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『誓約(ゲッシュ) 第一編』  作者: 津洲 珠手(zzzz)
第十二章 キマイラ3
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第十二章 キマイラ3 其の五

変更履歴

2011/11/25 誤植修正 例え → たとえ

2011/11/25 誤植修正 意志も思考も感情も → 意思も思考も感情も

2011/11/25 誤植修正 固体 → 個体

2011/11/25 誤植修正 関わらず → 拘わらず

2011/11/26 記述統一 変りますが → 変わりますが

2011/12/11 誤植修正 して見たのは、して見せた、して見せつつ → してみたのは、してみせた、してみせつつ

2012/02/14 誤植修正 吾輩が想い描く未来 → 吾輩が思い描く未来

2012/02/14 誤植修正 こうの様に様々な → この様に様々な

2012/02/14 誤植修正 存在としての興味てあって → 存在としての興味であって

2012/02/14 誤植修正 思ったのだか → 思ったのだが

2012/02/14 誤植修正 生きれる場所が → 生きられる場所が

2012/02/14 誤植修正 持たなくりました → 持たなくなりました

2012/02/14 誤植修正 及ぶと行う事は → 及ぶと言う事は

2012/02/14 誤植修正 養分を搾取を始めて → 養分の搾取を始めて

2012/02/14 誤植修正 なっていると言うもの → なっていると言うのも

2012/02/14 誤植修正 面倒を見たたらと → 面倒を見たからと

2012/02/14 誤植修正 それが覆す事が → それを覆す事が

2012/02/14 誤植修正 話を再会した → 話を再開した

2012/02/14 誤植修正 二つありまして → 三つありまして

2012/02/14 誤植修正 用いる力を → 持ち得る力を

2012/02/14 誤植修正 もう一つは → 二つ目は

2012/02/14 句読点調整

2012/02/14 記述修正 ずれがあるのだなと → ずれがあるのだと

2012/02/14 記述削除 エーテルにしても今回のもマナにしても、

2012/02/14 記述修正 本体は液体でしかないとは → 本体がアメーバかスライムの様な液体とは

2012/02/14 記述修正 伝説の怪物が、自分に懐いて → 伝説の怪物達が、人間に懐いて

2012/02/14 記述修正 何とも羨ましい体験を → 何とも貴重な体験を

2012/02/14 記述修正 でもなあ → だがしかし

2012/02/14 記述修正 空も飛べず、裸でいるのが恥ずかしいと感じている → 空も飛べず濁声や裸体に恥じ入る

2012/02/14 記述修正 だみ声で内気なハーピー → 臆病なハーピー

2012/02/14 記述修正 満足に直立姿勢も維持出来ずに、杖無しではまともに移動もままならない → 蛇でありながら蛇として這い回るのを拒絶し

2012/02/14 記述削除 這いずるのが基本なのに長い髪を汚さない様に努力する

2012/02/14 記述修正 人間の娘であろうと直向きに頑張る → 強い意志で以って人であろうとする

2012/02/14 記述修正 無様なラミア → 意固地なラミア

2012/02/14 記述修正 恐らく先天的に一生まともには走れないのに、 → 一生叶わぬ走ると言う夢の為に

2012/02/14 記述修正 正義感のある真面目で純朴な → 正義感に溢れた真面目で純朴な

2012/02/14 記述修正 知恵遅れで、泳ぎが人より下手で溺れてしまい、陸上では動く事も出来ず生活出来ない、生きられる場所が殆んど無いと言う → 陸にも海にも居れず何処にも生きる場所がないのも気づかず

2012/02/14 記述修正 恐らくそんな絶望的な事実すら理解出来ていない → 幼い無邪気さに満ち溢れた

2012/02/14 記述修正 愚かな幼い子供でしかない、哀れな人魚 → 愚かな人魚

2012/02/14 記述修正 その実体は只の気味が悪い牛なだけの → 只の気味が悪い牛でしかない

2012/02/14 記述修正 見苦しいミノタウロス → 無能なミノタウロス

2012/02/14 記述修正 発揮出来ない訳だ、成程 → 発揮出来ない訳ですな、成程成程

2012/02/14 記述修正 大義名分を掲げてはいるが → 、御大層な大義名分を掲げてはいるが

2012/02/14 記述修正 一体これのどこが償いなんだと → 一体これのどこが償いなのかと

2012/02/14 記述修正 互いを避けて → 意思の通じない相手を避けて

2012/02/14 記述修正 自分達の未来が → 未来予知の力で将来自分達が

2012/02/14 記述修正 絶滅するのが判った種族等は → 絶滅するのが判った種族は

2012/02/14 記述修正 知識を悪用していかにして楽に役目をこなすか → 先の事を考えず残った知識を悪用して、いかに今を楽にするかだけを考えて

2012/02/14 記述修正 食べなければならないようにして → 食べなければならないように変えてから

2012/02/14 記述修正 生物達に病にかかる様にして → 生物達に病を与えて

2012/02/14 記述修正 自虐と抑圧の論理でしか無いと思いますがねぇ → こんなものは自虐と抑圧の論理でしか無いと思いますが、ねぇ

2012/02/14 記述修正 ただ、吾輩の経験則と → ですが吾輩の経験則と

2012/02/14 記述修正 植物の組織培養の能力があれば → 植物の全能性の能力があれば

2012/02/14 記述修正 組織培養からの復活時間すら不要となります → 対処出来そうです

2012/02/14 記述修正 組織培養で復元したところで → 新たな脳細胞で復元したところで

2012/02/14 記述修正 一気に消費すると言う事です → 消費する事になる筈

2012/02/14 記述修正 先程被り直していた帽子を右手で取ると → こちらへと体ごと正面を向けて

2012/02/14 記述修正 その右手を胸に添えると同時に左手を背中の腰へと回して → ブーツの踵を合わせて腕や背筋を伸ばした直立姿勢をとると

2012/02/14 記述修正 優雅に頭を下げながら姿を消した → 肘を曲げて右手で敬礼をしてから、軍人気取りの紳士は姿を消した

2012/02/14 記述修正 頭にはグレーの → 頭には深緑色の

2012/02/14 記述修正 中折れ帽 → ベレー帽

2012/02/14 記述修正 ベレー帽を脱いで両手で帽子のつばを挟む様にして持つと、 → ベレー帽を脱ぐと右手の人差し指を引っ掛けて

2012/02/14 記述修正 軽く角度を調整して → 軽く調整して

2012/02/14 記述修正 気に入っている角度になると → 気に入っている角度に直してから

2012/02/14 記述修正 植物人間同然の植物として → 植物人間と変わらずに

2012/02/14 記述修正 人の形をした木なだけのドライアド → 人の形に似た木でしかないドライアド

2012/02/14 記述削除 紋章にもなるほどの気高く勇猛な象徴の筈が、

2012/02/14 記述修正 ライオンどころか → ライオンと鷲どころか

2012/02/14 記述修正 ハイエナ以下の力に成り下がった → 野犬や鴉程度の力しか持たない

2012/02/14 記述修正 貧相なグリフォン → 貧弱なグリフォン

2012/02/14 記述修正 センタウルやグリュプスが → センタウルやグリュプスは

2012/02/14 記述修正 彼等を自らの手で殺してやって → 彼等をその手で殺してやって

2012/02/14 記述修正 あながち珍しい理論でも無いのです → 結構有りがちな考えなのです

2012/02/14 記述修正 病も無く寿命も無く → 老いも病も寿命も無く

2012/02/14 記述修正 性別も無い姿で作られました → 性別もありません

2012/02/14 記述修正 生物同士は互いにその姿の違いから → 生物同士はその姿の違いから

2012/02/14 記述修正 死んでいく種族と数の変わらない種族とに → 死んでいく種族と、あまり数の変わらない種族とに

2012/02/14 記述修正 強い繁殖力を与えて → 強い繁殖力を

2012/02/14 記述修正 数を調整する事にしました → これで数を調整する事にしました

2012/02/14 記述修正 食べる事をしなければならなくなった生物達は → 食べなければならなくなった生物達は

2012/02/14 記述修正 これでもまだ増え続けたので → そこにも快楽を見出して皆我を忘れて食べ続けたので

2012/02/14 記述修正 更に神は増えすぎた種族を個別に病を流行らせて → 食べられなくなる様にしました

2012/02/14 記述削除 その数を調整する事にしました

2012/02/14 記述修正 数を増やしてもその分 → 神が望まない行動を取り始めたら

2012/02/14 記述分割 病死する様になり、やっと数の調整が出来る様になり → 病気に罹って食べられなくなり、そうなるとやがて死んでしまう様になりました。これでやっと平穏になったので

2012/02/14 記述修正 教義へと繋がる訳です → とてもありがたい教義へと繋がる訳です

2012/02/14 記述修正 組織培養の能力と → 一部のミミズが持つ無性生殖と

2012/02/14 記述修正 相当数の生物を養分を得る為に → 養分を得る為に相当数の生物を

2012/02/14 記述修正 全てその力を内在していた → その力を全て内在していた

2012/02/14 記述修正 彼はアンゲロスの事を推測してみせた時に → 彼はアンゲロスの事を推測する際に

2012/02/14 記述修正 謙遜してみせつつ → 謙遜しておきながら

2012/02/14 記述修正 とても素人とは思えない解説をしてみせた → とてもそうは見えない解説内容を語った

2012/02/14 記述修正 貴族達と変わらない → 貴族達と変わらず

2012/02/14 記述修正 程度の玩具でしかないと、私は感じた → 玩具程度にしか捉えてはいまい

2012/02/14 記述修正 ロバの紳士は、 → しかしそんな中でも

2012/02/14 記述修正 違っていると感じた → 違っているのは間違いない

2012/02/14 記述修正 未来を知る機会も → 任意の時代へと行く事も

2012/02/14 記述修正 私はこれより前の → 私は今まで滞在していた、

2012/02/14 記述修正 白濁した世界での覚醒に → 白濁した世界での転生に

2012/02/14 記述修正 この召喚は → “嘶くロバ”の指摘通りで今までにあった数々の召喚は

2012/02/14 記述修正 それに関しては何者かの → それに関して私としては何者かの

2012/02/14 記述修正 そこまで時の流れが達していない、です → そこまで時の流れが達していないのではないか、と言う解釈です

2012/02/14 記述修正 これに対する対策もあるにはある様ですから → しかしこれに対する対策も思いつきそうなので

2012/02/14 記述修正 まず先にそれらを考えてみましょうか → とりあえず今浮かんだものだけでも並べてみましょうかね

2012/02/14 記述修正 構わないと思っていて → 構わないと思っているのが本心で

2012/02/14 記述修正 あらゆる物を使っている → あらゆる物を使っているのが何よりの証拠ですな

2012/02/14 記述修正 無いとは思っておりますが、万が一、天使の降臨に → もし天使の降臨に

2012/02/14 記述修正 この世界の → 有史以前から存在するであろう世界の

2012/02/14 記述修正 区々な時代へと → 様々な時代へと

2012/02/14 記述修正 私は判らないと言う → 私は暫く考えてから判らないと言う

2012/02/14 記述修正 生存と生殖の欲望だけは → 生存と繁殖の欲望だけは

2012/02/14 記述修正 吾輩は思いますよ → 吾輩は思いますがね

2012/02/14 記述修正 脳を複数個、植物の根と球根の様な → 脳を植物の球根の様な

2012/02/14 記述修正 退避が可能になるかも知れない → 退避を実現するかも知れない

2012/02/14 記述修正 吾輩は生物学に関しては → 吾輩は人間以外の生物学に関しては

2012/02/14 記述修正 それほどは詳しくありませんが → それほど詳しくはありませんが

2012/02/14 記述修正 キマイラの子供達のその後も → 当然キマイラの子供達の後日談も

2012/02/14 記述修正 単独で子を作る力を奪い、生物に性を作って男と女に分けて → 生物を男と女の二つに分けて、性を持つ様に作り替えてから単独で子を作る力を奪い

2012/02/14 記述修正 それだけでは増加の抑止にはならず、依然として増え続けたので → 役目も忘れて四六時中ひとつになる快楽に溺れてしまったので

2012/02/14 記述削除 性を与えられた生物達は~

2012/02/14 記述追加 性を与えられた生物達は~

2012/02/14 記述追加 疲労と睡眠を与えられた生物達は~

2012/02/14 記述修正 膨大に増え続けてしまったので → 膨大に増えてしまったので

2012/02/14 記述修正 そのうちに無尽蔵に → そのうち無尽蔵に

2012/02/14 記述修正 言葉が通じなくしてしまいました → 言葉を通じなくしてしまいました

2012/02/14 記述修正 世界中に放ちます → 世界中に放ちました

2012/02/14 記述修正 ま、別段召喚者が → まあ、別段召喚者が

2012/02/14 記述修正 これら出来損ないを → これらの出来損ないを

2012/02/14 記述修正 召喚と言う形で作り出さねば → 召喚と言う形で作り出さなければ

2012/02/14 記述削除 脳はあっても意思も思考も感情も持っているかすら判らず、

2012/02/14 記述修正 動く事も叶わずに恐らくそのまま沈黙のうちに死んでいくのであろう → 動く事も出来ずにそのまま死んでいくのであろう

2012/02/14 記述修正 只の草と化したマンドレイク → 只の歪な球根の草であるマンドレイク

2012/02/14 記述修正 諦めて慣れるしかないと結論付けた → 以前の感覚を取り戻せば直に慣れるだろうと考え、対処は諦めた

2012/02/14 記述削除 判りようも無く

2012/02/14 記述分割 召喚可能な者が存在しない、それは即ち → 召喚可能な者が存在しない、と言う解釈です。それは即ち

2012/02/14 記述修正 それは即ち滅亡しているからだと捉える仮説です → もう既に滅亡していれば誰も召喚出来ないし、神の様な存在を完全否定する世界になっていても、その時代には召喚される事は有り得なくなります

2012/02/14 記述修正 現在から過去だけなのではないかと言う仮説です → 現在から過去だけなのではないかと

2012/02/14 記述修正 ここまでざっと考えて見ただけでも → ここまでざっと考えてみただけでも

2012/02/14 記述修正 神に等しい力を持っていて、あらゆる生物を自在に弄ぶ事が可能なのは → あらゆる生物よりも優れた存在であるのは

2012/02/14 記述修正 可能性が考えられる訳ですが → 可能性が考えられまして

2012/02/14 記述修正 まさに神そのものなのだが → 実に素晴らしいのですが

2012/02/14 記述修正 何もかも忘れてしまった生物ばかりになってしまったので → 何もかも忘れた生物で溢れ始めたので

2012/02/14 記述修正 神は生物に寿命と死を与えました → 神は役に立たない邪魔な生物を減らす為に、生物から不老と不死を奪い、その代わりに老化と寿命と死を与えました

2012/02/14 記述修正 やる事を与えた際に → やるべき事を与えた際

2012/02/14 記述修正 言う事なのでしょうがね → 言う事なのでしょうかね

2012/02/14 記述修正 色々と考えて見た → 色々と考えてみた

2012/02/14 記述修正 未来は知りませんけども → 未来は知りませんが

2012/02/14 記述修正 返上すると言う形での → 返上する意味での

2012/02/14 記述追加 そしてその介入者は経験上~

2012/02/14 記述修正 博識のある存在を → 博識な存在を

2012/02/14 記述修正 誰もいないのなら → 生物や信者が誰一人いないのなら

2012/02/14 記述修正 突飛な思想と言う訳でも無いのでね → 突飛な発想と言う訳でも無いのでね

2012/02/14 記述修正 正しく動かせられず → 正しく動かせずに

2012/02/14 記述修正 医学的な見地から見て、興味深い → 医学的な見地から見ても、大変興味深い

2012/02/14 記述修正 そうならない未来を → そうなる未来を

2012/02/14 記述修正 更にはヤドリギの持つ寄生根で他の生物に取り付けば → 更には食虫植物の捕虫葉やヤドリギの持つ寄生根も用いれば

2012/02/14 記述修正 措置を取りたかったと → 措置したかったと

2018/01/09 誤植修正 そう言った → そういった


「おお、やっとお目覚めですな、御無沙汰ですなあ、雪だるま卿よ!

いやはや、お待ちしておりましたぞ、かれこれ一週間振りですかな」

やけに張り切っている様な、力強い“嘶くロバ”の声が脳内に響き渡り、意識を取り戻したばかりの私の、まだ完全に覚醒しきれていない頭に、少々耳障りに木霊していた。

私は今まで滞在していた、白濁した世界での転生に慣れてしまっていたからか、この慣れ親しんでいる筈の闇の世界での覚醒に、違和感を感じてならなかった。

少々考えてみると恐らくその原因は、ロバの紳士がいきなり目の前に居たからではないかと推測し、この違和感については以前の感覚を取り戻せば直に慣れるだろうと考え、対処は諦めた。

彼の話に因ると、私は一週間振りに戻ってきたらしく、やはり向こう側の世界とは時間の進みにもずれがあるのだと、再認識した。

今回の“嘶くロバ”の服装は、ベージュのロングトレンチコートにブラウンの皮手袋とロングブーツを履いており、頭には深緑色のベレー帽を被っていて、何を気取っているのか聞いても良いのかが判らず、私は躊躇していた。

その格好を見て私は一瞬軍服かとも思ったのだが、コートの下に着ている物が判らず、どうも良く判らない。

とりあえず挨拶程度にいつもと違う格好である事だけ軽く触れてから、それ程返答にも食いついてくる感触が無かった事から、何気なくこの話題は終わらせて、私は今回の召喚を語り始めた。




私の話を聞き終えたロバの紳士は、ベレー帽を脱ぐと右手の人差し指を引っ掛けて、クルクルと回して遊びながら、感想を語り始めた。

「ふむふむ、生物学者が神を産み出すとは、全く以って考えられない展開ですなあ。

以前に作り出したエーテルに関しても吾輩も知らんのですが、それは言ってしまえば、生物学者の妄想の産物と言う訳ですな。

まあ、神への信仰なんてものは、多かれ少なかれ、所詮は妄想だと言う事なのでしょうかね。

それにしても、本体がアメーバかスライムの様な液体とは、とんだ偉大なる神の姿だとしか言えません。

極めて現実的な形態と申しますか、合理的と申しますか、ねえ。

そういった点は、やはり学者たるところが反映されている様ですな。

それとやはり生物学者なだけに、作り出したキマイラは見事な合成獣だった様で、それは吾輩も是非この目で見てみたかったですなぁ。

逸話に登場する様な伝説の怪物達が、人間に懐いて語り掛けて来るなんて、何とも貴重な体験をされましたなぁ、いやはや本当に。

だがしかし、どれも見た目は完璧でも、はっきり言ってしまえば、機能としては出来損ないだったのですよねぇ?

ハルピュリアは、空も飛べず濁声や裸体に恥じ入る、繊細な心を持った、臆病なハーピー。

レイミアは、蛇でありながら蛇として這い回るのを拒絶し、強い意志で以って人であろうとする、意固地なラミア。

センタウルは、一生叶わぬ走ると言う夢の為に無駄な努力を続ける、正義感のある真面目で純朴な、馬鹿正直のケンタウロス。

メロウは、陸にも海にも居れず何処にも生きる場所がないのも気づかず、幼い無邪気さに満ち溢れた、愚かな人魚。

アステリオスは、人の頭をしているだけの、只の気味が悪い牛でしかない、無能なミノタウロス。

グリュプスは、ライオンと鷲どころか野犬や鴉程度の力しか持たない、貧弱なグリフォン。

アルラウネは、動く事も出来ずにそのまま死んでいくのであろう、只の歪な球根の草であるマンドレイク。

ドリュアスもアルラウネと同様で、植物人間と変わらずに死んでいく、人の形に似た木でしかないドライアド。

こうして考えてみると、どれもこれも失敗作ですなあ、やはりこういった伝説上の生物は、定義に則って召喚と言う形で作り出さなければ、伝承通りにはならんと言う事を証明してくれましたな。

これらの出来損ないを、多くの人間の命を費やしてでも守ろうと言う意識に囚われるのは、自分が産み出した背徳の産物だと考えている良心の呵責から来る、偽善めいた同情や贖罪としての善行だと、勘違いして思い込んでいるとしか、吾輩には思えませんぞ。

一人の生物学者の自己防衛から作られた不出来の生物の為に、更なる大量の犠牲の上で怪物を産み出そうとは、耄碌した学者はもはやまともな精神では無かったのでしょう。

貴殿は間近で接していて、更に会話もしていながら、そうとは感じませんでしたか?

まあ、別段召喚者が正気であろうが狂気に囚われていようが、どちらでも構わないのですがね、吾輩としては。

逆に狂気的な妄想に囚われていたおかげで、この様な興味深い儀式が実現されたんでしょうしねえ。

それにしても、受精の段階から融合させて作っても、ある生物特有の部位を持っていない別の生物の脳では、神経が個別に繋がらないのですなぁ、これは医学的な見地から見ても、大変興味深い話でしたぞ。

センタウルやグリュプスは、人間や鷲の脳では足は二本を制御するだけでしか無いから、前後の足が一つの神経で繋がっていたんでしょう、きっと痛覚も共有されていたのでしょうなあ、それは是非確認してみたかった。

この論理で言えば、ハルピュリアが飛べないのも単に筋力だけの問題では無く、翼を人間の腕としてしか認識出来ない人間の脳では、鳥の翼として正しく動かせずに、飛べないのもあるのでしょうな。

同様にレイミアがまともに動けないのも、人間の足を制御する脳で、蛇の胴体を操るから、正常な蛇以下の運動能力しか発揮出来ない訳ですな、成程成程。

生物学者はこの事実にはとっくに気づいていたんでしょうねえ、だからこそ罪の意識に苛まれたのでしょうし、そうした機能不全とも言える不具を与えたのは自分の責任だから、自分の力で救うべく措置したかったと。

しかし調べれば調べる程に、キマイラの子供等には救いが無いのがはっきりと判ってしまい、ならばせめてもの罪滅ぼしとして、平穏に育ち死ねる場所だけでも提供したかった、と言う理屈は判らんでも無いですが、だからと言って人間否定の思想にまで飛躍するのは、やはり本末転倒ですな。

本当に純粋な感情で、キマイラの将来を憂えたのであれば、彼等をその手で殺してやって、そしてその後に自らも死すべきだった、これが吾輩の思うこの学者の正しき末路ですよ。

老人がそうしなかったのは、生物学者としての研究の成果を望んだ、自己の欲望からでしょう。

結局老人の為そうとしている事は自己の願望の達成でしか無く、それにはどれだけの犠牲を払っても構わないと思っているのが本心で、利用出来るあらゆる物を使っているのが何よりの証拠ですな。

今回は前回よりも、もっと上手くやれる手段を見つけ出せたと確信があったから、都合良く半人半獣の子供等を救済すると言う、御大層な大義名分を掲げてはいるが、その関連性を外して考えれば、一体これのどこが償いなのかと吾輩は思いますぞ。

彼の言葉にある、人間や現存生物への卑下した物言いは、己の半生から裏づけされた厭世観から来ているのでしょうが、それがあった所で、償いと偽った自身の野望であろう行為を、人間や他の生物を殺してでも実行して良いと言う結論には、繋がらないと思われますがね。

だからと言って、当人の人生観が強く反映されていそうな、人間が貶められた末の姿だとする思想自体は、吾輩も否定は致しませんよ、これはこの老いた生物学者の妄想から産み出された、突飛な発想と言う訳でも無いのでね。

人間を含む生物が神から能力を奪われている、と言う悲観的な考え方は、結構有りがちな考えなのです。

何故か人間は、自分達を卑下して捉えたがる自虐的な生物の様でして、典型的な逸話のパターンを軽くお話し致しましょうか。




創造主たる神は最初に、自分を模した生物を作り出し、それぞれに役目を与えて世界中に放ちました。

この時生物は神と同等の力、未来を知りあらゆる生物と意思を通じ、記憶も無限に出来て決して忘れず、老いも病も寿命も無く何も摂取しなくても良く、また神はただ一柱なので性別もありません。

世界の各地でそれぞれの生物達にやるべき事を与えた際、どの生物が何の役目を持っているかを判りやすくする為に、その姿を少しずつ変えて作りました。

そうすると生物同士は、その姿の違いから衝突して互いに口論を始めてしまい、神はそれを諌める為に、同種の生物以外は言葉を通じなくしてしまいました。

同じ種類で無ければ会話が出来なくなった生物達は、意思の通じない相手を避けてそれぞれの生活を始めるのですが、未来予知の力で将来自分達が絶滅するのが判った種族は、役目も放棄して自暴自棄となってしまったので、神は生物達から未来を知る力を奪いました。

未来を知る力を失った生物達は、先の事を考えず残った知識を悪用して、いかに今を楽にするかだけを考えて、怠惰な暮らしをし始めたので、神は生物に知識と記憶を失う様に、忘却を与えました。

物事を忘れる様にされた生物達は、時が経つ毎に何もかも忘れた生物で溢れ始めたので、神は役に立たない邪魔な生物を減らす為に、生物から不老と不死を奪い、その代わりに老化と寿命と死を与えました。

不死を奪われた生物達は、与えた役目に因って次々と死んでいく種族と、あまり数の変わらない種族とに分かれたので、その差異を正す為に神は、数多く減る種族には強い繁殖力を、あまり減らない種族には弱い繁殖力を与えて、これで数を調整する事にしました。

繁殖の力を与えられた生物達は、そのうち無尽蔵に繁殖を始めてしまい、強い繁殖力を与えた種族が膨大に増えてしまったので、神はこれを抑止すべく生物を男と女の二つに分けて、性を持つ様に作り替えてから単独で子を作る力を奪い、男と女が組にならなければ子を作れない様にしました。

性を与えられた生物達は、役目も忘れて四六時中ひとつになる快楽に溺れてしまったので、更に神は生物の行動を抑止すべく、不眠を奪い疲労を与えて、何かをする度に疲れて次第に眠くなる様にしました。

疲労と睡眠を与えられた生物達は、何もかも怠けてしなくなってしまったので、更に神は生物が動かざるを得ない様に、何かを食べなければならないように変えてから、数の少ない種族がより数の多い種族を食べる様にして、生物の数も調整する事にしました。

食べなければならなくなった生物達は、そこにも快楽を見出して皆我を忘れて食べ続けたので、更に神は生物達に病を与えて、食べられなくなる様にしました。

病を与えられた生物達は、神が望まない行動を取り始めたら、病気に罹って食べられなくなり、そうなるとやがて死んでしまう様になりました。

これでやっと平穏になったので、神はこの様々な制限を、自然の摂理として定めたのです。

こうして元々は多くの力を持っていた生物は、次々とその力を神に因って奪われていき、今の様な力しか持たなくなりました。

この為に、今の生物とは神から貶められた姿であり、それ故に生物は神に見直してもらい、再び認められて元の力をもう一度与えてもらう為に、日々努力しなければならないと言う、とてもありがたい教義へと繋がる訳です。

やはり吾輩には、こんなものは自虐と抑圧の論理でしか無いと思いますが、ねぇ。




話を戻して、今回の召喚に関する薀蓄でも披露致しましょうか。

なあんて言い出して置いてあれですが、正直に申しますと今回の召喚に対して、吾輩はあまり多くの情報は持ってはおりません。

恐らく、キマイラの名称に用いられた言語から考えると、その地域は存じておりますが、吾輩の良く知る年代よりも幾分か未来の出来事だと思われます。

ですので、その老人の作り出した数々のキマイラの事も知りませんし、生物学者の弾圧された半生も知りませんので、当然キマイラの子供達の後日談も、貴殿が作り出した最後の究極のキマイラの未来も、残念ながら吾輩には判りかねます。

ですが吾輩の経験則と蓄えた知識から、究極のキマイラの誕生後を想定する事は可能です。

ただどう考えても思いつく未来からすれば、最後のキマイラの名前は、天使の語源である『アンゲロス』では無く、悪魔の語源である『ディアボロス』の方が、より相応しいと思われますよ。

ああそうか、最後の審判で多くの咎人である人間達を、次々と打ち滅ぼして地獄へ落とすと考えれば、天使でも正しいと言えるのか、成程成程、実に良く考えて付けられている様ですなあ。

神に見放された人間を含む生物全般を、咎人自身が生み出した裁きの天使が、積み重ねた数多の罪を清算する為に、世界へと降臨させたのだからそれはつまり、かつて神より与えられたその命を、返上する意味での贖罪と言う解釈ならば、老人の敬虔なる思想は成就するのでしょう。

吾輩が思い描く未来、それは究極のキマイラに因る終わりの始まり、いわゆる終末の到来ですよ」

そう言うと、“嘶くロバ”はここで一旦話を区切ってから、口元を歪めて私へとにやついて見せた。

そして、ずっと手にしていたベレー帽を若干斜めに被って、軽く調整して気に入っている角度に直してから、話を再開した。




「雪だるま卿よ、貴殿の語った通りにキマイラが完成し、それが無事に生まれたとしましょう。

先程の逸話にも通じますが、肉体的な寿命も無く、肉体の部位の再生も可能で、成長速度まで変えられる、これだけでも十分に他の生物を凌駕する力と言えますが、一番重要な点は、あらゆる生物の遺伝情報を具有している所だと思われますぞ。

約千種類の種の情報を持っていると言うのは、より優秀で特化した機能や能力を持つ種を選定した上での事でしょうから、特異な力は大方取り込んでいるのでしょう。

吾輩は人間以外の生物学に関しては専門外ですので、それほど詳しくはありませんが、ちょっと考えてみましょうか。

まずは、仲間を増やす行為について、検討しましょう。

自身の体内で両性の生殖器を作り出し、受精して交配するのも出来るだろうし、そんな面倒な事をしなくても、アブラムシ等が持つ単為生殖があるので、このキマイラは単体でも子を産む事は可能です。

一部のミミズが持つ無性生殖とトカゲの自切能力を組み合わせれば、単体しかいなくても単細胞生物の様に分裂しての増殖が可能になります。

一部の寄生虫の能力を用いれば、他の通常の生物にごく一部の肉片を体内に混入させるだけで、その生物の神経系や肉体の制御を奪ったり、肉体を変異させる事も不可能ではありません。

次に個体としての、持ち得る力を検討してみますか。

細胞分裂回数の解除をされていて老化もしないから、爬虫類の成長に準じて、肉体の巨大化も可能かも知れません。

脳や心臓と言った、動物にとっては生存に必須の器官が破壊されても、植物の全能性の能力があれば、肉体はどの部位からでも全体を再生する事が可能でしょう。

破壊から再生までの時間が無防備になる事さえ、生命活動維持の器官を多重化させる事に因って、対処出来そうです。

こうして考えて行くと、やはり最も問題となるのは脳でしょうか、ここばかりは幾ら新たな脳細胞で復元したところで、蓄積した記憶までは取り戻せませんからな。

しかし二度と取り戻せないならば、絶対に失われない様に対処すれば良いと考える筈でしょう。

脳を複数個所に分配して体内に分散し配置する事に因り、たとえ一箇所が破壊されても、全ての記憶を失わない様な対処も、出来るのかも知れない。

別の個体同士でも、脳神経を別の個体の脳神経と結合する事に因って、遺伝情報では保持出来ない記憶に関しても、共有や複写が可能になるのかも知れない。

脳を植物の球根の様な形状で地中内に隠蔽し、そこを本体として記憶の退避を実現するかも知れない。

少々考えただけでも、この様に様々な可能性が考えられまして、これらの行為が全て何の代償も無く実行出来れば、実に素晴らしいのですが、そこまで都合良くは行かないのが生物としての性でして、最大の問題は養分です。

通常の生物が数年から数十年かけて、多くの摂取した養分を消費しながら一個の個体を育てるのに、その期間を短縮して更に作り出す肉体も多岐に及ぶと言う事は、その分大量の養分を消費すると言う事になる筈。

しかしこれに対する対策も思いつきそうなので、とりあえず今浮かんだものだけでも並べてみましょうかね。

植物の葉や根を生やしたり、更には食虫植物の捕虫葉やヤドリギの持つ寄生根も用いれば、実に多彩な形状の養分摂取が可能になるでしょう。

ですが、これだけではとてもではないが、異常な速度の肉体の増殖を賄うのは難しそうですから、きっと養分を得る為に相当数の生物を食い殺しながら繁殖を始めるのでしょう、貴殿に因って作り出されたあの儀式の時と同様に。

逆に飢餓状態に陥った時でも、通常の生物よりも生存確率は上げられそうですな。

循環器系の調整と自切能力か、或いは一部のクラゲが持つ若返り能力を使って、自身を小さく萎縮させて仮死状態にすれば、養分が摂取出来ない環境でも長期間の生存が可能になります。

まあ、これを行う時と言うのは、地上から全ての生物が消えた時だと吾輩は思いますがね。

ここまでざっと考えてみただけでもアンゲロスは、あらゆる生物よりも優れた存在であるのはお判りでしょう。

たった一つの問題である、食料・養分・エネルギーの確保を除いては。

アンゲロスは、自らの成長と種の繁栄の為に、あらゆる生物から養分の搾取を始めて大虐殺が起こる、これが妥当な推測であろうと吾輩は考えておりますよ。

老いた生物学者がこの究極のキマイラに、どう言う自我を与えるのかに因っても展開は変わりますが、あくまで生物を発展させた物として作り出されたとするなら、生物としての本能までは抑止出来ないのでは無いでしょうか、生存と生殖の欲望だけは。

今吾輩が想定してみたのは、その力を全て内在していた場合での、一つの可能性でしかありません。

最初に申し上げた通り、吾輩はこの地域の未来は知りませんが、こうした終末を想像するのです、こうなる可能性が他の可能性よりも高いと信じておるのでね。

雪だるま卿よ、それは何故だか判りますかな?」

“嘶くロバ”はそう言ってから言葉を切って、私の方をしたり顔で見つめていた。

私は暫く考えてから判らないと言う意思表示をすると、ロバの紳士はさもあらんと言うように、満足げに鼻を鳴らしてから、解説を続けた。




「何故、吾輩がこうした悲観的な未来しか想定していないのか、その確証となるのは、そうなる未来を知っているからではなく、逆に吾輩がその未来を全く知らないからですよ。

貴殿も御存知の通り、我々は幾度と無く向こう側の世界の、様々な時代へと否応無く招かれては、無償の活躍を強いられ続けている訳ですが、毎回異なる年代と場所ではあるけれども、ある程度決められた範囲内に集約していると、お気づきではありませんか?

有史以前から存在するであろう世界の長い歴史を考えれば、もっと原始的な暮らしをしていた時代や、もっと進化した未来が混じっていても、全然おかしくないにも拘わらず、どうもとある年代に集中していると。

これが意味する所は、向こう側の世界の始まりから終わりまでの全ての年代が、我々の派遣される範疇では無いと言う事でしょう。

この限定される理由として考えられるのが三つありまして、一つは未だ向こう側の世界でも、そこまで時の流れが達していないのではないか、と言う解釈です。

こちら側である闇の世界と向こう側の世界とでは、時間軸が異なるのはもはや明白ですが、異なっているだけでどちらも時は存在し流れている、そして我々が派遣されるのは実在した時の間のみで、現在から過去だけなのではないかと。

二つ目は、向こう側の時は既に過去から終焉の未来の果てまで、制限は無くこちらは召喚される、呼び出されないのは召喚可能な者が存在しない、と言う解釈です。

もう既に滅亡していれば誰も召喚出来ないし、神の様な存在を完全否定する世界になっていても、その時代には召喚される事は有り得なくなります。

まあ勿論第三の可能性として、何者かの何らかの制約と言った介入があって、ある範囲以外の要求は我々には届かない様になっている、と言うのも想定出来てしまうので、絶対に滅亡しているなどとは全く言い切れないのですがね。

でもしかし、生物や信者が誰一人いないのなら召喚は有り得ない、この考えはとてもスマートだと、お思いになりませんか?

この世界の仕組みについては、もう少ししたら吾輩の見解が纏まりますので、その時にお話し致しましょう。

雪だるま卿よ、もしも天使の降臨に居合わせられたなら、是非ともその終焉の様をお聞かせ願いますかな?

本日のところは、これにて失礼」

こちらへと体ごと正面を向けて、ブーツの踵を合わせて腕や背筋を伸ばした直立姿勢をとると、肘を曲げて右手で敬礼をしてから、軍人気取りの紳士は姿を消した。

この後私は“嘶くロバの”言動について、色々と考えてみた。

老学者に対する嫌悪は十分に伝わったし、キマイラの子供達へ低い評価を下していたのも、良く判った。

しかしどうもその否定していた態度には、思想の相違と言うよりももっと低次元な、言ってみれば子供の喧嘩の様な雰囲気を感じていた。

彼はアンゲロスの事を推測する際に、専門外などと言って謙遜しておきながら、とてもそうは見えない解説内容を語った。

この様な意固地な否定が見られたのは、前には“隠者”の時にもそうだった気がする。

もしかすると、自分の知力に相当の自信を持っているから、紳士は自分よりも博識な存在を否定している、いわゆる嫉妬、ただそれだけなのではないだろうか、そんな気がして来る。

努力家であり自信家でもある、目立ちたがり屋だとは思っていたが、負けず嫌いでもあると言う事か。

顔に似合わず実に人間らしい、私は率直にそう感じた。

キマイラに対する彼の反応は、老学者の説明していた貴族達と変わらず、物珍しさから来る興味だけしか関心は無く、飽きてしまえばその価値はゼロになり、どうでも良くなる玩具程度にしか捉えてはいまい。

しかしそんな中でも、アンゲロスだけは別の意味で興味を抱いているのは良く判ったが、それは世界を滅亡させる存在としての興味であって、私が思うところとは違っているのは間違いない。

やはりそれは実際に当人達に関わっていない、言わば客観的な判断であるからその様な感想になるのではないだろうか。

実際に見て会って来た私からすれば、やはり老学者からはキマイラ達への慈しみの感情を感じたし、キマイラの子供達もそれを理解して老学者を親として慕っていて、その関係は単に育てた親だからだとか、面倒を見たからと言っただけでは無い様に思えたのだ。

それだけに私としては、最後のキマイラであるアンゲロスの行末が、ロバの紳士の解釈とは違った意味で気になっていた。

アンゲロスに他のキマイラを守らせると言う、その実現方法についてだ。

だがこれはどれだけ気にしたところで、実際にその場面に召喚されなくては、結果は知りようが無いだろうが、これも現状では難しいと私は思っている。

“嘶くロバ”の指摘通りで今までにあった数々の召喚は、向こう側の世界での年代がある範囲に集中しているとは思うが、それに関して私としては何者かの介入に因る物だと考えているからだ。

そしてその介入者は経験上、決して私の望んだ通りの召喚を宛がってくれる事は無い。

この謎について解明されて、それを覆す事が出来るのであれば、任意の時代へと行く事も出来るかも知れない。

私はそう考えて、今のところは“嘶くロバ”の見解を気長に待つ事にして、眠りについた。





第十二章はこれにて終了、

次回から第十三章となります。


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