が未来を知っているかの様な言動を耳にしても動じる事も無く、一度頷いた後に一呼吸置いてから語り始めた。
「ではまず、あなたと僕が今いるこの場所から説明します。
ここは、僕たちが祈りの間と呼ぶ場所で、双世宮の中にある広間の一つです。
双世宮とは、死の眠りに着く皇帝陛下の住まいであり、現世と冥府を繋ぐ宮殿で、その内部は現世から順に、生者の門、祈りの間、聖者の間、王者の間、勇者の間、誓いの間、死者の門と続いていて、死者の門の先に冥府があります。
つまり双世宮とは、二つの世界を橋渡ししている場所だと思って下さい。
現在この双世宮に存在する者は、皇帝陛下の亡骸と、僕たち神官と、英雄たちだけです。
双世宮の全ての広間を通る事が出来るのは、皇帝陛下のみです。
僕たち神官は、聖者の間と、この祈りの間にしか行く事は出来ません。
なぜなら僕たちは、陛下の眠るこの棺を、生者たちから守る為にいるからです。
その逆に千人の英雄たちは、勇者の間より誓いの間を通って、死者の門をくぐって冥府へと向かう事が出来ますが、王者の間よりこちらに来る事は出来ません。
それは彼らの役目が、冥府での陛下の護衛だからです。
次に、双世宮の各広間についてお話しします。
最初は、祈りの間からです。
ここは神官が神獣の力を呼び起こして、上空にある生者の門から、現世へと力を放つ為の場所です。
生者の門とは、この天空に現れる十字型の光の事で、僕たち神官でも生者の門を超える事は出来ません。
あの門を超えられるのは、神獣の力と皇帝陛下のみです。
この祈りの間から見える星の様な光は、全て生者の命の灯で、それらから陛下の棺と亡骸をお護りするのが、僕たちの役目なのです。
次の聖者の間が、呼び出されていない時に、僕たち神官が居る場所です。
呼び出されない限り、僕たちはそこからどこにも行けず、ただずっと呼ばれるのを、皇帝陛下が復活される日まで、いつまでも待ち続けています。
次の王者の間は、皇帝陛下の亡骸が眠る場所です。
ここに陛下の体が置かれ、いつの日か陛下の魂が戻られるまで、安置されています。
この王者の間に入る事が出来るのは、皇帝陛下のみで、他の如何なる者も踏み入る事は出来ません。
次の勇者の間は、冥府へと旅立った陛下と五百人の英雄の帰還を待つ、残る五百人の英雄たちの居る場所です。
彼らは、陛下の魂の器となる亡骸が眠るこの双世宮を、冥府の怪物や亡者から守るのと、陛下たちがここへと戻る際に迷わない様にと、死者の門の尖塔に篝火を灯し続け、その火を絶やさない様にし、交代で死者の門の周囲の見張りをしています。
次の誓いの間は、英雄たちが死者の門を通って冥府へと繰り出す際に、宣誓の儀式を行う場です。
勇者の間に居る英雄の中から、必要な者たちが誓いの間へと呼び出され、死者の門を出て冥府で怪物や亡者たちから、双世宮を守るべく闘います。
誓いの間にある死者の門は、文字通り死者だけが通る事が出来る扉で、生者の門の反対に位置していて、この地の底にあります。
具体的に言うと、双世宮は陛下の黄金の棺そのもので、生者の門とは棺の蓋に当たり、死者の門は棺の底を指しています。
僕たち神官も、千人の英雄たちも、この棺を作る際に棺自体に封じられた、生贄の魂です。
皇帝陛下は今現在、その亡骸は王者の間で眠っていて、魂は冥府へと旅立たれていますが、やがて冥府から戻られます。
陛下は死者の門から帰還し、誓いの間で凱旋の宣誓を行い、勇者の間にて英雄たちを労いその任を解き、王者の間にて肉体の復活を果した後、聖者の間で神官たちに三体の神獣を呼ばせた後に解放して、祈りの間で再臨の詠唱を捧げて生者の門を開け放ち、現世へと復活を遂げるのです。
これがこの双世宮とその役割、それから僕たちを含めた住人たちの説明になります」
ここで一旦解説を切ったヴァハンは、無言で私の様子を見ており、それが進行の確認をしているのだと気づいた私は、それに対して続けるように促がすと、少年は少し間を置いて、何かを考えてから口を開いた。
「では次に、現状について説明しますが、それは別の神官のヅィザから話をさせたいのですが、構いませんか?」
その名も青の祭服の子供が何度か口にしていた名だ、恐らくは空の神獣の守護者なのだろう、実際に会ってみたくもあって、私は構わないと答えた。
「きっとヅィザは、あなたにお願いをすると思います。
あなたがこの先に起こる事を知っているのなら、その答えはヅィザにとって良くないものであっても、事実を教えてあげて下さい。
それが結果的にはヅィザの為になります。
それを聞いた時、もしかすると彼女は少し感情的になるかも知れません。
でもヅィザはちゃんと感情を制御出来るので、もしそうなっても、少しだけ未来を受け止めるだけの時間を与えてあげて欲しい、どうかよろしくお願いします。
ではヅィザと替わりますので、しばらくお待ち下さい」
ヴァハンはそう言うと、手馴れた感じで右手の甲をこちらに向けて、丁度心臓の上辺りに指を伸ばして当てると、目を閉じて体を腰から曲げて頭を下げた。
この一礼の仕方が、彼らの民族の標準的な挨拶なのか、それとも神官としての儀礼的な作法なのか判らないが、彼はその姿勢をとった後に、私の前から消え去った。
ものの一分も経たず、今度は赤の祭服を着た、顔はそっくりだが黒髪が胸の上当たりまである、今までで一番髪が長い子供が現われた。
「始めまして、わたしの名はヅィザ。
空の神獣の守護者にして、飛ぶ者を招き、羽ばたく者を誘い、棚引く者を御す司、でもあります」
そう言って一旦言葉を切ったヅィザと名乗った少女は、先程のヴァハンと同様の一礼をしてから、何か訴えかけるかの様な目で、私を見つめていた。
髪の長さ以外はそっくりだが、醸し出す柔らかい雰囲気から、この子供が少女である事は直ぐに判った。
最初の子供や先のヴァハンとも異なる落ち着いた印象と、今までの二人には無い包容力を感じて、これが青の祭服の少年が気に入っていた理由なのだろうかと感じた。
私が先を続けるように促がすと、赤の祭服の少女は語り始めた。
「わたしたちが判っている状況について、お話ししますが、今は少し不思議な事になっていて、正直に言ってわたしたちもよく判っていないところもあります。
だからまず、本来の状態から説明させて下さい。
わたしたち神官は全部で三人いて、普段は聖者の間にいます。
陛下の眠りを妨げる者が現れた時、それは具体的には陛下の眠る棺に生者が触れた時なのですが、わたしたち神官のうちの誰か一人が、この祈りの間へと呼び出される事になっています。
三人の神官は、それぞれ呼び出される条件が決まっていて、棺の存在する場所によって変わります。
大地の上や地上なら、陸の神獣の守護者であるヴァハン。
橋の上や高い塔などの上空であれば、空の神獣の守護者であるわたし。
海上や海中なら、海の神獣の守護者であるレヴィたち。
この様に、必ず誰か一人だけが呼ばれるんです。
ですから、本来であれば、ここは多分海の上か海中だと思うので、レヴィたちしか出て来られないはずなのに、今はレヴィたちは皆眠っていて、わたしやヴァハンがどちらもここに来られる事自体が、本来有り得ない事なのです」
ここまで話をした空の神獣の守護者には、今までのところでは特に目立った感情の変化は見られなかったが、ここからが本題なのか、表情は僅かに強張り、私へと向けられる目は少し潤み始めている。
ヅィザはたった今三人と言ったのに、呼ばれる者たちの数は、ヴァハン・ヅィザ・『レヴィたち』を合計すると三人を超えている。
この言葉の意味は、多重人格であっても一人の守護者として捉える事を表しているのかと思いつつ、続く言葉を聞く。
「昔から双子以上で生まれて来た赤ん坊は、本来一人に一つ与えられる魂を、それぞれの体に分配されて生まれて来ると云われていて、普通の赤ん坊よりも魂が希薄なのです。
その欠けた魂の分が、信仰する神の力を受ける器になるとされていて、この神の力を注いで生者の門を開き、神獣を生者の門の向こう側に具現化させるのが、わたしたちの役目です。
その時わたしたちはまだ七歳だったけど、神官の家に生まれた三つ子と言う事もあって、皇帝陛下の元に命を捧げる神官に選ばれました。
そして三つの神獣をそれぞれが司る事になったのですが、わたしやヴァハンとは違って、レヴィは心も体も不完全で成長も遅い子だったから、もっとも召喚の機会のない、海の神獣の守護者に選ばれました。
だけどレヴィの心はあの神獣を抑える事が出来ず、とうとう耐え切れなくなってあの子の魂は砕けてしまい、その砕けた魂から二人の別のレヴィが生まれて、三人に分かれてしまったんです。
一人目は、沈む者に蝕まれるレヴィ。
それはあなたが最後に会った、幼い赤ん坊の様な子。
レヴィは神獣に取り込まれそうになった時、魂が砕けてしまい、ほとんどの心を失ってしまいました。
二人目は、潜る者に憑かれしレヴィン。
それはあなたが最初に会った、わがままな男の子。
レヴィンは、神獣の意思に取り憑かれた魂の欠片で、海の神獣に心を奪われている事すら、自分で判っていません。
三人目は、蠢く者に戦慄くレヴィア。
それはあなたがその力を使った時に会った、怯え続ける女の子。
レヴィアは、砕けた時耐え切れなかった恐怖に囚われた魂の欠片で、心は常にその時の恐怖と不安に怯えています。
この三人のレヴィたちは、常に誰か一人しか出てきません。
レヴィの心が揺らぐような事が起こると、レヴィンが現れて、レヴィンの感情が大きく乱れると、レヴィアが現れます。
そしてレヴィアの恐怖が限界を超えるか、それとも恐怖をなだめる事が出来れば、またレヴィに戻るのです。
あなたにお願いしたいのは、どうか、レヴィたちを追い詰めないであげて欲しいのです」
この時点で、赤の祭服の少女の声には、感情の揺らぎや動揺に共鳴しているのであろう、僅かに不安定な震えが混じり、その表情も曇り始めていた。
ここから先に語る内容こそが、彼女の訴えの核心なのだと理解しつつ、私は黙って聞き続ける。
「今までは、何度かヴァハンだけが呼び出されていて、わたしやレヴィたちは呼び出されていなかったから、実際に祈りの間で何が起きるのかは、あの子たちは判っていませんでした。
ヴァハンの話では、祈りの間に呼び出されれば、わたしたちは役目を果たす為、自分たちが守護する神獣の力を呼び出す事になり、今まで以上に自分の元に神獣を近づける事になります。
聖者の間にいる時でも、レヴィンの癇癪やレヴィアの発作は何度もあって、その度にどんどん状態は悪くなるばかりなのに、呼び出されたりしたら、多分レヴィたちはそれには耐えられない。
レヴィンは神獣の悪しき心に染まってしまうかも知れない。
レヴィアの脆い心は砕け散ってしまうかも知れない。
レヴィも完全に人の心を失ってしまうかも知れない。
だから、レヴィたちが眠っている間に、わたしとヴァハンとで話しあって、レヴィたちには、呼び出された時の正しい儀式の方法を、知らせないでおく事にしました。
この棺に封じられる前にその手順は聞いていたけれど、当時レヴィには理解出来なかったから、もしレヴィたちの誰かが呼び出されても、わたしたちが教えなければ、神獣の力は発動出来ないと思ったんです。
それでレヴィンには上手くいったけれど、でもレヴィアはそれを打ち破ってしまって、海の神獣の力を解放してしまいました。
もうこれで、レヴィンもそのやり方を知ってしまった。
次に呼ばれた時にレヴィンへと入れ替わっていたら、きっとあの子はその力を使って酷い事をしてしまう。
レヴィンが酷い事をすればするほど、レヴィアの心も傷ついてしまって、不安も恐怖もどんどん酷くなってしまうのです。
もし、レヴィアの心が壊れてしまったら、他の二人もその影響を受けて、レヴィの魂は今まで以上に希薄なものになって、レヴィンは神獣の悪意そのものに支配されてしまう。
そして、最後にはみんな、人としての心を失って、消えてしまうかも……」
ヅィザは語れば語る程にその瞳を潤ませて、何度か声を詰まらせていたが、最後には言葉にして発するのも辛くなった様で、そこで話は途切れ、少し俯いて涙を堪える様に肩を震わせながら、溢れんばかりの涙を交互に指先で拭っていた。
赤い衣の少女が声を詰まらせている間に、私はこの娘の事を考えていた。
この子供達三人の中ではヅィザが母親役で、先程感じた包容力は、その立場から生じている母性なのだと言う事が判った。
それを青の祭服の少年であるレヴィンは、好意的に感じていた訳だ。
そして怒っているところが良いと言うのは、母親に構って貰いたいと言う幼児的な欲求なのか、それとも神獣の狂気が齎す破壊的な衝動の表れか。
暫く黙っていた神官の少女は、多少は落ち着いて来たらしく、涙を拭う仕草も止んで再び顔を上げると、照れ隠しの様に軽く微笑みつつ口を開いた。
「……ちゃんとお話が出来なくて、ごめんなさい、つい気持ちが抑えきれなくて。
こういうところは、ヴァハンによく叱られてしまうの、もっとしっかりしなきゃ駄目だって。
でも、わたしはどうしても、ヴァハンの様に常に冷静ではいられない。
それに、もしわたしもヴァハンと同じ様になってしまったら、それはそれでレヴィたちに良くない影響が出ると思うから、だからわたしはヴァハンとは違う気持ちで、レヴィたちを守りたい、そう思うんです。
ここに呼び出されてしまえば、わたしやヴァハンでは、もうどうしようもありません、そこにいる事が出来るのは、レヴィたちの誰かと、あなただけなの。
棺に封印されて、ずっと三人だけで存在し続けるしか出来ない、わたしたち三つ子を離れ離れにしないで。
せめて、三人一緒にいる事だけでも許して欲しい、ただそれだけ。
最後は話が逸れてしまったけれど、わたしがあなたに伝えたかった事は、全て話したつもりです。
お願いですから、どうか、レヴィたちを傷つけないであげて」
最初は微笑だった表情も、訴えを終えた時点では真剣なものへと変わり、こちらへと向けられるヅィザの最後の強い眼差しは、私の目には子供を守る母親そのものに見えていた。
私はこの母親役の少女へと、どう返答すべきなのかを少々考えて、先のヴァハンの言葉も思い出し、偽善めいた気休めは言わずに、私の知る正直なところを語る事にした。
下手に私が意訳するよりも、ありのままの私が知る未来であろう出来事を語った方が、少女も納得出来るのではないか、そう考えた結果だった。
私が記憶しているこの先の顛末を話して聞かせると、空の神獣の守護者は再び顔を伏せて涙を拭っていたが、先程よりは短い時間で立ち直り、再び顔を上げた。
「もし、あなたが語った未来が繰り返されて、レヴィたちの誰かがいなくなってしまったり、レヴィたちみんなが消えてしまったとしても、その結果が運命なら、とても悲しい事だけど、わたしはそれを受け入れます。
わたしたちはもう死んでいるから、後は消えてなくなるしかないけれど、でも魂は棺に封じられていて、それすら許されていません。
だから、もし選べるのなら、いっその事、神獣に完全に飲み込まれてしまう事で、結果的にあの子たちの苦しみが終わるのなら、わたしはそれを望みます。
わたしやヴァハンでは、あの子たちにそんな救済すら、してあげる事も出来ないから」
彼女自身も、私がその望みを叶えられる確率が低い事を察していたのかも知れない、最後の言葉は私への依頼としてではなく、そうであれば良いと言う願望の様に聞こえた。
私はここでヅィザの語った境遇、死ぬ事も消える事も出来ずに、時折発生する呼び出しの役目を果たしながら、いつ蘇るかも判らない皇帝の復活を待ち続ける、この状況が私と酷似していると感じて、この三つ子の苦痛が我が事の様に理解出来た。
以前の“嘶くロバ”の解説を思い出すと、三つ子がこの棺の中で過ごして来た時間は、少なくとも千年以上にも及ぶ筈だ。
千年もの間、殆んど閉じ込められる様にして存在し続けて、これから先も終わりも判らずに耐え続けなければならない、これ以上の苦痛も無いのではないだろうか。
終わってしまう事への失望よりも、終えられない事への絶望が勝り、それよりも終わらない事への非望が勝る、私は今回の召喚を見て、そう強く感じた。
まだ何らかの事象で、消えてしまうかも知れないし、自ら終わらせる事が出来るかも知れない私の方が、三つ子達よりも幾分かは恵まれた境遇なのかも知れない。
冷静で理性的な判断力を持つヴァハンと、母性的な慈愛と感受性を持つヅィザが居て、バランスが成り立っているからこそ、この三つ子達は七歳と言う幼さで殺されてから、千年以上に渡ってこんな酷い境遇でもずっと耐えて来られたのであろうと、私は改めて理解した。
その事をヅィザに伝えると、最初は私の言葉に戸惑いを見せたが、すぐに褒められた事を理解して、嬉しそうに笑みを浮かべた。
「そんな風に褒められた事は、生きていた七年間の間も、封じられてからのとても長い日々でも、一度もなかったから、そう言ってもらえると、とても嬉しい。
こうしてわたしたちがいられたのは、きっとヴァハンのおかげだと思う。
もしヴァハンがいなかったら、これだけの長い時間を、おかしくならずに過ごしては来れなかったはず。
そろそろレヴィたちの様子が気になるから、わたしはこれで戻ります。
あなたとお話し出来て良かった、さっきの言葉、ヴァハンにも伝えておきます。
それでは、もう一度ヴァハンと替わりますね」
そう私へと伝えてから、赤の祭服の少女は最後に微笑んで、優雅に一礼して姿を消した。