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『誓約(ゲッシュ) 第一編』  作者: 津洲 珠手(zzzz)
第十一章 逃亡
50/100

第十一章 逃亡 其の三

変更履歴

2011/11/12 誤植修正 位 → くらい

2011/11/12 誤植修正 話しっけ → 話したっけ

2011/11/13 記述統一 一センチ、十メートル → 1cm、10m

2011/11/30 誤植修正 膝まづいてから → 跪いてから

2011/12/28 誤植修正 捕まっていた手を放して → 掴まっていた手を放して

2011/12/28 誤植修正 思っていただけのに → 思っていただけなのに

2011/12/28 誤植修正 見取ってもらった → 看取ってもらった

2011/12/28 誤植修正 私の前にみんなが来てくれた → 私の前に来てくれた

2011/12/28 誤植修正 名前も若らない → 名前も判らない

2011/12/28 誤植修正 土が抜かるんで → 土が泥濘んで

2011/12/28 誤植修正 見失ってしまっていただろう → 見失っていただろう

2011/12/28 誤植修正 鳴き声が小さくなると → 泣き声が小さくなると

2011/12/28 誤植修正 十八歳たから → 十八歳だから

2011/12/28 誤植修正 見通しの聞かない → 見通しの利かない

2011/12/28 句読点調整

2011/12/28 記述修正 レイピア → サーベル

2011/12/28 記述修正 みんなの敵を取ったんだよ → みんなの仇を取ったんだよ

2011/12/28 記述修正 約束が違うって詰め寄ったら → 約束が違うって言ったら

2011/12/28 記述修正 私はこの時 → この時私は

2011/12/28 記述修正 とても出来ないって訴えた → とても出来ないって答えたの

2011/12/28 記述修正 吾子の胸を、私が刺したの、この手で、自分の妹の胸を → 私が刺したの、この手で、吾子の胸を

2011/12/28 記述修正 まさに頃合の → こうして準備を終えた直後、まさに頃合の

2011/12/28 記述修正 彼等が落ちて行った場所を → 彼等が落下した場所を

2011/12/28 記述修正 保たれているのが怪しいだろう → 保たれているかも怪しいだろう

2011/12/28 記述修正 召喚者の姉に対する → もう召喚者の姉に対する

2011/12/28 記述修正 そんな起死回生の展開が → 奇跡的な起死回生の展開が

2011/12/28 記述修正 超えられぬものは超えられないのか → 超えられぬものはどうあっても超えられないのか

2011/12/28 記述修正 傷だらけの鈍色の指輪だった → 鈍色をした傷だらけの指輪だった

2011/12/28 記述修正 その時に、吾子は → その時吾子は、

2011/12/28 記述修正 泣いて姉様に頼んだよね → 泣いて姉様に頼んだっけ

2011/12/28 記述修正 昔来た時は、姉様はね、馬で遠乗りで → 姉様はね、前に馬で遠乗りして

2011/12/28 記述修正 ここを見つけたって話したっけ → ここを見つけたって教えたよね

2011/12/28 記述修正 こんな事になるのだったら → こんな事になるんだったら

2011/12/28 記述修正 吾子を連れて行ってあげておけば → 連れて来てあげれば

2011/12/28 記述修正 本当にごめんね → 本当にごめんね、吾子

2011/12/28 記述修正 実の姉に殺されなければならなかったのですか → 監禁され続けた挙句に、不自由な体にされてしまったのですか

2011/12/28 記述修正 次に再び姉の元へと戻って → 次に再び姉の元へと戻って、まず娘の亡骸へ大地を肥沃にする力を奮い、その後

2011/12/28 記述修正 周囲に茂る草木に力を注ぎ → 周囲に茂る草木に力を注いで

2011/12/28 記述修正 木と草で覆い尽くして行く → 植物で覆い尽くして行く

2011/12/28 記述修正 あの姉の体は → あの姉の体は土へと還って、

2011/12/28 記述修正 先程姉が形見を投げた湖底へと移動してから → 湖の中へと移動してから

2011/12/28 記述修正 水草は形見の品に絡みつきながら → 水草は形見の品に絡みつきつつ

2011/12/28 記述修正 その姿を飲み込んでいった → その姿を消し去っていく

2011/12/28 記述修正 一緒に心中しようと思ってそれを伝えると → 一緒に死のうと思ってそれを吾子に話したら

2011/12/28 記述修正 吾子に止められた → 吾子はそれには答えないで、私にお願いがあるって言い出したの

2011/12/28 記述修正 良い様に弄ばれて、相手をさせられて → 相手をさせられて良い様に弄ばれて

2011/12/28 記述修正 約束が違うって言ったら、あの男は言ったんだ → 約束が違うって言ったらあの男は

2011/12/28 記述修正 私の頼みなんて聞く気も無かった → 私の頼みなんて聞く気も無かったんだ

2011/12/28 記述修正 自分が一番良く知っているって → 自分が一番良く知っているって、私に言ったの

2011/12/28 記述修正 お前には既にその資格を → お前は既にその資格を

2011/12/28 記述修正 私に言ったの、あいつは初めから → 私に言ったの。あいつは初めから

2011/12/28 記述修正 この時は堪え切れなくて → この時は堪え切れなくって

2011/12/28 記述修正 泣きながらそんな事はとても出来ないって → 泣きながらそんな事出来ないって

2011/12/28 記述修正 しかしこんな様子は長くは続かずに → しかしそれも長くは続かずに

2011/12/28 記述修正 完全に意識を失ったらしく → 錯乱した娘は完全に意識を失って

2011/12/28 記述修正 これは大地母神の持つ力が → これには大地母神の持つ力が

2011/12/28 記述修正 何であるかも描かれていた → 何であるかも記されていた

2011/12/28 記述修正 慈雨の力と生物の繁殖と成長させる力であり → その力は大地への慈雨や肥沃を齎す力と、植物への繁殖と成長を促がす力であり

2011/12/28 記述修正 生物を死に追いやる様な、敵を打ち倒す力も → 敵を死に追いやる様な打ち倒す力も

2011/12/28 記述修正 まずは、天空へと向かって → まずは天空へと向かって力を放ち、

2011/12/28 記述修正 これ以上の追手に嗅ぎつけられない様 → これ以上追手に嗅ぎつけられない様

2011/12/28 記述修正 治癒の力は書かれていなかったが → 治癒の力は記されていなかったが

2011/12/28 記述修正 私が招いた特別の雨を吸って → 私が招いた特別な雨の水を吸って

2011/12/28 記述修正 先程の草とは異なり → こちらは先程の草とは異なり

2011/12/28 記述修正 愚かしくも今まさに逃亡者が、上り坂を越えて → 今まさに逃亡者が上り坂を越えて

2011/12/28 記述修正 遠ざかって行くと完全に勘違いして → 遠ざかって行くと勘違いして

2011/12/28 記述修正 辿れたかも知れない犬に向かって → 辿れたかも知れない犬へと

2011/12/28 記述修正 こちらへと突撃の命令を発してから → 何か命令を発して

2011/12/28 記述修正 私が見えたらしく → 私を見た途端に

2011/12/28 記述修正 掴まっていた手を放して → 掴まっていた手を放してしまい

2011/12/28 記述修正 まずは最も気に掛かっていた → だがその前に、最も気に掛かっていた

2011/12/28 記述修正 想像以上に糧を消費してしまったが → 想像以上に消費してしまったが

2011/12/28 記述修正 もう召喚者の姉に対する治癒を → もう姉に対する治癒を

2011/12/28 記述修正 せいぜい、死に場所を選ばせてやるくらいの → せいぜい死に場所を選べる程度に、

2011/12/28 記述修正 命を維持させたに過ぎない → 僅かに死期を延ばしたに過ぎない

2011/12/28 記述修正 私の治癒の効果が → もしや私の治癒の効果が

2011/12/28 記述修正 倒れていた手負いの姉は居ない → 倒れていた手負いの姉は、サーベルだけを残して消えていた

2011/12/28 記述修正 にわか雨程度にしか降らせられなくて → にわか雨程度で

2011/12/28 記述修正 足跡が雨で消される事も無い → どちらも雨で消される事も無い

2011/12/28 記述修正 これが本当に回復した力では無く → これは本当に回復したのでは無く

2011/12/28 記述修正 救済対象たる姉の死であると → 救済の対象である姉の死だと

2011/12/28 記述修正 遣り切れないものを感じる → 何とも遣り切れないものを感じる

2011/12/28 記述修正 姉も理解したらしく → 姉自身も理解したらしく

2011/12/28 記述修正 浸透し始めたのだろうか、いよいよ時間は無くなったのを → 浸透し始めたのだろうか。いよいよ時間が無くなったのを

2011/12/28 記述修正 でもみんな少しずつしか無いけど → みんな少しずつしか無いけど

2011/12/28 記述修正 母様も苦笑いしていたから → 昔母様と吾子と姉様で話をした時に、女神様は草や木の神様だからそう言うのは出来ないって、母様も苦笑いしていたから

2011/12/28 記述修正 思い違いだって思っていたけれど → 思い違いだって思っていたけど

2011/12/28 記述修正 吾子は正しかったんだね → 吾子の言ってた通りだった

2011/12/28 記述修正 連れて行って欲しいって → 連れてって欲しいって

2011/12/28 記述修正 再び朝日へと向けてから更に続けた → 再び朝日へと向けつつ、更に話を続けた

2011/12/28 記述修正 苦痛からか胸に手を当てつつ → 苦痛からか顔を歪めて胸に手を当てつつ

2011/12/28 記述修正 ここで呼吸の際の苦痛の所為で引き攣っていた表情を → ここで攣っていた表情を

2011/12/28 記述修正 呼吸を繰り返してから、ここで攣っていた表情を → 呼吸を繰り返していた。そしてその後、攣っていた表情を

2011/12/28 記述修正 泣くのは良いけど → 泣いてもいいけど

2011/12/28 記述修正 姉様も父様と交代させてくれるかもね → 父様も姉様と交代させてくれるかも

2011/12/28 記述修正 そしたら戦争に参加させられて → そしたら戦争に巻き込まれて

2011/12/28 記述修正 終いには戦いに敗れて、敗戦国の賠償としてここが敵国に譲渡されてしまった → 私達の土地も民も全て奪われてしまった

2011/12/28 記述修正 女神様、何故慎ましく暮らしていた私達が、どうしてこんな不幸な運命を辿らなければならないのです → どうかお教え下さい女神様、どうしてなのですか

2011/12/28 記述修正 女神様 → 女神様、これが最後のお願いです

2011/12/28 記述修正 体は穢れてしまった私ですが → 穢れてしまった私ですが

2011/12/28 記述修正 どうかこんな私だけど、みんなの元へと → どうかみんなの元へと、

2011/12/28 記述修正 横へと倒れて、動かなくなった → 横へと倒れて、それきり動かなくなった

2011/12/28 記述修正 両親の仇であった男も殺して → 両親の仇であった男も殺し

2011/12/28 記述修正 愛する妹をその手で殺め、自分を陵辱し続けた両親の仇であった男も殺し → 自分を陵辱し続けた両親の仇であった男を殺し、愛する妹をもその手で殺め

2011/12/28 記述修正 終に息絶えたのだった → 遂に息絶えたのだった

2011/12/28 記述修正 それを伝えられる力も無ければ → それを伝える力も無ければ

2011/12/28 記述修正 真相は語る筈も無い → 真相を語るつもりは無い

2011/12/28 記述修正 儚い望みとしての幻想を持たせるべきだ → 儚い希望であっても幻想を与えるべきだ

2011/12/28 記述修正 それが人として死にゆく人間へ対する礼儀であると → それが死にゆく人間に対する最後の慈悲であると

2011/12/28 記述修正 その後姉の亡骸の周囲に → その後亡骸の周囲に

2011/12/28 記述修正 唯一この湖の周囲で → 唯一湖の周囲で

2011/12/28 記述修正 無意識でなのか冷や汗ではなくて、啜り泣きながら → 啜り泣きながら

2011/12/28 記述修正 これが約束を果たせなかった → これが使命を果たせなかった

2011/12/28 記述修正 手向けになれば良いが、私はそう思いながら → 手向けになれば良いが。私はそう思いながら

2011/12/28 記述修正 促進させるべく力を注ぐ。水草は形見の品に → 促進させるべく力を注ぐと、水草は形見の品に

2011/12/28 記述修正 召喚者の姉が望んだ → 姉が望んだ

2011/12/28 記述修正 本当に望んだ事は叶わなかったのは → 本当に望んだ事は叶わなかったのも

2011/12/28 記述修正 こんな事になってしまったのだろう → こんな事になってしまったんだろう

2011/12/28 記述修正 のですか。 → のですか?

2011/12/28 記述修正 この頃には姉様は十八歳だから → この頃には姉様は十八だから

2011/12/28 記述修正 私は父様について → きっと父様と一緒に

2011/12/28 記述修正 崖っぷちに出てしまった時 → 崖に出てしまった時

2011/12/28 記述修正 これだけしか連れて来れなくて → これだけしか連れて来れなくって

2011/12/28 記述修正 でも、ここより遠くは → それに、ここより遠くは

2011/12/28 記述修正 姉様は行った事が無いから → 姉様も行った事無いから

2011/12/28 記述修正 目指す場所も無かったんだ → 目指す場所も無かったの

2011/12/28 記述削除 本当は吾子を連れて来て~

2011/12/28 記述修正 ここで眠れるから → ここで静かに眠れるから、それで許して

2011/12/28 記述修正 重傷を負い何の装備も無い痩せた子娘が超えられる様な山脈では無い → 何の装備も無く重傷を負っている痩せた子娘一人が、越えて行ける様な山脈などあろう筈も無い

2011/12/28 記述修正 逃げ出させない様に吾子の足の腱を切ったの → 逃げ出せない様に吾子の足の腱を切ったの

2011/12/28 記述修正 それだけじゃなくて → それだけじゃなくって

2011/12/28 記述修正 この手にかけてしまったの → この手で殺してしまった

2011/12/28 記述修正 父様、母様を処刑した → 父様と母様を処刑した

2011/12/28 記述修正 焦点が定まらなくなりつつあり → 焦点が定まらなくなって

2011/12/28 記述修正 止まらない冷や汗は → 止まらない汗は

2011/12/28 記述修正 波紋が収まり再び水鏡へと戻った湖から視線を放すと → 再び水鏡へと戻った湖から視線を放すと

2011/12/28 記述修正 恐らく髪は妹の物なのだろう、長い髪の束と → 恐らく妹の物であろう長い黒髪の束と

2011/12/28 記述修正 隠しから何かを取り出して → 隠しから何かを取り出してから

2011/12/28 記述修正 湖に向かって投げ放った → 湖に向かって放り投げた

2011/12/28 記述追加 すぐに私は姉の向かった後を追うべく~

2011/12/28 記述追加 捜索を開始すると~

2011/12/28 記述追加 それは、血痕と足跡だった。

2011/12/28 記述修正 全速力で飛びかかろうとした犬が → 全速力で襲い掛かって来た犬が

2011/12/28 記述修正 私の頭に当たる部分を貫通して → 私の首に当たる部分を擦り抜けて

2011/12/28 記述修正 崖の下へと飛び込んで行き → 崖の下へと消えて行き

2011/12/28 記述修正 先程仕込んだ木の根が大地を隆起させて成長したところに → 先程仕込んだ木の根が成長して、大地を隆起させたところに

2011/12/28 記述修正 濡れた石や岩場の地面から → 濡れた岩場の下り坂から

2011/12/28 記述修正 面白い様に崖底へ転げ落ちて行く → 崖下へと、次々に転げ落ちて行く

2011/12/28 記述修正 場所よりも斜面の勾配がきついのと → 場所よりも、もっと斜面の勾配がきついのと

2011/12/28 記述修正 頂点から先には → 頂点から先は崖までが下りになっているが、そこには

2011/12/28 記述修正 姉へと僅かに成長の力を → 姉へと力を

2011/12/28 記述修正 とても痛い筈なのに → とても痛くて苦しい筈なのに

2011/12/28 記述修正 吾子は微笑みながらありがとうって言った後 → 吾子は微笑みながら、今まで色々ありがとう

2011/12/28 記述修正 私に、自分の分まで生き延びて欲しい → 姉様を一人ぼっちにしてしまってごめんなさい

2011/12/28 記述修正 こんな事をさせてしまってごめんなさいって謝ってた → でも姉様には、私の分まで生き延びて欲しいって、私に言った

2011/12/28 記述修正 焼きついているの、ねえ、父様なの? 母様なの? → 焼きついているの。ねえ、そこにいるのは父様なの? それとも母様なの?

2011/12/28 記述修正 どうか教えて、教えてよ → どうか教えて

2011/12/28 記述修正 吾子は私に → 私は吾子から

2011/12/28 記述修正 最後は私の手で送って欲しいって言って → 姉様の手で殺して欲しいって

2011/12/28 記述修正 私には自分の分まで抵抗して欲しいって、頼まれたんだ → 、頼まれたんだ

2011/12/28 記述修正 吾子がどうなるか判らない → 吾子がどんな目に遭うか判らない

2011/12/28 記述修正 でもそんな事をすれば → でもそんな事したら

2011/12/28 記述修正 だから私は、ずっと我慢して生きて来た → だから私、ずっと我慢して生きて来たの

2011/12/28 記述修正 反対側の湖畔まで → やがて反対側の湖畔まで

2011/12/28 記述修正 その後から数本の樹木が → その後から数本の小さな樹木が

2011/12/28 記述修正 緑が茂るだけの鬱蒼とした藪へと変貌して → 若い緑が茂る藪へと変貌し

2011/12/28 記述修正 この小さな湖も完全に周囲を樹木の壁で覆われてしまった → この小さな湖は完全に緑の壁に包まれた

2011/12/28 記述修正 人間にはそう簡単には → そう簡単には

2011/12/28 記述修正 どうして、どうして、どうして…… → どうして……

2011/12/28 記述削除 どうして、こんな事になってしまったんだろう、どうして。

2011/12/28 記述修正 無力な存在である事を痛感する → 無力な存在である事を痛感させられる

2011/12/28 記述修正 この後の展望を検討し始める → 現状を考察し始める

2011/12/28 記述修正 四人の男と一匹の犬の集団が → 四人の男と一匹の犬の一団が

2011/12/28 記述修正 朝焼けに霞む私の朧げな姿を捉えたらしい → 坂の上に漂う私の朧げな姿を捉えたのを確認してから

2011/12/28 記述修正 完治させられる様なものでは無いものの → 完治させられる様なものでは無かったが

2011/12/28 記述修正 傷が癒されている気がした → 傷が癒せている様な気がした

2011/12/28 記述修正 あの護符の文字から使える力を → あの護符から使える力を

2011/12/28 記述修正 吾子が、この国で生まれたものじゃなきゃ駄目だからって言うから → この国で生まれたものじゃなきゃ、駄目だからって吾子が言うから

2011/12/28 記述修正 この時、吾子は急に → その後急に、吾子は

2011/12/28 記述修正 変えている最中であった → 変えており、更に地平線の近くでは、僅かながら白み始めているのも確認出来た

2011/12/28 記述修正 うわ言の様に喋り始めた → 譫言の様に喋り始めた

2011/12/28 記述修正 苦しい財政の中で、本国の指示に従い、 → 命じられた通りに

2011/12/28 記述修正 姉様も結婚しているかも知れないね → 姉様も結婚しているかも知れないなあ

2011/12/28 記述修正 血痕は、動き出した事で → 動き出した事で

2011/12/28 記述修正 血痕も見つかり、かなり夜も更けて来ている事も手伝って → 点々と続く血痕を辿る事が出来た。それに加えて

2011/12/28 記述修正 逃亡を続ける姉の足跡は簡単に辿る事が出来た → 湿った地面についた姉の足跡もはっきりと残っている

2011/12/28 記述修正 効果は無いだろう。依然として致命傷は → 効果は無く、依然として致命傷は

2011/12/28 記述修正 首無き神の妃として捧げる生贄に → 首無き神の妃として

2011/12/28 記述修正 私達のいずれかを捧げるって言ったの → 私達のいずれかを生贄に捧げるって言ったの

2011/12/28 記述修正 戦争には直接関係無い筈の母までも → 戦争には全然関係無い母までも

2011/12/28 記述修正 援軍は敗れた訳では無いのに、この領土が → 援軍は負けていないのに、ここが

2011/12/28 記述修正 敗れる運命だったのですか? → 敗れてしまったのですか?

2011/12/28 記述修正 姉様はね、前に馬で遠乗りして → 前に馬で遠乗りして、

2011/12/28 記述修正 ここを見つけたって教えたよね。その時吾子は → ここを見つけたって教えたら、そしたら吾子

2011/12/28 記述修正 姉様はここまで来るのがやっとだったよ → せっかく祈ってもらった命だけど、吾子の分を足しても、姉様はここまで来るのがやっとだった

2011/12/28 記述削除 せっかく祈ってもらった命だけど~

2011/12/28 記述移動 でも吾子が祈ってくれたから~

2011/12/28 記述修正 あの屋敷毎燃やしたから、もう大丈夫。向こうに残した体は → あの屋敷毎燃やして来たから、向こうに残した体は

2011/12/28 記述修正 向こうに残した体は、何も残らないから、安心してここで眠って → 何も心配しなくても大丈夫だよ

2011/12/28 記述修正 来てくれた。その後私の前に、女神様が来たんだ → 来てくれたんだけど、その後にね、女神様が現れたんだよ

2011/12/28 記述修正 背の高い草がところどころに茂っており → 背の高い草が至る所に茂っており

2011/12/28 記述修正 姉の足取りは → その後の姉の足取りは

2011/12/28 記述修正 泥濘んで出来た足跡が無ければ → 泥濘んで出来た足跡と草に付着した血痕の両方が無ければ

2011/12/28 記述修正 ひとつの光が → 共に動いている四つの光が

2011/12/28 記述修正 私にはそう思えた → そう私には思えた

2011/12/28 記述削除 吾子が言っていた通り~

2011/12/28 記述修正 女神様は姉様を癒してくれた → 女神様は私の前に現れて、そして姉様に最後の力を与えて下さったんだ

2011/12/28 記述修正 先の治癒で → この最初で最後の癒しの効果は、

2011/12/28 記述追加 これで倒れている姉の姿や~

2011/12/28 記述修正 大した価値も無い土地で → 何にも無い所だけど

2011/12/28 記述修正 僅かな民達と共に生きていければ良いって → 民達と一緒に生きていけるだけで良いって

2011/12/28 記述修正 思っていただけなのに → 思っていたのに

2011/12/28 記述修正 もうこの頃には朝日が昇り → もうこの頃には朝日が昇り始めていて

2011/12/28 記述修正 近くに落ちていた細く尖った石を拾うと → 近くに落ちていた石を拾うと、他の石にぶつけて石を割ってから

2011/12/28 記述修正 その手にした石で → 割れた石を使って

2011/12/28 記述修正 果たせなかった私からの → 果たせなかった私からのせめてもの償いであり

2011/12/28 記述修正 せめてもの手向けになれば → 手向けになれば

2011/12/28 記述修正 もう今頃は、あの姉の体は土へと還り → もう今頃は姉の体も土へと還り

2011/12/28 記述修正 終いにはこんな事になってしまった → みんな死んでいなくなってしまった

2011/12/28 記述修正 母様の教えたおまじないっぽい → 母様から教えてもらったおまじないっぽい

2011/12/28 記述修正 大地母神への祈りと → 女神様への祈りと

2011/12/28 記述修正 大地母神は本当に → 女神様は本当に

2011/12/28 記述修正 どうしてもそうして貰いたいって → どうしてもそうして欲しいって

2011/12/28 記述修正 どうか聞いて欲しいって言った → お願いだからって、言った

2011/12/28 記述修正 私を生贄にして欲しいと → 私を生贄にして欲しいって

2011/12/28 記述修正 あぁ、それとね → あ、それとね

2011/12/28 記述修正 あぁ、そこに居るのは → そこに居るのは

2011/12/28 記述修正 今までずっと二人きりになっても → 今までずっと、二人きりになってから

2011/12/28 記述修正 足跡は先程男達を落とした → 姉の残した痕跡を辿ると、先程男達を落とした

2011/12/28 記述修正 引き離せたものだと、私は驚いていた → 引き離せたものだ

2011/12/28 記述修正 私はその足跡を追って → 私はそれらの痕跡を追って

2011/12/28 記述修正 判明した → ようやく明らかになった

2018/01/07 誤植修正 そう言う → そういう


これで私の従うべき相手は、ようやく明らかになった。

この時空は、その色合いを漆黒から紺碧へと変えており、更に地平線の近くでは、僅かながら白み始めているのも確認出来た。

失血の所為なのか、姉はその右手に握っていたサーベルを地面へと落とし、左手に掴んでいた夕陽色の護符の紐も離してしまい、護符は姉の胸元で不規則に揺れ動きながら、次第にその振れ幅を縮めていく。

それに対して、どうやら姉の体力が限界に近づきつつあるらしく、時を追う毎に体はふらつき、敵愾心を燃やしていたその瞳も焦点が定まらなくなって、止まらない汗はあまり肉の無い頬を伝い、細い顎から滴っている。

ついに錯乱し始めたのか、姉は私へと向かって両腕を伸ばすと、今までのこちらを挑発する為の言動とは全く異なる内容を、譫言の様に喋り始めた。

「そこに居るのは、父様なの? それとも母様? 私が見えないの? 私はここよ、ここに居るのに!

あのね、私、みんなの仇を取ったんだよ、この町を占領して、父様と母様を処刑した、あの男に復讐してやったんだ。

でも、それだけじゃなくって、実は私、吾子を、この手で殺してしまった。

あの男は、次の奪還祭の時に、首無き神の妃として、私達のいずれかを生贄に捧げるって言ったの。

それを聞かされた後、何度も私はあの神官の領主に頼んだ、私はどうなってもいいから、だから妹ではなく、私を生贄にして欲しいって。

あの男はその条件を飲んで、その代わりに私はあの男の物にされた。

それに耐えながら、この二年間ずっと過ごして来たの。

父様や母様や、多くの民を殺した張本人の指揮官なんかに、相手をさせられて良い様に弄ばれて、何度も死にたいと思ったし、殺してやりたいと思わない時は一瞬だって無かった。

でもそんな事したら、吾子がどんな目に遭うか判らない、だから私、ずっと我慢して生きて来たの。

なのに、あの男は言ったんだ、十年に一度の大祭である、奪還祭の生贄は、妹に決まったって。

約束が違うって言ったらあの男は、偉大なる首無き神の花嫁は、純潔な処女でなければならないって、お前は既にその資格を失っているのを、自分が一番良く知っているって、私に言ったの。

あいつは初めから私の頼みなんて、聞く気も無かったんだ。

それを聞いた私は吾子を連れて、ここを逃げ出そうと決めた、だけど卑劣な領主はもう既に手を打っていて、私を寝室に呼び寄せている間に部下に命じて、逃げ出せない様に吾子の足の腱を切ったの。

吾子はもう逃げるどころか、普通に歩く事さえ出来なくされてしまった。

こうなったらいっその事、一緒に死のうと思ってそれを吾子に話したら、吾子はそれには答えないで、私にお願いがあるって言い出したの。

私は吾子から、生贄にされるくらいなら、姉様の手で殺して欲しいって、頼まれたんだ。

この時私は、吾子の前で初めて泣いた、今までずっと、二人きりになってから、どんなに辛い目に遭わされても、吾子の前では姉として、たった一人の身内の生き残りとして、弱音も吐かないで耐えて来たのに、この時は堪え切れなくって、泣きながら、そんな事出来ないって答えたの。

でも吾子は、どうしてもそうして欲しいって、それが妹としての最後の我が侭だから、お願いだからって、言った。

その後急に、吾子はおまじないの話をし始めて、最期を看取ってもらった人を想いながら、その相手の手で天に召されると、その命を代償に神様が願いを聞いてくれるんだって、言うんだ。

吾子はそれを、母様から聞いたって言ってたよ、女神様は本当にそんな事してくれるの?

でも、それが吾子の最期の願いだったから、私は、叶えてあげた。

この国で生まれたものじゃなきゃ、駄目だからって吾子が言うから、見張りの目を盗んで、夜に何度か部屋を抜け出して、大きな樹の枝を捜して来た。

その樹の枝を削って作った槍で、私が刺したの、この手で、吾子の胸を。

とても痛くて苦しい筈なのに、吾子は微笑みながら、今まで色々ありがとう、姉様を一人ぼっちにしてしまってごめんなさい、でも姉様には、私の分まで生き延びて欲しいって、私に言った。

最期は、母様から教えてもらったおまじないっぽい、女神様への祈りと、私への加護を祈ってから、満足そうに微笑んで、そして死んだの。

ねえ、これで、良かったのかな、これで本当に、正しかったのかな、私には、もう判らないの、吾子の胸から溢れる血で染まった腕が、血塗れで微笑んだまま、もう動かない吾子の姿が、瞼の裏に焼きついているの。

ねえ、そこにいるのは父様なの? それとも母様なの? どうか教えて、私、私……」

姉は後半になると、啜り泣きながら訴えていて、最後にそれは年相応の嗚咽へと変わっていた。

しかしそれも長くは続かずに、次第に泣き声が小さくなると、錯乱した娘は完全に意識を失って、そのまま前のめりに倒れた。




私はそんな悲愴な懺悔の後に、うつ伏せに倒れた姉の背中を見て、姉の容態を確認してから、あの護符から使える力を推測するのと同時に、宙へと舞い上がり後方の様子と周囲の地形を確認する。

共に動いている四つの光が、かなり近くまで迫っているのが見えており、この地点まで真っ直ぐに目指しているところからすると、犬でも連れている可能性が高そうだ。

やっと召喚者の願いが判ったと思った途端に、かなりの窮地に陥っているのが判って、頭脳を最大限に働かせて全ての問題に対する、講じるべき手段とその手順を構築していく。

手負いの姉が翳した首飾りには、白い線の模様だと思っていた古代文字が描かれていて、これには大地母神の持つ力が何であるかも記されていた。

大地母神は豊穣を司る作物の神で、その力は大地への慈雨や肥沃を齎す力と、植物への繁殖と成長を促がす力であり、残念ながら人間に対して直接的に治癒や再生を行う力は無いし、敵を死に追いやる様な打ち倒す力も持っていないのが判った。

まずは天空へと向かって力を放ち、この辺り一帯に恵みの雨を呼び、逃亡者たる姉の血痕と匂いを消して、これ以上追手に嗅ぎつけられない様にした後、地上まで降りると降り始めた雨を確認して、倒れた姉のところへと近づいた。

背中の三本の矢のうち、肩の矢はそれ程でも無いが、背中とわき腹の後ろに刺さっている矢はかなり深く、肩の矢の長さから考えると明らかに内臓まで達しているのが判った。

私は無駄を承知で、姉へと力を放出してみると、それは完治させられる様なものでは無かったが、多少は癒せている様な気がした。

あの護符には治癒の力は記されていなかったが、今はそれを考えている暇は無い、次に私は地面がかなり湿ってきたのを確認して、先程まで私が立っていた場所へと戻ると、両脇の小さな茂みへと向かって成長の力を放つ。

もともと乾燥地帯らしいこの一帯に生息する植物は、私が招いた特別な雨の水を吸って急激に伸びて行き、たちまち大きく入り組んだ茂みへと成長して、その辺り一帯を緑の壁で覆っていく。

これで倒れている姉の姿や、私では触れる事すら出来ない投げつけられた短剣も、男達の方からは隠されて見えなくなり、発見されにくくなる筈だ。

次にその茂みを擦り抜けてから、右側の開けている方へと進んで斜面を登り、丁度倒れた姉を隠した場所よりも、向かって左側に当たる頂点まで登ってから、直ぐ手前の潅木の根元へ向けて力を注ぐ。

こちらは先程の草とは異なり、直ぐには目に見えた変化は現れない。

草よりも樹木の方が成長に時間が掛かるのは、寧ろ好都合か、後は私の名演技を披露してやるだけだ。

こうして準備を終えた直後、まさに頃合のタイミングで、追手の一行は姿を見せた。

四人の男と一匹の犬の一団が、坂の上に漂う私の朧げな姿を捉えたのを確認してから、それと同時に私は地面にめり込む様に、自分の体を移動させて行く。

それを遠目に見た男達は、今まさに逃亡者が上り坂を越えて、下りながら遠ざかって行くと勘違いして、そのまま命令さえされなければ、隠した姉の場所まで辿れたかも知れない犬へと、何か命令を発してロープを放した。

哀れな犬は私へ向かって全速力で走り出し、それに続いて男達も駆けつけて来る。

ここの地形は、逃亡者たる姉と対峙した場所よりも、もっと斜面の勾配がきついのと、頂点から先は崖までが下りになっているが、そこには背の高い木が生えていて、さも山道が続いているかに見える、絶好の場所だった。

段々と沈んで行く影たる私の姿を見た男達には、下り坂があると見誤るのには十分だった様だ。

まず、全速力で襲い掛かって来た犬が、私の首に当たる部分を擦り抜けて、崖の下へと消えて行き、様子がおかしいと気づいた男達は、崖の手前で減速したものの、先程仕込んだ木の根が成長して、大地を隆起させたところに足を取られて転倒し、濡れた岩場の下り坂から崖下へと、次々に転げ落ちて行く。

運良く最後尾の一人は、前の仲間を突き飛ばした事に因り、辛うじて自分だけ転落を免れていたのだが、私がその男の前に姿を近づけてやると、私を見た途端に悲鳴と共に掴まっていた手を放してしまい、自ら突き落とした仲間の元へと落ちて行った。

私は念の為に彼等が落下した場所を眺めて見ると、優に20mはある断崖で、しかも下は草木も無い崖から崩落した岩場になっていて、この高さでは死体の形状が保たれているかも怪しいだろう。

これで当面の問題は排除出来たと確信して、姉の倒れている場所へと戻りつつ、現状を考察し始める。




だがその前に、最も気に掛かっていた糧の残量を確認すると、想像以上に消費してしまったが、まだ消滅はしないでいられるだけの量は残っている。

植物に対しての消費はそれ程でも無いが、雨を降らせたのと、人間への治癒は大量に糧を使ってしまうのが判り、もう姉に対する治癒を行うだけの残量は無くなってしまった。

この最初で最後の癒しの効果は、一時的な止血くらいにはなっているかも知れないが、それも大した効果は無く、依然として致命傷は癒えてはおらず、せいぜい死に場所を選べる程度に、僅かに死期を延ばしたに過ぎない。

先程上空から周囲を見た時、この辺りは見渡す限り山しか無く、この取り囲む山脈の向こうには、違う国でもあるのかも知れないが、何の装備も無く重傷を負っている痩せた子娘一人が、越えて行ける様な山脈などあろう筈も無い。

それを判っていて、逃亡者たる姉はここを目指していたと言う事は、何かこの辺りで助かる見込みでもあるのだろうか。

召喚者である亡き妹の遺志を実現するのには、奇跡的な起死回生の展開が必要なのは間違い無い。

現実と言う壁は、定命の生き物にも厳しいが、正真正銘の大地母神と言う名で呼ばれる存在であっても何も変わらず、超えられぬものはどうあっても超えられないのか。

やはり我々は“嘶くロバ”の言う通り、不自由で無力な存在である事を痛感させられる。

次の為すべき事がどうしても思い浮かばずに、苦悩しながら瀕死の姉の所へと戻ってみると、そこに娘の姿は無かった。

もしや私の治癒の効果が予想以上にあったのか、いや、そんな筈は無い、だが倒れていた手負いの姉は、サーベルだけを残して消えていた。

すぐに私は姉の向かった後を追うべく、姉の残した痕跡を探り始めた。

捜索を開始すると、かなり夜も更けて来ている事も手伝って、大した時間も掛からずに、行き先を示す幾つかの痕跡を見つけた。

それは、血痕と足跡だった。

動き出した事で多少は癒された傷口は再び開いた様で、雨に因って滲んではいるが点々と続く血痕を辿る事が出来た。

それに加えて、湿った地面についた姉の足跡もはっきりと残っている。

都合が良い事に、私の力を使って降らせていた雨も、力が足りずにわか雨程度でもう既に止んでおり、これならどちらも雨で消される事も無い。

私はそれらの痕跡を追って、追跡を始めた。




もうこの頃には朝日が昇り始めていて、空は朝焼けの色へと変わっていた。

これは奇しくもあの首飾りの護符と同じ色合いだ、あれの色は陽射しの恵みとしての太陽も体現している、そういう事だろうか。

姉の残した痕跡を辿ると、先程男達を落とした崖とは逆側の、崖に沿って回り込む様に一旦山道を登った後に、その先で山を下り始めていた。

その後の姉の足取りはどんどん山を下っていて、こちら側の山は地面も肥沃な様で、丘陵地帯と似た様な背の高い草が至る所に茂っており、土が泥濘んで出来た足跡と草に付着した血痕の両方が無ければ、とっくに見失っていただろう。

それにしても、よくあの怪我の状態でこれだけ引き離せたものだ。

これは本当に回復したのでは無く、恐らくは最期の力を振り絞っているのだと判っているのもあって、この先に待つのは私がどうしようと変えられぬ、救済の対象である姉の死だと思うと、何とも遣り切れないものを感じる。

やがて周囲から見通しの利かない麓まで降りてみると、そこは小さな湖の畔だった。

周囲は生い茂る草や潅木で包囲されていて、上空から見ても湖はろくに見えず気づかなかった様だ。

この湖はとても静かで、早朝では小鳥の囀りが微かに遠くから聞こえる程度だ。

姉は水辺に座り込んでいて、そこでスカートの隠しから何かを取り出してから、更に首に下げていた朝焼け色の護符を外した。

取り出したのは、恐らく妹の物であろう長い黒髪の束と、これも形見なのか鈍色をした傷だらけの指輪だった。

その後、近くに落ちていた石を拾うと、他の石にぶつけて石を割ってから、自分の髪をひと房掴み、割れた石を使って掴んだ髪を切り落とした。

姉は切った自分の髪と、取り出した髪を合わせて縛り、更に指輪を護符の紐に通してから、合わせた髪の束を紐で括り付けて、四つの物をひとつの塊にした後に、纏めたそれを握り締めたまま立ち上がると、湖に向かって放り投げた。

四つの形見の塊は、放物線を描きながら湖の中央へと到達して、小さな水飛沫を上げた後に湖底へと姿を消して行き、この後には波紋だけが広がって姉の足元まで戻って来た。

波紋が収まるまで湖面を見つめていた姉は、再び水鏡へと戻った湖から視線を放すと、ここからも見え始めていた昇る朝日を無言で眺めていた。

姉は深呼吸をしようとして激しく咳き込み、背を丸めて口と胸を押さえると同時に喀血し、口を押さえた手は真っ赤に染まった。

背中の矢の傷の出血が、肺の内部にまで浸透し始めたのだろうか。

いよいよ時間が無くなったのを姉自身も理解したらしく、もう一度浅く呼吸してから再び真っ直ぐに立った後、独り湖に向かって語り始めた。

「ごめんね吾子、せっかく祈ってもらった命だけど、吾子の分を足しても、姉様はここまで来るのがやっとだった。

それに、ここより遠くは姉様も行った事無いから、まだ命が存えたとしても、もう目指す場所も無かったの。

でも吾子が祈ってくれたから、姉様はここまで来れた様な気がするんだ。

姉様が父様から受け取った指輪と、吾子が貰った母様の護符と、私達の髪、これだけしか連れて来れなくって、ごめんね。

みんな少しずつしか無いけど、でもこれで四人揃って、ここで静かに眠れるから、それで許して。

吾子が眠ってから、約束通り髪と護符を貰った後に、油をまいてあの屋敷毎燃やして来たから、何も心配しなくても大丈夫だよ。

あ、それとね、吾子に伝えたい事があるんだ。

一度道を間違って、崖に出てしまった時、父様と母様が私の前に来てくれたんだけど、その後にね、女神様が現れたんだよ。

姉様には巫女の力も無いから、父様と一緒で見る事は出来ない筈なのに、女神様は私の前に現れて、そして姉様に最後の力を与えて下さったんだ。

昔母様と吾子と姉様で話をした時に、女神様は草や木の神様だからそういうのは出来ないって、母様も苦笑いしていたから、てっきり吾子の思い違いだって思っていたけど、吾子の言う通りだった。

前に馬で遠乗りして、ここを見つけたって教えたら、そしたら吾子、連れてって欲しいって、泣いて姉様に頼んだっけ。

あの時姉様は、吾子がもっと大きくなって、馬にちゃんと乗れるようになったら、連れてってあげるって、約束したのに。

それから一年も経たずに、戦争が始まって、そして負けて、みんな死んでいなくなってしまった。

こんな事になるんだったら、あの時に無理してでも、連れて来てあげれば良かった、本当にごめんね、吾子」

既に亡き親族へと語った姉はここで一旦言葉を切ると、苦痛からか顔を歪めて胸に手を当てつつ、もう一度ゆっくりと呼吸を繰り返していた。

そしてその後、攣っていた表情を微笑へと変えて、遠い目をして視線を再び朝日へと向けつつ、更に話を続けた。

「吾子は今年で七歳になったから、後三年して吾子が十歳になったら、正式に母様の後継者として、巫女の修行に入るんだ。

厳しいからって、泣いてもいいけど逃げ出しちゃ駄目だよ。

この頃には姉様は十八だから、きっと父様と一緒に、領主としての仕事を手伝っている頃かな。

吾子の方が全然若いけど、母様は体が弱いから、早めに一人前になってもらって、そうだなあ、二十歳くらいで後を継いで欲しい、そうして母様を楽させてあげるのが、吾子の最初の親孝行。

今までいっぱい母様に甘えてきたんだから、大人になったらそのお返しをするんだよ、姉様は父様の手伝いだけでずるいとか、我が侭言わないの。

姉様はね、あの厳しい父様がそう簡単に、領主の座を継いで引退するとは思えないから、継ぐのはもっとずっと先になるんだよ。

多分、吾子が結婚して子供が生まれて、その子達が大きくなって、喋り出すくらいまで時が経ったら、父様も姉様と交代させてくれるかも。

その頃には、姉様も結婚しているかも知れないなあ、子供はどうだろ、もし出来ていたらその時は、先輩として吾子に色々教えてもらうよ。

そんな風にして、二人で頑張ってこの地を支えて、父様も母様も子供達も、みんな平和に過ごしていくんだ。

こんな辺鄙で何にも無い所だけど、民達と一緒に生きていけるだけで良いって、思っていたのに。

遠い本国で良く判らない諍いを勝手に始めて、そして勝手に負けそうになって、そしたら戦争に巻き込まれて、私達の土地も民も全て奪われてしまった。

みんな、平和に暮らしていけるだけで良かったのに、それ以上なんて望んでいなかったのに、どうしてこんな事になってしまったんだろう。

どうかお教え下さい女神様、どうしてなのですか?

どうして、あんな戦争が起こったのですか?

どうして、私達の国は、あんな野蛮な国に敗れてしまったのですか?

どうして、全然関係の無いこの土地の民が、ろくに知りもしない遠い本国の為に、戦わなければならなかったのですか?

どうして、私達の援軍は負けていないのに、ここが敵国へと渡されなければならなかったのですか?

どうして、命じられた通りに兵も物資も差し出した父が、見せしめの様に処刑されなければならなかったのですか?

どうして、戦争には全然関係無い母までも、共に処刑されなければならなかったのですか?

どうして、私の妹はたった七歳で、監禁され続けた挙句に、不自由な体にされてしまったのですか?

どうして、私は愛する妹を、この手で殺めなくてはいけなかったのですか?

どうして……」

嘆く姉は、ここで再び言葉を切ってから、目を閉じた。

瞑った瞳から一筋の涙が零れて両頬を伝い、それは朝日に反射して光り輝いた。

「でも、もうその答えは、どうでもいい、今はみんなと一緒に、居られれば、それだけで。

女神様、これが最後のお願いです、穢れてしまった私ですが、どうかみんなの元へと、お導き下さい……」

姉はそこまで言い終えると、ゆっくりと跪いてから、祈りを捧げる様に両手を胸元で組んだ後、力尽きた様に横へと倒れて、それきり動かなくなった。

当人の望みだったとは言え、自分を陵辱し続けた両親の仇であった男を殺し、愛する妹をもその手で殺め、当ても無い逃亡の末に辿り着いた思い出の場所にて、未だ子供と言っても良い程の若い娘でしかなかった姉は、遂に息絶えたのだった。

結局私は、召喚者たる妹の願いを叶える事は、出来なかったと感じていた。

姉の両親の魂は処刑された時に消えたか、或いは死霊化しているかで、少なくともここには魂も死霊も存在せず、妹の魂は私へと捧げられてしまい、同じくここには無い。

姉が望んだ最後の邂逅も、所詮は物理的な所持品だけの話で、本当に望んだ事は叶わなかったのも、私から見れば明らかだった。

しかしそれを伝える力も無ければ、もし伝えられたとしても敢えてそんな真相を語るつもりは無い、無意味に失望させるだけの事実よりも、儚い希望であっても幻想を与えるべきだ、それが死にゆく人間に対する最後の慈悲であると、私は信じている。

私は残った力を使って、まずは湖の中へと移動してから、形見が沈んだ辺りの湖底に繁殖している、水草の育成を促進させるべく力を注ぐと、水草は形見の品に絡みつきつつ、繁殖を繰り返してその姿を消し去っていく。

これであの形見は、そう簡単には見つけ出せないだろう。

次に再び姉の元へと戻って、まず娘の亡骸へ大地を肥沃にする力を奮い、その後亡骸の周囲に茂る草木に力を注いで、唯一湖の周囲で水際まで開けていたこの場所を、植物で覆い尽くして行く。

姉の体はたちまち草に覆われて直ぐに見えなくなり、その後から数本の小さな樹木がすくすくと伸びて、その場所は少々隆起した若い緑が茂る藪へと変貌し、この小さな湖は完全に緑の壁に包まれた。

もう今頃は姉の体も土へと還り、この植物の養分に変えられて跡形も無いだろう、これで姉の亡骸も二度と見つかる事は無い。

この後、姉の居た場所に生えた草木は、私の想像以上に養分が与えられた所為なのか、成長だけでは無く蕾が膨らみ、やがて開花し始めた。

周囲の同種の物は緑しか無いので、時期も合わない筈なのに、姉の亡骸の上に茂った名前も判らない雑木や雑草から、様々な花が咲き乱れて行く。

観賞用に育てられる花や、希少な植物でも何でも無い、只のそこらにある樹や草の地味な花ばかりでしかなかったが、ここに眠る者達に取っては、これこそ最も相応しい献花ではないかと、そう私には思えた。

私は湖の中央へと移動してから上空へと上がると、最後の力を全て注ぎ込んで湖畔の植物全てを開花させるべく、残りの力を放出した。

土へと還った姉の咲かせた花を起点として、次第にそれが連なって周囲へと開花は広がって行き、やがて反対側の湖畔まで花の輪が繋がったのを見る事が出来た。

これが使命を果たせなかった私からのせめてもの償いであり、姉妹への手向けになれば良いが。

私はそう思いながら、僅かな達成感と多くの悔恨を抱きつつ、朝の風に吹かれて、霧散する様に掻き消されていった。





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