第十二章 キマイラ3 其の四
変更履歴
2011/04/15 誤植修正 謝った詳細の内容に → 誤った詳細の内容に
2011/04/15 誤植修正 感で対応していた。 → 勘で対応していた。
2011/09/11 記述修正 属性の紙片に関する説明の記述を修正
2011/11/23 記述統一 変り → 変わり
2011/11/23 記述修正 納まり → 収まり
2011/11/24 誤植修正 意志 → 意思
2011/11/24 誤植修正 固体 → 個体
2012/02/12 誤植修正 あらゆる生物の大元は → あらゆる生物の根源は
2012/02/12 誤植修正 縦長の楕円形上の → 縦長の楕円形状の
2012/02/12 誤植修正 形状でありなから → 形状でありながら
2012/02/12 句読点調整
2012/02/12 記述移動 長く眠っていたのか~
2012/02/12 記述修正 私にとっての経過した時の → 経過した時の
2012/02/12 記述修正 経過した時の量を測る事は困難だったが → はっきりと判らなかったのだが
2012/02/12 記述削除 この世界で流れた時刻としては、
2012/02/12 記述修正 お早う御座います → 御早う御座います
2012/02/12 記述修正 有難う御座いました → 誠に有難う御座いました
2012/02/12 記述修正 本日はいよいよ其の御力を → 本日は愈々其の御力を
2012/02/12 記述修正 共に産み出しましょうぞ。 → 共に産み出しましょうぞ」
2012/02/12 記述移動 本日は愈々其の御力を~
2012/02/12 記述修正 初日に儂と共におった時に見た硝子球を → 儀式の間にてフラスコに入る前の事を
2012/02/12 記述修正 巨大な硝子球があり → 巨大な硝子球が有り、
2012/02/12 記述修正 あの硝子球こそが真の姿で → 御覧になってはおらんかも知れませぬが、実はあの時上に巨大な硝子球があり、其処から雫として落下されたのです。其の硝子球こそが真の姿で有り
2012/02/12 記述修正 本体で有る『マナ』です → 本体たる『マナ』で有ります
2012/02/12 記述修正 此のマナは、生物の大元を → 此れは万物を構成する原初の単一元素とされる、ガス状の『カオス』とも表現される物質で
2012/02/12 記述修正 無味無臭の気体のマナを → 無味無臭の気体で有るマナを
2012/02/12 記述修正 こうして作られた生物は → 斯うして作られた生物は
2012/02/12 記述修正 特化した属性のうち → 特化した属性の内
2012/02/12 記述修正 より必要な属性は更に強められ → 必要な属性を維持して確実に増やし
2012/02/12 記述修正 消滅すると考えました → 減らして行くのだと考えました
2012/02/12 記述修正 御自分の周りの状態を → 御自身の周りの状態を
2012/02/12 記述修正 変わっておりはしませぬか? → 変わっておりはしませぬか
2012/02/12 記述修正 濃度の高い気体、と言うより → 濃度の高い気体か或いは、
2012/02/12 記述修正 透明な何かが動いている様な感じがして → 透明な何かがいる様な感じがして
2012/02/12 記述修正 歩く、のでは無く泳いで向かった → 歩くと言うよりは殆んど泳ぐ様にして進んだ
2012/02/12 記述修正 透明な何かは、次第に近づいて来ると、それは → 次第に近づいて来る透明な何かは、
2012/02/12 記述修正 遭遇致しましたかな? → 遭遇致しましたか。
2012/02/12 記述削除 其の名に相応しい御力を~
2012/02/12 記述修正 其処に見えているのは → 其処に見えておるのは
2012/02/12 記述修正 先ずやって頂きたいのは、精子の頭部を良く見て頂きたいのです → 其の精子の頭部を良く見て頂きたい
2012/02/12 記述削除 巨大なオタマジャクシ、と言う表現とは違って殆んど可愛げの無い、
2012/02/12 記述修正 生物の性質を記した属性の紙片を → 生物の性質を記した情報を
2012/02/12 記述修正 生物の原料で有り言ってみれば肉体の材料になると → 生物の肉体を構成する材料になると
2012/02/12 記述修正 其れは、属性の紙片と → 其れは『属性の紙片』と
2012/02/12 記述修正 其こには其の生物の特徴や → 其処には其の生物の特徴や
2012/02/12 記述修正 最初にして頂くのは → 最初に手掛けて頂くのは
2012/02/12 記述修正 選定して頂き → 選定して頂く事でして
2012/02/12 記述修正 選んだ個体以外は、処分して頂きたい → 其の際に選んだ個体以外については処分して頂けますでしょうか
2012/02/12 記述修正 老学者の声が聞こえて来た → 図ったように老学者の声が聞こえて来た
2012/02/12 記述修正 最も優秀な個体の紙片を開き → 其々の個体の紙片を開き
2012/02/12 記述修正 最初の人間の精子の紙片を → 最初の人間の精子の紙片の下に
2012/02/12 記述修正 紙片の下に結合させるのです → 紙片を繋ぐのです
2012/02/12 記述修正 小さな文字で羅列されていたのは → 羅列されていた内容は
2012/02/12 記述修正 容姿、寿命、身体能力 → 容姿・寿命・身体能力
2012/02/12 記述修正 思考力、適応力、繁殖力、等の → 思考力・適応力・繁殖力等の
2012/02/12 記述修正 生物に内在する要素等で → 生物に内在する要素で
2012/02/12 記述修正 こう思えるもの → しかしその様に感じる事もまた
2012/02/12 記述修正 私の処理能力は其れを → 私の処理能力は常にそれを
2012/02/12 記述修正 動物の精子だけではなく植物の花粉も → そのうち動物の精子だけではなく、虫の精子や植物の花粉も
2012/02/12 記述分割 同様の処置を行い、作業が進むに連れて → 同様の処置を行った。作業が進むに連れて
2012/02/12 記述修正 物理的に有り得ない程 → こちらも物理的に有り得ない程
2012/02/12 記述修正 不利益な属性の制約の解除で → 不利益な属性の制約解除で
2012/02/12 記述修正 優性・劣性の固定の解除 → 優性・劣性固定の解除
2012/02/12 記述修正 突然変異の発生確率と条件の変更 → 突然変異発生確率の条件変更
2012/02/12 記述修正 組織培養の抑止の解除 → 組織全能性抑止の解除
2012/02/12 記述修正 細胞分裂回数制限の解除 → 細胞分裂回数制限の解除
2012/02/12 記述修正 循環器系の意思による制御抑止の解除 → 循環器系の任意制御抑止の解除
2012/02/12 記述修正 此れも問題無く対応出来た → これも問題無く対応出来た
2012/02/12 記述修正 老学者の試みている、この究極のキマイラ生成は、 → これは老学者の自論から言ってしまえば
2012/02/12 記述修正 接合させて頂きたい → 接合させて下され
2012/02/12 記述修正 単なる受精時の媒介する → 単に受精を媒介する
2012/02/12 記述修正 そこは確かに昨日に見ていた世界とは違う世界で → そこは昨日目にしていた世界とは全く別の場所で
2012/02/12 記述修正 あの時はたしか、初めて → あの時は初めて
2012/02/12 記述修正 今居られる場所はシャーレの中ですが → 今居られる場所は此方側からするとシャーレの中ですが
2012/02/12 記述修正 命の導き手の見える世界は → 其方で見えておる世界は
2012/02/12 記述修正 シャーレの中の精液の中の世界です → シャーレに入った精液の中の世界です
2012/02/12 記述追加 丁度頭と同じ程度の → 丁度私の頭と同じ程度の大きさをした
2012/02/12 記述修正 縦長の楕円形状の → 縦に長い楕円形状の
2012/02/12 記述修正 一本の胴体の数倍はある → 胴体の数倍はある一本の
2012/02/12 記述修正 転生したらしい → 無事に転生出来たらしい
2012/02/12 記述修正 消去してから執り行い下され → 消去した後に行なわねばなりませぬから御注意を
2012/02/12 記述修正 二枚の紙片を開いて → 二枚の紙片を引き剥がしてから
2012/02/12 記述修正 難しいのではないかと思いきや → 相当難しいのではないかと思いきや
2012/02/12 記述修正 検索は一瞬眺めただけで → 検索は軽く眺めただけで
2012/02/12 記述修正 掛かった時間は体感としては数十秒程度で出来た → 掛かった時間は一分程度だった
2012/02/12 記述修正 そこには『不可』と → そこには『不能』と
2012/02/12 記述修正 不可の文字を爪先でなぞり → 文字を爪の先でなぞり
2012/02/12 記述修正 『可』へと書き換えた → 『可能』へと書き換えた
2012/02/12 記述追加 物理法則として在り得ない事に、
2012/02/12 記述修正 大して変わった様には → 変わった様には
2012/02/12 記述修正 指を滑らせた後の紙片は → その紙片は
2012/02/12 記述修正 更に → 更にこの頃になると
2012/02/12 記述修正 なって行ったのだと → 弱体化したのだと
2012/02/12 記述修正 そんな風に最も劣った人間達に因って → 人間に因って
2012/02/12 記述修正 勝手に産み出されて → 勝手に産み出され
2012/02/12 記述修正 虐げられて死ぬ運命が待つ → 虐げられて死ぬ運命しかない
2012/02/12 記述修正 退化して劣化した → 退化し劣化した
2012/02/12 記述修正 しかし此れは → しかしこれは、
2012/02/12 記述分割 決めましたぞ、其の名は → 決めましたぞ。其の名は
2012/02/12 記述修正 大変な作業、御疲れ様で御座いました → これまでの多大なる御尽力、感謝致します
2012/02/12 記述修正 此れで千種に及ぶ → 此れで一千種千種に及ぶ
2012/02/12 記述修正 そうしたらば後は → そうすれば後は
2012/02/12 記述修正 此れを人間の母体に入れて、 → 此れを
2012/02/12 記述修正 延長し続けて来た紙片を → 延長し続けて来た長大な紙片を慎重に貼り合せてから
2012/02/12 記述修正 右巻きに → 慎重に貼り合せてから右巻きに
2012/02/12 記述修正 紙片を元の紙縒りへと戻すと → 元の紙縒りへと戻すと
2012/02/12 記述修正 この十日間の成果でもある → この十二日間の成果である
2012/02/12 記述修正 側面へと押し付けると → 表面へと押し付けてから離れると
2012/02/12 記述修正 精子は途中から → 再び回復して動き出した精子は
2012/02/12 記述修正 自ら進んで浸入して行き → 自ら進んで突入して行き
2012/02/12 記述修正 不透明な膜に覆われて行くのが → 不透明な膜に包まれて行くのが
2012/02/12 記述修正 無事に生まれたら何が起きるのかが → 老学者の想定通りに生まれたらその時何が起きるのか
2012/02/12 記述修正 とても気になったものの → 漠然とした不安を感じたが
2012/02/12 記述修正 懐かしい喪失感を感じつつ → 緩やかな喪失感を感じつつ
2012/02/12 記述修正 今作り出そうとしているのは → それに対して今作り出しているのは
2012/02/12 記述削除 既存の生物達が退化し失っていった力を復活させて、
2012/02/12 記述修正 認識する前に覚めてしまったが → 認識する事なく目が覚めてしまったが
2012/02/12 記述修正 疲れに似た感覚や → それともこの器でも疲労と言うものが蓄積されるのか判らないが
2012/02/12 記述修正 誤差を感じる事も発生し始めていたのだが、そこは宛ら → 誤差を感じる事も起き始めていた。そこは宛ら
2012/02/12 記述移動 そこは宛ら~
2012/02/12 記述修正 首も → 頭部と胴体を繋ぐ首や胴体を繋ぐ腰も
2012/02/12 記述修正 肩も、肘も、手首も、指も → 肩から指先にかけての上肢の各関節も
2012/02/12 記述修正 腰も、股関節も、膝も、足首も、足の指も → 股関節から指までの下肢の各関節も
2012/02/12 記述修正 曲げ伸ばす事が出来た → 違和感無く曲げ伸ばす事が出来た
2012/02/12 記述修正 夕日に照らされた通りでも無く、 → 夕日に照らされた通りでも無ければ
2012/02/12 記述修正 地下の死体置き場でも無く → 地下の施設でも無く
2012/02/12 記述修正 キマイラ達の部屋でも無く、 → キマイラ達の部屋でも無ければ
2012/02/12 記述修正 生贄の倉庫でも無く → 生贄の倉庫でも無くて
2012/02/12 記述修正 十回目の転生での作業も終了した → 十二回目の転生での作業も終了した
2012/02/12 記述修正 生物の遺伝子を持ち → 多くの生物の遺伝子を兼ね備え
2012/02/12 記述移動 今作り出しているのは~
2012/02/12 記述修正 不思議な事に全く見覚えの無い形状でありながら → それは全く見覚えの無い文字でありながら
2012/02/12 記述削除 此れに因って~
2012/02/12 記述修正 捻って開いている最中も → 捻って開いている時も
2012/02/12 記述修正 私が触れると奴らは暫くの間 → 私が触れると暫くの間
2012/02/12 記述修正 遅延無き様に → 何卒遅延無き様に
2012/02/12 記述修正 属性の項目と詳細が適合しなくなり → 属性の項目と値が適合しなくなり
2012/02/12 記述修正 其の生物の持つ属性の項目が連なり → 其の生物の持つ性質の種別が属性の項目として連なり
2012/02/12 記述修正 其の属性の詳細が → 其の属性の状態を示す値が
2012/02/12 記述修正 無効化してしまい、大半の生物は → 無効化してしまいます。
2012/02/12 記述修正 大半の生物は生存に必要な属性が失われてしまって、壊れた遺伝情報になります → 此の際に生存や成長に必須の属性が失われれば、其の生命は死に至るのです
2012/02/12 記述削除 其の結果、此の世界に現存する生物は~
2012/02/12 記述修正 液体に変えた形で → 液体に変換した形で
2012/02/12 記述修正 充填されておるのです → 充填しております
2012/02/12 記述修正 其のままでは貼り付ける事が → 其の儘では貼り付ける事が
2012/02/12 記述修正 つまり紙片を伸縮させる力も → 詰まり紙片を伸縮させる力も
2012/02/12 記述修正 次工程へと進むのみです → 次なる工程へと進むのみです
2012/02/12 記述修正 移行致します故 → 移行致しますので
2012/02/12 記述修正 此れが生物の初期段階を → 生物の初期段階を
2012/02/12 記述修正 再構成時のミスに因り → 再構成時の失敗に因り
2012/02/12 記述修正 項目に対する適切な詳細が → 項目に対する適切な値が
2012/02/12 記述修正 宛がわれなかった場合 → 宛がわれなかった場合に
2012/02/12 記述修正 此の時稀では有りますが → 此の時極めて稀では有りますが
2012/02/12 記述修正 誤った詳細の内容に互換が有ると → 偶然にも項目と値の内容に互換が有ると
2012/02/12 記述修正 属性の種別と詳細の記述が合致して → 属性の項目と値の記述が合致して
2012/02/12 記述修正 現れる事になりまして → 現れる事になります
2012/02/12 記述修正 特徴や性質が全て記されていて → 特徴や性質が全て記されており
2012/02/12 記述修正 先程の老学者の声だけしか → 脳に直接響く様な先程の老学者の声以外
2012/02/12 記述修正 夢で見た気がするが、何の根拠も無いものの、それとは何かが異なっている様に感じる → 夢で見た気がする
2012/02/12 記述修正 さて、作業へと入る前に → 「さて、作業へと入る前に
2012/02/12 記述修正 押し込んでいる最中から → 押し付けていた辺りから
2012/02/12 記述修正 だから私はまず → なので私はまず
2012/02/12 記述修正 片っ端からその動きを → 手当たり次第にその動きを
2012/02/12 記述修正 次々と縦方向に巻かれていた紙片を開きまくっては → 縦方向に巻かれていた紙片を次々と開いては
2012/02/12 記述修正 其の個体は消滅致しますので → 其の個体は消滅致します
2012/02/12 記述修正 掛け合わせたパターンの → 掛け合わせた組み合わせの
2012/02/12 記述修正 頭部を動かしている → 頭部を動かした際の
2012/02/12 記述修正 首の関節の動作は感じるのだが → 首の関節が動作している感覚はあるのに
2012/02/12 記述修正 一面の白のみだ → 一面、白一色のみだ
2012/02/12 記述修正 容易いと言う感想を感じた → 容易いと感じた
2012/02/12 記述修正 余ってしまっていた様で → 余ってしまった様で
2012/02/12 記述修正 紙片を確認していた → 紙片を眺めていた
2012/02/12 記述修正 しかしこれは、 → これは
2012/02/12 記述修正 危ぶみつつ、凌ぎ続けた。そこは宛ら → 危ぶみつつ、そこは宛ら
2012/02/12 記述修正 熟練度と勘で対応していた → 熟練度と勘で対応して凌いだ
2012/02/12 記述修正 まず人間の紙片の項目が → まず新たな生物の紙片の項目が
2012/02/12 記述修正 新たな生物の下へと → 人間の紙片の下へと
2018/01/08 誤植修正 そう言う → そういう
「御早う御座います、命の導き手よ、昨日は儂の長話に御付き合い頂き、誠に有難う御座いました。
本日は愈々其の御力を発揮して頂き、全ての生物の頂点に立つべき存在を、共に産み出しましょうぞ」
長く眠っていたのか、それともほんの僅かな時間だったのか、はっきりと判らなかったのだが、老学者の言葉に因って翌朝を迎えていたのが判った。
「さて、作業へと入る前に、御呼びしている名称で有る、『偉大なるマナ』と『命の導き手』、此の二つの名の意味を御話致しましょう。
儀式の間にてフラスコに入る前の事を覚えておいででしょうか、御覧になってはおらんかも知れませぬが、実はあの時上に巨大な硝子球が有り、其処から雫として落下されたのです。
其の硝子球こそが真の姿で有り、更に正確にはあの密封された硝子球に満たされている液体、其れこそが本体たる『マナ』で有ります。
此れは万物を構成する原初の単一元素とされる、ガス状の『カオス』とも表現される物質で、通常は無味無臭で有る気体のマナを凝縮して、液体に変換した形で硝子球の内部に充填しております。
そして液化したマナは、一日に一滴だけ硝子球より滲み出て雫となって現れ、此れこそが創造主の意思と、生命創造の力を持った物質である、『偉大なるマナ』なのです。
此の液化したマナを更に凝縮し固体化させると、生物の肉体を構成する材料になると仮定しており、此れに魂とも言える、生物の性質を記した情報を埋め込む事に因り、生物は完成致す訳です。
斯うして作られた生物は、世界の様々な場所へと散らばり、其々の淘汰を経て進化して行ったと言う仮説を立てておりまして、此の考えでは、あらゆる生物の根源は最終的に一種類の生物に行き着く事になります。
因みに現在の生物でも、マナから作られた肉体は極僅かでは有りますが、生殖細胞の精子や卵子として機能を限定して残っており、此れに因りあらゆる生物は肉体を増殖させて、有るべき姿へと成長する事が可能なのです。
一つの生物から始まった無数の分化に因り発生した個体の差異は、交配時に親から子へと継承されて行くのですが、そうした特化した属性の内、優性のものをより強く、劣性のものをより弱く伝えていく事で、必要な属性を維持して確実に増やし、不要な属性を減らして行くのだと考えました。
此れ等の生物の分化に因る、種の特徴を与えたのを創造主の意思と捉えると、此の各生物への特化を齎して行く進化の過程を、創造主に因る進化の制御と位置づけて、生きとし生けるものの命の継承を導く者として、此の力を『命の導き手』と名付けました。
前回作り出した『エーテル』との違いは、神の意思の有無で有りまして、エーテルは単に受精を媒介する力しか無く、遺伝情報に対する意思に従った操作は一切出来ぬ物であった為に、大量の失敗作を作る結果となってしまいましたが、今回は神の意思を内在して、其の神の手で以って望む進化を導くのです。
呼び名について御理解頂けた所で、御自身の周りの状態を確認して頂きたいのですが、昨日迄と変わっておりはしませぬか」
そう言われて、私は改めて周囲を見渡してみると、そこは昨日目にしていた世界とは全く別の場所であるのに気づいた。
老学者の声こそ聞こえるがその姿は無く、ここは夕日に照らされた通りでも無ければ地下の施設でも無く、キマイラ達の部屋でも無ければ生贄の倉庫でも無くて、私の視界は一面真っ白になっていた。
ただひたすらに真っ白な世界。
そこはまるで、いつもの闇の世界を反転した様な場所であり、昔に一度だけ、これと同じ様な世界を夢で見た気がする。
あの時は初めて“嘶くロバ”を目にした時だった。
あの夢と大きく異なるのは、以前の夢では私は自分の体を認識する事なく目が覚めてしまったが、今回の私は己の肉体を感知している点だ。
これは昨日までの器ですら出来ていなかった違いであり、快挙とさえ思えるほどの変化だった。
知覚している肉体は人間の体と同様の形状らしく、二本の腕と足を持ち、頭があってそこに目が付いている。
頭部と胴体を繋ぐ首や胴体を繋ぐ腰も、肩から指先にかけての上肢の各関節も、股関節から指までの下肢の各関節も、違和感無く曲げ伸ばす事が出来た。
皮膚には感触があり、この空間が何か相当に濃度の高い気体か或いは、質量の低い液体の中であるかの様に感じている。
しかし耳からは音は聞こえていないのか、脳に直接響く様な先程の老学者の声以外聞こえてこない。
真っ白な世界は本当に白い世界なのか、それともそうされた記憶は無いが、私の視覚が強力な光等で焼きついてしまい、何も見えていない事に気付けないでいるのか、この点が良く判らない。
自分の腕や足を見ようとして視線を下へと向けてみても、頭部を動かした際の対流の抵抗や、首の関節が動作している感覚はあるのに、依然として見えるのは一面、白一色のみだ。
そう思いながらも目の前を凝視していると、遠くで何かが動いていると言うか、透明な何かがいる様な感じがして、私はそちらへと向かって、歩くと言うよりは殆んど泳ぐ様にして進んだ。
次第に近づいて来る透明な何かは、一つでは無くて幾つもの群れと言っていいのか判らないが、複数いるのが判った。
ほぼ透明のゼリーの様なそれにもっと近づいてみると、感覚的に計った私の体で表せば、丁度私の頭と同じ程度の大きさをした、縦に長い楕円形状の頭部と思える体に、胴体の数倍はある一本の細長い尻尾が生えており、それを左右に振る事に因って推進力を得ている様だ。
これ以上接近して良いのかが判らず、警戒して側面へと回り込んでみると、それは球状をしているかと思いきや、先頭部分はかなり潰れた様に厚みが無く、後方の尻尾へと近づくにつれて、段々と厚みが増して来る形状だった。
それらは意思を持っているのかどうかも判らないが、とにかく止まる気は無い様でひたすらに長い尻尾を揺らして、泳ぎ続けていた。
「命の導き手よ、そろそろ彼等に遭遇致しましたか。
先ずは其の場所から御説明致すと、今居られる場所は此方側からするとシャーレの中ですが、其方で見えておる世界は、シャーレに入った精液の中の世界です。
今は命の導き手としての姿で、其の小さな世界に合わせた体、正確には感覚器官だけが目に見えぬ程に微細になっておるのです。
其処に見えておるのは、人間の精子の群れで有りまして、其の精子の頭部を良く見て頂きたい。
透明か、或いは半透明の姿で有ると思われますが、其の頭の中に小さな紙縒りの様な物は見えませぬか」
そう言われて、大きな生殖細胞に近づいて良く見ると、頭部の中央に何か捩れた短い小枝に似た物が見えた。
「其れは『属性の紙片』と名付けたものでして、其処には其の生物の特徴や性質が全て記されており、其の情報を卵子へと運ぶのが、其処に居る生殖細胞たる精子の仕事で有ります。
属性の紙片は、貼り合わされた二枚で一組になっておりまして、一方の紙片には、其の生物の持つ性質の種別が属性の項目として連なり、もう一方の紙片には、其の属性の状態を示す値が記述されております。
そして、貼り合わされた二枚が重なる事に因り、属性の項目と値の記述が合致して、其の生物の特徴として反映されておるのです。
此れがずれたりした場合には、属性の項目と値が適合しなくなり、其の属性は無効化してしまいます。
此の際に生存や成長に必須の属性が失われれば、其の生命は死に至るのです。
通常の交配では、雄の精子から齎された紙片と、雌の卵子から齎された紙片を照合して、二つの親の持つ項目を掛け合わせた組み合わせの何れかを与えられて、新たな紙片として再編成されます。
再構成時の失敗に因り、項目に対する適切な値が宛がわれなかった場合に、此の時極めて稀では有りますが、偶然にも項目と値の内容に互換が有ると、本来持っていなかった属性となって現れる事になります、此れが突然変異で有ります。
此の様に属性の紙片は、生物の初期段階を定める全てで有り、とても重要な物なのです。
命の導き手よ、最初に手掛けて頂くのは、其の属性の紙片が最も大きな個体を選定して頂く事でして、其の際に選んだ個体以外については処分して頂けますでしょうか。
紙片の大きさを確認するには、手を頭部に差し込んで、捩れている紙片を捻って有るのを戻すと、丸めた筒状になっておる筈です。
其れを開いて頂ければ、縦長の二枚の紙が現れますので、其の紙がより長い個体を選んで頂きたいのです。
不要な個体の処分方法は、紙片を頭部から引き抜いて下され、そうすれば其の個体は消滅致します。
此れが本日の作業で有ります、翌日には次の作業へと移行致しますので、此れを本日中に完了させて下され。
此方は命の導き手の転生の時を区切りとして、工程を進捗させて行きますので、何卒遅延無き様に進めて頂きたく存じます」
昨日の段階で、そういう予感が無かったと言えば嘘になるが、誰の物とも知れない精液の中を泳ぐ事になろうとは、これは身の毛も弥立つ思いだ。
老学者の発した内容は、完全には理解しきれずにいたが、特に気になったのが転生だった。
前回フラスコごと落とされて、次に目覚めたらここに居たのは、転生だったのだろうか。
あの様な感じで私はまた意識を失うから、それよりも早く言われた作業を消化しておかねばならないと言う事か。
何匹居るのか数える気もしない精子の群れを眺めながら、途轍も無い激務を宛がわれた様な気がして仕方が無かったが、文句を言っても始まらないのだろう。
私は色々と考えるのを切り上げると、大きく溜息を吐いてから、覚悟を決めて作業へと入る事にした。
老学者より作業内容を聞いた時には、どうなる事かと思われたが、実際に始めてみると、これは意外と容易い作業である事が判ってきた。
まず、巨大な精子の怪物は捕まえるのが容易で、私が触れると暫くの間、ピクリとも動かなくなるのだ。
なので私はまず精子の群れに突入して、手当たり次第にその動きを封じておいてから、縦方向に巻かれていた紙片を次々と開いては、その中で最も大きい物以外の紙片を引き抜く、と言う手順を繰り替えすと作業は思いの他捗り、気づけば全ての精子は片付いていた。
時間はかなり余ってしまった様で、私はその間に一匹だけ残した精子の、開いたままになっている紙片を眺めていた。
二枚が貼り合わされているとは聞いていたが、寸分のずれも無く重なっているらしく、捻って開いている時も二枚である様には感じなかった。
中の記述を確認してみたいが、老学者の指示に無い事をするのは、危険であろうと判断して触らずにおき、時が尽きるのを待っていると、唐突に私は意識を失った。
再び目を覚ますと、またしても真っ白な世界だったが、前回と異なる点があり、それは昨日私が一つ選んだ精子が傍に居た事だ。
どうやら私は無事に転生出来たらしい。
そして、今日の仕事がそろそろ来るのだろうと考えていると、図ったように老学者の声が聞こえて来た。
「命の導き手よ、前回の作業は無事に達成されたで有りましょうか。
儂からは其れを確認する術は有りませぬから、達成したと信じて次なる工程へと進むのみです。
今回は前回と同様の作業に加えて、属性の紙片を加工して頂きます。
此れは本来其の生物には持ち得ない属性を、他の生物から取り込む作業で有りまして、前回のエーテルでは不完全で有った力で有ります。
手順としては、其々の個体の紙片を開き、二枚の紙片を引き剥がしてから、精子同士を結合させて最初の人間の精子の紙片の下に、今回の生物の精子の紙片を繋ぐのです。
生物の種類が離れれば離れる程、此の紙片の大きさも変わり、其の儘では貼り付ける事が出来ませぬが、命の導き手には其れを修正する力、詰まり紙片を伸縮させる力も内在しておりますので、其れを御使い下され。
其れと其の前に、精子同士の結合が抑止されている記述が紙片に有りますので、先ず此れを消去した後に行なわねばなりませぬから御注意を。
今の内に人間の紙片から此の属性を消す作業を実行して頂き、其の間に此方は次なる生物の精液を準備して、混合致しましょう」
私は老学者の指示通りに、人間の精子の頭部内で縦長の帯状に開いたままにしていた紙片を、二枚に剥がす様に開いて内側の記述を確認する。
そこにはとても小さな文字がぎっしりと書かれていて、それは全く見覚えの無い文字でありながら、私にはその記述内容が理解出来た。
羅列されていた内容は、容姿・寿命・身体能力といった対外的にも判る要素や、思考力・適応力・繁殖力等の生物に内在する要素で、それは数百行の項目に分かれて、事細かに記載されていた。
こんな大量にある記述の中から、先程告げられた一項目を見つけ出すなんて、相当難しいのではないかと思いきや、これも神の力か検索は軽く眺めただけで判別可能なのが判り、見つけ出すまでに掛かった時間は一分程度だった。
精子同士の結合、と言う項目に対する値を確認すべく、もう一枚の紙片の同一行を確認すると、そこには『不能』と記されているのが判り、私はこの文字を爪の先でなぞり、『可能』へと書き換えた。
こうして、準備が出来た頃に次なる精子の群れが現れ、私は前回と同様の作業を前よりも更に素早く行って、最も優秀な精子のみを生存させた後に、精子同士の結合抑止の解除を施し、人間の精子と結合させた。
精子同士を押し付けると、まるで水滴同士が繋がるかの様に、接触面の境界が消えて一つの精子へと変化したが、物理法則として在り得ない事に、その大きさは別々の時と変わった様には見えなかった。
この後に再び頭部へと手を入れて、まず新たな生物の紙片の項目が連ねてある紙片を、人間の紙片の下へと寸法を合わせてから、ずれの無い様に上辺と下辺を合わせて、指でなぞる。
するとその紙片は、継ぎ目の無い一枚の紙へと変わって行く。
項目の方の紙片が完了したら、今度は値の方の紙片を処理し、こちらも完全な一枚の長い帯状の紙へと変化した。
この作業も思ったよりは面倒なものでは無く、一度手順さえ知ってしまえば容易いと感じた。
しかしその様に感じる事もまた、この定義に秘められている神の力の一部なのだろうかと考えていると、やはり唐突に意識が切断された。
次の転生からは、回を重ねる毎に結合する生物の数は倍に増やされたものの、私の処理能力は常にそれを凌駕していったので、然程問題は無く作業を消化する事が出来た。
そのうち動物の精子だけではなく、虫の精子や植物の花粉も入ってきたが、特に問題も無く同様の処置を行った。
作業が進むに連れて長大に伸びて行く二本の紙片は、とりあえず巻物の様に丸めるとこちらも物理的に有り得ない程小さくなり、無事に精子内に収まり続けていた。
更にこの頃になると、紙片内の記述修正に関しても、幾つかの対応を追加していた。
一つは胎児の姿を人間に保つ為に、人間以外の精子の属性を全て劣性に書き換える事で、この措置を行う事に因って、通常の生物として安定して誕生まで成長させる事を可能にするらしい。
それともう一つは不利益な属性の制約解除で、多数の遺伝情報を一つの個体内で適用させる為の、優性・劣性固定の解除、多数の遺伝情報を切り替える為の、突然変異発生確率の条件変更、任意の部位の再生を可能にする為の、組織全能性抑止の解除、寿命に因る死を回避する為の、細胞分裂回数制限の解除、肉体の成長や再生の速度調整を可能とする為の、循環器系の任意制御抑止の解除等が追加されたが、これも問題無く対応出来た。
老学者曰く、これらの生物に埋め込まれた制限は、元々の神の作り出した初期には存在しなかったが、進化の過程で各種族へと分化して行く内に、自ら追加して行ったのではないかと推測していた。
つまり生物は、当初は神に匹敵する力を持っていたのを、どんどんその力を手放して、より弱く脆く儚いものへと弱体化したのだと、考えている様であった。
それに対して今作り出しているのは、分化する事で得た様々な特徴を持った多くの生物の遺伝子を兼ね備え、それを自在に自分の肉体として作り出し、寿命も無く成長速度すら理想通りに変化させる、まさに究極のキマイラだと私は感じていた。
これは老学者の自論から言ってしまえば、進化のつもりで退化した時に付けられた枷を、ただ外しているだけとも言える訳で、そう考えると生物の中でも最も進化している人間とは、実は最大限に弱体化した姿でしかないのか等と考えてしまう。
人間に因って勝手に産み出され、虐げられて死ぬ運命しかない我が子を守る、それが老学者の考えならば、目的の為であれば、退化し劣化した種でもある人間を滅亡に追い込む事も、別に厭わないのだろうか。
私は与えられた作業を凄まじい速さで行いながら、その様な事を考えていた。
これ以降も幾度かの作業と転生は繰り返されて、後半になってくると、こなす作業量が膨大になった所為なのか、それともこの器でも疲労と言うものが蓄積されるのか判らないが、視覚や触覚に僅かながら誤差を感じる事も起き始めていた。
これは糧の消耗か何かの衰えの表れではないかと危ぶみつつ、そこは宛ら職人の様な熟練度と勘で対応して凌いだ。
こうして、十二回目の転生での作業も終了した。
初日とは比較にならない速度で処理が出来る様になったのが、これ程の能力も老学者の想像した神の力であり、全ては計算通りだったと言う事なのだろうかと考えていると、珍しく作業後に老学者の声が響いた。
「偉大なるマナよ、命の導き手よ、これまでの多大なる御尽力に感謝致します。
此れで一千種に及ぶ生物の遺伝情報を組み込んだ、究極の生物の精子は完成致しました。
精子の中の紙片を、ずれ無く表同士を合わせた後に、元通りに丸めて右巻きに捻って下され、そうすれば後は、此れを受精させるのみで有ります。
此れが最後の作業になります、もう暫くすると今迄に無い大きさの物が現れます、其れが人間の卵子で有りまして、其の卵子に作り上げた精子を接合させて下され。
あまり時間の猶予は御座いませぬ、今迄の作業でマナは殆んど消費されておって、此れが最後の一滴なのです。
最後の作業を、何卒達成して下され、宜しく御願い致します。
其れと、儂は此の最後の子供の名を決めましたぞ。
其の名は、アンゲロス……」
老学者の最後の方の言葉が聞き取りづらくなったのは、糧が切れ掛かっている所為だろうか。
とにかく今は先に最後の仕事を果たすべく、私は今まで延々と延長し続けて来た長大な紙片を、慎重に貼り合せてから右巻きに捻り元の紙縒りへと戻すと、この十二日間の成果である精子を誘導して、前方に見えて来た、傍にある精子の数十倍はある巨大な球体の卵子の方へと近づけて行く。
そして精子をその巨大な球体の表面へと押し付けてから離れると、再び回復して動き出した精子は自ら進んで突入して行き、やがて完全に内部へと侵入した。
押し付けていた辺りから、私の感覚は薄れつつあるのが判り、いよいよ力尽きるのが判った。
精子が浸入した部分から白く濁った色の膜が波紋の様に広がって行き、やがて卵子は曇り硝子で覆われた様な、不透明な膜に包まれて行くのが、霞み始めた視界で辛うじて確認出来た。
どうやら上手くいったらしい、これで終わったのだと安堵しつつも、この究極のキマイラであろうアンゲロスが、老学者の想定通りに生まれたらその時何が起きるのか、漠然とした不安を感じたがそれを考察する間も無く、ここ最近とは違った緩やかな喪失感を感じつつ、私は意識を失った。